表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに。
41/63

その【小人】好奇心旺盛につき。



セラが広間へと向かう途中の廊下から、皆の相談する声が届けられていた。


どうにも困っている様子の一同。

繰り広げられる会話は、遠巻きからでも内容が理解できた。


「それで、どうする? 怪しい孤島行きの定期船が来るまで七日、だよねぇ…?

 それにバルタザールからの音声が届かなくなって――」


「魔道具はあたしら、どうしたらええか、分からんしねぇー…

 んー……。 子爵ちゃんとか、なんか知らんかねぇー?」


「ヴェルカナ…っつったっけか? 賢者にどういった場所か――

 聞きたかったんだがなぁー。 これじゃ、聞けねぇしよぉ……」


ノアがため息を漏らし「どうしよう」と、皆に話を持ちかけている所らしい。


セラは広間の扉をノックし、控えめに扉を開くと、室内へと身体を滑り込ませる。

そっと入室したつもりだったが、くつろいでいる皆は、彼女へと視線を向けた。


「あ、えっと……。 ただいま戻りました。

 例の孤島行きの件…どうするかの相談、ですよね…?

 たしか七日ほど、待たなければというお話、でしたよね…?」


ルルがキューを抱きしめ、ソファで横になりながら退屈そうに答える。


「そーそー、待つのもだりーなーって。

 あとあの耳飾りの魔道具じゃけどさぁー、めげとんか知らんのじゃけど…」


ルルは耳に装着された耳飾りをトントンと叩き、後に溜息を吐き出す。

無表情のまま、諦めたように耳飾りを外すと、机に転がした。


「だめじゃねー。 やっぱ、なんの反応もせんのんよねぇー。

 禁書庫からの音声も聞こえんし……耳がミミっちぃーわぁー。」


ルルが身体を起こし「んーー」と、軽く伸びをした後に、出口の方へと歩く。

全員、ルルが落としていった言葉に、何をどうツッコめばいいか、考えていた。


しかし彼女は悪戯っぽく、口角を少しだけあげ、一同に対し声高らかに宣言。


「あたし、ちょいやりたいことあるけぇ、薬草園に行ってくるわー。

 子爵ちゃんから、自由に使って良いって言われとるしー?」


「薬作るの興味あるけ、ちょっくら行ってくるぁー!

 ……薬草だけに“役に立つ”ってな。 じゃあの。」


ルルが軽い足取りで広間から退出。パタリという音と共に、姿を消す。

が、残された四人は、何が起こったのか分からず、全員で顔を見合わせる。


話し合いの最中だったことを忘れ、場にはちょっとした混沌が流れていた。


◇ ◇ ◇


混沌とした現場を残し、薬草園へと向かったルル。

二階の広間を抜け、階段を下り、中庭へと繋がる扉へ向かう。


日が落ちた庭園を、月光が優しく照らし出していた。

足取り軽い彼女は、誘われるように硝子張りの薬草園へと一直線。


「んー…! ふぃーっ! 集落では自然が溢れ返っとったけぇねぇー。

 こういう場所、めっちゃ落ち着くんよねぇー。」


小さく呟き、いつも通りの無表情で、胸を躍らせ周辺を見回す。


高揚しながら、あちらこちらへ視線を移し、空気を堪能するルル。

薬草の匂いに包まれ、目的地の調剤室へと向かった。


前回、調剤室に訪れた際に、本棚のようなものがあった事を知っていた。

本棚の規模は小さかったが、ルルはその本棚にも興味津々だった。


恐らく薬学に関する記載があるものだろうと、絶対的な自信があったルル。

多少文字は読めなくとも「なんとかなるじゃろ」の精神で本棚へと向かう。


本棚に置いてある、一冊のノートのような紙束を手に取ったルル。

早速、パラパラと頁をめくり、読み進めていく。


整然と整えられた文字。所々、読めないところもある。それでも読み進める。


「んー……当たり前じゃけど、やっぱ読めんとこが多いねぇー…?

 絵が描かれとらんかったら、詰んどったなーっと……どれどれー?」


一枚一枚、丁寧に描かれてある図を見ながら、目を通していく。


すると、ふと目に留まる、ルルも知っている大輪の薔薇の挿絵――

彼女の集落で狂い咲きする、ブラディアローズの図面。


「ん?これなんの薬に使えるん? えーと材料は……?

 カルミナと…ヴェルナの果実…? で、ブラディアローズの花蜜……?」


彼女が読んでいた、薬の調合を記していた頁は、興味を唆るに十分だった。

そう、ルルが今まさに読んでいる調合レシピは――


“媚薬”の作り方を示す頁だったのだ。


「まぁ…ブラディアローズ事態に、そういう効果あるもんな。

 こりゃ…ぶちやばい。 こんなん絶対作るに決まっとるじゃろ…!

