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その【聖女】転生者につき。~祝福?チート?……いいえ、呪いです。~  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに。

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アメトリクス・フォン・ニヴェイシア



なかなか現れない当主に、最初こそは緊張していた一同。


しかし、茶菓子を食い尽くさんとする騎士(パルテオン)の勢いに――

ルルが「ずりー!」と言ったことを皮切りに、場の空気は緩やかに和んでいった。


全員で言葉を交わしながらも、和やかに当主の到着をひたすら待つ。


そうして時間を過ごしていると、漸く――その時が訪れた。

控えめだが、上品さを感じる扉を叩く音が響き、一同はぴしゃりと凍り付く。


「――ご歓談中、失礼いたしマス。」


透き通るような声音が落とされた後、ゆるりと開かれた扉。


軽薄さを感じない、貴族としての微笑を湛えた、この屋敷の主――

アメトリクス・フォン・ニヴェイシアその人が、一礼と共に姿を現した。


銀白金(アルゲント・アルビナ)の長髪。後ろで一つに纏められた髪は、光を受け軽やかに波打つ。

長い前髪は片目を覆い、覆われた方の瞳は、僅かに黄水晶(シトリン)色の輝きを帯びる。


妖艶さを纏いながらも、一同を見据える赤紫の瞳は、不気味な光を灯す。

彼は瞳を細め口角を上げ、一人ひとりを鋭く射抜き、やがてふっと息を付いた。


磁器のような透き通る白肌は、病弱という概念そのものを体現した美麗な青年。


パルテオンは盾を構えずとも、筋肉へ緊張が伝わり身体を強張らせる。


「おめぇさんは、あの平原――

 それと祝賀会で会った、あんときのヤロウだなッ…!」


今にも吠えそうなパルテオンを制止するように、ノアが朗らかに微笑む。

彼は、アメトリクスの前まで歩むと、礼儀を崩さずに静かに一礼。


「どうも――“初めまして”ですね? ニヴェイシア子爵さん。

 僕は【勇者】のノアです。 本日は僕たちの為にお時間を頂き、感謝を。」



ルルは無表情のまま視線を鋭くし、青年の姿を瞳を細め、見据える。

セラだけは、どうしても胸の奥の不安が押さえきれず、思わず声を荒らげた。


「あっあの時――どうして、私にっ……!」


言いたいことは山ほどあるのに、思考がバラけ、うまく言葉が紡げず、拳を握る。

眼の前の青年は眉を下げ、唇の端を釣り上げると、胡散臭い微笑を浮かべた。


「興奮しないノー? まずはご挨拶から――デショ? ドーモ、勇者サマ方。

 一先ず……ご足労頂いて、感謝でもお伝えしないと、ネェ? ヒヒッ!」


「さて、初めましての方も、そうでない方も……。

 ニヴェイシア家三代目当主…… アメトリクス・フォン・ニヴェイシア

 ――と申しマス。」


「以後、お見知り置きを……。 ヒヒッ!」


完璧に仕立て上げられた、見事な一礼を披露した後、怪しく笑う青年。

彼は片手を後ろに回し、もう片手を腹部へと、貴族らしい立ち振舞で皆の前へ。


しかし、眼の前の青年から放たれる、静謐という圧力で、全員が声を出せない。

蛇に睨まれた蛙が如く、息を詰まらせ、唾液を呑み込む一同。


「そんなに緊張しないでヨー? もっと楽にして欲しいナァー? ヒヒッ!

 で、聖女サマー。 ちょっと確認したいんだケド…腕見せてもらってもー?」


いつのまにやら音もなく、セラの側に歩み寄っていたアメトリクス。


彼は背を丸め、セラの腕を取り、無遠慮に袖を捲りあげる。

腕輪の有無を確認するように、視線を彼女の腕へと落とした。


彼の指先が触れた瞬間に肌へ伝わる、まるで氷のような冷たい体温。

セラは思わず手を引き、引きつった表情を浮かべ、自身の手首を撫でる。


「やっぱ無くなってるよネー? アレ、すっごく高いんだヨー?」


とても軽い口先で放たれる言葉。

ノアは静かに怒りを込め、青年へと問いを投げた。


「失礼ですが、貴方は一体……何がしたいのでしょうか?

 僕たちの邪魔をするつもり――ではないですよね?

 僕には、貴方の意図が、全く分かりません。」


パルテオンが警戒を解かず、眼の前の青年に睨みを利かせ――

ルルの被る帽子から現れた、謎毛玉生物(キュー)が、威嚇するように小さく吠える。


注目の的であるアメトリクスは、気にも留めず、わざとらしく肩を竦めるだけ。


「あー……そうだネ。 そうだよネェ? ――ゴメンゴメン。

 多分こうした方が、キミたちにとっては…良いカモしれないネェ?」


彼は自身の顔に手をかざすと、その姿がみるみる変化していった。

彼の病的な白肌からは、血色というものが消え去り、蒼白色へ。


見えている方の瞳は、夜空を切り取ったような黒紫の色へ染まり――

前髪に隠れた片側の瞳の色は変わらず、黄水晶(シトリン)の輝きを放つ。


そして――こめかみからは、短いが鋭い、二本の黒い角が覗いていた。


「認識阻害っていう魔法だヨ。 便利だよネェ…?」


低く、囁くようでいて、親しみを感じる声音のはずなのに、温度が無い。


「この見た目の通り、ボクは魔族って言われる種族だヨ。 でもネー?

