表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護
24/30

その【生物】謎生物につき。



大図書館内部の一角――とある一室。


その場所には本棚は無く、代わりにあるのは、静かに学業に励めるようにと工夫された空間。

窓から射し込む優しい陽光、すぐ側には観葉植物。丸いテーブルと椅子。


そこに集まったノア含めた勇者一行と、禁書庫の司書兼、賢者・バルタザール。

しんと静まり返ったその空間に、バルタザールが皆の姿を確認し「フゥムッ」と頷く。


彼はガサゴソと、音を立て荷物を漁り、一つの小さなランタンのようなものを取り出した。


「こちらは、防音加工が施された一品デスッッ! 迷宮にしか無い、特殊な鉱石を使用し――

 錬金術師による特別な加工が施され――ッ!」


いきなり始まった賢者・バルタザールのウンチクに、ルルがぴしゃりと頭を小突く。

「掻い摘め。」と一言だけ落とすと、賢者はしゅんと落ち込み、説明を続けた。


どうやら彼が取り出したランタンは、防音、遮音といった効果のある、魔道具と言われる道具らしい。

説明ほどほどに、彼はランタンのつまみを回すと、周囲に緑色の光の膜が広がった。


「――それではッ!! 各自の情報収集の成果をッッ!! 報告して頂きたくッ!!」


高らかな声で宣言するが、さすがは魔道具。そのお陰もあり、彼の声は響かない。

だが、依然として凄まじい声量な事に変わりはなく、パルテオンが呆れた顔で息を洩らす。


ルルが小声で「発表会?」とツッコんでいるが、誰も何も言わない。

パルテオンが小さく手を上げ、腰を上げ立ち上がった。


腰に下げている皮のポーチから、一枚の紙を取り出すと、無言で机に広げる。


「んじゃまずは俺からだッ! 鍛冶屋で盾を直してもらったついでに――

 冒険者ギルドで情報を貰った。 ニヴェイシア子爵についてだが…どうにもきな臭ぇ。

 歳を重ねてもシワが増えねぇ、初代もニ代目も、現当主もまるで同じような顔…そんな所だ。」


パルテオンの言葉にそっと耳を傾けていたセラは、近くで見た彼の顔をそっと思い描く。

温度の感じない病弱な白肌、人形めいた不気味な美しさ――


「フゥム…ッ!なるほど、世代を越えても、変わらぬ容姿ッ。

 人族の地で爵位を得ているが、容姿が変わらないッ…長命の種族である可能性はッ?

 公式記録には種族までの記載は無くッ…! また、病弱であった事はッ――

 信憑性も根拠もありませぬがッ…噂話程度には……ッ」


バルタザールの言葉を受け、パルテオンが質問に応える。


「それなんだがよ、情報を提供した――吟遊詩人の“ゼクス”ちゅー令嬢が言うには…。

 エルフの血が混じってんじゃねえのかって話だ。 だけどよ、エルフつったらちょい……

 変わりもんが多いのと、森から出ねぇはずだしよぉ…? とにかく怪しいつー感じだ。」


パルテオンがそれだけ伝えると、再び椅子に腰を掛け、ルルがぴょんと立ち上がる。

何処から現れたのか、彼女の帽子から、ぴょこんと捻れた角の謎の毛玉生物(キュー)が跳ねた。


「あの、あの生物は一体なんなのですか――?」


バルタザールはノアに耳打ちするが、ノアからの返答は「さぁ…?」だった。

バケモノでも見るような目を、その毛玉生物へ向け、視線をルルへと戻す。


「あたしらが調べてたのは、公式記録とかばっかだったからよ。

 噂話とか、信憑性の欠片もねーやつ除外したら、それ以外残らんかった。

 つまりってーと、あたしらの成果は…なーんもねーってことだぜ。 ふっふーん。」


ルルの言葉が落とされると同時に、バルタザールは項垂れ、涙こそ流してはいないが――

舞台俳優の様な、派手すぎるパフォーマンス。書類に顔を埋め、大層悔しそうに嘆いた。


視線は自然にノアへと向けられ、彼は朗らかに微笑みつつ、口を開く。


「ごめんねぇ、僕は何も情報を持ち帰っていないんだ。

 ちょっと、思うところがあってさ、散歩してたんだ。 聖剣さんと一緒に、ね?

