頁:24 その【勇者】人誑しにつき。
翌朝――全員が朝食の場へと集まっていたのだが……。
聖女と勇者、双方は互いにぎこちない様子で食事の場へとついていた。
机の上には食欲を唆られるような様々な料理が並んでいる。
しかし二人の目には、机に広がる食事よりものしかかる出来事があった。
――『肌着姿を見られてしまった“見てしまった”』
二人とも心此処に非ずで、彼らは恐らく互いにパンを持っているつもりだろう。
手には何も持たれていないが、空気のパンを千切るような動作を見せ――
滑稽にもその空気を口に運び、咀嚼までしていた。
とても正常とは言い難い二人の姿に、騎士は向かいに座るルルへ身を寄せた。
『おいルル……昨晩何があったんだ?まさかとは思うが、ノアが覗いた――
……なんざこたぁねぇとは思うんだけどよ。』
騎士の問いかけは半分が正解で、半分が不正解だったが……。
ルルはといえば、昨晩の出来事を若干歪曲して語った。
『湯浴みしようと思ったらセラちゃんが叫んだ。したらノアちゃんきた。
あたしもなんでこんななっとんか、知らん。なんで恥ずかしいん?』
彼女は普通の実態を持ったパンを咀嚼しながら説明したが、意味不明。
ルルの端折られた説明だけでは、騎士に伝わるはずもなく。
何も気にしていないルル。彼女の態度がパルテオンの混乱を加速させた。
沈黙が流れていたが――沈黙を破ったのは聖女と勇者の声。
「「昨日はッ!!」」
声が重なった瞬間――互いに目を合わせて凍りついたように固まった。
しゅん……と肩を落とす勇者に対し、聖女が口を開いた。
頬を桜色に染め『あのっ……!』と切り出した後、震える声で語りかける聖女。
「昨晩は私の不注意でございました。虫さんに驚いてしまったとはいえです。
あんなに叫んでしまっては、ノアさんが心配するのも当然のお話。」
「ごめんなさい、ノアさん……。」
小さな声ではあったが、確かな謝罪の言葉。
彼女の声色は昨晩の羞恥やら自己嫌悪が滲んでいた。
「ち……違うッ!考えなしにノックもせずに扉を開けたのは僕だからッ!
セラは何も悪くない……悪くないんだ。僕が後先考えず――」
「私だって、悪かったのです――!」
「それだったら、僕のほうが――!」
怒気すら感じられる二人の言い合いに、互いに顔を見合わせ――
やがて何かが吹っ切れたように『ふっ』と、気がつけば笑いが漏れていた。
「ノアさん……いえ、ノア。あなたが善意で扉を開け放ったこと――
私はちゃんと分かっております。ですので……今回の件は水に流しましょう!」
「ごめんね……セラ。もし次に同じようなことがあったのならさ――
ちゃんと一声かけてから、確認をとるようにするから……!」
二人して謝罪の言葉を投げ、謝罪合戦。そんな穏やかな光景を見つめ――
パルテオンとルルはようやく安心したように食事にありついた。
◇ ◇ ◇
その後は宿の主人から声をかけられ、話を聞いてみればなんと――
今日の昼前には、都市行きの馬車が村に来るとの話だそうだ。
宿の主人の話では、その都市は発展している都市だということ。
調べ物があるのなら、そちらで調べてみてはどうだろうと提案を受けた。
勇者一行は急いで旅支度を整え――あっという間に出立の時刻に。
馬車の点検に少しだけ時間が欲しいとのことで、時間が余る。
余った時間、村の広場では出立の噂を聞きつけた子どもたちが駆けつけた。
「勇者のおにいちゃんたち、もう行っちゃうのー??」
「折角だったから、遊びたかったのにー……ざんねん……。」
子どもたちは口々に寂しさを訴え、ノアやパルテオンたちに引っ付いて回った。
「あはは……ごめんねぇ……でもまた絶対に来るからっ!
それと――そこのお嬢さん?どうしたのかな?君もこっちに来ないの?」
人だかりのその奥……一人の少女が何か伝えたそうにしていた。
勇者は彼女が何か言いたいのだろうと察し、声をかけるのだが――
「あの……こ、これ……勇者のお兄ちゃんと聖女のお姉ちゃんに……。
勇者のお兄ちゃん……村を守ってくれてありがとう。」
「聖女のお姉ちゃんは、昨日ご気分が悪そうだったから……その、大丈夫……?」
照れくさそうに頬を染め、後ろ手に隠していた花冠を差し出した少女。
そんな少女に対し、ノアは膝をついて女の子に視線を合わせ――微笑んだ。
「お花の冠……お嬢さんが作ったの?すごく……きれいだねぇっ!」
白と黄色の花々で編まれた拙い花の冠。少女から冠を受け取ったノア。
彼は視線を聖女へと移すと、聖女もまた屈み込んで少女の頭を撫でる。
「私はこのとーり、元気ですよーっ? 安心なさいませ!
聖女は簡単に倒れたりは――と言いたいところですが……。
心配かけさせましたね……ですがもう元気いっぱいですのでっ!」
「それと……お花の冠、ありがとう。 とても……嬉しいです。」
「え……えっと……!ゆうしゃさま……せいじょさま……!わわっ……!」
少女の顔は真っ赤で、唐突に近づいてきた勇者たち二人にたじろいでいた。
そんな少女の手に花の冠を持たせ――そっと自身の頭へと導くノア。
「折角だからねっ!お嬢さんが直接……僕の頭に乗せてほしいなぁっ!
そうしてもらえた方が、僕も嬉しいし……ねっ?」
首を傾け『駄目かな?』と微笑をこぼす勇者。周囲からの黄色い声援。
少女はきゅっと目を瞑り、ノアの頭に花冠を乗せ――
そのままパタパタと音を立て、走り去ってしまった。
もう一つの花冠は隣にいる聖女の頭上へ、優しく落とされた。
「えへへっ……!昨日の謝罪はこれで!お揃いだね、セラ?
でも――少しだけ惜しいねぇー……。」
「パルとルル……それにキューの分があったら……なーんてっ!」
彼の言葉にセラは思わず笑みが溢れ、小声で付け加えた。
『なんて人誑しな勇者さまなんでしょうかね?』
そうして――
馬車の準備が整ったとのことで、一同は馬車へと乗り込んだ。
村の入口に停められた荷馬車の周囲には、村人たちの姿。
「勇者さま!聖女さま!騎士さまに道化師のお嬢さん!どうかご無事で!
また御縁があれば、ぜひ村にお立ち寄りくださいね!」
馬の嘶きとともに、車輪が軋む音をあげ――馬車は動き出した。
後方から聞こえてくるのは村人たちの温かな声援。
勇者たちが見えなくなるまで、それは続いた。