 ママ……オヤジ……! あたしは、絶対に、やっちゃるけぇねぇ…!」


ルルの瞳は、好奇心という輝きに満ち溢れていた。


もう誰にも彼女の勢いを止められない。否、止める者は此処には居ない。

彼女は若干興奮気味に材料を取り出し、机に並べていった。


事前にアルコール漬けされていた、カルミナの花弁を取り出す。

それをすり鉢に入れ、すり潰し、潰したものを、固形と液体に分けておく。


次にヴェルナの乾燥果実を取り出す。


こちらは適当に砕き、粉々にし、先程のすり潰した花弁と混ぜる。

その後にカルミナの液体を加え、すり鉢で練り合わせ、布へと包み込む。


沸騰した湯へと、その布を放り込み、色が出るまでしばらく待機。


ルルはその間に、ブラディアローズの花蜜瓶の蓋を開け、匂いを確認。

「ふんふん」と頷き、匙で掬い手の甲に乗せ、舐め取る。


「っぱこれじゃろー! あたしにはなーんの効果も無いんじゃけど。」


抽出した薬液を更に蒸留させ、濃さを調整。

調整した薬液に、花蜜を追加させ、丁寧に攪拌させる。


全工程が終了し、できた薬液を小瓶へと注ぎ、これで、完成。


出来上がった“ソレ”の本数は、あれだけの工程だったが、三本程度。


ルルは入り切らなかった中途半端な薬液を、躊躇いなく飲み込む。

「ぷはっ!」と一息つき、成果物を両手に掲げ、人知れずドヤる。


ルルの集落で、狂い咲きしているブラディアローズ――

なので彼女には“ソレ”の効果は、悲しいほどに皆無だった。


「これぶちうめぇじゃーん! 普通におやつになりそ。

 ホットミルクとかにいれたら、あたしのおやつ決定! あとは……。」


(これ、子爵ちゃんに効果あるんじゃろうか?)

(あー!つかってみてぇ…! ああ、好奇心が止まんねぇー…!)


彼女は無表情ではあったが、瞳は爛々と輝きを帯びていた。

好奇心で満ち溢れた胸は、止められない止まらない。


小躍りでもする勢いのルルではあったが、やるべきことは、やる。


使用したすり鉢や、蒸留器などを魔法を使用し、丁寧に清掃。

証拠隠滅も完了し、彼女はガラス張りの薬草園を抜け出したのだった。


「さーて…ぜってー、あの子爵ちゃんには実験するで。

 あたしは、やるけぇね。 ママ……オヤジ。」


「あのいけ好かん、スカしたニヤけ面がどうなるんか、見届けるまでは…!

 ちょー破廉恥に狂えばええんよ、ゲヘヘ。 あーやべ、ばか楽しみ。」


彼女(ルル)は「ウケル」と言葉に出し、口角を上げ、ニヤける始末。

そうして、あまりに軽い足取りで、皆の待つ広間へと戻った。


そんな、とんでも無い危険に晒されているとはつゆ知らず――

アメトリクスは自室にて、静かにくしゃみをひとつ、かましていた。


◇ ◇ ◇


ルルの企みなど、知らない皆は、夜も良い時間だったこともあり――

色々な懸念はあったが、一先ずは就寝の流れとなっていた。


屋敷内の従業員すら、寝静まるような深夜というに相応しい時間帯。

ニヴェイシア邸の廊下を包むのは、しんとした静寂。


まだ夜は明けておらず、まだまだ日が昇るまで時間がある。

寝室の窓から、月明かりすら射し込まない程の、静けさが漂う夜半頃。


淡い夜の闇が漂う中、セラは中途半端な時間に目が醒めてしまった。

眠ることが出来ず、気分転換の為へと、なんとなく部屋の外へ。


(一度目覚めると、入眠出来ないのですよね。 はぁ……。)


足音を忍ばせ、長い廊下を歩いていると、ふと――

光が漏れ、薄く開いた扉が目に留まり、視線は自然に、そちらへ向けられた。


こんな時間に、誰が起きているのだろうか?という、ちょっとした心配心。


導かれるように、僅かに開かれている扉へと、手をかけるセラ。

そのまま、扉を押し開け、微かに軋む音を響かせ、扉が開かれた。


扉の向こうに広がっていた光景は、薄暗い書斎。


机に置かれている、小さなランタンの光を頼りに、作業に没頭する姿。

椅子に腰を掛け、静かに羽ペンを走らせ、執務中の屋敷の主(アメトリクス)


