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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:誘われるままに。

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頁:32 その【騎士】大食漢につき。◆挿絵有り



 大図書館を抜け、目的地である迷宮へと赴こうとするが――

 疲労と緊張が和らいだためなのか「きゅるり」と、可愛い音が響いた。


 どうやら聖女の腹部から空腹を示す小さな音が鳴ったようだ。


 彼女は皆に聞かれていないか?と顔を桜色に染め周囲をちらりと見渡す。

 小さく挙手をし『あの……』と話を切り出した。


「申し訳ないのですが――私、お腹が空いてしまって……。それと――

 迷宮の場所なのですが、いまいち分からなくないですか……?」


 空腹を感じていたのはなにもセラだけではない。

 パルテオンもまた同じく空腹を感じていたようで、全力で同意した。


 さしあたり、空腹を満たすべく食堂を探すこととなった勇者たち。


 大図書館付近ともいうこともあり、往来は学生たちで溢れかえっていた。

 そのため、食事が出来そうな場所は案外すぐに見つけ出すことが出来た。


「ここから……凄まじい肉の気配を感じやがる……ッ!騎士の勘だッ!」


 という騎士の彼の言葉に、街の一角にある食堂へと入った。



 やや庶民的な外観の食堂。

 しかし内装はやや冒険者向けにも感じるような野性的な見た目。

 木の壁には無数の傷跡があり、その傷跡はどれも最近のものには見えない。


 まるで長年蓄積されたであろう、油汚れのようなモノがこびりついていた。


 不快感はなく、不思議と小綺麗に感じる店の外装に一同は興味の色で見つめる。


 天井には煤けたランプ。香辛料、熱した肉油の香り――

 昼時の喧騒に包まれた店内。周囲は旅人や冒険者の姿。


挿絵(By みてみん)


 適当な空席に腰掛け、何を食べるのか相談の最中――颯爽と現れた給仕。


「ようこそ!注文はなんにするのかい?ウチは肉がオススメだよっ!」


 ノア、セラ、ルルの三人は書き置きに目を通した後、息ぴったりに――



「「「オムライスください(おなしゃーす!)」」」



 と――仲良しこよしの声をあげ、場の空気が一瞬だけ和む。

 給仕は若干ではあったが驚いた表情を浮かべ――次いで視線を騎士へ。


「んだなぁ……んじゃ俺はこのモウルの香草ステーキだな。

 数は――六。……いや、ちげぇ。 八、八人分たのむ。」


 喧騒が一瞬だけ途絶え……静寂の後に客たちの視線は一斉に勇者の卓へ。


「は……はちにん……ぶん……???え?八人前!?」

「おいおい……ウッソだろ!?さすがに一人で食べる量じゃねぇぞッ!?」

「いやでもまて……あの騎士のガタイ……見ろ。ありゃ納得の筋肉だ――ッ!」


 客たちのどよめきが聞こえるが、当の本人は平然とした様子で腕を組むだけ。


「はいよっ!オムライス三つ、んで騎士さん、あんたは特別だし――

 ちょい時間を貰うからねっ!まっとくれよ!」



 そうして最初に運ばれてきたのはオムライスが三つ。


 三人の前に並べられた料理は、ふわふわの黄金色に輝く卵のソレ。

 黄金色の中央に添えられた食欲がそそられる赤いトマトソース。


「俺は食うのが早い自信があるッ!俺のことは気にせず先に食っててくれッ!」


「う、うん……パルが言うならそれじゃ――先に食べてるね……?」


 皆が食事を楽しんでいる最中『ソレ』が運ばれてきた。

 ジュウジュウと音を立て運ばれてきた、圧倒的巨大な肉塊。


「な、なんか……お、大きすぎませんか!?鉄板もお肉も……!」


 話を聞いてみると、稀に肉目当ての大食い客が店に来るそうだ。

 ゆえに鉄板はそういった客用に特別に設計されたものらしい。


 パルテオンの注文した料理で、たちまち勇者たちの卓は混沌の光景へ変貌。


「大食漢なのですね……パルテオンさんって……見ているだけでお腹が――」


「あたしも……ちょい……うぇ……。」


「あはは……パルは昔っからよく食べてたからねぇー……でもこれ――

 まだパルにとっては少ない……いや、普通くらいかな……?」


 呆れた眼差しを向ける三人など気にせず、豪快に食器用のナイフを走らせる。

 肉を裂き――美味しそうに肉を頬張りながらも声を上げるパルテオン。


「戦うためには食うのが一番ッ!肉は力……力こそは勝利――

 つまりな……肉とは勝利そのものッ!分かるかッ!!」


 熱く語る騎士の姿に、周囲の客たちは『なるほど』と頷く始末。

 全員で食事を楽しみ――ルルは先ほどの給仕へと語りかけていた。


「なぁなぁー、そこのきれいなお姉ちゃん。ここの都市外れの迷宮ってさー?

 どこにあるんー?あとなんがあるん?あたしらそこに向かうんよー。」


「でも場所もしらんし、どんな魔物が出るかとかもよーわからんで。」


「あらお嬢ちゃん!嬉しいことを言ってくれるねぇ!ありがとう!

 あの迷宮かい?たしかここから数十分ほどで行ける近場の迷宮だよっ!」


「たしか全部で八階層って冒険者が語ってたよ!それ以上は分からないねッ!」


 給仕はそれだけ伝え、そそくさと仕事に戻り――後は軽い作戦会議。


 腹ごしらえも済ませ、準備を整え改めて迷宮へ向かおうとするのだが――

 詳しい場所が分からなかったため、改めて街の人に尋ねるがなんと。


 迷宮まで数十分というのは早馬での話。


「だったらよ、早馬を借りられる宿を探せば一石二鳥じゃねぇか?

 昨日泊まった宿に聞いてみるのもアリだと思うけどよ。」


 その後――昨晩泊まった宿で早馬を借りられるということらしく。

 これでようやく迷宮へと出発の流れとなったが、またもや問題発生。


「あの……私乗馬の経験がありません。これまでの移動手段は――

 基本的に馬車移動だったので……お馬さんに乗れません……。」


「それ言ったらあたしも無理。一緒に乗っけてくれんと……。」


 借りた馬はニ頭。乗馬経験がない女性陣たちの身長や体格を考慮した結果。

 ノアとルル、パルテオンとセラの割り振りで、落ち着いた。


「それじゃあ行こうかっ!ルル、落ちないようにね!」


「まかせろーいっ!あたし、こうみえて案外平衡感覚あんだぜーっ」


 頼もしい二人、しかしその隣は若干不安を煽るようなもの。

 騎士の馬に同乗する聖女は緊張からか、身体がこわばりまくっていた。


「ごごご、ごめんなさい……乗馬は初めてなのですっ……ですので怖くって――」


「安心しろッ!馬は大人しい性格の子だそうだ。それに……。

 ビビってたら馬にも伝わっちまうんだ。俺がちゃんと手綱を握ってる!」


「それに――俺は騎士だッ!舐めてもらっちゃ困るぜッ! ガッハッハ!」


 セラを考慮し、都市を出るまではゆっくり出立することとなった。

 かくして勇者一行は、賢者懸念の迷宮へと向かうのだった。






ひとくちメモ:パルテオンさんが召し上がっていたステーキ。


挿絵(By みてみん)


・モウル:とっても大きい角のとっても大きい牛。(非魔物)

→ パルテオンさんが召し上がっていたのはサーロイン。


・香草:クレソン、タイム、パセリが少々。


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