 その血って半分なんだよネー。 で、もう何十年……んー?百年、カナ?

 その位こっちの国で…人間と共に過ごしていてネー。」


部屋の空気が凍り付くような、彼の冷ややかな圧力に、パルテオンが唸る。


「初代から、ずっとおまえさん――って事だな?」


「そだヨ。 んで前に言ってた魔族の“戦争”の件だケド――ああもう。

 そんな睨まないでヨー? こぉんな、人畜無害なボクに殺意は辞めてよネー?」


「それにサ、ボクが居なくなると、ココの屋敷の従業員…路頭に迷っちゃうヨ?

 従業員は少ないケド、それでも大勢の人が困っちゃうワケだケド。 ヒヒッ!」


アメトリクスは会話を中断し、視線をノアと、彼の持つ聖剣へと向ける。

ノアはまだ何もしておらず、聖剣に手を掛けただけだったが、見破られていた。


「す、すみません…。 どうにも、貴方の空気が僕には怖くて…」


ノアは言葉と共に、腰に下げられていた聖剣を床へ置き、両手を上げる。

アメトリクスはくすりと笑い、唇に手を当て、妖艶に声を落とす。


「話しを戻すヨ? 魔族の“戦争”の件ネェー? あの怖い魔族の童女――

 あの童女、ボクの姉サマなのネ。 んで、その童女が関わってるのサ。」


彼は一歩一歩、確かな足取りで、部屋を優雅に歩き回る。


「で、ボクの姉サマを利用して、人族を根絶やしにしようとしてる……。」


「……多分そんなトコ、カナー。」


彼が立ち止まると同時に、一同の怪訝な視線は、アメトリクスに注がれたまま。

パルテオンが睨みを利かせながら、低く唸るような声色で語りかけた。


「で、おまえさんの言葉を、俺らはどう信用すりゃいいんだ?」


パルテオンのその声は、低く刺すような鋭さがあったが、青年は首を傾げる。

緩やかな足取りで、パルテオンの側まで歩みを寄せると、優しく微笑み返す。


蠱惑的な指先で、騎士(パルテオン)の胸をなぞると「ヒヒッ」と小さく喉で笑った。


「確かにネェ? でもサ。 

 こうしてボクは現在に至るまで、危害は加えていない。」


「害を為すコトは可能だったし、いくらでも機会はあった。

 でも、そうしてナイ。」


「それってサー、何よりの証拠にならなぁい? 違ぁう?」


パルテオンから距離を取り、両手をひらひらと上げて見せ、無害を装う。

だが、彼のやる仕草はどうにも不気味で信用ならず、一同は彼から目が離せない。


「ボクはネ、キミたちに協力するつもりだヨ? 屋敷も好きに使って良いしサ。

 薬が欲しいならボクが直接調合だってしてアゲル……。 ただまぁ――

 協力できる範囲が決まってるからサー。できる限りになっちゃうケド。」


謎毛玉生物(キュー)が小さく「ギュイッ」と鳴き、アメトリクスを威嚇。

そのキューを抱えたルルが、睨みながらも、皆に向き直り声を出す。


「屋敷使えんのは良い条件じゃろ。 んでもって宿代も浮くし。

 ――胡散臭ぇコイツの監視もできる。 一石何鳥にもなんじゃねー?

 コイツ、長い事貴族やっとんじゃろ? んならよ、下手な事はせんじゃろ?」


「ワオ。キミは聡明みたいだネー? 助かるヨ、チビっ子チャン……ヒヒッ!」


アメトリクスがルルの側に歩み寄ろうとするが、キューが吠える。

彼は胡散臭い微笑みを湛え、歩みを止め、ため息をひとつ。


ノアはルルに同意するように静かに頷くと、全員に視線を落とす。


「そう、だね。 皆がいいなら、僕は同意見だけど…。 ねぇセラ。

 セラはそれでいいの? 僕は君が心配だから…」


唐突に話しを振られ、セラは肩をびくりと震わせる。

全員の視線がセラへ注がれ、彼女は銀白金(アメトリクス)の姿をじっとその瞳に映す。


信用も、信頼もまるで出来ない。あまりに胡散臭く、真意が読めない青年。

視線に耐えかねた訳では無いが、様子を見ることも大事だと判断を下した。


「はい、私は、大丈夫です。 でもさすがに、すぐに信用しろってのは無理です。

 どうして私たちに協力する姿勢を見せるのか、理由が見えませんので。」


アメトリクスは部屋をウロウロと歩き回り、セラの付近まで歩みを寄せる。

薄ら笑いを浮かべ、肩を持ち上げ、ため息混じりの声音を響かせた。


「ボクのコト、すぐに信用しろだなんてそんな無茶は言わない。

 ……解ってるサ。 ボクが怪しい事なんて。 それにボクは魔族だし?

