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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
二章:誘われるままに
25/30

その【夜会】聖女主催につき。

――◆第二章



禁書庫を後にしたノア、パルテオン、ルルの三人は、並んで歩き、宿へと歩みを寄せていた。

時刻は既に夜を回っており、宿までの道中、街燈にはぽつぽつと、明かりが灯る。


市場が近いのか、雑多な食事の香りが周囲に立ち込んでおり、鼻腔を擽った。

何気ない会話をしながらも宿へと向かい、三人は宿にて軽い食事を済ませる。


セラの待つ宿の一室へと向かい、光る鉱石のランタンの明かりがゆらゆらと揺れる中――

聖女と合流した三人は、木のテーブルを囲い腰を落ち着かせ、ノアの動きを待っていた。


「さてと!」と一言だけ言葉を落とすノア。彼は腰に下げていた荷物入れを、ガサゴソと漁る。

賢者から受け取った、遠距離での会話が可能な魔道具――銀色の耳飾りを取り出した。


「あの、これはいったい…?」


セラが尋ねると、ルルが簡潔に説明し、光を帯びたそれを手に取る。

全員で視線を合わせ、こくりと頷き、同時に耳に装着した瞬間の事だった。


ガタガタ……ガランッ!!……ドダドダッ!!

――ガタン!!…………ガッシャーンッ!!…………ドゴンッ


耳に流れ込んでくる、現実味がありすぎる上、中々の騒音。謎の生活音が場の空気を支配。

「な、なにこれ…?」とノアが眉を潜め、耳飾りの魔道具を押さえる。


全員が条件反射のように顔を見合わせ、誰もが口をつぐみ、怪訝な目を耳へと向けた。

セラの眉はぴくりと跳ね、ルルは目を半開き。パルテオンはこめかみを抑え、眉間に皺を寄せる。


あまりにもな音量に、皆が耳を塞ぎかけ、しばらくの間を置いて――

間の抜けたような、知性の欠片もない情けない声が、魔道具越しに響いてきた。


『ス、スミマセンッ!! 装着早々、耳飾りが外れてしまい…ッ!

 取ろうとして…机の上の本をッ…! ひっくり返してしまいましてェェッ!!』


その声に反応したのはルル。怪訝な瞳でバルタザールに問いかける。


「え……。 うそ、あーた…そこで生活しとんの…?」


しんとした沈黙が流れ、一同は静まり返った。

――沈黙、それすなわち、つまるところ“そこで生活している”という事に他ならない。


ノアが状況を理解してしまったのか、肩を震わせ笑いを堪えながらも、頬が緩む。

パルテオンも、禁書庫での状況を理解し、想像したのか口元を必死に押さえていた。


「っと、とりあえず…っ! そのままで良いからさっ…! ふふ…。

 作戦会議に参加してもらっても良いかな? バルタザール?」


『も、もちろんですともッ!! 勇者殿ッ、なんなりとッ!!』


妙に芝居がかった返答。賢者バルタザールの声が、部屋の空気を絶妙に震わせる。

ノアは小さく咳払い。後に真剣な面持ちで、皆へと視線を配り、声を上げた。


「えーっとね、セラは聖女で、男爵令嬢…。 それと、僕には勇者って立場がある…!

 ――つまりねぇ、貴族のニヴェイシアさんの事を探るなら、社交界ってことだよね?

 だからねっ! 社交界で情報を探るなら、僕たちが適任じゃないかなって!」


「僕はそう考えたんだけど……どうかな? 皆の意見を聞きたくってさ!」


ノアに視線を向けられた全員は、バルタザールには伝わらないが、皆で頷き合っていた。


「あたしは概ねさんせーい。 それでええと思うぜー?」


「賛成だな。 …俺は俺で騎士の友人に当たってみよう。」


「私も、同じようなことを考えておりました、賛成です。」


ルルが無表情のまま、片手をひらひらとさせ返答。パルテオンはぶっきらぼうに返す。

セラは賛同を示しながらも、皆の表情を伺い、静かに頷き、全員に従う。


「んじゃーよ。 あたし一人になっちゃうの寂しいしー?

