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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに
29/30

その【一行】金欠につき。



ひやりとした空気が漂う街道を、馬車が音を立て、のどかな街道を進んでいく。

馬車に乗る一同は揺れにも慣れ、ぽつぽつと会話をしつつ、時間を過ごした。


その穏やかな揺れの中、耳元にバルタザールの声が響き渡る。


『ワタクシッ…恥ずかしながら、この土地から離れた事がなくッ…!』


「あーね、景色見てみたいってことっしょ? わかるぜー?

 あたしも最初はめっちゃワックワクしたかんなー懐かしいぜ。」


ルルが退屈そうに軽く身体を伸ばし、バルタザールへの言葉に返事を返す。

ノアがその言葉を聞き、ふと気になったように片目を開き、全員に対し顔を向けた。


「そういえばさ、このモノクル… 誰がつけるの?」


ノアが懐を弄り、金属の縁がきらりと輝くモノクルを取り出した。


一同が全員で顔を見合わせるが、騎士は首を横に振り「俺はパスで…」と一言。

どうやら彼は、未だに頭痛を引きずっているらしく、情けなく声を洩らす。


セラが控えめに手を上げ、自分は大丈夫だと伝えるが、ルルがツッコミを入れた。


「んや、だーめ。 セラちゃんのその清楚な格好には合わんけ却下。

 あたしの美的センスがそう言っとる。 ノアちゃんも却下。」


と……何故か自信満々に宣言。セラとノアは顔を見合わせ、くすりと笑う。

ルルがその光景を見つめ、二人に対して親指を立て、少しだけ口角を上げ宣言。


「あたしが掛ける。 絶対あたしが一番似合っとる。 しらんけど。

 視線がちょーっち低いかもしんねーけど、あたしが賢者ちゃんに景色を届ける!」


パルテオンは頭を押さえ、揺れによる酔いと戦いながらも了承。

ノアとセラも「ルル(ちゃん)がそれでいいなら」と了承を得た所で――


ルルがノアからモノクルを受け取ると、ひょいっと鼻筋にモノクルを掛ける。

光が奔り、映像が伝えられたのか、賢者から「おおッ!」と歓声が上がった。


「おー? なんか片目だけメガネかけんの、変な感じすんなー。」


しかし、少しの間を置いて、耳飾りから聞えてくるのは、バルタザールの不穏な声。


『…おうぇっぷッ……!』


「おいおい嘘だろ…?まじかよ賢者ちゃん。 酔っとん…? これ大丈夫なん…?」


バルタザールの不穏な雰囲気。ルルの無表情でのツッコミ。

馬車内は、そんな和やかな雰囲気に「ふっ」と笑いに包まれていた。


禁書庫内ではなにやら、ドタドタと暴れるような音が聞え、忙しい様子を見せる。

更に追加で暴れる音が返ってきたと思えば、バルタザールの声が耳飾り越しに残響。


『す、すみませんッ…! ゆ、揺れがッ……ッ! ェップォエ……。』


その後は、モノクルを一旦外したであろうバルタザールのうんちく。

パルテオンの武勇伝や、ノアの農民時代からの知識、畑の管理方法。

ルルの集落で飼っている、樹木型の魔物の話や共存している雪だるまの話。


そんな会話を、馬車の中で賑やかに弾ませながら、穏やかな時間が流れていく。


窓の外の景色が移ろうが、御者が「遅れていてすみません」と一同に声を掛けた。


ノア含む一同は、特に気にする様子もなく「お構いなくっ!」とノアが元気に返答。

そうして三日目の夜も野営となり、特に何事もなく、馬車の旅は過ぎ去っていった。


◇ ◇ ◇


馬車の旅も四日目となり、全員の顔に旅疲れがほんのりと滲み始めた頃。

遠くに石造りの高い城壁と、活気のある街並み――蒼く輝く海が見えてきた。


徐々にその城壁が近づくと、大小さまざまな屋根が連なる、賑やかな市場が望める。

馬車がようやく止まり、勇者(ノア)聖女(セラ)が国から発行された身分証を提示。


全員、あまりにもあっさりと門内へ入ることができたのだった。

門を潜る前に、門番に気さくに声を掛けられる一同。


「ようこそ勇者様、聖女様!交易都市(ヴァルメリア)は港もあって、交易も盛んですっ!

