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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに
27/30

その【情報】超重要につき。



床に突っ伏し、豪快に眠る騎士(パルテオン)

そんな騎士の様子をノアは呆れた瞳で見つめていた。


改めてその場にいるルルやセラに視線を移し、皆に向き直り、ため息一つ。

騎士の情報は有力ではあった。が――しかし肝心の本人は情けない有様。


『ちょッ…イビキッ…! すこぶるウルサイですなッ…。 それではまとめますとッ!』


バルタザールの声は禁書庫内で反響し、耳飾り越しにも大きく伝わる。

羽ペンを走らせる「ガリガリ」という音もより一層力強くなり、高らかに宣言。


『初代は物資で国を救いッ! 二代目は薬学で民を救いッ! 三代目が現当主ッッ!

 どれも国の記録との齟齬はなく、功績も大きいですッ!』


『ちなみにですがッ! 二代目の名はッ――

 アメトリクス・フォア・ニヴェイシアですぞッ!』


バルタザールの賑やかな声に対し、セラはそっと視線を伏せ、顔を落とし俯く。


その“家の者”が、自身を狙っているかもしれないという、アメトリクスの言葉。

その言葉がどうにも、頭の奥に貼り付き、離れてくれなかったのだ。


「それじゃあ、次は僕たちから報告するねぇっ!」


ノアが軽く咳払いし、足を組みながら視線をルルやセラへと移し、頷く。


「僕たちが貴族令嬢さんたちに聞いたお話だけど、代々綺麗な容姿だってのと――

 あとは、研究科の家系で…薬の知識に長けてるお家だってお話だよっ!」


「それと、これが一番重要な情報かもっ! 交易都市・ヴァルメリア――

 そこにお屋敷を構えてるらしいよ! これでまた近づいたねっ!」


ノアがセラとルルに視線を向け、朗らかに微笑むが、遮るような賢者の声。


『おッッ!!!お待ち下さいませッ!!』


彼の慌てた様子の声はまるで雷鳴が如く、凄まじい声量で耳飾りを震わせる。

三人は思わずびくりと肩を震わせ、苦い顔をして互いの顔を見合った。


『公式記録では王都邸が本邸となっているはずッッ!!! ――ん?

 となると、生活圏がヴァルメリアということですかなッ…?

 ふむ、つまり、となると――で――だから――成程ッ!』


パラパラと本をめくる音に早口の呟き、謎の打撃音。

あらゆる音という音が混ざり、耳飾り越しに洪水のように情報が流れ込む。


セラはその音すら耳に入ってこず、膝の上で手を握りしめ、俯くばかり。

そんな彼女の様子に気がついたノアは、柔らかな声を落とした。


「昨日…帰ってきてから、ずっとおかしいよ…? セラ、なにかあったのなら――

 どんな些細なことでも、僕たちに言って欲しいな、なんだって力になるからさ?」


「――ほんとにっ!!」


セラはつい、大きめの声で返し、思わず自身でも驚き、申し訳なさそうに微笑む。

心配そうに見つめるルルと、ノアの顔を交互に見つめ、改めて言葉を返す。


「す、すみません。 本当に、なんでもないのです。

 ここのところよく眠れてなくて…それと夜会で疲れているだけなのです……」


紡がれた彼女の声は、次第にしりすぼみに消えていき、申し訳なさだけを残す。


ルルはセラの瞳をじっと見つめ、何か察したように淡々と呟いた。


「わかるぜー、そゆときあるよなー。 ちゃんと寝んと駄目だぜー?