 賢者ちゃんさえよけりゃ、また一緒に情報まとめる係するぜー。」


あまりにも軽いノリに聞こえるのに、どこか頼もしさすら滲むルルの声。

何やらガタガタと音を立て、反応を示したのは勿論禁書庫内のバルタザール。


「なんですとッ!!! おお!! 喜んでッ!! 一人より二人が効率的ッ!!

 ワタクシの知識と知恵と叡智を……結集させましょうぞッッ!!!」


魔道具越しに聞えてくる彼の声は、とても上ずっているが、熱意だけは確かに伝わった。

パルテオンとルルは顔を見合わせ呆れ、騎士は口角を上げ、笑う。


ノアが朗らかに微笑み、軽く頷くと短く結論を下した。


「よしっ! じゃあ、それで決まりだねぇっ!」


全員が顔を見合わせ、それぞれ応じ、一同の作戦会議は静かに終わった。


作戦会議を終えた一同。男性陣と女性陣に分かれ、それぞれ借りていた部屋へと戻る。

が、一部――禁書庫にいるバルタザールの方は、とても騒がしかった。


なにやら書き殴る音、そして書物の倒れる音、椅子を引きずる音。

煩すぎるが、誰もツッコめない……いや、ツッコまなかった。


男性陣は魔道具越しから流れる音声に、早々に見切りを付き、そっと鞄へと戻す。

一方で女性陣。セラは申し訳なさから、魔道具を暫く装着していたが、騒音から外した。


ルルはというと――彼女は、部屋を移してからというものの、すぐに魔道具を外していた。


その後は、旅疲れや賢者の騒音疲れもあり、自然と部屋越しに就寝の挨拶が交わされる。

各々の部屋で寝台へと身を沈め、部屋のランタンの明かりが、ぽつりと消えていった。


落ち着いた静寂が宿を包み、皆が寝静まり、心地よい寝息が聴こえる夜半頃。


耳飾り型の魔道具越しに「ガタンッ!!」と何かが倒れる音が僅かに響いてくるが――

しかし、その音に気がつく者は、当然ではあるが誰一人としていなかった。


◇ ◇ ◇


――早朝の学術都市。

街はまだ起きたばかりの朝の香りに包まれ、薄い霧が立ち昇り、静けさが包む。


人影もまばらな石畳の上を、ノアとセラの二人は並んで歩いていた。

靴音の乾いた音を響かせ、小さな会話を繋いで歩く道中。


ノアはふと、腰に下げられた聖剣の柄を軽く、二回ほど叩き、胸中で唱える。


『今日もよろしくねぇ、聖剣さんっ』


『――承知した』


ノアの脳内に透き通った冷たい女声が響き、ノアはふっと目尻を緩める。

柔らかく、朗らかな微笑みを聖剣へと向けていた。


二人の目的地は、セラの希望で、昨日彼女が訪れたという教会だ。

教会へ辿り着くと、白亜の門をくぐり抜け、二人は辺りをぐるりと見回す。


ちょうど礼拝を終えた信徒たちが、三々五々と外へ散っていくところのようだった。

そうして見つめていると、二人を迎えに現れた影。ぴしゃりと背すじを伸ばした一人の老司祭。


「おやおや、勇者殿。 それに昨日に引き続き聖女セラフィーナ様。 お早う御座います。」


歳を重ねても背すじは真っ直ぐで、その歩みにはまるで迷いというものが、見られない。

司祭は深く一礼をすると、穏やかに言葉を続けた。


「おいでいただき、感謝いたしますお二方。 実はですね、聖女様……!