 外国の品とかも沢山ありますよっ! 魔物はあまり居ないので平和です!

 是非是非、交易都市ヴァルメリアを楽しんで行ってください!」


「ありがとうございますっ! 楽しんでいきますねぇっ!」


ノアが朗らかに微笑み、門番に挨拶を交わすと、皆で街へと足へ踏み入れる。


街に入ってすぐ、喧騒と共に、賑やかな商店街と市場が広がっていた。

行き交う人々の、ざわざわとした熱気が視界の端で煌めき、ほのかに香る磯の香り。


「おー! ひさびさに来たけどよぉ、ここは変わんねぇなぁっ!」


パルテオンが声をあげ、辺りを見渡し、鼻を鳴らした。


どうやら過去に任務で訪れたことがあったらしく、その事を自慢げに語る。

しばらく歩いた後に、騎士の腹部から、胃袋を空だと示す音が一同の耳に届いた。


ルルが目を剥き驚き、セラが何事?とパルテオンを見つめる。

ノアが「あははっ!」と声を上げ、朗らかに微笑み、皆の方に向き直った。


「とりあえず、ご飯食べに行こっか! パルのお腹が大変みたいだしっ?」


「わ、わりぃ…。 ついでだしよ、飯屋で情報収拾でもすっか!」


お腹を押さえ、バツが悪そうに、ぶっきらぼうに笑うパルテオン。

ルルもセラも空腹だったようで、満場一致で、まず先にご飯ということに。


時刻は昼頃と言う事もあり、人々は市場にごった返しだった。

適当な街道沿いの食堂に入り、木の扉を押し開ける。


燻製肉と香草の香りが、空の胃袋を刺激し、店内では、喧騒や笑い声がひしめく。

そのどれもが、空腹感をより高め、食事への期待値が上がっていった。


何を食べるか簡単に話し合い、時間を置いて、頼んだものが届く。

雑談を交わし食事を進め、ノアが口いっぱいにパンを詰めたまま、声を出した。


「ふぁふぇ、ふぁらふぉいふぁいふぁ、ふぅんふぁふぁ――」

『さて、腹ごしらえが済んだら――』


パルテオンがやれやれといった様子で、溜息を一つ。

「食ってから話せ。」とツッコむが、そんな彼も食べながら喋っていた。


ノアはにこりと微笑み、手にしていたパンくずを、ぱんぱんと叩き落とす。

軽く咳払いをし、飲み物を飲み「ふう!」と気合を入れると、皆に顔を向けた。


「えっと、お腹がいっぱいになったら、ニヴェイシア子爵さんのお屋敷!

 だったよね? 探さないと! どこにあるんだろうねぇ?」


ノアの様子にセラとルルは視線を彼に移し、くすりと笑う。

パルテオンは豪快に肉を頬張りながら、ノアの言葉に頷き返していた。


「情報収集なら、あたしにまかせーいっ!」


ルルが椅子を引き、ゆるりと立ち上がると、無表情ながらもドヤ顔を披露。

妙に元気に弾む声で、すぐ側の給仕に歩み寄ると、首を小さく傾げた。


「ねーねぇー、おねぇちゃぁん! ちょっと聞いてもいーい?

 ニヴェイシア子爵さまのお屋敷って、どこにあるのぉ?」


表情は相変わらずの“無”であるはずだが、声色だけ妙に甘ったるい。

ノア、セラ、パルテオンは、まるで氷の魔法でも放たれたかのように、固まった。


ノアとパルテオンに至っては、口を半開き。同時に脳裏によぎる考え。


(ルルって、そんな甘えた声出せたんだ…。)


ルルに話しかけられた給仕は、あっさりと返答を返してくれた。


「ニヴェ…? ああー、薬学貴族の方ね。 白金(プラチナム)子爵(ヴィコント)様のお屋敷?

