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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
三章:誘われるままに。

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頁:31 その【祈祷】贅沢につき。

 ――◆第三章



 その後は意識を手放してしまった賢者に困り果てた勇者たち。

 近くにあったソファに彼の身体を横たえ、聖女が一か八かで治癒に励んだ。


 青い顔をして気絶する賢者のため、必死に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈る聖女。


 ――もう、めちゃくちゃである。


「まったく……ッ!《祈り》は万能ではないのですよッ……!も、もうっ……!

 まさか気絶からの回復のために《祈り》を行使する日がくるだなんてッ……!」


「ご、ごめんねぇセラ……辛いなら無理は――

 って言っても、この状況じゃあねぇ……うん、仕方ないよね……。」


「あとで、一緒に甘い物を沢山食べに行こうね……。」


 聖女の賢明な《祈り》もあり、賢者の顔色は良くなっていった。

 瞳を開き――天を仰いでぽつりと……それでも結構な声量で語ってくれた。


 ――割りと、どうでもよいことを。



「もッ……もうしわけ、ありませぬッ……!幾分ワタクシ――

 三徹目をちょうど越えたばかりでして――ッ!!」



「今ききてぇのはオメェのどうでもいい話じゃねぇッ!」


「さっき言ってたろ!魔族とか異変だとかってよッ!頼むから――

 そっち優先できかせてくれッ!」


 声を荒げるパルテオンに、ビクリと身体を震わせるバルタザール。


 賢者の身体は、聖女の《祈り》で淡く輝いているのだが――

 聖女の祈りが解けてしまったとき……どうなることかと危惧しての言葉。


「賢者さま……ッ!いいから早くお話をッ!ここへ来るのも一苦労だったのです!

 それと――これは忠告です。今後は徹夜をお控えくださいませッ!」


 怒気を孕む聖女の指先からは、聖光がひときわ輝き――

 その輝きは賢者を包みこんでいた。


 賢者は上半身を起こし、なにやら腕を動かして見えない力を行使。

 周囲には宙へ浮かび上がった紙や羽ペンたちが舞い踊った。


「も、申し訳ありませぬッ……面目次第もございませぬ……不甲斐ないッ!