 キミたちが恐怖を感じるのも、当然な理由(わけ)ってのも理解してるヨ。」


「でもネ? ボク……こんな見た目だケド――

 これでも、本心で人族との共存を望んでいるんだヨー?

 一部の魔族は未だに、昔の関係を引きずってるみたいだケドー」


彼はソファに腰を掛け、退屈そうに、指先をなぞるようにくるくると動かす。


「魔族が“戦争”とか言ったケド、実はボク自身、魔族領の状況――

 その全貌を把握してるってワケではないのサ。 ごめんネー?

 だからこそ、ボクのできる範囲で助力するってコトだヨー?それだけ。」


彼は足を組み、頬杖をつきながら、全員の顔を確認し、値踏みするように嗤う。


「もしナニか解ったら、すぐにでもキミたちに情報提供するし。

 どーお? 良い条件じゃあなぁい? それにサ。」


ソファに腰掛け、薄ら笑いを浮かべ、天井に目を向け、言葉を続ける。


「人族に紛れてる魔族って――何も、ボクだけってワケじゃないしネェー?」


唇を押さえ片目を瞑り、妙な茶目っ気溢れるポーズで茶化すように語った。

ノアは一旦全員の表情を確認した後に、ため息を付きながらも冷静に返答。


「分かりました。 きっと何かの事情があるんですね?

 では僕たちは、あなたのお言葉に甘えて、お屋敷を借りたいと思います。」


セラ以外の全員が頷き、アメトリクスは満足そうにソファから立ち上がった。

セラの元へ静かに身を寄せると、顔を覗き込み、声を出す。


「キミは、まだ何か言い足りなさそうだケド。 なぁに?」


「ニ、ニヴェイシア閣下……。 あっ…あのッ! 以前は、護符……

 その…感謝申し上げ、ますっ……。 で、でもっ!!

 どうして私が狙われてるって、分かったのですかっ!?」


胸の前に不安そうに手指を組み、視線を彷徨わせ、言葉を落としたセラ。

そんな彼女の様子を前に、アメトリクスはくすりと怪しく微笑む。


「アレー? もしかして【聖女】サマさー……自覚が無い感じー?

 その強すぎる聖神力(サンクト)から紡がれる《祈り》と《浄化》の力。」


「その力ってサ。 姉サマの一番の弱点で、相当厄介なんだよネェー。」


アメトリクスは、黒紫の瞳を細め、セラとの距離をじわじわと詰める。


「だから、真っ先に狙うならキミだろうって……ネ?

 そう判断して、あの護符を渡したまでだヨ。」


胡散臭く微笑み、セラの頭上から柔らかな声を、優しく落としていく。


「あの姉サマのコトだからサ。 一度があるなら二度もあるって思って。

 だから――ちょっと強引だったケド、無理やり護符を渡したってワケ。」


セラは胸の奥に、どうしようにもならない怒りの熱を感じ、声を荒げさせる。


「言ってくださったら、良かったじゃないですか……!

 あんな、最低な事言って…! わざと私を怖がらせるような真似してッ…!」


彼は更に身を寄せ、セラに視線を落とし、指先でそっと彼女の顎を持ち上げる。

妙に艶めく手つきで、ねっとりと、纏わりつくように、優しくセラの唇を撫で――


顔がぐいと寄せられ、息が触れ合うような距離まで、無遠慮に詰められる。


「ボクのコトさぁ…。 あの時――“信用して?”って言ってもサァー…?

 キミは、信用してたぁ? してない…でしょぉ……? ヒヒッ!」


「ッ!!!! 顔が!!! 顔が近すぎます!!!」


異性に、これ程までに顔を寄せられた事など無かった聖女(セラ)

思わず反射的に後ろに飛び退き、腕で顔を覆い隠す。


ノアの顔を日常的に見ていたし、美麗な顔面には耐性があったつもりだった。

しかし、眼の前に来るのは別で、反射的に頬に熱が上がってしまったのだ。


そんな自身に嫌気が差し、セラは顔を覆いながらも、銀白金の彼(アメトリクス)を睨みつける。


セラの様子を観察していたルルが、小声でぼそりとツッコミを入れていた。


「いま、すげー大事な場面だったよなー…」


アメトリクスはというと、肩を上下に揺らし、飄々と嗤っていた。


「そこまで反応されるなんて思ってもなかったヨォー? ヒヒッ!

 どうにもボク、距離感がおかしいみたいでサー? 悪気は無いヨー?

 それじゃ、後はキミたちの気の済むまで、屋敷に居たらいいからネェ。」


一同から距離を取り、彼は扉の前まで、音もなく身を寄せ――


「ボクは気にしないから、くれぐれもこれだけはお願いネー?

 屋敷は壊さないでヨ…? 従業員はキミたちと同じ、人間なんだからサー。」


アメトリクスはそれだけ伝えると、扉を開け、そのまま姿を消した。


最後に見えた彼の背中には、長年蓄積された、孤独の闇のような――

不気味で、淋しく、妙な翳りが滲んでいた。





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