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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:誘われるままに。

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37/137

頁:35 その【童女】魔の者につき。◆挿絵有り

※注意喚起


本エピソードでは、物語の演出上、触手による拘束描写等。

ヒロイン(聖女)のピンチ・フェティッシュ表現が含まれます。


苦手な方はご注意ください。







 勇者の言葉に一同が頷き――武器を構えて長い階段を下っていった。

 七層目――下り立った瞬間から見て分かるほどの異様な光景。


 そこに広がっていたのは、顔が虚空に呑まれた魔物たち――


 先ほど戦った子鬼(ゴブリン)、二足歩行の鼠頭の群れ……奥には、黒い汚泥溜まり。

 ブクブク――と、不快な音を立て泡立ち、変形する泥。


 やがて触手のような形へと変貌し、ぬらぬらといやらしく蠢く形状へ。


「まただな……賢者が聞いたっちゅー話はこれか?噂通りって事か。」


「これで三度目……だね。近くに石は……見当たらないみたいだけどっ……!」


 騎士が大盾を構えて前へと迫り、勇者が聖剣を片手に、強く踏みこむ。

 魔物たちを圧倒していく勇者たちだったが――


 彼らは、触手の脅威を知らなかった。


 黒光りする触手は、光すら飲み込み、機を窺うように蠢き――動いた。


 前衛の二人の間をするりと抜け――後衛めがけ、勢いよく伸びる触手。

 まるで弾丸のような速度で伸びる悪意に、為す術などあるはずもなく。


 《祈り》を紡ごうと、口を開いた最中のセラだったが――

 その言葉を強引に遮られるように襲いかかる脅威。


「んむ――!? ぐッ!! んッ……!(祈りの言葉を――封じられたッ)」


 生暖かく粘つく触手は、彼女の口を塞ぐように這い回り、腕を取られる。

 素早く体中を巻きつけ、逃げ場を奪うように両手足を拘束。


「んッ……!!んぐ、んむ――ッ」


 口を封じられ、言葉すら紡げずに身じろぎを繰り返すが、どうにもならない。


(最悪、です――これでは、祈れない……ッ!!)


 すぐ隣では同じく拘束されていた小人族だったが――

 彼女は冷静に状況を判断し、僅かな隙を利用し、短く唱えた。


「……――〈麻痺(パラライズ)〉!」


 彼女の放った魔法で触手は動きを止め、拘束が解けたが――

 解けたのはルルの周囲の触手のみ。


「セラちゃんわりー……〈麻痺(パラライズ)〉なんじゃけど……そっちに使えん。」


「使ってもいいけど……セラちゃんまで身体が動かんくなる。」


 両手足を縛り上げられ、徐々に身体を宙へと吊り上げられる聖女。

 触手表面から滲む液体により、法衣が身体へと張り付いていった。


 肌へ吸い付くように纏わりつく法衣――浮き彫りになる彼女の四肢。


(まずい――膝裏から登ってきて……ふとももの付け根まで来てる――ッ!!)


 どうにか顔を動かし、ようやく自由になった口で、必死に助けを求めた。


「ぐっ……!こ、この――ッ! 離しなさいッ……! んっ……!

 ……の――ノアッ!! お願い!助けてくださいッ!」


 触手からの分泌液で、聖女の法衣は見るも無惨な姿に。

 濡れた布地の隙間を突き――直に肌を撫でる感覚に身を震わす聖女。 


 敏感な箇所を蠢く悪意ある感触――瞳の端には涙が浮かぶ。


 強く締め上げる触手。全身に回ったそれらのせいで、抵抗は許されない。


「【聖女】とて……万能では……ないのです――どうか、お願い……ッ!」


 彼女の危機は理解していたが、勇者には切り込もうにも決断できずにいた。

 触手だけ切ればよいことなど、頭では分かりきっている。


 が――聖女の身体は持ち上げられ、足元の触手を切断したとて、だ。

 彼女の身体をどう受け止めればよいか……また、自身まで拘束されては――


 どこから切り落とせば正解なのか、判断がつかずに尻込みしていた。


「ッ……!どうしたらいいの……ッ!?」


(聖剣さんは長剣なんだ……仮にセラに怪我でもさせてしまったら――)


「おいノアッ!戦闘中だぞッ!冷静になりやがれッ!いいかッ!!

