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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに。
32/63

その【一同】窮地につき。

※注意喚起

本エピソードでは、戦闘描写において一部、欠損や出血等の過激な表現が含まれます。

苦手な方はブラウザバックをして頂けますと幸いです。



ノアは聖剣を片手に、依頼主の前へと、庇うように駆け出した。


パルテオンは後衛二人を護るように大盾を構え――

セラはすぐさま、錫杖を胸に掲げ、祈りの言葉を紡ぐ。


「天にあらす我らが主よ、星の導きの元……

 その御慈愛で守護を与え(たも)う――《グラティア》」


セラの《防御の祈り(グラティア)》の言葉と共に、聖光が迸る。

聖光はたちまち形状を変え、淡い障壁が一同を包みこんだ。


ルルは短杖(ワンド)を手に召喚させ、若干顔をしかめながらも、魔力を込める。


「はぁー、なんなん? この趣味わりーグロキモな形状の魔物。

 まじだりーし最悪。 テンサゲもええとこだぜー。」


リュシアンを背に、ノアは息を詰め、ルルの言葉に同意するように頷く。


「今まで遭ってきた、あの不気味な魔物と同じだねっ…!」


セラは小さく震えながらも、錫杖を掲げ《祈り》に集中する為、目を瞑る。

彼女を包む淡い金色の聖光と、漂う虹色の粒子が揺れ、そこにいる皆を守護。


異形の群れは、一同の殺気を感じ取ったのか、まるで統率された兵士のように――

唐突に動き始め、虚空顔の蜂が縦横無尽に飛び回り、旋回しながら散開。


裂けた尾の猫が影のように滑り込み、首無しの蛇は――動くこと無く、揺らめく。

まるで値踏みするかのように、ゆらゆらと首の無い体を揺らし、嘲笑う。


首の無い蛇の動作は、この異様な場に更なる異様さを醸し出す。


パルテオンがセラとルルから距離を取り、大盾とメイスを構え声を張り上げた。


「《威圧咆声(ドミナス・ロア)》!!」


低く、腹の底から絞り出したような雄叫びが、洞窟全体を震わせる。

黒い霧を纏う魔物の虚空から泥が溢れ、波打ちながら顔の穴を騎士(パルテオン)へと向けた。


「さぁ、来いよォー! こっちだ!」


パルテオンの〈技能(スキル)〉《威圧咆声(ドミナス・ロア)》の効果は凄まじかった。

魔物たちの視線は一斉に、大盾の騎士、パルテオンへと集まる。


蜂の群れが羽音を震わせ、大盾の騎士(パルテオン)へと襲いかかり――

空気そのものが震えるかのように、光の軌跡が交錯する。


「(とりあえず、このチャンスを……)パラライズっ!」


短杖(ワンド)を掲げ、ルルの声が空間内に響き渡るが――

魔物たちは一瞬も止まらず、パルテオン目掛け猛攻を続ける。


ルルは無表情ながらも、その瞳には明らかに焦燥の色が滲んでいた。


「ルル、狼狽えるな!! こっちは平気だ! セラの《防御の祈り(グラティア)》もある!!」


パルテオンの低い声が、地面を震わすように響き、ルルは落ち着きを取り戻す。


「あ、あたし…パルちゃん……っ! ごめん、詠唱いく!」

(――なるべく急ぎで唱えんと。 ……落ち着けあたし。)


