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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:誘われるままに。

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頁:34 その【大群】瞬殺につき。



 休憩を終え、四層目を抜けて五層目に下るが、何もなし。


 五層目は一本道で進みやすく、その静けさが逆に不安を煽った。


 六層目へと下ると――またもや様変わりする迷宮の景色。

 確かに洞窟のような見た目なのだが、広がるのは地底湖。


 透き通った水は、水底が確認できるほど透明度が高く――

 圧倒されるような絶景が広がっているが、生物の存在は確認できなかった。


 天井にはいくつもの輝く鉱石が、水面を明るく照らし出す。


「綺麗な場所だねぇーっ!水もほら見てぇ!とっても透明で――」


 ノアが水に手を触れようとするのだが――ルルがそれを阻止。


「待って勇者ちゃん。これただの水じゃねぇ……スライム住んどる、怖……。」


 ルルの言葉に疑問符を浮かべるノア。そんな彼に対し――

 ため息を吐き出しながら、懇切丁寧にスライムの『脅威』を語った。


 一同は彼女の説明を聞き終えると、縦並びになり、六層目を慎重に進んだ。

 というのも――ルルが恐れるほどの『脅威』が完全に真隣。


 一本道かつ隣に広がるのは、透明度の高い湖のような『魔物』の群れ。


 が……そんな全員の恐怖を知ってか知らずか、水が跳ねた。そして――

 ノアへと一直線に向かう、おおよそ人の顔の大きさはあろうかという水塊。


(なるほどッ! スライムさんは分かってますね……ッ!)


 錫杖で水塊を薙ぎ払い、脅威を封じるセラ。

 この場で一番の長物を持ったセラは、脅威(スライム)キラーと化していた。


「ありがとうセラッ……!僕の尊厳と服を守ってくれて……!」


「ええ……はい。ですが驚きました。まさかスライムさんに対して――

 私の渾身の《祈り》である《防御の祈り(グラティア)》が効かないだなんて……。」


「ノアがやられてしまっては、ここで全滅もありえますっ……!」


 そう……スライムという魔物は、あまりにも脅威度が低い。

 そのため、神職者の《祈り》は、スライムを敵として認識できない。


 且つ、この厄介極まる魔物の生態――この魔物の脅威は別のところにあった。

 スライムという魔物は、衣類や繊維をじわじわと溶かす。


 ゆえに――この勇者ノアという青年。

 彼は小動物のような瞳でセラを見つめ、とても情けない姿を晒していた。


 彼は仲間たちに笑われていることに、気づかない。


 地底湖を進んだ先は、二股に裂けている完全な分かれ道。


 前衛と後衛のバランスを考慮した結果。

 勇者と聖女。騎士と小人族の二組に分かれることに。


 そして二組は、それぞれの道へと向かうのだった――


 ◇ ◇ ◇


 騎士の体格を鑑みて、狭い道を選んだ勇者と聖女のチーム。

 彼らの選んだ道は大変狭く、ノアは若干ではあったが歩きづらそうだ。


「なんだか狭いねぇ……僕にはちょっと窮屈かも……。

 これじゃあ聖剣さんが抜けないし、いざとなったら拳でも戦うけど……。」


「というかここ、本当に道なのでしょうか?なんというか嫌な予感が――」


 やがて通路は突き当りに。引き返す道すがら――

 あまりに狭い通路に足を取られてしまったセラ。


 彼女はノアのマントを巻き込み転倒し『きゃっ』と小さな悲鳴をあげた。


 勇者は聖女を庇って下敷きとなったが、彼女は全体重を勇者へ。

 申し訳なさそうに顔を青ざめさせ、下にいるノアから慌てて離れるセラ。


「まッ……誠に申し訳ありませんッ!!重たかったですよねッ!?

 ああ、ごめんなさい!今すぐに《治癒の祈り(サナティオ)》をっ……!」


 顔を覆い隠し、必死に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈るセラ。


「ちょっとまって!セラ!慌てないで、僕はほら!このとおりだから!

 力を使いすぎちゃったら、セラまた倒れちゃうよ……っ!!」


 その後――どうにか聖女を落ち着かせ、来た道を戻る二人だった。


 ◇ ◇ ◇


 一方、騎士と小人族の二人は――


「なんとなくこっちが正解の予感しとんよね。あたしの勘がそう言っとる。」


「大した自信じゃねェか、ルル。だがな、俺も同意見だ。明らかに――」


「いや……いくらなんでも、スライム多すぎんだろッ!

 おいルルッ!コイツらどうすんだ!?どんだけ増殖してやがんだ……!」


 ――そう、彼らは正解の道を引いていた。


 が、彼らの行く手を阻むのは多数のスライム。

 多数と言うには少々言葉が足りず、壁や天井を埋め尽くすほどのそれ。


 大盾を構え、じわじわとにじり寄るパルテオンだったのだが……。

 スライムがぴょんと跳ねて威嚇する度――彼は後退していった。


 一見無表情ではあったが、ルルはその実、状況に手を焼いていた。

 どうすれば最善の策であるかを逡巡し、やがて導き出した一つの解。


 彼女は短杖を召喚し、瞳に光を灯し――詠唱開始。


「万象を覆う白き静寂(しじま)……時を淀ませるその腕(かいな)は生命(いのち)の楔。

 憂う温度は絶対零度の幽柩(ゆうきゅう)、絶対不可避の冰獄(ひょうごく)を今此処に――

 《ヒオルム》ッ!」


 周囲につむじ風が吹きすさび、小さな氷の礫(つぶて)が漂う。

 彼女が短杖を軽やかに動かすと、氷の礫を纏った嵐がスライムたちの元へ。


 天井や壁にこびりついていたスライムは、たちまち凍りつき――


 凍ったスライムたちは自重に耐えきれず、ぼとぼとと落ちていった。

 物理法則に基づき、スライムの身体は無惨にも砕けてバラバラに。


「やったぜ!あたしらの勝ち。へっへーん。」


「でも魔力の消費がちょいきつめ……この魔法、魔力消費が多いんよね……。

 打ててあと……二……もしくは三回が限界じゃとおもうー……。」


「魔力持ちってよ……俺の身近にはいねぇんだ。だから魔法はよう分からんが――

 しっかし、ここまで凄まじいと魔族ちゅー連中はどんなバケモンなんだ?」


「そういや、魔族について賢者に聞くの忘れてたな……。」


 その後――スライムの戦利品をかき集め、鞄にしまい込む二人。

 彼らが“掃除”をしている最中、戻ってきた勇者たちと無事に合流を果たした。


「パルーっ!そっちはどうだった?あっちは何もなかったよ……。

 ただ狭かっただけで、行って損してきたところ……あはは……。」


「本当に……狭いだけでコケてしまいますし……悲しかったです……。」


 そうして合流をし、スライム地帯を越えると、七層目へと下る階段が見えた。


「なんだか……嫌な気配がする。みんな……いつでも戦えるように構えてて。」





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