 錫杖を持つ側の腕――そっちの触手を斬れッ!」


「それさえすりゃ恐らく聖女なら祈れるッ!セラを信じろッ!」


 大盾で敵の攻撃を防ぎ、メイスで蹴散らし怒声を浴びせる騎士。


 彼の言葉に一瞬だけ驚いた表情を見せたノアだったが、即座に行動に移した。

 一瞬でセラの腕に絡みつく触手を切り落としたノア。


 咄嗟に錫杖を胸元へと抱えるセラ。


「天にあらす我らが主よ、不浄、穢れ……あらゆる醜穢を星の巡りの元――

 慈愛を以て還し給(たも)う――《浄化の祈り(ピュリタス)》」


「続けます――…………《防御の祈り(グラティア)》」


 聖女の身体からは淡い金色の聖光が奔り、身体を包み込み――

 拘束が解けると同時、地に足をつけ、前衛二人に感謝の言葉を投げる。


 錫杖を構え直して瞳を閉じ《祈り》に集中する聖女。


 たちまち周囲には浄化の効果が広がり、触手は体積を小さくしていった。


 騎士が大盾で後衛を守り、勇者が聖剣で一刀両断していくが、ジリ貧。

 黒い汚泥からは無限に触手たちが湧き出ていた。


「しゃーなし……〈麻痺(パラライズ)〉ッ!! ああ~……もうだめぇ……。

 あたし……魔力が……限界……。」


 言葉を落とすと同時、彼女は短杖を膝の上に乗せ、その場へとへたり込んだ。


 ルルの作った絶好の好機(チャンス)――逃すわけにはいかないと決意した勇者。

 聖剣の刀身に触れ、胸中で語りかける。


『【勇者特権(ブレイブ・オーダー)】……使わせてもらうね、聖剣さん……!』


 碧灰(シエルグレイ)の瞳には極光が宿り、彼の手に握られた聖剣に光が収束する。

 やがて光は最高潮に達し、次いで彼の脳内に届けられるのは、澄んだ女声。


『【勇者特権(ブレイブ・オーダー)】起動(アクティベート)……【使用・承認(エグゼキュート)】』



「――聖光一穿(セイコウイッセン)ッ!!」



 聖剣を大きく引き、強く突き出し――切っ先から穿つように放たれた光。

 光は大砲のような轟音と共に、一直線に魔物たちや触手を貫き、全てを蒸発。


 七層を覆っていた不気味な気配は一斉に霧散し、後には何も残らない。


 聖剣を鞘へと収め、全員の無事を確認しようと顔を向けた勇者。



 ――が、その時だった。



 乾いた空気を引き裂き、銀色の光を纏った短刀が聖女の胸部を目掛けて飛来。

 刃が彼女を貫くことはなく、彼女を纏っていた《祈り》が弾き返した。


 甲高い音を立て、彼女を包んでいた《防御の祈り(グラティア)》は砕け散り――霧散。


 彼女の側に「カラン」と乾いた音を立てて転がる短刀。


 何が起こったのか、その一瞬では全員、理解できなかった。


 聖剣を構え直し、聖女の側へと駆け寄った勇者。

 大盾を構えた騎士も、すかさず聖女の元へ。


 すると――どこからか、コツ……コツ……と響いてくる、軽い足音。

 それは、さきほど短刀が飛んできた方向から聞こえてくるようで――


 闇の中からふわりと現れた異様な姿。


 浮遊するように揺れ蠢く、白金色(プラチナブロンド)の床に届くほどの長い毛髪。

 黒基調、血のような赤いフリルで彩られた派手なドレス。


 半束ねにした二つ結び。頭部から覗くのは、鋭利な二本の黒い角。

 血色を感じられない蒼白の肌――柔らかなのに、どこか嘲笑的な微笑の童女。

 

挿絵(By みてみん)


 灰黄(かいこう)色と紫水晶(アメジスト)色に輝く左右非対称な瞳に帯びる、僅かな狂気。


 誰の目から見ても、その異様な童女の姿は『魔族』――


「あっれれぇー?ぼくのぉ、ナイフぅ……当たってないのぉ?ふぅん……?」


 舌足らずで拙い猫なで声は、神経を逆撫でするように、不快感をもたらす。

 童女の視線はただ一人――【聖女(セラフィーナ)】へと投げられていた。


「ちょっとぉ……ざんねぇん……でもでもぉ――」


「さっきぃ、うちの子たちと遊んでくれたぁ…?からぁ……。

 だからぁ……いーのぉっ!またあとでぇ、遊ぼうねぇっ!ぃひひっ!」


 恍惚の微笑――童女は両手を大きく広げ、優しく穏やかな声音で語った。

 幼い声と共に、童女の身体は揺らぎ……やがてびちゃりと音を立て――


 先ほどまで確かに存在していた姿はどこにもなく。


 童女がいたであろう場所に残されたのは、黒く濁った汚泥のみ。


 不気味な余韻と暗雲が立ち込め、勇者を含めた全員、声を出せずにいた。


(《防御の祈り(グラティア)》が一瞬で……もし《祈り》が無ければ、私、は……。)





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