「万象を覆う白き静寂(しじま)よ、その吐息は時を止め……

 その(かいな)生命(いのち)を縛る。 ……我が呼び声に応え――」


その間に、ノアはリュシアンを守り、一歩も引かずに聖剣を振るっていた。

が、しかし――切っても切ってもその数は減ること無く、体力を消耗していくばかり。


「これじゃ、きりがないね…っ!仕方ない…!」

『聖剣さん、力を貸してっ! 勇者特権(ブレイブ・オーダー)、使用の許可を!』


ノアの宣言と共に、透き通る聖剣の刀身に、青白い光が収束。

光が最高潮に達し――【勇者(ノア)】の脳内にのみ響く、冷たく澄んだ女声。


『――勇者特権(ブレイブ・オーダー)起動(アクティベート)……使用を承認(エグゼキュート)――』


一閃刃斬(イッセンハザン)――…!!」


瞬間――刀身から爆ぜるような光が、蜂の魔物を消し飛ばす。

まるで、世界に刻まれるような、凄まじい威力。迷宮すら揺らぐような衝撃。


蜂の魔物は、ノアの聖光に灼かれ、その身体を灰へと姿を変えていった。


だが、蜂の魔物に目線を取られ、意識を集中していた勇者たちは――

下方から迫りくる脅威。裂けた尾の猫影(びょうえい)の存在。


上方に気を取られていた彼らは、その影に気がつくことが出来なかった。


「待って!! パルちゃん!! あぶねえーー!!」


ルルの叫びが迷宮内に残響し、刹那、黒い影が飛び跳ねた。

鋭い刃の様な尾を、連打のように振り下ろすと《防御の祈り(グラティア)》を軽々破壊。


その鋭い鉤爪のような爪で、続けざまにパルテオンに連撃を浴びせる。


「っぐ!!! くっそ…」


猫影(びょうえい)の攻撃は、命を刈り取るものだと、一目で理解できるもの。


祈りを砕かれ、右腕で心臓を庇ったパルテオンは、がくりと膝を折った。

彼の負傷した腕は、骨が露出しており、かろうじて繋がっているような状態。


どくどくと血を滴らせ、ガンッ――と大盾を構えたまま、地に伏せるパルテオン。


一同を嘲笑うように、猫影(びょうえい)は不気味に身体を揺らす。


嘲笑する猫型の魔物の隙を付き、ノアは瞬時に聖剣で斬り伏せる。

ノアは咄嗟に視線をパルテオンに向け、迷宮内に強く声を響かせた。


「パルッ!!!」


「パルテオンさんッ!!! ダメッ……! すぐに私が――」


セラが慌てて駆け寄るが、その視界の端……ふわりとした白金色(プラチナブロンド)の髪が揺れ――


そこに佇んでいるのは例の魔族の童女。床に届くほどの長髪が揺れる。

幼い顔立ちにそぐわない、歪んだ不気味な微笑が、セラをじっと見据えていた。


全員が認識するよりも前に、何の前触れもなく、セラへと振るわれた童女の拳。

童女の単純な“力”で、聖女(セラ)の身体を容赦なく吹き飛ばす。


セラの身体は、無慈悲にも迷宮の岩壁へと叩きつけられた。


背中から叩きつける強い衝撃が、セラの身体を襲う。

苦しさからか、肺が酸素を送るのを拒絶するように、息が詰まる。


唐突にセラの身を襲う衝撃。彼女の視界はぐるぐると回り、歪み、霞んでいった。


防御の祈り(グラティア)》はあっさりと砕け散り、あまつさえ――

致命傷避けの護符も「パキンッ」と音を立て、バラバラと呆気なく床に散らばった。


全身を恐怖に支配され、焦点は定まらず、思考もまともに働かないセラ。

浅い呼吸を繰り返し、どうにか意識を保っているが、瞳から光が零れ落ちる。


熱く湿ったような感覚が、彼女の膝下に広がり、絶望感が増していった。


初めて直面する“死”への恐怖に、頭のてっぺんから爪先まで――

じわりと――失意の底へと身体が沈み、何もかもが遠のくような感覚。


出血し、力なく倒れるパルテオン。散らばるメイス、立ち尽くすルル。


絶望の縁に立たされた全員だったが、ノアだけは違った。

セラの前に瞬時に移動し、魔族の童女の前へと悠然と立ちはだかる。


「ここから先は、僕がお相手をします。」


その声には、いつもの朗らかさはなく、真っ直ぐに魔族の童女を射抜く。

しかし彼の胸中では、若干の焦燥が滲み、聖剣を握る手には汗が滲む。


魔族の童女は、勇者には一瞥もくれず、眼中に無いのか小首を傾げ、嗤うだけ。

その空虚のような、透き通った瞳に映るのは、聖女ただ一人。


「あれぇ? なんでなんでぇ? どぉしてぇ? なんでアレ、壊れないのぉ?

