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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:学術都市と賢者。

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27/137

頁:25 その【聖女】料理上手につき。◆挿絵有り



 荷馬車は軋む音を鳴らし、石と土の道をガタガタと音を立て進む。

 舗装の甘い街道を車輪が叩き、不快な揺れを生み出していた。


 陽射しが照りつける中、舗装の甘さと柔軟性のない木枠に奪われる体力。


 出発早々、彼らの腰は悲鳴を上げており、言葉数少なく時間だけが経過する。


 最初こそは呑気なものだった。


 が、ものの数十分で音を上げ……ルルはキューを抱え昇天。

 セラは時折腰を抑えて項垂れ、なんとか揺れに耐えている状況。


 一同は揺れに耐える事に注力し、道中特に会話もない。


 ただ虚しく、時間だけが過ぎていくだけ。


 御者は沈黙に耐えかね、手綱を捌きながら一同に対して語りかけた。


「硬い荷物ばかりで申し訳ないです……なんせ荷馬車なものでして……。」


「して勇者一行の皆さま方、今から向かう都市なのですが……。

 なんと……国公認の“賢者さま”がおられましてな!」


 芝居がかったような口調の御者。会話だけでも楽しんでもらおうと必死だ。


「少々クセの強いお方との噂ですが、知識量において右に出るもの無し!

 勇者一行の皆さまにとって、きっと良い機会となりましょう!」


「ただ私も……噂のみしか伝え聞いておらずでして。

 賢者さまがどこにいらっしゃるかまでは――すみません……。」


 御者の言葉に、ノアは空を見上げながら「けんじゃ……。」と呟く。

 淡い金色の細い髪が陽の光を受け、風に乗せられふわふわと揺れる。


 その横顔はまるで絵画になりそうなほどで――


挿絵(By みてみん)


(すごく、絵になる方なんですよね。 ノアって。)

(顔がよろしすぎて、まともに見られません……。)


 御者は再び口を開き都市までは長くとも二日程度掛かることを伝えた。


 その言葉を聞き終えた女性陣の二人は同時に表情を暗く落とし――

 彼女たちが項垂れるほど荷馬車での移動は身体に堪えるようだ。



 穏やかに街道を進んでいたが、次第に落ちていく陽の光。


 空が茜色に染まる頃合い――

 御者が手綱を打ち鳴らし、馬車が軋んだ音を響かせて停車。


 野営地にたどり着いたのか、御者が手を払い荷台にいる一同へ声をかけた。


「お疲れ様です勇者さま方、今夜はこの辺りで野営といたします。

 食料ですが、荷馬車に乗せてあるものを、よければ使ってください!」


「ふぅッ……んじゃ俺はテントを張る。食事は任せてもいいか?」


 言うが早いか、彼は荷物からテントを取り出し設営の準備へ入った。

 彼の行動を皮切りにノアが薪を集め、ルルはと言えば……傍観の準備を始めた。


 あらかた野営の準備を終え、料理係に任命されたセラ。

 彼女は法衣の袖をまくり、気合十分に調理に取り掛かった。


「では料理は不肖私め……聖女セラフィーナ……腕によりをかけ――

 精一杯っ!失敗をしないよう、調理に励むとしますっ!」


 調理器具を取り出し、早速料理の準備を始めるセラ。


 不思議なことに、手は迷いなく効率的に動いてくれる。

 まるで調理そのものが“長年してきた動作”のように軽やかだった。


 鍋はあらかじめ火に焚べ、油を引き熱しておき、その間に野菜の準備。

 芋、人参、玉ねぎのような野菜を刻み、熱した鍋にそれらを放り込む。


 火が通った事を確認し、干し肉を追加し、水を加えてひと煮立ち。


 泡が立つ頃合いに火から離し、そこに小麦粉、固形の植物乳、塩を追加。

 鍋が焦げ付かないよう、細心の注意を払いながら、複数の香草を少量加える。


 しばらく火の上で煮立たせ――完成したものは、簡易的なホワイトシチュー。


(あれ……とろみが足りないですが……御愛嬌ですね!!)


「みなさまっ!できましたっ!!味は、少し濃いかもしれません……。

 それととてもお熱くなっておりますので、食す際はお気をつけくださいっ!」


 木の器に盛り付け、御者含めた全員へ食事を振る舞うセラ。


 セラにとっては(失敗したかも?)と思えるような出来栄えではあった。

 しかしそれでも、皆にとっては美味だったようだ。


「優しい味付け……とっても美味しいよっ!手際もよかったし――

 セラってもしかして……むぐ。 すっごく料理上手なのかな?」


「ノアのお口には合いましたか……?それならよかったです……!

 パルテオンさん、ルルさんはいかがでしょうか……?」


 聖女の言葉に被せるように興奮した様子でまくしたてる御者。


「聖女さまは貴族のご令嬢とお聞きしておりましたが……これは参りました!

 料理がこれほど美味しく作れる貴族令嬢などあまりお聞きしたことが――」


「それにしても本当に美味ですよこれ……よろしければ作り方やコツ……。

 それと材料等、ご教授くだされ!これは売れますぞ!」


 騎士や小人族も無言で食事を続け――多めに作っていた料理は見事に完食。

 皆に褒めてもらえることが嬉しく、頬を染めて感謝を伝える聖女。


 “だれかのお役に立ちたい”――その想いはこんな形でも叶えられる。

 なにか……胸に温かいものを帯びていくような感覚。


 最初――旅立ちの前はどうなるか不安でいっぱいだった。

 しかし、きっとヴィオラ伯爵家に籠りっきりだと分からなかった世界。


 これほどまでに世界は色で満ちていて、何気ないことでも幸せなのだ、と。


 これから先、一体どんな未来が待ち受けているかは分からない。

 それでも今このとき、この瞬間を忘れないようにしようと。


(また機会がありましたら……いつでも振る舞いましょう。)






ひとくちメモ:セラの作っていたホワイトシチューモドキの補足。


挿絵(By みてみん)


・固形の植物乳:無塩バター、脱脂粉乳のいいとこ取りの便利アイテム。


・複数の香草詳細:パセリ、タイム、バジル、ペパーミントが隠し味。


・干し肉:豚頬肉の塩漬けで、グアンチャーレに近いもの。


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