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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:学術都市と賢者。

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25/127

頁:23 その【事故】不可避につき。



 その後――宿の主人に大部屋へと通された勇者一同。

 泊まる分には申し分ない。だが――寝台は三台しか置いておらず、困惑。


 勇者の『なんとかしますっ!』の一言で宿の主人は立ち去ったが――


「あの……お部屋について早々申し訳ないのですが、私……湯浴みを――

 その、身体がベタついておりまして、お宿の方が仰っていたのです。」


「湯浴みが可能な箇所が一階の一角にあると……!」


 セラの言葉を聞き終えた勇者は唐突に顔を赤へ染め上げた。

 大げさに身を乗り出し、やや大きめの声で反論。


「だ、だめだよっ!外ももうこんなに真っ暗なのに!

 そんな時間に湯浴みだなんて!ほら……暴漢とか怖い人とか!!」


「危険すぎるよっ!!」


 勇者のやたらと真剣な瞳を理解できない聖女。

 困惑の眼差しで『ええっと……?』と見つめるしか出来なかった。


「あの、湯場は屋内ですし、勇者(ノア)さんが不安になることはないと……。

 それに汗を拭いたいだけです……ので。それでもいけませんでしょうか?」


「だったらよ……俺かノアのどっちかがセラが出てくるまで見張る。

 これで解決じゃねぇか?セラがイヤなら強制はしねぇ。」


「それならあたしもついてく。あたしも身体拭きたいんじゃけーさ。

 あたしも一緒なら心配ないじゃろー?」


 パルテオンの言葉に概ね賛成のルル。彼女もまた湯浴みをしたかったのだ。

 結局短い話し合いの結果――湯場までノアが同行することとなった。


 勇者の彼は、出入り口で待機ということで話は決着。


「それじゃ……僕はここで見張っているから――その……ッ!

 なにか困ったこととかあったら、すぐに呼んでねっ……!」


 ◇ ◇ ◇


(セラとルルが湯浴みの場所まで行ったのは……いいんだけど……)

(なんでだろう……僕すごくモヤモヤするよ……。)


 彼女たちが扉を一枚隔てた先で――などと考えてしまい……。

 勇者の思考は駄目な方向に転がりかけてしまっていた。


 彼女たちが汗で身体がベタつき、身体をスッキリさせたいことは理解できる。

 女の子であればなおのことだし、気にするのは仕方のないこと。


 しかし、勇者とはいえど、健康優良児の『男』なのだ。


 なるべく信頼をおける仲間にたいし、そういった情を抱いてはいけないと――

 理解はしていても、そう簡単に割り切れるものではない。


 さらに言えば――湯浴み場は、お湯を捨てられるように外気と繋がっている。


 それが勇者の知っている知識で、そんな外気の触れるような場所。

 そんな危険な場所に、彼女たち二人だけで行かせるなど――言語道断。


(うう~~~ッ……セラさんもルルも、もうちょっと危機感を持ってよ~……。)


 自身の顔に湧き上がってくる熱を自覚するが、どうしようにもならない。

 恐らく今現在の勇者は、とてつもないほどに頼りがないだろう。


 彼女たちは『早めに出るから』とは言っていたが――それどころではない。


 邪念を振り払うため、脳内では必死に畑のことや、騎士の筋肉を思い浮かべた。



 が、しかし――中に入って間がなかったはずなのに、聞こえてきた悲鳴。

 頭によぎるのは……彼女たちを狙った暴漢の可能性。


 咄嗟に扉を開け放って『大丈夫ッ!?』と声をかけたが、完全に悪手だった。

 セラやルル。彼女たちはすでに衣類を剥ぎ取り、薄い肌着姿。


 そんな彼女たちの足元には、大きめの黒い虫が一匹、蠢いていた。


 虫は空気を察し『失礼します。』と言いたげに外へと颯爽と脱走。

 ノアは慌てて飛び出して扉を勢いよく閉めて逃走。


「ごごごめんあさああああいッッ!!セラの悲鳴が聞こえたからッッ!」


 飛び出し、少し離れた箇所で膝を抱え――申し訳なさに顔を覆う。


 なんということか……。これは信頼関係を崩してしまいかねない。


 悔いても仕方のないことだったが、勇者の彼は後悔の念に苛まれ――

 見られていた聖女たち以上の羞恥を抱え、邪念との戦いに耐えるのだった。


 ◆ ◆ ◆


 一体何が起こったのか、時間は少しだけ遡りましょう……。


「しっかしよー……勇者ちゃんはいったい、なんの心配しよったん?

 たかが湯浴みじゃろー……?わけわからんわ。」


 ルルさん、彼女は恐らく本気で分かっていらっしゃらないみたいです。

 怪訝な瞳をこちらへと向けて語りかけますが、微笑ましいですね。


「ノアさんもお年頃ですから、それであんなにも必死に――

 私たちを止めてくださったのだと思います。」


「でもさすがに……今日は沢山汗をかいてしまって……ベタついてまして。

 身体が大変……不快なのです。さすがの私でもこればかりは……。」


「ノアさんやパルテオンさんには悪いとは思いましたが――

 こればかりは譲ることができませんでした……!わがままですね……。」


 談笑を交わして纏っていた衣類を剥ぎ取り、ようやっと脱ぎ終えました。

 そうしていざ、湯浴み場へと脚を踏み入れましたところ――


「きゃあああああッッ!!」


 そう――扉を開け放った瞬間、手のひらサイズほどの黒い虫さん。

 どこかで……どこかで見た記憶がある形状なのです。


 御器(ごき)を喰む……素早く動き、こちらを翻弄する虫さん――

 かの御姿を拝見し、瞬時に私が悲鳴をあげてしまったのです。



 ――それが、今回の惨劇の顛末になります。



 そうして現在なのですが、私は一瞬何が起こったのか、理解できませんでした。

 ですがさすがに、段々と状況が分かっていって……羞恥で顔の熱が……。


(わたしがっ……私なんかが悲鳴をあげてしまったせいで……!!)


「ご、ごめんなさい……ノアさん、ルルさん――ッ!」


「虫……どっか行きん去ったね。無視する虫は、無視ってなー。」


 私たちの間に流れる空気はどこか冷たくて、絶妙なものでした。

 ルルさんのお言葉に、私はなんて返せばよいのか分からなかったのです。



 その後は普通に身体を拭い、項垂れているノアさんに合流しましたが――

 私たちの間に会話はありませんでした。どうにもお互いに気まずくて。


 部屋へと戻りますが――ここでもまた緊急事態が発生。


 お部屋ではすでに、騎士さまとキューさんが惰眠を貪ってらっしゃいます。


 残りの寝台は二台なのですが……。


「えー……あたし一人じゃないと寝れんのじゃけど……。」


「隣に人がおると寝れん!あたしは一人で寝るー!!!」


 なんとまぁ……とんでもないワガママさんでらっしゃるのかしら……。

 ノアさんに視線を移しますが、彼は目を合わせてくれようとしません。


 恐らくは自責の念なのでしょうが……先の一件は私が悪かったのに。


「大丈夫、だよ……僕は外にいる……からさ。」


 お部屋の外へととぼとぼと出ていってしまうのですが――

 私は彼の背中を追いかけることは出来ませんでした。


 わだかまりを抱えたままでしたが、寝台に身を沈める他、ありません。


(本当に、何をしてるのかしら……私は――ッ!)





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