頁:22 その【一行】自己紹介につき。
思い出話に花を咲かせ――二人は笑って語り合った。
いつの間にか陽光は沈みかけており、夕暮れの涼しい風が二人を撫でる。
暮れゆく空模様に瞳を細め、視線を空へと落とし、口を開いた青年。
「あのときさ、君と出会っていなかったら……今こうして――
一緒に旅をしていなかったかも。」
「僕が選定の虹剣さんに選ばれたとき……パルがついてきてくれるって……。
そう言ってくれたこと、とっても感謝してるんだぁー!」
パルテオンもまた彼と同じように視線を空へと落とし――
照れくさそうに喉を鳴らして笑い、言葉を返した。
「あんときのちっこかった坊主がなぁー……。」
「こんな立派になりやがって!俺はもうオッサンになっちまったけどよ。
感慨深いちゅーもんよな……本当によ。 んでもよぉ、久々に――」
日が沈むまで二人は畑で話し込み――これまでの思い出を語り合う。
やがて日は完全に沈み、空にはいくつかの星が散りばめられる頃合い――
二人はようやく、宿へと歩幅を合わせて歩みだした。
村の家々には明かりが灯り、二人に優しい光を届ける。
そうして、二人は聖女たちが控える宿へと戻った。
◇ ◇ ◇
「本日は勇者さまを歓迎できることを嬉しく思います!」
「このような宿にお泊りいただき、感謝申し上げます勇者御一行さま!
ささやかではありますが……」
「お礼も兼ね、食事の席を設けさせていただきました!
お食事の場は勇者さま方の貸し切りですので、よろしければどうぞ!」
従業員に案内されるがまま、食事の席へと通される勇者と騎士の二人。
意識を取り戻した聖女の姿もそこにはあり、彼女はどこかよそよそしい。
「随分遅かったのー、勇者ちゃん、騎士ちゃんよー」
毛玉を抱きしめ、不服なのか……ジト目を向けているルル。
机に並べられた様々な料理を照らすランタンの明かり。
煮込み料理、肉料理、炒め料理やパンが、ところ狭しと並べられている。
どれも美味しそうな湯気をあげ、芳しく香る食事たちは垂涎ものだ。
「わあ……!どれもすっごく美味しそうだねぇ!ってルル……。
ずっとその子と一緒にいたのかな……?すっかり旅の一員だねぇ?」
「そうなんよね。コイツの名前さ……考えたんじゃけど『キュー』……。
とかどう?鳴き声も『キュ』じゃし、一番しっくりくるんじゃけど。」
彼女の一声で、その生物の名前は『キュー』と命名された。
キューは嬉しそうに跳ね回るとセラの胸元へ一直線へ飛び込んだ。
潜り込むように身体を預け『キュ!』とあざとく鳴くキュー。
「なんだか……私が気絶している間に一緒に寝ていたみたいで……。
それで、気が付いたら私にも懐いてくださるようになったのです……!」
四人と一匹で囲う食卓は和やかで暖かく――
食事を取りながらも四人で語り合い、穏やかに時間は流れていった。
先の一件を、ほんの少しだけ忘れさせてくれるような時間だった。
◇ ◇ ◇
「ねぇっ!改めてさ……自己紹介をしてみない?」
「僕とパルは昔なじみだからよく知っているんだけど――
セラとルルのことは、まだ知り合ったばかりでよくわからないからさっ!」
談笑を交わしがら食事を平らげた後に、提案を落とした勇者ノア。
全員が頷いて同意。そして最初に口を開いたのは――言い出しっぺの彼。
「改めましてっ!勇者のノア!」
「家名はないよ!ただの農家の生まれで、勇者になる前は普通の村人!
畑を管理するのが当たり前の毎日で、今は勇者って言われてるけど――
それも最近のことでさ。鍬を握っていた時間の方がずっと長いんだぁー」
飲み物の入っているカップを手に取り、水分補給の後、言葉を続けた。
「えっと、年齢は十七で一応は成人済み!それでねぇ――聖剣さん……。
選定の虹剣さんなんだけれど、なんと……!」
「たまに僕に語りかけてくるんだよ?不思議だよねぇー?」
鞘をコンと叩いてみせ、僅かに煌めき『よろしく頼む。』と呟くが――
当然ノア以外の皆に、聖剣の声は届いていない。
「それじゃ次――パルにお願いしようかなっ!」
言葉と視線を投げられ、手に持っていたカップを机へと置いた騎士。
「紹介に預かったパルテオンだッ!」
「長ったらしいが――パルテオン・バルムンク・ヴァルクレスト。
これが俺の本名だッ!末端とはいえ、ヴァルクレストの血筋――
つってもそんな気負わんでくれ。」
「戦功で“卿”ちゅーもん貰ってるが……。」
「んなお硬い感じのは俺も好かん。肩の力を抜いてくれると助かる。
元は煌陽国の騎士に所属していたゆえ、こんな格好してんだッ!」
「おっと……年齢だが……二十八だッ!