 えー? なんでぇ? リン、わかんない。 きもちわるぅい…。」


子供のような無垢さと、悪魔めいた不気味さが同居したような甘い声音。


底が見えない深淵の闇のような、幼く甘い声はそのまま泥に沈むように――

ぶくぶくと泡立つ黒い汚泥の中に、どろりと消えた。


彼らに残されたのは、脳にまで響くような耳鳴りと、胸の鼓動。


戦場を覆う空気は重く、絶望と戦慄が入り混じる。

荒れ果てた地面には、転がる武器(メイス)。付近では、騎士(パルテオン)が力なく倒れ、凄惨さを物語る。


誰も口を開くことが出来ず、語る言葉も無意味に思える程の静寂。


セラは身体に奔る衝撃で動くことが出来ず、ルルは短杖(ワンド)を落とし、呆然と固まる。


二人は其々の理由で身体が硬直し、その場から一歩も……動くことが出来ない。

絶望的な状況下、突如として耳飾り越しから音声が響いた――賢者の切羽詰まった声。


『――あの蛇ですッ! どういう訳か、あの蛇から魔族の少女が出現しましたッ!

 恐らくは蛇にでも、擬態をしていたものかとッ…… 申し訳有りませんッ…

 ワタクシというものがありながらッ…… 賢者とは名ばかりッ……!!』


バルタザールの言葉に、責める者は誰も居ない。戦場での混乱と恐怖。

それらが皆の胸を重く締めつけ、のしかかるだけだった。


リュシアンが鞄に手を掛け、倒れた騎士(パルテオン)の元へと、慌てて駆け寄る。

鞄から小瓶を取り出し、眉間に皺を寄せ、騎士(パルテオン)の傷口に薬液を降り注ぐ。


液体が彼の腕をじわりと回復させるが――しかし。

それでもパルテオンの腕は、かろうじて繋がっているような状態。

彼が重傷であることには変わりがなく、未だに危険な状況だった。


「気休めではありますが…! 申し訳有りません、このような事態に巻き込み…!」


「わ、わりぃ…。 たす、かった… おれは、いい…! セラ、を…」


言葉少なに言い終え、そのまま出血の影響で、意識を失うパルテオン。

リュシアンはそれ以上は何も言えなくなり、ルルは呆然としたまま。


ノアは深く息を吸い込むとセラの元へ寄り、襟首を掴み真っ直ぐに告げる。


「セラッ!! しっかりしろ! パルを治療できるのは君しか居ないんだ!

 きみ、しかっ……! 頼むから…! お願いだからっ……!

 大事な友人で、大事な仲間なんだ……! お願い…っ」


セラを見据える碧灰(シエルグレイ)の瞳は、僅かに潤み、声は震えを孕んでいた。


襟首を掴まれたセラは「はっ」と我に返り、瞳に色を戻す。

錫杖を投げ出し、倒れた仲間の元へ、躓きながらも駆け寄った。

震える手を無理やり抑え込み、傷口に手を翳し、目を瞑り強く《祈り》の力を絞る。


「パルテオンさんっ!!パルテオン、さんッ……! お願い、おねがい…!」


(癒えて…神様…! 違うッ! 私がやらないで、どうするというのですかっ…!!)


淡い金色の光と共に、虹色の粒子が彼女の身体から、爆ぜるように溢れ出す。

金色の聖光が、まばゆいほどの光を放ち、辺りを照らした。


彼女の《治癒の祈り(サナティオ)》は、たちまち致命傷の傷を癒していく。

骨まで露出していたパルテオンの傷だったが、癒しの光が傷口を閉ざしていった。


彼女の聖神力(サンクト)と《祈り》で、まるで何事もなかったかのように――

腕は元の姿へと戻り、パルテオンの血色も戻っていった。


切迫していた空気が和らぎ、ルルも正気を取り戻し、安堵の息を漏らす。

しかし同時に、力量を見誤ったセラは、ぱたりと力なくその場に倒れ込む。


「セラ、有難う… パルを助けてくれて…。」


力なく倒れるセラを抱え、周囲に転がった錫杖とメイスを拾い上げる。

次にルルとリュシアンの付近まで行くと、そっとセラと武器を下ろす。


その後、パルテオンを肩に抱え、気絶したセラをリュシアンが抱きかかえた。

リュシアンと共に、一度ボス部屋の手前まで戻り、ノアは二人に声を掛ける。


「すみません、念の為に一度(ボス)部屋を確認させて下さい。」


ノア一人で再び主部屋まで戻り、隈無く確認はするが……驚くほどに、何も無い。

瘴気を纏う石の存在は確認できず、気絶したパルテオンとセラを抱え、来た道を戻る。


誰も、声を掛けることが出来ず、三人の足取りはとても重いもの。

帰りの道は、来た時とは違い、まるで――通夜の最中のような沈黙だった。





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