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その【聖女】転生者につき。~祝福?チート?……いいえ、呪いです。~  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。

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23/65

頁:23 その【少年】雇われにつき。

※注意喚起


本エピソードでは、物語の演出上、拉致・拘束、等。

一部不快感を与える可能性のある言動が含まれます。

苦手な方はご注意ください。





「こっち!」と少年に導かれるまま、セラは街中を駆ける。

切羽詰まっていた少年の背中は、どこか誘われているようで――


裾をたくしあげ、必死に少年の後を追いかけ、石畳の路地を抜けていく。


何度も、何度も――どれだけ走っても、似たような景色が繰り返されるばかり。


どのくらい走っていたのかセラには分からない。

しかし『母親がいる』という目的地とやらは、まるで見えてこない。


終わりの見えない追いかけっこに疲れ果て、足は次第に鈍く重く沈むようで。


「あの……ぼく……っ? おかあさん、はっ……どこ、かな……?」


肩で呼吸をし、胸元を抑え少年へと尋ねるセラ。

走っていた足は完全に止まり、少年を見つめる瞳には怪訝の色が宿る。


少年は振り返ると、セラを真っ直ぐに見据えるが――瞳には罪悪感の火。


「――ごめんなさい。 聖女さま……。」


最後に耳に届いた言葉――


視界は黒く塗り潰され、視界がぐにゃりと歪んだ。

甲高い耳鳴りが頭に響き、身体に冷水を浴びせられたような、嫌な感覚。


膝が崩れ落ち、意識が深い闇へと堕ちていった。



――


――――……



どのくらいの時間が経ったのか、セラには分からない。

目を覚ますと、全身に伝わるのは――冷たい空気と身体の重さ。


石の床に転がる身体からは、冷たい温度と、埃っぽく湿った嫌な空気。


腕は後ろに回され、縄のような物で固定され、身体の自由がきかない。

足首も同様にきつく縛られ、身じろぎするが――どうにもならなかった。


幸いなことに、口にはなにもされておらず、声は出せる状況なのだが……。

しかし、身体がまるで鉛のように重く、動かそうにも動かせない。


大声を上げて助けを求めたいが、それも叶わない。


(な、なにこれ……。 鎮静の魔法……? それか、薬……?)

(私を攫う理由が……分からない……。 怖い……っ!)


身体を襲うひどい倦怠感に、ただ呼吸することしか出来ず、浅い呼吸を繰り返す。

やがて、どこかから『ギィ』と、古い扉が開かれたような軋む音が響いた。


ただ扉が開かれただけ――それなのに、空気が代わるような錯覚。


軽やかな足音なのに、場の空気を支配するような、奇妙な圧力。


「おやおやー?お目覚めカナ? 気分はどーお? んー……。

 ボクの魔法が効きすぎちゃってる感じだネー。 いい気分じゃなさそ。」


銀白金(アルゲント・アルビナ)を後ろに一つに束ねた長髪――怪しく光る赤紫色の瞳。

(くだん)の怪しい貴族の青年――『白金子爵』こと、ニヴェイシア。


彼は両手を『ぱっ』と掲げて見せ、一見無害を装う。

しかしその不気味な微笑は、現在のセラにとって、かえって恐怖を煽るだけ。


鉛のような身体をどうにか動かし、声を出そうと藻掻くセラ。

が、喉から出てくる音は声にならず、掠れた音が鳴るだけ。


「あー……状況が状況だものネ。 安心してヨー?

 キミに危害を加えるつもりは毛頭無いしサ。」


にこやかで親しげな笑みを浮かべ、じわじわとにじり寄る青年。


「ちょっとネ。 キミとだけ“お話”がしたくってネ。

 こぉんな強引な手段使っちゃって、ゴメンネェー?

 キミが一人になる瞬間をずっと見計らっててサー? ヒヒッ。」


――意味が、分からなかった。


普通に接してくれれば良いものの、なぜ青年はこんな回りくどい真似を?

考えれば考えるほどに理解に苦しみ、喉の奥からは『ひゅ』と音が漏れる。


恐怖心で思考も呼吸も乱れ、セラは重い身体を引きずり、距離を取る。

青年は気にする様子も無く、セラの付近まで身を寄せ身体をそっと起こした。


「――さ、さわら……な……っ!」


なんとか言葉を絞り出すが、彼は眉を下げ、軽く肩を持ち上げるだけ。

困ったような微笑を浮かべ「やれやれ……」と面倒そうにため息を洩らす。


「危害は加えないって……言っても無駄だネー。」


聖女の前にかがみ込み、懐から小さな瓶を取り出した青年。

蓋を開け、強引にセラの口に瓶を押し当て薬液を流し込む。


吐き出したかったが、手で口を覆われ、それも叶わない。

首を小さく振って抵抗を試みるが、見越したように言葉が落とされた。


「毒じゃないヨ。 ほらー飲んで。 ただの心を落ち着かせるお薬。

 飲んでくれないと口移ししかなくなるケド。 ――嫌デショー?」


無理に嚥下させられたが、薬液が喉を通り過ぎると――

不思議と恐怖心が薄まり、呼吸は落ち着いていった。


青年は一息つくと小瓶を懐へ戻し、胡散臭い微笑を湛え、言葉を続けた。


「――まぁ……キミが望むならぁ? 口移しでもなんでも、ヤってあげるヨ?