大層な名前してっけど、正直家格負けしてる自覚がある!ハッハ!」
「肩書なんざ飾りだろうし、俺には盾さえありゃ十分ってこったしな!
んで、俺の【加護】だが……【守護者】つーモンらしいが――……。
【加護】のこたぁよく分からんッ!恐らくは仲間を守るための力だろッ!」
彼は『ガハハ!』と豪快に笑い、次に視線をセラへと向けるが――
彼女はキョロキョロと周囲を見渡し、自身に指差して困惑。
「ええっと……では私の自己紹介を……の前に、です……!」
「本日は多大なるご迷惑を、皆さまにおかけしたことを謝罪させてください。
申し訳ございませんでした……。その――後に語らせていただきます。」
どうやら緊張している様子の聖女。
困ったように眉を下げ、深呼吸の後、控えめに自己紹介を始めた。
「聖女の名を拝受いたしました、セラフィーナ・ヴァイオレットと申します。
私の【加護】に関してですが――恐らくは【加護】自体が【聖女】かと――」
「大変恐れ多いのですが、私自身よく分かってはいないのです。
それと年齢は十五で、今年で十六になります。」
「好きなものは動物――それと、歌うこと……です。」
一拍の間を置いて、周囲を見渡すが……全員聖女の次の言葉を待っている様子。
「幼い頃よりずっと……人のお役に立ちたいと、そう願い生きておりました。
聖女としてのお役目は、重荷に感じることも勿論あります。」
「ですが――精一杯皆さまをお守りできればなと。 あ、それとですが……。
虫がとても……苦手で……と、特にっ……く、蜘蛛が――」
途中で言葉が詰まり、青ざめていく聖女。慌てて勇者が止めに入った。
「セラっ!!楽しいことを思い出して!それかほら……コレ!!
キューちゃん!キューちゃんを抱っこして!」
ふんわりでもこもこしたその生物を――セラ目掛け投擲するノア。
投げられた生物を抱きしめ、セラの顔色も落ち着きを取り戻していった。
大トリを飾るのは、道化師服の亜人族の彼女。
空になったカップを仰ぎ、気だるげに瞳を細め――語り始めた。
「ほいじゃーあたしの自己紹介。 亜人族で白兎小人族のルルリカ・ルリカ。」
「両親と家名が違うって思ったじゃろー?あたしらの族じゃ――
その集落と種族を指す言葉が人族の“家名”に当たるんじゃけど……。」
「あたしらの集落は『コエリーナ』っていうんよね。
で、なんであたしが名乗れんかっていうとなんと――名前自体が呪いなんよ。」
「そういうわけじゃけ、あたしには『真名』があったりする。すげーじゃろ?」
「名前自体が呪詛で、特殊な呪術文字が使われとるらしい?意味じゃけど……。
“ル”で『繰り返し』と『不変』“ル・リカ”で『注視』と『欠落』――」
「文字じゃけど……実はあたしにも、よう分からん。ふへへ。」
ランタンに照らされた彼女の紅色の瞳は、不思議な色味を帯び……。
どことなく重たい空気だが、小人族の彼女は意に解すことはなかった。
「その“呪い”のせいで、あたしは表情が面にだせんのよー。
まぁ、しゃーなしってヤツ?ちなみにこの言葉遣いじゃけど――」
「西の大森林の地域語って感じらしいぜー?しらんけど。
それと……魔法が使えるの、こっちであんま言わんで欲しい。よろー」
投げやりなように聞こえるが、理由が理由がだけに――
誰も踏み入ることはできず、無言の時間が流れた。
「ルルの事情は分かったよ。魔法のことは絶対に大っぴらにしない。」
自己紹介をしたからといえども、特に何か変化が生じたわけではない。
それでも、確かに一歩近づいたのかな?と――
なんとなく、全員が感じ取っていた。




