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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:誘われるままに。

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頁:40 その【視線】重圧につき。



 学術都市の教会へと向かった聖女。


 彼女の向かった先では、聖女の噂を耳にした大勢の人が押しかけていた。

 祈るように声を落とす信徒や、聖女に救いを求めてすすり泣く者。


 彼女に癒しを求める、民衆のざわめき――



 ああ……私が教会を訪ねることは、大々的に報せてはないはずですのに。

 どうしてこうも、行く先々で――と考えるのは無粋でしょうか?


 熱を孕んだ視線を感じてしまって、どうしても『プレッシャー』を感じます。


 ですが――人々が癒しを求める限り、それに応えるのが私のお務めなのです。

 深く空気を吸い込んで、自身に活を入れ直して――いざ壇上へ。


「天にあらす我らが主よ、星の巡りの元、深き慈愛の雫を今此処に――

 我らに平穏の癒やしを分け与え給(たも)う……。」


「――《快癒の祈り(ルメン・サナティオ)》」


 祈りの瞬間はいつも少しだけ緊張してしまいます。

 というのも、私という聖女の力は、どうにも強いらしいのです。


 私が瞳を閉じてお祈りに集中している間は――

 とても心地よい光が降り注いでいるとか。そう、お耳にしました。


 聖女家系御三家でそれぞれ、特徴があるみたいです。


 私は『ヴィオラ家』の【聖女】ですが――その能力は“癒し”に特化したもの。

 サルビア家は“戦い”に、デルフェニウム家は“護り”に……と。


 そう――枢機卿の方は仰っておりますが、自覚はほとんどありません。

 なんて言ったって……他の【聖女】にお会いしたことがありませんから。


 しかし――本当に……静かな空間なはずですのに、周囲のすすり泣く声が。

(私のような小娘でも、人々のお役に立てるのでしたら本望ですわ。)



 ――【聖女】の祈りの言葉とその御業(みわざ)に、感激の歓声が上がる。

 彼女の癒しの力は、たちまち古傷までをも癒していく奇跡の所業。


 しかし――聖女本人は、複雑な面持ちだった。


 自身の《祈り》はただの癒しの力。それだけのはずなのに、どうしてだろう?

 なぜ、こんなにも人々は沸き立っているのか、不思議でならなかった。


「【聖女】様のお陰様で、また畑に立つことができる……!」

「長年痛めていた腰まで……まさに『奇跡を呼ぶ聖女(ミラストラフロース)』様……!」

「『慈愛の乙女(シャティアメイデン)』たる聖女セラフィーナ様の御力をこの目で……!」


 口々に放たれる感謝の声だが――期待とは別のなにか。

 様々な感情が混ざった視線は、まるで神そのものを相手にするような――


 聖女に対し拝み始める信徒まで現れ、彼女は困り果てていた。


「どうか……どうか勘違いをなさらないでくださいませ、皆さま……。

 この力は私だけの力ではないのです。神様方の尊き御心――

 その御力が、あなた方を癒してくださったのです……。」


「私はただ、神様方からその御力の一端を……。

 ほんの少し、分けていただいている……それだけに、過ぎないのですから。」


 ステンドグラスから降り注ぐ色彩。その虹彩が聖女を照らし――

 照らし出された彼女の姿は、まるで絵画に登場する聖女像(ぐうぞう)そのもの。


 そんな聖女の姿は、この場において火に油を注ぐが如く。

 かえって人々を湧かせてしまい、たじろいでしまう聖女。



 が――そんな最中、空気を裂くような鮮烈な音。


 ――ガコンッ!


