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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに
28/30

その【腕輪】超貴重品につき。



交易都市(ヴァルメリア)へと、馬車に揺られながら向かう勇者一同。

凸凹とした地面の街道を、ゴトゴトと音を立てながら、乗合馬車がゆっくりと進んでいく。


揺れる街道に、パルテオンが顔をしかめ、ルルは退屈そうに空を眺める。

ノアは目を瞑り揺れに身を任せ、セラは揺れる台車に腰を痛めながら、じっと耐えていた。


御者によれば途中の宿街で、一泊を挟むことになるのだという話だそう。

道中、何もなければ宿街を含め、三、四日ほどの旅路になるらしい。


「そういや、勇者様方。 道中、変な魔物を見たって噂もあんだけど――

 襲ってこないし、放っといてるんだ。 一応耳に入れといたほうが良いって思ってなー」


ぽつりと漏らした御者の言葉に思わず、ノア、セラ、ルルは顔を見合わせた。

まさかとは思うが、一体――何を持ってしての“変な魔物”なのだろうか?と。


嫌な予感と共に、胸の奥につっかかりを覚える三人だったが、しかし――

側ではパルテオンは気分が悪そうに、馬車から身を乗り出し、青ざめた顔で呻いていた。


「あー…うぅっ…。 馬車、頼む…ゆれんな…。 もうだめだ…おしまいだ…」


騎士(パルテオン)は二日酔いと馬車の揺れが重なり、酔いが最悪な方向へと転じていた。

そんな様子を察してか、御者が苦笑交じりにパルテオンに声を掛ける。


「なるべく平坦な道をいきますんで、すまんなー」


そうしてしばらくした後、唐突に魔道具の耳飾りから、雑音が聞えてきた。

皆は耳飾りを少しだけ警戒し、互いに視線を交わす。


『お……お早う御座います、皆様ッ…』


声の主は、禁書庫の司書【賢者】バルタザールだが、賢者の尊厳は何処へやら。


最初からそんなもの無いに等しい彼だが、声からは寝起きであることが悠然と伝わる。

耳飾り越しに軽く挨拶を交わすと、口火を切り、賢者が言葉を届けた。


『以前お渡ししたモノクルですが… そちらの景色をこちらに映し出せる――

 そのような魔道具なのですッ! 皆様の映像があれば、もっとお手伝いをッ』


得意げに説明するバルタザールの声に、ルルが食い気味に突っ込んだ。


「だからそういうのは先に話せっての…。 んで、これつけりゃええんか?」


『は、はいッ…す、しゅみませんッ…装着して頂ければですねッ!!

