頁:34 その【大群】瞬殺につき。
休憩を終え、四層目を抜けて五層目に下るが、何もなし。
五層目は一本道で進みやすく、その静けさが逆に不安を煽った。
六層目へと下ると――またもや様変わりする迷宮の景色。
確かに洞窟のような見た目なのだが、広がるのは地底湖。
透き通った水は、水底が確認できるほど透明度が高く――
圧倒されるような絶景が広がっているが、生物の存在は確認できなかった。
天井にはいくつもの輝く鉱石が、水面を明るく照らし出す。
「綺麗な場所だねぇーっ!水もほら見てぇ!とっても透明で――」
ノアが水に手を触れようとするのだが――ルルがそれを阻止。
「待って勇者ちゃん。これただの水じゃねぇ……スライム住んどる、怖……。」
ルルの言葉に疑問符を浮かべるノア。そんな彼に対し――
ため息を吐き出しながら、懇切丁寧にスライムの『脅威』を語った。
一同は彼女の説明を聞き終えると、縦並びになり、六層目を慎重に進んだ。
というのも――ルルが恐れるほどの『脅威』が完全に真隣。
一本道かつ隣に広がるのは、透明度の高い湖のような『魔物』の群れ。
が……そんな全員の恐怖を知ってか知らずか、水が跳ねた。そして――
ノアへと一直線に向かう、おおよそ人の顔の大きさはあろうかという水塊。
(なるほどッ! スライムさんは分かってますね……ッ!)
錫杖で水塊を薙ぎ払い、脅威を封じるセラ。
この場で一番の長物を持ったセラは、脅威キラーと化していた。
「ありがとうセラッ……!僕の尊厳と服を守ってくれて……!」
「ええ……はい。ですが驚きました。まさかスライムさんに対して――
私の渾身の《祈り》である《防御の祈り》が効かないだなんて……。」
「ノアがやられてしまっては、ここで全滅もありえますっ……!」
そう……スライムという魔物は、あまりにも脅威度が低い。
そのため、神職者の《祈り》は、スライムを敵として認識できない。
且つ、この厄介極まる魔物の生態――この魔物の脅威は別のところにあった。
スライムという魔物は、衣類や繊維をじわじわと溶かす。
ゆえに――この勇者ノアという青年。
彼は小動物のような瞳でセラを見つめ、とても情けない姿を晒していた。
彼は仲間たちに笑われていることに、気づかない。
地底湖を進んだ先は、二股に裂けている完全な分かれ道。
前衛と後衛のバランスを考慮した結果。
勇者と聖女。騎士と小人族の二組に分かれることに。
そして二組は、それぞれの道へと向かうのだった――
◇ ◇ ◇
騎士の体格を鑑みて、狭い道を選んだ勇者と聖女のチーム。
彼らの選んだ道は大変狭く、ノアは若干ではあったが歩きづらそうだ。
「なんだか狭いねぇ……僕にはちょっと窮屈かも……。
これじゃあ聖剣さんが抜けないし、いざとなったら拳でも戦うけど……。」
「というかここ、本当に道なのでしょうか?なんというか嫌な予感が――」
やがて通路は突き当りに。引き返す道すがら――
あまりに狭い通路に足を取られてしまったセラ。
彼女はノアのマントを巻き込み転倒し『きゃっ』と小さな悲鳴をあげた。
勇者は聖女を庇って下敷きとなったが、彼女は全体重を勇者へ。
申し訳なさそうに顔を青ざめさせ、下にいるノアから慌てて離れるセラ。
「まッ……誠に申し訳ありませんッ!!重たかったですよねッ!?
ああ、ごめんなさい!今すぐに《治癒の祈り》をっ……!」
顔を覆い隠し、必死に《治癒の祈り》を祈るセラ。
「ちょっとまって!セラ!慌てないで、僕はほら!このとおりだから!
力を使いすぎちゃったら、セラまた倒れちゃうよ……っ!!」
その後――どうにか聖女を落ち着かせ、来た道を戻る二人だった。
◇ ◇ ◇
一方、騎士と小人族の二人は――
「なんとなくこっちが正解の予感しとんよね。あたしの勘がそう言っとる。」
「大した自信じゃねェか、ルル。だがな、俺も同意見だ。明らかに――」
「いや……いくらなんでも、スライム多すぎんだろッ!
おいルルッ!コイツらどうすんだ!?どんだけ増殖してやがんだ……!」
――そう、彼らは正解の道を引いていた。
が、彼らの行く手を阻むのは多数のスライム。
多数と言うには少々言葉が足りず、壁や天井を埋め尽くすほどのそれ。
大盾を構え、じわじわとにじり寄るパルテオンだったのだが……。
スライムがぴょんと跳ねて威嚇する度――彼は後退していった。
一見無表情ではあったが、ルルはその実、状況に手を焼いていた。
どうすれば最善の策であるかを逡巡し、やがて導き出した一つの解。
彼女は短杖を召喚し、瞳に光を灯し――詠唱開始。
「万象を覆う白き静寂……時を淀ませるその腕は生命の楔。
憂う温度は絶対零度の幽柩、絶対不可避の冰獄を今此処に――
《ヒオルム》ッ!」
周囲につむじ風が吹きすさび、小さな氷の礫が漂う。
彼女が短杖を軽やかに動かすと、氷の礫を纏った嵐がスライムたちの元へ。
天井や壁にこびりついていたスライムは、たちまち凍りつき――
凍ったスライムたちは自重に耐えきれず、ぼとぼとと落ちていった。
物理法則に基づき、スライムの身体は無惨にも砕けてバラバラに。
「やったぜ!あたしらの勝ち。へっへーん。」
「でも魔力の消費がちょいきつめ……この魔法、魔力消費が多いんよね……。
打ててあと……二……もしくは三回が限界じゃとおもうー……。」
「魔力持ちってよ……俺の身近にはいねぇんだ。だから魔法はよう分からんが――
しっかし、ここまで凄まじいと魔族ちゅー連中はどんなバケモンなんだ?」
「そういや、魔族について賢者に聞くの忘れてたな……。」
その後――スライムの戦利品をかき集め、鞄にしまい込む二人。
彼らが“掃除”をしている最中、戻ってきた勇者たちと無事に合流を果たした。
「パルーっ!そっちはどうだった?あっちは何もなかったよ……。
ただ狭かっただけで、行って損してきたところ……あはは……。」
「本当に……狭いだけでコケてしまいますし……悲しかったです……。」
そうして合流をし、スライム地帯を越えると、七層目へと下る階段が見えた。
「なんだか……嫌な気配がする。みんな……いつでも戦えるように構えてて。」