 その屋敷なら、中心街から離れた丘の上にあるよー。」


「空気の通りがいいとかって? その土地にした~て話らしいわよー?」


ルルが口角を上げ、感謝を伝えると、ノアが「ふむふむ」と頷く。

セラがなにか書き留めるものはないかと、荷物をがさごそと漁るが――


『――皆様ッ! 思い出しましたぞッ!! ニヴェイシア家の本邸は王都ッ!!!

 ですがッ! 交易都市・ヴァルメリアに居を構えるとなると――ッ!!』


耳飾りの魔道具越しに、響いてきたバルタザールの大音量。

息継ぎもそこそこに、徐々に熱意を増し、勢いづいていく彼の口。


『薬の研究ッ! 交易の便宜を優先している可能性が高くッ!!

 仮に高台に建っているともなればッ! 空気の流れや地脈の影響を考慮しッ!!』


『ゼェ、ハァ。 魔石や薬草の保管ッ――薬学の研究施設としても最も適切な――』


激しい吸い込み音、(ページ)をめくりまくる音、早口でまくしたてる賢者。

ノアとパルテオンは早々に魔道具を手放し、机に置いていた。


「――はいはい。 わーったわーった。 すげーよすげー。

 んでもって、みんなの耳くたばって、あたしらの旅もおわっちまうぜー?」


ルルが耳飾りを離し、無表情で諭すように、バルタザールへと声を落とした。

バルタザールから送られてくる音が、小さくなるのを確認したノア、パルテオン。


互いに視線を交わすと、再び耳飾りを耳に戻す――なかなかに現金な勇者たちだった。


『すッ……しゅみません……。』


耳飾り越しからでもわかる、とても落ち込んだ、賢者のしょんぼりした声。

セラが皆の様子に笑い、小声で「高台、高台のお屋敷…」と呟き、記憶に刻み込む。


セラの胸の奥では、あの“異様な魔族の少女”の姿が、ふとよぎる。

何故、自身を狙うのか――理由がまるでわからず、胸の奥に不安が疼いていた。


皆が腹ごしらえを終え食堂を出ると、ノアが全員の顔を見渡す。


「それじゃ、お屋敷の確認、しないとねぇっ!」


◇ ◇ ◇


商店街の喧騒を抜け、一同は丘が見える場所へと歩き出す。


遠くに見える白亜の屋敷は、静謐な空気を纏い、冷たい気配を帯びていた。

皆が目視で屋敷の位置を確認し、ノアがぶつぶつと独り言のように呟く。


「――あれがニヴェイシア子爵さんのお屋敷…かなぁ…?