 こちらのモノクルに景色が映りますッッ!』


耳飾り越しにも聞えてくる、情けない色味を帯びた謝罪と、勢い有り余る早口。


しかし、ふと、あることに気がついてしまったルル。

彼女は訝しむような瞳で、思わず禁書庫の賢者へ、問いを投げる。


「――ん…?ちょいまち。 賢者ちゃん、それってさ……つまり、ひょっとして。

 いや、ひょっとせんでもさ、メガネの上からモノクル掛けるん?」


『はいッ!』


ルルの問いかけに対し、元気いっぱいに即答するバルタザール。

セラとノアは互いに目線を合わせ、彼には悟られぬように、肩を震わせ笑いを堪えた。


ルルは「まじやべーな。超クールってやつじゃん…」と淡々とツッコむ。

セラはもごもごと吹き出しそうになりながら、ノアと視線で会話をし、笑いを殺した。


やがて日が傾き、夕闇が迫る頃合い、一同は旅宿のある村に到着。

素朴な宿屋の食堂で腹ごしらえを済ませると、四人で一部屋を借りることに。


「今回はベッド四つあるぜ。やったー!」


ルルは靴を脱ぎ散らかし、颯爽と着替え、布団へとダイブ。


足をぷらぷらと揺らし、完全にリラックスモード。セラはベッドに座り、一息。

パルテオンは未だに酔いがあるのか、部屋に着くなり、軽鎧を脱ぎ捨てダウン。


ノアが「それじゃ寝よっか!おやすみ!」と言うと、明かりが消される。

馬車の疲れと緊張が交錯する中、今宵は仲間と共に穏やかな夜を迎えるのだった。


◇ ◇ ◇


翌朝の早朝、まだ陽は登りかけの薄暗い空模様。

一同は再び乗り合い馬車に乗り、街道を進んでいく。


朝露が道端の草木をぼんやりと包み込み、まるで世界が夢の続きのように霞む。


ゆるやかに流れる夢の景色を進むような、そんな感覚にもさせた。

昨日とは違い、舗装されている街道ゆえに、パルテオンも幾分かマシな表情。


だが、酔いは酔い。そう簡単に収まるはずもなく、身を乗り出し項垂れている。


しかしそんな平穏は、唐突に現れた不穏な空気によって打ち消された。


馬車が揺れる中、外を眺めていたセラが、ふと何かが目に止まり、息を洩らし声を上げる。


「あっ…あれ…っ!!」


セラの目線の先には草むらがあり、その草むらには見慣れない影。

丸々とした、白いうさぎのような体格の小動物なのだが――


頭にあるはずの“顔”が存在しておらず、空洞の闇が広がっている。

虚空そのものが“顔”の部分を丸ごと飲み込んでしまっているような、異形の姿。


しかし、その異形のうさぎは、人の気配を察するとピクリと震え、去っていった。

逃げた先は草むらで、目で追うことは叶わない。


ノアとルルは、しかと目に焼き付けたようで、ノアがそっと声を落とす。


「あの見た目…昨日御者さんが言ってた、変わった見た目の魔物って――

 きっとあれのことだよね? あの時と、同じ…顔が無い魔物…。」


ノアの指先が僅かに震え、震えを誤魔化すように、聖剣の柄へと指先が触れる。


いつの間にやら、ルルの帽子から出てきていた毛玉生物(キュー)を、そっと抱きしめるルル。

彼女の瞳は怪訝の色を宿し、片手をひらひらとさせ、余り気にしていない様子で呟いた。


「でもよー、逃げちまったなー? なんなんよあれー きみわりーぜ。」


それ以降は特といった異変は見られず、魔物の襲撃等はなかった。

風の音、馬の蹄が刻むリズムだけが、心地よく耳を撫で、時間を刻む。


御者のほのぼのとした世間話しから始まり、御者の出身地の村の名物を教えてもらい――


ノアが農民時代の出来事を語り、ルルが集落での話をし、セラが頷き笑う。

パルテオンは酔いのせいか、会話に参加できず、ただただ項垂れていた。


――そんな何気ないやりとりが、先程の異変をほんの少し、忘れさせた。


そうして夕暮れ。宿が取れそうな村や街の灯りはまだ遠く、御者が申し訳なさそうに伝えた。

予定より少し遅れているということで、仕方なしに野営をする事に。


小さな焚き火が、夜の冷たい温度をかき分け、小気味良い音を鳴らし、暖かく包む。

火を囲み軽く食事を取ると、順番に見張りを立て、眠りにつく事になった。


最初はノアとセラ、次にパルテオンとルル、前衛と後衛のバランスを考慮した結果だった。

夜の静寂の中、焚き火の小さな揺れる光が、セラとノアを照らす。


言葉は少なく、交わされる会話も、ぽつぽつとしたものばかり。

セラは小さく息を吐くと、意を決したように口を開き、ノアへと告げた。


「あの、ノア。 黙っていてごめんなさい…。 実は、これ…」


袖口をめくりあげ、銀色の腕輪を差し出し、ノアへと見せる。

淡く光を帯びたそれは、一見すると、なんでもないただの腕輪にしか見えない。