 昨日の癒しの数々、その功績を讃えるために、神殿としてもお力添えをしたく――

 ぜひに“聖女(セラフィーナ)様ご自身”の主導で、夜会を催したいと考えております。」


「…えっ!? わ、私が…主導ですか?」


セラは思わずビクリと肩を震わせ、あわあわと辺りに視線を移す。

まるで思考が一瞬停止したかのように、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。


高齢の司祭は、静かに頷くと、確信を込めたような声を落とす。


「ええ…! 聖女様の清らかな御心と尽力を、人々に広く示すべきかと――

 どうかご安心を。 神殿、教会共に全面的に、後押しをさせていただきますゆえ。」


セラは、しばらく返答に困り、言葉を失ったまま逡巡する。

胸の奥が、どうにもそわそわとした不安に駆られ、落ち着かなかった。


(わ、私みたいな未熟者が主催だなんて…出来る気がしませんが…。)


俯き、手を胸の前に組むセラに、ノアが静かに視線を送る。

小刻みに震えるセラの手を握りしめ、柔らかくも朗らかに微笑み、言葉を掛けた。


「大丈夫だよっ! セラなら、きっと沢山の人を安心させられるからさっ!」


彼女の耳元に口を寄せて、付け加えるようにノアが囁く。


『――それにさ、社交界を調べる絶好のチャンスだよ? ねっ!

 僕も付いてるからさ、二人でなら大丈夫! …だめかな?』


茶目っ気を感じる微笑みを湛え、片目を瞑り「大丈夫!」と言わんばかりのノア。

暖かく、朗らかで、それでいて芯のある彼の声音と表情。


ノアの言葉を受け、セラの胸の中の緊張が、柔らかく解けていく。

小さく息を吸い込むと、セラは胸に手を当て、決意の眼差しを向けた。


「――わかりましたっ! 不安はありますが、私に出来る限りを尽くしますっ!

 といっても、私主催の夜会なんて初めてで…大丈夫かしら…?」


司祭は深く頭を垂れさせ、セラを落ち着かせるように「お任せ下さい。」と一言。

ノアの目には、セラの表情が少しだけ、凛とした少女に映っていた。


――こうして、聖女主導の夜会の開催が決まったのだった。


◇ ◇ ◇


セラとノアの二人は、とりあえずは一旦、宿へ戻ろうということになった。

道すがら、魔道具を装着し皆に対し、セラ主導で夜会を開催することを語るノア。


彼はゆったりとした足取りで、歩みを寄せながら、簡潔に事の経緯を説明。


「――ってことだから、僕たち、夜会に行くことになったよっ!

 仮面舞踏会なんだってさ! 楽しみだなぁー! あっ、でも僕…! 踊れない…!」


『な、なるほどッ!? 夜会、ですと……ッ!? 了解致しましたッ!

 ではワタクシとルル嬢で、資料と情報を整理しておきますともッ!』


禁書庫内にいるであろう賢者の声は、空回り気味の熱気を孕み、残響。


どうやら禁書庫には、バルタザールだけではなく、他にも人が居るようだった。

何やらガサガサと音を拾い、聴こえてきたのはルルの声。


『えー。 あたしもドレス着て、賢者ちゃんと踊りたかったかもー』


彼女の声は、静かな呟きだったが、禁書庫内という空間に居るせいか――

やけに反響して聞こえる。そして即座に、賢者からの返答が飛んできた。


『ざ、残念ながらッ! ワタクシッ! 舞踏の持久力は皆無ですからねッ!!

 立って三分。 歩いて一分…踊り始めたら五秒で崩れ落ちる自信がありマスッ!!』


「それって、自慢することかなぁ…? す、すごいねぇ…?」


ノアは吹き出しそうになるのを必死に堪え、肩を震わせている。

そんな笑い混じりのやり取りの中、ふと思い出したようにノアが言葉を投げた。


「そういえば…パルは? おーい、パルー?返事してー?」


――静寂と間が支配し、耳を澄ませても、低く頼もしい声は聞こえてこない。

セラは昨日のニヴェイシアの拐かし未遂の一件もあり、一瞬だけ、胸に不安感を抱く。


しかしノアは気にする様子も無く、片肩を上げ、小首をかしげ応えた。


「…たまたま、音を拾えていないだけかもしれないね?

 騎士仲間を当たってみるって言ってたし、きっと大丈夫だと思うけど…」


『ま、そーいうこともあるっしょ』


ルルも軽く受け流し、セラは一応納得し、とりあえず話を切り上げた。

勇者と聖女は夜会へ――残された皆は、それぞれの役目へと繰り出すのだった。





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