彼を優しく照らす、ランタンから放たれる、橙色の淡い灯り。

銀白金(アルゲント・アルビナ)の髪を照らし、光を受けた銀白金は、金色に輝いて見えた。


そこには、いつもの胡散臭い微笑みはなく、ただ淡々と仕事に向かう姿。


その淡々とした様子は、セラの瞳には儚げで、とても美しく映った。

まるで、幽玄を体現したかのような、この世の物とは思えない光景。


思わず息を呑み、見惚れてしまい、その場に立ち尽くしてしまうセラ。

セラの視線に気がつくこと無く、サラサラと、羽ペンを走らせる音が部屋に響く。


次に会ったときには、文句の一言でも言ってやろうと、そう思っていたセラ。

しかし、現在の彼の様子を目前に、用意していた言葉は、浮かんでこない。


セラはただ呆然と立ち尽くし、どこか寂しそうに見える姿を、眺めていた。


やがて、どれほどの時間が過ぎたのか、分からなかったが――

ようやく気がついたのか、アメトは少しだけ驚いた表情を見せ、胡散臭く笑う。


「おやおやー? ボクの私室、入っちゃダメって言われてなかったカナ。」


軽薄さを感じる、胡散臭い調子の声色。だがどこか、なぜなのか――

いつもよりも、柔らかく感じることができた。


セラは片手を口に当て、目を見開き、小さく頭を下げながら声を上げた。


「ごっごめんなさいっ! 邪魔するつもりも、入るつもりも無くって!

 その、明かりがついていましたので、この時間に大丈夫かなって…!

 えっと、その――それだけ、です…失礼いたしましたっ…!」


そそくさと後退り、そのまま部屋から退出しようとするセラ。

しかし、アメトは穏やかな声色で、そんな彼女の背中に語りかける。


「ボクは気にしないヨ。 キミが好きなだけ居たら良い。

 気になるならネ? ボクのコト……怪しいと、そう思うならサ。

 好きなだけ、監視したら良い。 それでキミが満足行くならネ。」


「ほら、そこにソファがあるしサ。 ついでだし――

 何か訊きたいことあるなら、そこに座りなヨ。」


優しさを感じるようでいて、どこか距離を置かれているような。

そんな、遠くもあり、近くにも感じるような複雑な声音。


セラはアメトの言葉に甘え、ソファに腰を掛け、じっと彼の顔を眺める。


「なんだか、こうして見ていると、普通に人間ですね…。 不思議、です。」


「ソレ、勇者サマと一緒にお風呂入った時に同じコト言われたヨ……。

 キミたちが、ボクのお屋敷に着た時に見せたあの姿が、本来のボク。

 とっーても、こわいこわーい魔族だヨー?」


彼は肩を揺らし、小さく笑う様な仕草を見せ「ヒヒッ」と喉を鳴らす。


「今は認識阻害かけてるから、その補正が大きいんじゃないカナ?

 それとサ――こっちの姿の方が、キミたちは怖がらない、デショ?」


ランタンの暖かい光が、彼の微笑みを照らし出す。

しかし、温かな明かりとは裏腹に、彼の表情はどこか冷たい。


セラはじっと、彼の姿を目に収め、呼吸を整えると、ふとした疑問を投げた。


「あの…。一つお尋ねしたいのですが、どうしてそこまでして――

 ニヴェイシア閣下は、人間との共存を望むのですか?」


「失礼ですが、オルディナストラではその、魔族は悪とされてまして……。」


セラは言い淀み、どう言葉にしたら良いのか分からず、口籠ってしまう。

視線を紙に落としたまま、羽ペンを動かし手を止めること無く、語るアメト。


「そりゃ、こっち……人間たちと暮らす方が、ずっと面白いからネー。

 魔族の娯楽って戦いしか無いからサ。 それに、ボクは――」


「人間の愚かさも、強かさも、優しさも、知っている……つもり。」


「人の営みは、ボクの退屈と憂鬱に色を与えてくれた。

 ソレだけじゃ……不足カナ?」


そう言った彼は眉を下げ、胡散臭くも、どこか――

寂しさや、諦めを感じるような、そんな複雑な表情を浮かべていた。


筆を止め、頬杖を付きながらも、セラに微笑を向ける。


「そう、ですか…。 そう、ですね。」


「長く生きるという事は、退屈が、多くなる…って事にしておきます。

 しばらく閣下の事を監視……いえ。 観察させて下さいませ。」


セラが確かな視線でアメトへと語ると、彼は視線を再び下ヘ。

しかしそれ以上の会話はなく、二人の間には沈黙が流れる。


アメトは気にする様子もなく、ただ黙々と執務という作業を続けた。


朝の光が、交易都市(ヴァルメリア)を照らし始める頃合い――

二人は言葉を交わさず、時間だけがゆるやかに流れていく。


夜は明けていたが、セラはつい、ソファでウトウトとうたた寝。

そのまま、いつの間にか、深い眠りへと落ちていたのだった。





【設定メモ:煌陽国の宗教の名前】

本文に出てきた“オルディナストラ”という名前ですが

煌陽国セレスタリア、聖女の所属する宗教の名称です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