ノアは見るだけでは、何がなんだかよくわからず、セラの腕を取ると、首を傾げた。


「えっと、これは…何なのかな? ごめんね、説明が欲しい。」


するとセラが答えるよりも早く、腰に下げた聖剣が澄んだ女声で語りかける。


『――珍しい。 ソレは高価な護符だな。 一度きりだが、致命傷を無効化できる。』


『なるほど、護符…? 致命傷から守ってくれる…お守りって事だね?』


胸中で聖剣との会話をしていると、セラが視線を逸らし、手首を握り締め――

彼女の表情は不安そのもので、ノアに視線を移すと、ようやく声を落とした。


「えっと、これなんですが、その…。 夜会の前日に、ニヴェイシア様に渡されて…

 なんだかよく分からない間に、つけられてまして…」


言いにくそうに目を伏せ、震える声で語るセラに、ノアが困ったように微笑む。

セラを安心させるように、なるべく優しく声を落とした。


「その腕輪だけど、聖剣さんがいうにはね、致命傷避けのお守りなんだって。

 でもなんでそんな物をセラに…? 致命傷って…物騒だね…?」


ノアの尤もな疑問に、セラは自身の命が“狙われている”など説明できるはずもなく――

ただ俯き、目を伏せ、手首を握りしめ、弱々しく言葉を吐いた。


「えっと、その……。 付けられた時に、色々言われたのですが……。

 わたし、どうにもあの方を前にすると怖くて…身が、竦んでしまって…。」


ノアは彼女が何かを隠している、もしくは本当に恐怖で思い出したくないのだろう、と。

そう結論付け、セラの側に身を寄せ、心配そうに彼女の顔を覗き込む。


「気がつけなくって、ごめんね。 セラ… でもどうして、その腕輪――

 付けたままでいるの? もしかして外せない…とかかな?」


そういって、彼女の腕にはめられた金属に手を掛けるが、動きはする――

が、まるで皮膚に縫い留められたように、外れる気配が無い。


そうしていると再び聖剣の声が、ノアの脳内に言葉を響かせた。


『致命傷を肩代わりした際に、自ずと消滅する。そういう代物だ。』


ノアは拳を握り締め、碧灰(シエルグレイ)の瞳でセラを真っ直ぐ射抜く。


勇者(ノア)】は、件の子爵と、一度しか顔を合わせておらず――

また、その時に互いに名乗っていない。それ故に名前と姿が一致しなかったのだ。


その事が彼の頭を悩ませる原因となっていたのだった。


(これだけセラが怖がっているってことは、きっと何かあったのかな…?)

(でもあんまり深入りしたら、セラが泣いちゃいそうだね…)


彼女は何かを言いたそうに口を動かすが、しかし言葉を飲み込み、黙していた。

ノアはなるべく朗らかな笑顔をセラに向けると、小さく謝罪を述べる。


「ごめんね、それでずっと悩んでいたんだよね。 こんなに近くにいたのにねぇ…

 僕じゃ、力になれなかったみたいで、勇者である以前に、仲間…として――

 いや…男として不甲斐なく思うよ…」


ノアの言葉は真摯なものだったが、いつもより影のある含み笑いで俯いた。

小さく息を吐くと「僕って、そんなに頼りないかな…?」と、不安げに笑う。


セラはその問いかけのような、自問自答のノアの言葉に、答えることが出来ない。

どうしたらいいか、どう声を掛けたら良いかわからず、小刻みに震えるだけ。


弱々しく震えるセラを見たノアは、思わず衝動的にセラを軽く抱き寄せた。

ノアの突然の行動にセラは驚き、目を見開きつつ言葉を失い呆然。


「あっ!! ご、ごめん! つ、つい……!」


慌てたノアがすぐにセラから離れると、頭を掻きながら困ったように笑う。


「お母さんがねぇ、僕が下を向いてる時に、よくこうやって抱きしめてさ。

 落ち着かせてくれたんだ。 わざとじゃないんだよ? えへへ…」


セラは胸に手を押し当て、ほんの少しだけ、ついた嘘への罪悪感を感じていた。

眼の前の青年の、真っ直ぐな優しさで、心が苦しくなる。


「いえ…気にしてないです。 私の方こそ、ごめんなさい……。

 ノアが頼りないとか、そういうのでは…決して無いのです。ただ――

 心配を掛けさせたくなかったのと、言い出しにくくて…。 だから……」


セラの言葉は、最後まで紡がれることはなく、背後から草を踏む音が近づく。

「時間だぜー…」と眠そうなルルの声。未だに頭痛を引きずるパルテオンの姿。


交代の時間の為、二人が眠そうな目をこすり、ノアとセラの付近へと来る。

二人は一瞬、視線を交わすと、小さく会釈をし、寝床についた。


こうして馬車での旅路、二日目の夜は静かに、しかし確かに更けていった。





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