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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに
30/31

その【街宿】超一流につき。



交易都市(ヴァルメリア)の冒険者ギルド。

夕暮れ時という時間帯も相まって、ギルド内部は混乱を極めていた。


カウンター前には報酬を求め、列をなす冒険者でごった返し。

それを受付嬢が冷静ながらも、慌ただしく応対をし、混雑の様相。


提示版にはびっしりと、依頼の札が張り出されていて、まさに――

“金と危険の楽園”といった光景を生み出している。


国が発行した【勇者】の証である身分証を見せ、あっさりと通されるノア。


セラもまた【聖女】という事もあり、手続きは軽いもので済んでいた。

しかしパルテオンとルルは、登録からせねばならず、ルルは項垂れる。


「うげー…魔力持ちのあたしって、冒険者なれるんか…?」


不安そうに受付嬢に対し、たらたらと文句を言うが、受付嬢は笑顔で対応。


「ご安心下さい! こちらに情報記入して頂いて、あとは――

 こちらの魔道具に人差し指を置いて頂ければ、登録完了ですっ!

 勇者様のお仲間様ですので、他の手続きは無しで、これだけで結構ですよっ!」


言われた通りに情報を記載しようとするが――ルルが視線をセラへと移す。


困った様子のルルに、セラは何事かと、ルルの視線に合わせて屈み込む。

ルルがセラの耳元に口を寄せ、二人でコソコソと耳打ちしながらやり取りを開始。


『なーなー、あたしの名前、字がわからん。 呪術文字だからよー……。

 ルルリカ・ルリカってどう書くん? わりーけど、セラちゃんが書いてくれん?』


『偽名でも良いならさー?“アメソリソコ”とかにすんだけどなー?

 それとあと、ここの項目と……あとここが――』


『アメソリソコって…この間のパルテオンさんの言い間違いですよね…?

 ふむふむ…解りましたっ! では私が代筆させていただきますね!』


セラがルルの代わりに筆を執り、ルルはその間にカウンターへ戻る。

魔道具に人差し指を置き、謎の作業をしている様子。


パルテオンは手早く手続きを済ませ、冒険者登録を早々に終わらせていた。


発行された証を受け取った三人は、期待を胸に、提示版を眺めるノアへ合流。

――だが、ノアがワクワクするだけあり、提示版は圧巻だった。


「みてみてっ! こんなに沢山依頼がある! すごいねぇ!

 困りごとだけじゃなくて、お手伝いとかもあるんだねぇっ…!」


「だなぁ、すげえ量で、俺ァ目ェ回りそうだぜ…。 てか大半が手伝いっぽいな…?」


好奇心旺盛な勇者と騎士は、提示版に釘付けになり、二人して声を弾ませていた。

二人の姿は、まるでケーキ屋のショーケースを眺める子供のように見えるほど。


提示版に目を向け、肝心な依頼を見てみると……。


――迷子のペットの捜索。

――希少な霊草の採取。

――貴族のお供での迷宮探索の同行。

――行方不明者の捜索。

――畑の管理の手伝い。


皆でまじまじと提示版を見つめるが、皆は違和感に眉を寄せる。

そう、冒険者ギルドといえば“討伐依頼”なのだが……しかし、討伐依頼の札は少ない。


「ねぇ、あのーこれって…」


近くで提示版を眺めていた、中年の男性の冒険者に声を掛けるノア。

ノアはまだ、何も発言はしていないが、冒険者は察したらしい。


「あー、それか!」と豪快に笑い、一同の疑問に答えてくれた。


「この辺りの魔物は大人しいヤツばっかりでよぉー。

 生態系の均衡を保つ為ってのもあって――乱獲禁止って訳なんさぁー

 見た目がちょっと変なやつもいるけどよぉ! 人を襲ったりしねぇしっ」


「だから、放置してるって訳なんだぜー」


鼻を親指でこすり「へへっ」と笑う中年の男性冒険者。すると別の冒険者も口を挟む。


「この辺りじゃ、凶暴なんがおらんからなー? 勿論偶に凶暴なんも出るぜ?

 まーでも、討伐依頼なんざ出るほうが珍しいちゅうかよー。 そんなんだよな?

 もうちょい討伐あってもいいとは思うけど、それだけ平和ってこったしな!」


――平和、言葉だけであれば、確かにどれだけ良いことだろうか。

だが、胸の奥に妙なひっかかりが残るのもまた事実。


四人は顔を見合わせ小さく頷きあい、ノアが冒険者へお礼を述べ、再び視線は提示版へ。


勇者待遇でどの依頼でも受注可能と、お墨付きを貰っていた。

その為、皆は食い入るように、提示版へと視線を注がせ、唸り、思考する。


最も高額な報酬が提示されているのは――


[調査・迷宮〈アビサルエロー〉への同行依頼]


依頼主は由緒正しき貴族で、調査も兼ね、探索をしたいとの事だった。

その調査の護衛役を募集する為の、依頼らしい。


「ど、どうしましょうか? 一番高額なのはこれですね…」


セラが依頼札を手に持ち、不安そうに仲間たちを見渡す。

パルテオンが腕を組み、仏頂面且つ、渋い声でまるで決定事項のように言う。


「決まってんだろ! 一番稼げるこれだッ! これしか…ねぇ…ッ!