 じゃあ、最後に――セラはどうだったかな? 教会に行ってきたんだよね?」


話しを振られたセラは、はっと顔を上げる。視線が注がれている事に、驚いた表情を浮かべた。

胸元の錫杖の首飾りを手で包み、祈るように指を組み、ぎこちなく微笑む。


「――ええっと、私もその…。 とくに、なにも、無くって…お役に立てず申し訳ない、です……」


まるで怯える小動物のように、小さく肩を震わせ、視線を泳がせながら声を出していたが――

その声も尻すぼみになり、声からでも何かに恐怖し、竦んでいるのが見て取れる。


(セラちゃん、嘘つくん下手くそ過ぎじゃろ。 不安…恐怖の気持ちがつよい…ね。)

(んでもって…?心配させたくないんも声からダダ漏れ。 こりゃ言葉選ばんと駄目じゃね。)


ルルはセラから視線を外し、皆に提案するように語りかけた。


「んじゃーよー? とりま…あたしお腹すいてるしさー。 飯食いたい。」


「ではワタクシはッ! パルテオン殿の情報を一度整理して、纏めようかとッ…

 それと公式記録と、噂話やアレコレの齟齬のすりあわせをッッ――

 こちらに通う貴族学生の方にも、何か情報が無いかを確認しておきましょうぞッ!」


そうして一旦は、大図書館の一角、会議室兼勉強部屋を後にし、一同は街へ。


食事を摂る為に、街へ繰り出したは良かったが、セラは終始俯いたまま。

そんなセラの様子にノアは気がついていたが、踏み込めずにいた。


「あのさ、セラ…調子が悪いのなら、一旦宿に戻ろう…? 顔色も良くないよ?」


ノアの優しい声音は、今のセラにとっては毒そのもの。

自己嫌悪や、彼の真っ直ぐな瞳と優しさが深く突き刺さり、つい声を荒らげてしまう。


「だっ!大丈夫なんですっ! 迷宮でのことを思い出して、それで…」


ルルがノアのマントをちょいちょいと引っ張ると、首を横に振る。

結局、その後はルルの勧めもあり、セラの体調の事を考え大事をとることに。


セラのみ宿で待機をさせ、ノア、パルテオン、ルルの三人での行動となった。


◇ ◇ ◇


空腹を満たしたセラ以外の三人は、一旦バルタザールの待つ大図書館へと足を向ける。

バルタザールと別れた時には、陽光は燦々と輝いていたが、現在はやや落ち気味。


大図書館へ足を運び、バルタザールが借りている一室へ向かう三人。


彼は、いつまでそうしていたのか分からないが――

一人で宙に浮く紙や羽ペンを動かしながら、自身も必死に何かを読み漁り書き殴る。


賢者というには、なかなかに凄まじい光景であり、三人は思わず目を見開く。


「おやッ! 皆様ッ!お待ちしておりましたッ! しかし時刻が少々――

 もう夕刻に差し掛かる頃合い故、あまり長居はできないかとッ」


「そうだね、僕たちも同じことを考えてたんだ。

 それで、なにか言いたそうだね? できれば共有してほしいんだけど…」


ノアが頬を掻きながら伝えると、バルタザールは鼻を鳴らし、メガネを押し上げる。


パルテオンとルルはそっと椅子に座り、賢者へ視線を注ぎ言葉を待った。

ノアは腕を組みながら立っており、朗らかな笑顔を浮かべ賢者を見つめる。


「では簡潔にッ。 ニヴェイシア子爵ですがッ――

 公式記録では、王都・セレスティオンに、居を構えていることが記載されておりましたッ」


「して、慈善活動や、教会への寄付等ッ!! 模範的な貴族ッ――

 これといった黒い情報は、見受けられないッ!

 貴族学生の皆さまにもお話をお伺いしましたがッ、名を知らぬ者ばかりッ!」


バルタザールはそれだけ伝えると、宙に浮かせた紙束や羽ペンを音を立て落とす。

結局のところ、情報を探れば探るほどに、彼の素性は分からなくなっていった。


「とりあえずよ、もう時間も時間だしよぉ、今日は切り上げた方が良いんじゃねぇか?」


パルテオンが椅子から立ち上がり、腰をひねりながら、皆へと提案。

ルルも猫のように、腕を伸ばしながら、扉へ歩いていく。


「そうだねぇ…じゃあ、また明日かな? 調べなきゃいけないことが沢山で、大変だねぇ…

 結局例の石の事も、未だに分からないままだしさ…。」


ノアも残念そうに息を付き、二人に追尾する形で扉へと向かうが――その時だった。


「アッ!!!!!!!!!」


唐突なバルタザールの叫び。彼は机の上に置かれた鞄を念動で手繰り寄せる。

鞄に腕をずぶりと突っ込み、そうして取り出されたのは――


銀色に輝く耳飾りが四つ、そして、一つの片眼鏡。


「忘れておりましたッ!!! ワタクシ、このような魔道具を持っていたのですッ!

 ああ!どうして今まで存在を忘れていたのかッ!! 失態ッ!!」


机に転がる耳飾りと片眼鏡。頭を抱え、くねくねと身体を動かす賢者。

皆は意味がわからず、気持ち悪い動きをする賢者を、ゴミを見るような目で見つめる。


「――これさえあればッッ! なんとッ! 遠距離にいても、ワタクシと常に――」


しかし、彼の言葉が最後まで紡がれることはなかった。


「「はよださんかい!」」


パルテオンとルルの怒声が綺麗に重なり、ノアは目を白黒させ、驚愕。

賢者バルタザールは「ひぃッ!」と情けなく小さな悲鳴を上げ身体を竦ませていた。





◆第一章 了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