 セラちゃんが話したい時に話せばいいっしょ? それが一番じゃしさー」


(セラちゃん、嘘つくのホンット下手くそだなー。 心読めんくても、わかるぜ。)

(断片は――読めんなー…。 なんがあったか分かれば良かったんじゃけど…。)


無表情で紡がれた言葉なのに、ルルの言葉はどこか温かい。

ノアやルルにこれ以上迷惑をかけたくなく、セラはぱっと表情を改めた。


「ごめんなさい…ちゃんと寝られるように、最善を尽くしますっ!」


セラは務めて明るく声を出し、それに対しルルが「ふう」と溜息を付く。

だがその床では、轟音イビキを鳴らしあげるパルテオンが転がっていた。


ルルは彼を親指で指し、ノアに向き直り、提案のように語りかけた。


「とりあえずさ、コイツ寝とるし、明日にでも決めよーぜ?」


ルルの一言で、会議は終了の流れとなり、ノアはパルテオンを肩に担ぎ上げる。

そのまま三人は就寝の挨拶をし、部屋へと戻り、宿には静寂が訪れた。


静寂が訪れたはずだったのだが、しかし。


『わ、解りましたよッッ!!!!皆さんッッ!!』


夜半を過ぎた迷惑極まる時間帯。突如として耳飾り越しに賢者の声が爆裂。


『ヴァルメリアは交易都市デスッ!! すなわち~~~ッッ!!

 交易で成果を上げたニヴェイシア子爵にとってはッ!!

 活動に極めて都合の良い土地である事が~~~~ッ!!』


息継ぎすら惜しむかのような、怒涛の畳み掛け。耳飾りを装着していたら――

確実に鼓膜が爆散し、皆の耳は終焉を迎え……旅も終わっていた事だろう。


当然な事に、誰からも返答はない――当たり前だが。

宿では既に、一同は深い眠りの中にいるのだ。


そんな事はつゆ知らず、賢者バルタザールは長い事語り続けるのであった。


◇ ◇ ◇


そうして迎えた翌朝。

宿の一階広間にて、顔を合わせた四人は、互いに視線を交わす。


ノアはスッキリした面持ち、ルルは眠そうにあくびを噛み殺し――

パルテオンは二日酔いなのか、とてつもない顔色で顔を押さえていた。


ノアが意を決したように目を細め、深刻そうに口を開き、言葉を落とす。


「とりあえずさ……禁書庫に行っておこう? 昨日のすごい夜中にねぇ…?

 バルタザールが何か、早口で沢山喋ってたみたいだし…。」


「鞄の中に仕舞ってあったのに、それでも聴こえてたからさ…。」


頬を指で掻きながらも、提案をすると、ルルとセラは同意。

しかしパルテオンは「どういうこった…?」と頭を押さえ、うずくまる。


「んやー、なんか昨日の夜? すげー遅い時間に、ぶつくさ言っとったんよ。

 パルちゃんはしっかり夢ん中いたんだなー おめでてーぜ。」


ルルは腕を後ろに回し、平然とした口調で答えた。

パルテオンがこめかみを押さえつつ「るせー…」と呟き、足元をフラフラ。


そうして一同は、賢者バルタザールの居る、中央街の大図書館へと足を運んだ。


大図書館にたどり着くと、大図書館奥の階段下にある小部屋へと向かう。


司書に一声掛け、賢者から直接貰った証を見せると、その足で禁書庫へ。

重厚な鉄の扉をゆっくりと開くと、音が響き、空気が僅かに揺れる。


螺旋階段を降りると、バルタザールはいつからそこで待っていたのか――

丸いテーブルに突っ伏し、大量の資料や書物に埋もれ、小さく声を上げ立ち上がった。


「……おおッ!!勇者一同の皆々様ッッ!おまち、し――」


その声が途切れると同時に、ふらりと足を踏み外し、身体が投げ出される賢者。

ノアが咄嗟に駆け寄り、彼の身体を(すんで)の所で抱きとめ、事なきを得た。


「ちょっっと……!! あっぶない…ッ! バルタザール!? しっかりして!」


ノアが抱きかかえたバルタザールを見ると、彼の顔はまるでゾンビの形相。

目の下には深い隈。頬はげっそりとこけており、今にも死んでしまいそうな雰囲気すらある。


「ええっ!またですか!! もうっ!! ノア、そのまま賢者様を抱えて下さいっ!

