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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:誘われるままに。

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頁:38 その【賢者】暴走騒音につき。



 魔族たちとの邂逅の後、一同は迷宮(ダンジョン)から離れた。

 目的は一刻も早く、賢者へと報告をするためである。


 しかし外はいつの間にやら夜の帳が降ろされ、一旦は宿へ戻ることに。


 都市へたどり着く頃には、全員の身体には疲労が確かに蓄積していて――

 大図書館へ向かうのはまた後日とし、その日は就寝するのだった。



 ――翌日の早朝。


 涼やかで、冷たい風が都市を吹き抜けるような時間帯。

 勇者たちは昨日手に入れた情報を共有するため、大図書館へと足を運んでいた。


 司書へと挨拶を済ませ、その後賢者の待っているであろう禁書庫へ向かう。


 重い鉄の扉を開き、地下へと続く螺旋階段を下り――


 下った先で、賢者は待ち構えていた。


 黒のローブ、深緑の髪をきっちり真ん中で分け、深い隈を刻んだ瞳。

 分厚い眼鏡の下、鋭く輝く鼈甲色――彼の周りには浮遊する書物たち。


「皆様ッ!ご帰還お待ちしておりましたッ!よくぞご無事で――ッ!

 ワタクシめ、心配で徹夜を――ッ!」


 一同に気が付いた彼は椅子から勢いよく立ち上がり、嬉々として両手を広げた。


「して――迷宮の様相は如何にッ!?」


 賢者の疑問に答えたのは勇者。迷宮での出来事を事細かに伝えていった。


 時折騎士や小人族が補足を加えつつ、賢者は真剣に全員の話を聴き――

 羽ペンを走らせ、書き置きを残した。


 一通り聞き終えた彼は、机を指で「トントン」と叩き、思考。


「ふぅむ……なるほど。」


「かのようなスットコドッコイな巨石が、迷宮内に――

 して何かの実験のため、魔族が持ち込んだモノ……と。」


「理由は不明、魔族の青年が語るに魔族たちが戦争を仕掛けに――ッ」


 考えるように視線を巡らせ、賢者は禁書庫の一角に向け、腕を動かした。

 浮遊する本を複数卓上に落として並べ、それを幾度か繰り返す。


 その中から更に数冊ピックアップし、本と紙束を宙へ浮かせ――

 凄まじい勢いで書き殴り始めた。 


「黒い巨石は勇者一行が遭遇した魔族の少女が制作に携わっているッ――

 聞き及んだ情報を要約するとそう考えるのが妥当ではあるがしかし――

 となるとかのスットコドッコイ巨石は魔族領で造られた――……」


 勇者たちには目もくれず、あちこちに視線を投げ集中する様子の賢者。


「――スットコドッコイってきょうび聞かん死語じゃろ……?」


 ふと落とした小人族の言葉――全員に聞こえているはず。

 しかし、誰も何も言わない。


「禁書……王国の歴史書や学術論文は見当違いか?魔族に関する書籍となると――

 あちらの禁書を確認したほうが……いえまずこちらの書物の確認が先決――ッ」


 ブツブツと独り言を繰り返し、とんでもない形相の賢者。

 彼の姿に誰しもが声をかけるのを躊躇い、一歩引いた目で見つめていた。


 しかし――どうしても賢者に尋ねたいことがあった聖女。

 控えめな挙手で賢者に向けて小さな質問を投げた。


「あのっ……!お取り込み中、申し訳ありません、賢者バルタザール様。

 つかぬことをお伺いしたいのですが……かまいませんか?」


「賢者様は……『ニヴェイシア』という家名の貴族の方の情報――

 なにか、ご存知ありませんでしょうか?」


 賢者は聖女の言葉をきき、一瞬だけ動作を停止。

 ぴくりと眉を動かし、眼鏡を光らせ、一冊の書物を読み進めた。


「――『ニヴェイシア』……かの子爵は約六十年ほど前海を挟んだ隣国ッ!

 連合国との国境紛争が悪化した折かの子爵は独自の交易路を築き上げッ!

 大量の武具や糧食を煌陽国(セレスタリア)に提供したとされておりその際――

 当時の国王から子爵位を賜ったと――ッ」


 息継ぎなし、矢継ぎ早に語り続ける賢者。

 若干咳き込みながらも、全身を盛大に使って深すぎる深呼吸の後――


「国から爵位を与えられただけではなくその後も商才と知識で地盤を固めッ!

 その時代に名を轟かすほどの功績を上げるのだがしかぁぁしッッ!!

 現在はその家名を知るものは少なくそしてその特徴的な容姿ィッ!!

 その容姿に準え――人々は『白金子爵』と――」


「ゼェッ……!ハァ……ッ! そう呼称、したのだそう、ですぞッ!」


 狂気すら感じる賢者の熱量と声量。思わず勇者たちは数歩ほど後退。

 彼の声はまるでやまびこのように禁書庫内に残響する始末。


 小人族の彼女は両手で耳を塞ぎ『声デッッカ……』と呟いてドン引き。


 賢者は勇者たちの様子に気がつくことはなく『スゥ……』と浅く呼吸。

 多少落ち着きは取り戻したが……それでもなお声量は健在。


「ひとまずワタクシが皆様から頂いた情報や噂話の精査をし時間を頂戴したくッ!

 現在のままですと不確定要素が多数ありワタクシとしては――ッ!!」


 しびれを切らしたのか、ルルはだぼだぼの袖を翻し、存在をアピール。


「わーった!!わーったけぇマジで落ち着け!」


 と呆れた声で宥め――

 簡単な話し合いの結果、ルルは禁書庫でバルタザールの手伝いをすることに。

 パルテオンは大盾の修理のため、鍛冶屋へ。セラは神殿と協会に。


 勇者ノアは……彼は人知れず、どこかへと姿を消していった。


 かくして……四人はそれぞれ、別々で行動することとなった。





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