 宿…いや、俺の飯のためにも……!」


「そーだそーだ! 宿代も回収できるし、なにより…な?

 いやー、世知辛れぇー! 世の中やっぱ金だぜ金ー!」


ルルは腕を振り回し、あまりにも現実的な事実を淡々と告げていた。


意見はあっという間に纏まり――

というより、騎士(パルテオン)小人族(ルル)のゴリ押しで決まった。


ノアは二人の勢いと圧……報酬の多さに根負けし、札を持ちカウンターへ。


「この依頼を受けたいのですが…」


受付嬢は、慣れた手つきと笑顔でノアから札を受け取る。

受領手続きの為、後日また来いとの事で、一同は一旦ギルドの外へ。


――その帰り道、冒険者ギルドへ来る前に、予約をした宿へと向かう道中。

ルルが道端にある小石を蹴り飛ばし、無表情でぽつりと愚痴を零した。


「――勇者って、便利じゃねーんだな……」


「……あはは」


ノアは困り笑いを浮かべ、財布を胸に抱え、小さく溜息を漏らした。

勇者とて、財布事情からは逃れられない、それは厳しくも悲しい、ただの現実――


悲壮感を漂わせ、一流の宿へと向かう一同の足取りは、少しだけ、重かった。


◇ ◇ ◇


一同は予約していた宿へ到着すると、従業員に案内されるがままに廊下を進む。

外観からしてもう、既に高そうな雰囲気を感じていたが、内装もなかなかのもの。


そうして案内された部屋はなんと、一室丸ごと貸し切りの大部屋。

真っ先に声を上げたのは、パルテオンで「おおーっ!」という感嘆の声だった。


庶民の泊まる宿とはまるで違う別世界、別空間――

壁には緋色や深緑の布が整然と垂らされ、異国めいた紋様が光に映える。


四台のベッドは、それぞれが王侯貴族の寝床を思わせるほどの大ぶり。

羽毛布団がふかふかと鎮座しており、香が焚かれているのか、匂いまで良いときた。


「すげーぞ! 布団ふっかふかだぜ! あたしここ気に入った!」


奥行きもあり、奥の間には扉があり、扉の先はなんと浴場。

蒼白の魔道具が煌めきを放ち、高級そうなバスタブに石鹸まで。


至れり尽くせりな空間に、セラの瞳に光が宿っていく。


「すんげーなココ…高ぇだけはあるぜ…」


騎士(パルテオン)が部屋全体を確認し、感心の唸りを洩らすと、ドスンとソファに腰掛ける。

セラはパタパタと皆の元に駆け寄ると、瞳を輝かせて皆に宣言。


「わ、私っ! お風呂!!!! お風呂に入りたいです!!!!」


「おー!いいな! あたしもはいりたい! 一緒にはいろーぜ!」


女子二人がお風呂に浮かれ、セラとルルは互いに手を叩きあい、実に楽しそう。

ルルが悪戯ぽく口角を上げ、ひらひらと手を振りながら答える。


「あたしさー、魔法で水の温度変えられんだわー! まかせろーい!」


男性陣の意見などまるで聞く様子もなく、女子二人は浴場へ歩みを寄せる。

足取りはとても軽く、まるでお祭りに向かうかのような軽やかさ。


残されたノアは、二人の心配をし、耳を赤くさせ、口を開いた。


「あ、あのっ……入ってくるのはいいんだけどさ、その……

 出てくる前に、一言声を掛けてくれると…助かるかなっ?? その、ねっっ??」


セラは軽く「はいっ!」と頷き、ルルも「がってんしょーちー」と軽快に返事。

二人の足取り軽い様子は、可愛らしくもあったが、同時に危険でもあった。


扉がぱたりと閉ざされると、大部屋には一転して静寂が訪れる。

残されたノアとパルテオンは、二人で顔を見合い、苦い笑いを浮かべあった。


ノアは服を脱ぎ、備え付けの部屋着に身を包むと、羽毛布団へ腰を掛ける。

耳飾りの魔道具を装着し、ぽつりとバルタザールへと問いかけた。


「ねぇ、バルタザール、聞えてるかな? 聞えているなら訊きたくって。

 ――魔族って、一体なんなのかな? 実は僕、よくわからないんだ。」


『はいッ!聞えておりますッ! ええと…勇者であればご存知かとッ』


耳飾りから聞えてくる、どこか役者めいたような声。

咳払いの音の後に、例の芝居がかった調子の声音が戻ってくる。


『古来より伝承や神話において、魔族とは“力ある長命の異形種”――

 として語られておりッ! 童話では、かつて人族を滅ぼそうとした存在とッ!』


何やらパラパラと頁を捲る音の後、再びバルタザールの声が響く。


『今は不可侵協定により、交流は絶えておりますが……

 交易は途絶えておりませんなッ! 魔石等の流通もありますッ!』


『……そして遥か昔には、幾度も小競り合いがあったとされているらしくッ!