 私が治癒を祈ります!! まったく…世話の焼けるっ…!!」


セラは声を上げ、慌ててしゃがみ込み、ノアの腕に抱かれた賢者をじっと見据え――

溜息をつき、そっと右手を添え、目を瞑り《治癒の祈り(サナティオ)》を祈り始めた。


賢者の身体は、淡い金色の光と虹色の粒子に包まれ、顔色が落ち着きを取り戻していった。

それでもセラは集中し、バルタザールの体調の回復を、静かに祈り続ける。


そんな彼らの姿を、ルルとパルテオンは、呆然と見つめるしか出来ない。


セラの治癒が終わると、ノアはバルタザールを抱き上げ、視線を巡らせ――

隅に置かれているソファが目に止まり、そこへ賢者をそっと下ろし、彼を寝かせた。


「夜中に騒ぐからー… バルタザールはしっかり休んでね…?」


優しく声を掛けるノアをよそに、パルテオンはふらふらと頭を抱え、愚痴をこぼす。


「あぁ……。 うぅ……やべぇ、俺…。 すっげぇ頭が痛ぇ……うっぷ。」


ノアとルルは呆れた顔でパルテオンを眺め、セラは一瞥し、頬を膨らませた。

そして「ぷいっ」とそっぽを向くと、むくれっ面のまま、小さく呟く。


「《浄化の祈り(ピュリタス)》で回復はできますが……呑み過ぎは、自業自得ですっ!

 星律(せいりつ)の教えで、二日酔いには浄化は禁止なので、反省してくださいませっ!」


完全に背をそむけ、確固たる意志を示す【聖女】――

怒りと呆れの混ざった感情をあらわに、パルテオンへ叱責。


ルルはソファに寝かされた賢者の側に駆け寄り、懐から手巾を取り出した。


魔法で宙に小さな水の玉を生成し、そこに手巾を浸し、湿らせる。

濡れた手巾を手に持ち、温度を調節すると、彼の額へと手巾をそっと置く。


まるで、母が子を撫でるように、彼の頭を優しく撫でるルル。


「なにやっとんよー…ったくー…。 しばらく寝て、無理せず休めよー?」


賢者を寝かせた後、ノアは何気なく視線を動かし、彼の先程まで居た机に目を向ける。

机の上には、彼が書き散らしてあろう痕跡が、雑然とばらまかれている様子だ。


多くの走り書きのメモそれぞれに、彼が夜通し調べていたであろう、痕跡が見て取れる。


何気なく目を通したメモを手にとったノア。

セラが何事かと、ノアの手元のメモに目を向け、黙々と読み上げる。


――魔石とは、主に魔族領で造られる、加工品の石。

――魔道具や、生活補助に用いられることが多く、流通数は多くない。


――“黒い靄”や“黒い泥”を生み出す魔石の記録は、確認できない。

――勇者達が話していた“瘴気の石”は“魔石”とは異なる…では何か?

――約二年程前から“黒い靄”を帯びた石の報告はある、記録も確認。


――しかし石付近で、顔に穴が空いたような魔物の存在は確認されず。

――大きさは最大でも小動物程度、迷宮で発見された巨石とは記録が合致しない。


読み上げたセラは困惑の表情を浮かべ、ノアは困ったように微笑み、皆を見つめた。

ルルとパルテオンは互いに目線を合わせ、驚いたように二人を見つめる。


「あれぇ? なんだかとっても重要そうなことな気がするけど… 

 バルタザールは僕たちに、伝え忘れてたのかなぁ…?」


ノアが溜息を漏らしながらメモを机に戻し、全員に顔を向ける。

答えはもう、一つしかなく、全員が言うまでもなく頷いた。


「取敢えず…交易都市・ヴァルメリアって場所に…行くしか無いみたいだねっ!」


安らかな寝息を立て眠る賢者の為に、一同は軽食と飲み物を机に残す。

直ぐ側には、セラの書き置きした小さな紙片も控えさせた。


――“バルタザール様へ。 私たちはヴァルメリアへと向かいます。

どうかご無理をなさらず、ゆっくり休んでいて下さいませ。

徹夜は程々にしてくださいませ? セラフィーナより”――


四人は決意を胸に禁書庫を後にし、再び旅路へと歩みを進めるのだった。





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