 では簡潔に――ワタクシの知り得る情報を説明させていただきますぞッ!」


 そういって――語られた賢者の話の内容はこうだ。



 勇者一行が追っているであろう、瘴気を纏った黒色の石。

 それに関連する事柄と、現在賢者が把握している範疇で語ってくれたこと。


 まず『瘴気』とはなにかという、根本的な話。

 それは、魔族が用いる力の一片であること。


 例の黒い石の正体は、未だに解明されておらず、研究段階とのこと。

 そして……魔族たちが何らかの目的があり、人間の領地に仕掛けている――


 賢者はそう推察しているそうなのだが、推論の域を出ないとのこと。


 情報がまだ出回っておらず、国も調査、研究の最中。


 語る途中――彼は幾度も苦しそうに咳き込みを繰り返していた。

 彼のため《治癒の祈り(サナティオ)》を祈り、輝きを増していく聖女。


「してその石なのですがッ……どうにも魔物を活性化させるとの噂も――

 しかし噂は単なる噂ッ、ワタクシがこの目で確認しておりませぬゆえ――

 念のために皆様にもご確認いただきたくッ……こちらの石に、見覚えは?」


 指先をくるくると回し、宙に浮いた紙とペンを動かしていく賢者。

 器用に件(くだん)の“石”の図を精密に描き、その図面はまさに――


「これ……こないだ騎士(パル)ちゃんが拾った石と同じじゃね……?」


「んだな……これだけ特徴が一致してやがると、同じモンだろう。」


「どうする?勇者ノアさんよ……現物がねぇからなぁ、確認のしようが――

 しっかしあちこちで目撃情報か……厄介なことになってやがんな……ッ」


 顎に手を添え、唸りながらも思考するノア。

 彼の片手は聖剣の柄に触れられており、聖剣へと語りかけていた。


『ねぇ聖剣さん。君はこの事態をどう思う?石が何のために存在しているか。

 君にはなにか――分かったりしないかな?』


『そうさな。我は世界のすべてを把握しているわけではない。』


『故に――分からぬことの方が多い。かの石がどのように発生……。

 また、目的があって造られたか等――今の我には知り得ぬ。』


『ただ……これだけは言えよう。かの石は――』


 聖剣の言葉途中ではあったが「ぱたり」となにかが倒れる音。

 全員が『またか?』と賢者へ視線を投げるが、彼はケロリとしている。


 しかしその後ろ――彼のため、必死に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈っていた聖女。

 彼女が聖神力(サンクト)の消費で倒れてしまった音だった。


 全員『あーあ……』と声を漏らしてソファに腰掛ける賢者へ視線を注ぐ。


「ワッ……ワタクシのために力を――大変お心苦しくッ!!」


「伝えそびれていたのですが、近頃この都市近郊の迷宮(ダンジョン)にもその――

 石の目撃情報が相次いでおりまして、国の研究者が数名行方不明に――ッ!」


「事態は一刻を争うもの……かと――ッ!!」


 賢者の言葉に呆れた様子の騎士と小人族。


「あのよ、賢者さんよ。こんなこたぁ言いたくねぇが……そういうよ……。

 重要な話は早く言ってくれ。セラが倒れちまっちゃあよ――

 調査しに行くにも行けねぇってもんだろうよ……。」


 愚痴のように吐き出し、聖女へと視線を移す騎士。

 彼女は勇者の腕の中、力なく抱かれており――顔色は芳しくない。


 賢者と聖女の様子を静観していた小人族のルル――

 彼女は慣れた手つきで懐から手巾を取り出し、手から水を出現させた。


 手巾を湿らせ、もう片手で温度を調整。セラの側まで行くと彼女の額を拭った。


「騎士ちゃんも勇者ちゃんもそんな心配せんでええよ。」


「セラちゃんは気を失ってからの復帰も案外早いけぇさ。……勇者ちゃん。

 そのままセラちゃんを抱きかかえとって。」


「セラちゃんはあたしにまかせろーい!」


 聖女の体温を調節するように額や首筋を拭っていくルル――

 十数分程度でセラの顔色は健康的な肌色に戻った。 


 聖女がうっすら目を開けると、目の前にはノアとルルの姿。


「あれ……っ……ノア?それにルルちゃんも……わ、私は……。」


 目を開けたばかりで気が付かなかったが――勇者との距離が、あまりにも近い。

 彼は額に手を触れて体温の確認をしていたのだが、唐突の出来事に混乱。


 思わず『きゃっ!』と悲鳴をあげ、拒絶。


「あのっ!!さすがに距離が近すぎます……!ノアッ……!」


「ええっ!?ご、ごめんっ……心配だったからつい……それにほら――

 ルルも一緒だったから……大丈夫かなってぇ……。」


 まるで叱られた子犬のようにしゅんとする勇者の彼。

 慌てて手を離し、聖女を起こすが――彼女は機嫌を損ねたのかなんなのか。


 まるで幼子のように頬を膨らませ、そっぽをむいてしまった。


「それで、私お話を途中までしか聞いていないのですが……。」


 彼女の疑問の言葉に、騎士が簡潔に説明し、次第に表情がこわばっていく聖女。


「このまま放置するだなんて絶対にできないよね。迷宮(ダンジョン)に行こう。」


 全員が頷きあい――皆が立ち去る前に賢者が待ったをかけた。

 全員分の禁書庫への立ち入り許可証を譲渡し、立ち去る前にひとこと。


「も、戻り次第ッ――できればワタクシに報告――をッ……!」


 彼はそれだけ伝えると、恐らく限界だったのか――ソファの上で静かに沈黙。

 どうやら寝ているだけなようだが……若干不安を覚えながらも出立した。


 こうして、目的地は近郊の迷宮(ダンジョン)へと、定められた――





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