 唐突に教会の扉が乱暴に開かれ、場は静まり返り――人々の視線は音の方向へ。

 音の先、扉の前にいたのは息を切らした子ども。


 ひどく切羽詰まった様子。


 足をもつれさせながらも聖女の側へ駆け寄る子ども。


「せいじょさま……っ!たすけて……!ママ……ママがっ……!」


 子どもの顔は涙でぐしゃぐしゃ。必死に聖女の法衣を掴む小さな手。

 聖女の心を動かすには十分すぎた。子どもの手を取り――


「案内してくださいませっ!すぐに向かいましょうっ!」


 錫杖を首飾りへ変形させ、踵を返して教会から飛び出していった聖女。


 残された人々は、聖女の残した奇跡の光に囲まれ――

 ただ呆然と、その光景を見送ることしかできなかった。


 ◇ ◇ ◇


 所変わって――大盾の修理を頼んだ後の騎士。


 こちらはこちらで、また別の空気が流れていた。


 それもそのはず、彼が足を運んだ場所は冒険者ギルドの、併設酒場。

 建前は情報収集の為だが、騎士の本音は『酒を飲むため』――


「情報収集の定番つったら……ココっきゃねぇもんなッ!」


 豪快な足取りで冒険者ギルドの酒場へと潜り込み、周囲の冒険者に溶け込む。


 荒くれ者の冒険者に加え、黒いローブ姿の学生もちらほら。

 常に喧騒が絶えない場所――それが冒険者ギルドという場所だ。


 賑やかな笑い声……乱雑に並んだ木のテーブルに芳しい酒類の香り。


 颯爽と席へとつき視線を投げると、すぐに給仕係が彼の側へ。


「あんたは……ビールって顔だね!」


 そう気さくに話しかけられ、苦笑を交え短く『頼む!』と返答を投げる。

 酒を待っていた彼だったが――品が来る前にアクションがあった。


 彼の側へと歩み寄るドレスを纏った小柄な影。

 金色の淡い毛髪。赤みを帯びた毛先、緩く巻いた二つ結び。


 黒と白に彩られた豪奢な衣装を身にまとった貴族令嬢。

 左右非対称の金色と赤色の瞳。


「おい貴様――どこぞの酒場でも相まみえた騎士ではないか!

 我を覚えてはいるか?よもや忘れたとは言わせんぞ? クックック!」


 唐突に話しかけられ、多少驚きはした。しかし令嬢には見覚えしかない。

 彼女の姿を目にした瞬間、頭の中の記憶が合致し『ああ。』と零す。


「あんときの、酒場で相席した嬢ちゃ……ご令嬢さんだな?

 勿論だ、ちゃんと覚えているぞッ!ガッハッハ!」


 二人の妙に親しげな様子に、給仕係が『あん?』と驚きの眼差しを向けた。


「あんたら――知り合いなのかい?」


 酒も運ばれてきたことだ、と……ジョッキに手を伸ばした騎士だったが――


「まぁ待つのだ。我も酒の席を共にしてやらんでもないのだ。」


 令嬢はそれだけ言うと、騎士が何か言葉を返す前に、勝手に席についた。

 その後――度数の高い酒を注文し、騎士へ軽い調子で語りかける。


「まさか酒場にて二度目の邂逅を果たそうとはの!感銘なのだ!

 して騎士よ――賢者にはもう会えたのか?禁書庫とは厄介な場所であろう?」


「まぁ……勇者のお仲間ともあろうお方が会えなかったなどなかろうなぁ!」


 やや尊大な態度で豪快に笑う令嬢。彼女はいったいどこまで知っているのか。

 令嬢の言葉に、不信感しか抱くことが出来ない騎士。


「おうおう、ご令嬢さんよ、なんで俺らの事情知ってんだ?まぁいい。

 丁度いいから聞くんだけどよ……『ニヴェイシア』ちゅー家名……」


「おまえさんは何か――知らねぇか?」


「――む……。アメトリクス・ニヴェイシア子爵のことだの?」


「情報は――高くつくぞ? クックック!」


 眉を吊り上げ、いやらしく笑う令嬢。運ばれてきたジョッキを手に掲げ――


「とりあえずは乾杯なのだーっ! カーッカッカ!」


 切り替えの早い令嬢の様子に呆れ顔で見つめる騎士。

 彼女に促されるまま、ジョッキを打ち鳴らした。


「さて――どうする騎士よ。我は情報をくれてやらんでもないが。」


「しかし我とて、タダで貴族の情報を流すわけにはいかんでな?クククッ!

 きっちり……その対価は要求させていただくのだッ!」


「我のことが信用足らぬなら、勿論それでも構わぬ、所詮はたかが――

 噂話と酒が好物なか弱き乙女の吟遊詩人ゆえな!カッカッカ!」


「なんとなく分かっちゃいるが、どうせ酒か金だろうッ?

 俺が奢ってやるからよ、その代わりちゃんと情報教えろよ?」





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