 他に周りにお屋敷ってないよね? うん、無いね。 ってことは――」


ノアが呟き、その後ろでパルテオンとルルは、先程のご飯についての談義中。

セラは皆の背中を見つつ、屋敷をちらりと見つめ、無意識に胸元で指を組んでいた。


確認を終え、とりあえずは宿を探さなければ、という事になったのだが。


……が、宿を探して数件目――どこも「本日は満室です。」と言われ、門前払い。


どの宿も解答は同じで、理由は「お祭りが近いから」という理由。

門前払いをされるたびに、ノアの肩がどんどん下がっていった。


「うーん、お祭りなら仕方ないんだけど…どこも満室ってのは困ったね…」


歩いて探し回って、夕日が街を赤く染める頃。十数件目の宿。

大部屋で立地もよく、外観も素晴らしい宿で、空室を見つけることが出来たが――


「――た、た… たっかいよー…?」


ノアは声を裏返し嘆くように、泣きそうな表情で皆の顔を見つめる。

宿の従業員に提示された料金は、一泊一人当たり白銀貨一枚と、銀貨二枚。


ノアが財布をひっくり返し、残金を確認しながら嘆いた。


「一泊、一人当たり……つまりえーと…?? この間まで居た街での一泊が――

 銀貨一枚と、銅貨数枚…だからえーっと…??」


ノアが指折りで計算するが、頭がこんがらがっているのか、疑問符を浮かべている。

困り果てているノアに、セラがそっとノアの側まで行き、耳打ち。


「つまり、一泊一人で銀貨七枚分です。 全員分で金貨一枚、銀貨三枚です…。

 前のお宿で、少なくとも四日、五日は滞在できますね…」


パルテオンががっくりと項垂れ「そりゃ一流宿だな…」と呟き、困り果てていた。


ルルはいまいち貨幣価値が分かっておらず、ノアと共に疑問符を浮かべる。

パルテオンは指折りで数え、セラと目を見合わせ互いに絶望の顔。


「全員分ってなるとよぉ…ッ 連泊できたとして、精々二日分が限界――」


「その前に多分、パルテオンさんの食費で底を尽きますね…?」


セラはパルテオンに視線を移したまま、じとりとした目で付け加えていた。

パルテオンはジト目を向けられ、視線を逸らして口笛を吹いて誤魔化す。


「ど、どうしよ…! 僕たちの旅が終わっちゃう…。 金欠だねぇ…」


ノアが今にも泣きそうな顔で項垂れ、財布の中を必死に覗き込む。

哀愁すら漂うその姿は【勇者】というより“憂者”の佇まい。


パルテオンが閃いたように顔を明るくさせ、全員に笑顔を向けた。


「だったらよぉ! 冒険者ギルドに顔出してみねぇか?

 依頼受けて、成功すれば報酬貰えて金にもなる。 それに情報も拾える!」


「どうだ! 俺にしては、なかなかいい案じゃねぇか?それによ……!

 あの賢者の居た都市近郊の、迷宮での戦利品を売ればだ!

 更に多少の路銀は確保出来ると思うぜっ!」


パルテオンは、軽鎧をドンと叩き、誇らしげに告げた。

ルルとノアは嬉しそうに瞳を輝かせ、セラは「ぼ、冒険者ギルド…」と呆然。


「なるほどね……! 冒険者ギルド! 僕は行ったことがないよ!

 少し…ううん。 とってもワクワクするねぇ! えへへっ!」


「あの、冒険者ギルドって…。 私、冒険者登録してないのですがっ…!」


セラが不安そうに尋ねるが、騎士は「現場で登録すりゃいい!」と一言で切り捨てる。

ルルも楽しみなのか、腕を腰辺りで振り回し、袖を翻し、全身で喜びを伝えた。


「それじゃ、冒険者ギルドに行ってみようっ!」


「――おう!決まりだなっ!」


パルテオンとノアが視線を合わせ、拳を合わせ、にこりと微笑む。

セラとルルは二人の様子を、ふわりと微笑み見守っていた。


宿探しという戦いに敗れた勇者一同。結局彼らは冒険者ギルドへと向かうことに。

西の空が茜色から、群青色に溶けかけ、街角の街燈が灯り始める。


辿り着いた冒険者ギルドの外観は、逃げ場のない彼らにとっては――

看板がやたら眩しく見え、まるで“ようこそ!”と誘われるように、引き寄せられた。





貨幣価値 ◆ 貨幣レート


貨幣価値換算(最も価値が低い順番)


青銅貨(基本単位)

銅貨  青銅貨 5枚分

銀貨  銅貨  10枚分(=青銅貨 50枚)

白銀貨 銀貨  5枚分(=青銅貨 250枚)

金貨  白銀貨 5枚分(=青銅貨 1,250枚分)

白金貨 金貨  10枚分(=青銅貨 12,500枚分)

聖金貨 白金貨 10枚分(=青銅貨 125,000枚分)


※聖金貨は国家・宗教レベルの超高額貨幣であり、市場では流通しない。



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