 確か…天地創史記の記述には……ええとッ――』


延々と講義が始まりかけたところで、ノアは苦笑まじりに言葉を差し込む。


「最後に、人と魔族が戦争をしたのはいつか、分かるかな?」


『ワ、ワタクシには…その情報は知り得ませんッ!

 天地創史記の成立時期すら定かではなくッ!つまり――』


「うん、もう大丈夫。 ちょっと考える時間が欲しいかも、ありがとっ!」


ノアはまだ何か音声が聞えてくる耳飾りを外し、そして思考する。

賢者には穏やかに声を落としたものの、胸中は疑念がじわりと広がった。


(魔族って、一体どんな存在なの…? どうして僕は何も知らないの…?)

(前に遭った少女の魔族からは、嫌な気配を……確かに感じた。)

(あの青年の魔族からは、何も感じなかった。 だから僕は怖くて――)


自身も恐怖を感じることがあるのかと、ノアは自分自身に驚いていた。

騎士(パルテオン)が心配そうにノアを見つめ、見つめられたまま、ノアは額に手を当て思案。


(聖剣さんは、肝心な事は教えてくれない…結局僕たちだけで調べないといけない。)


あれこれと思考が浮かんでは消え、消えては浮かんでいく。

しかし考えている暇など無く、浴室の方から弾むような声が響いた。


「そろそろ出るぜー! セラちゃんいんだしよ、配慮しろよー!」


「すみませんっ! お待たせいたしましたぁっ!」


ルルの明るくて軽薄な淡々とした声と、セラの恥ずかしそうな声が扉越しに響く。

パルテオンはどこから取り出したのか、タオルを手に取り、ノアに渡す。


「よし、目隠しだなッ!」


「そうだね、パル――!」


慣れた手つきで、真剣な面持ちで、タオルを顔に巻き付けるパルテオン。

ノアも真面目な顔でタオルを手に取り、決心したかのように、同じように目を覆う。


――なぜか、決闘に臨む騎士のような張りつめた空気で。


そんな男性陣をよそに、浴場から戻ってきた女子二人は、頬を桜色に染め笑い合う。

そうして、羞恥を声に滲ませ、やたらと艶っぽく言葉を落とすセラ。


「ルルちゃんのおかげで……とっても…その。 気持ちのいい体験ができて――」


続けて自信たっぷりに、堂々としたルルの声が続く。


「だろー? あたしのテク…すげーだろ…? 惚れちゃったかー?」


あまりに耳に響きすぎる言葉。脳に届いた瞬間に男性陣の思考は停止。

ノアは暗い視界の中、必死に視線を泳がせ、パルテオンは額に青筋を浮かべる。


(待って、テク……テクって何……?? 手法ってこと…? どういう、ことぉ…?)


パルテオンの耳にだけ届けられる賢者(バルタザール)の『……(ゴクリ)』

という、生々しい唾液を飲む音声まで響いてしまい、余計に状況は悪化した。


「はいっ…! 本当に、もうっ……。 すっごく…お湯加減が良くって…!

 あんなにちょうどいい温度で湯船に入れるなんて…もう戻れそうにないですっ…!」


「だろー! あたし、魔力で温度調節すんのちょー得意なんよー!」


そう、それは――湯加減。ただの“湯加減”の話だった。


男性陣はその場でガクリと崩れ落ちそうになるが、ここで崩れ落ちたら不味い――

そう奮い立たせ、強張る身体を必死に抑え、ただただ耐えた。


(クソッ!!湯加減ッ!!! テクとか誤解を招くような単語使いやがってッ!!)


(湯加減!!そっち…!! 最悪だ!僕の馬鹿! やらしい事想像しちゃった!)


男性陣の脳内は、完全に戦争真っ只中だったが、女性陣はその事を知らない。

ルルの明るい「着替えた!」という声を合図に、目隠しは外された。


パルテオンは落ち着いているが、ノアは深呼吸をする程の動揺を隠せない。

禁書庫の賢者はというと「ドゴドカンッ!」と何かが倒れる音が響き、若干の修羅場。


その後は何気ない会話をしていたが、馬車での長旅疲れもあった一同。

時間はまだ、夜に差し掛かる頃合いではあったが――


すぐに就寝となり「おやすみ」という就寝前の挨拶が交わされ、一同は眠りに付く。


かくして、長旅の後の夜。一流宿の大部屋に訪れた静寂。

と……見せかけて、男性陣の胸中では、もやもやした気持ちが蔓延り――


悶々としたモノと戦いながらも、横になるのだった。





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