 いくらでも相手したげるし……ボク、こうみえて結構モテるしぃ?

 なんなら今ココで、最後までヤっちゃってあげても良いヨォ? ィヒッ!」


「ボクと身体を重ねられるだなんて――とっても名誉なコトらしいしネェ?

 あの『幽玄の白雪』と床を共にしたって……“箔”がつくんじゃなぁい?」


左手で輪を作り、右手の人差し指で抜き差し――下劣で下品な醜悪な動作。

だが――それでも、感情というものが、まるで乗せられていない薄ら笑い。


声色もそうだったが、表情からも何も感じ取ることが出来ない調子だった。


どこか“芝居”めいた不気味さを感じる仕草。


下品なはずなのに――どうしてだろう。

彼がやる動作は温度を感じられず、恐怖心を植え付けられていくようで。


身体は強張り、恐怖心は確かにあった――が、どうにか声を上げた。


「最悪っ……ですっ! わ、わたしは【聖女】なのですよっ……!」


「あなたのような品のない冗談を言う方には、触れられたくもありませんッ……!

 あなたは、なんなのですか……っ! なんの、ためにっ……!」


青年は顔をぐいと近づけると「ヒヒッ」と小さく笑った。


表情を改め、彼は両手をぱっと開き、手のひらをひらひらと振り――

小さな子を宥めるような手つきで、セラの頭を優しく撫でる。


小さく「なんのため、ネ。」と呟くと、視線を一瞬だけ逸らし、言葉を続けた。


「理由は答えられない。 とりあえずゴメンネー? でもさぁ……。

 ああいう軽口でも言わないと、キミ……いつまでも怖がってたデショ?

 ボク、ホントは善良な貴族なんだけどネー。それじゃ、本題に入ろっかー。」


軽薄な声色で紡がれる言葉――彼はどこまでが本気なのか、まるで読めない。

青年は立ち上がると片手を後ろに回し、もう片方の手で人差し指を立てる。

まるで秘密でも打ち明けるような仕草――微笑を湛え、言葉を落としていった。


「この前、迷宮でキミたちにちょっかいをかけた、怖い童女……覚えてるカナ?

 あの童女サ……アレ、ボクの姉サマなんだよネー。」


鼓動が一層激しく動き、動悸が止まらず視界が霞むような感覚。


なぜ、今そのようなことを伝えるのか、また、童女が『姉』とは――

一体、どういうことなのか……考えたいことは山ほどあった。


「あの怖ーい童女がネ? 恐らくキミを狙ってて。 心当たりなぁい?

 キミを貫こうとしたあの短刀……覚えてる……デショ?」


(確かに投げられました、けどっ……いみが、分からないっ……!)

(私がいつ、どこで、あの少女に恨みを買ったというのですか……?)


ニヴェイシアはゆるりとセラに近寄り、再び腰を落とした。

手のひらに小さな銀色の輪飾りを転がして見せ、胡散臭く微笑む。


そのままセラの後ろに回りこみ、背中のほうで「カチャカチャ」と音を立て――

彼女の手首に腕輪をはめ、ため息を吐き出し再び立ち上がった。


「ふー。 多分これでいいカナ? ボクにも効果の真偽分からないケドー。

 とりあえずは“安心”できると思うヨー? ま、でも……ホント分かんない。

 ボクから言えるのは……キミはもっと周囲に気を配りなネってコトだネ。」


ニヴェイシアは指を軽やかに鳴らし、セラを拘束する麻縄をあっさりと解いた。


「全く……意味が分かりません……っ! ど、どうして私なのですか……!?

 それと……この腕輪は何なのですか!?あなたは、なんなのですか……!

 ――なんであの時、路地裏で私たちを助けてくださったのですか……!」


思い浮かんだ疑問を言葉として投げ、目の前の青年を睨みつける。

青年は瞳を細め、笑っているような顔つきで膝をつき、顔をぐっと寄せた。


「――そんなのサァ……。 考えてわからなぁい? 簡単だヨ?」


吐息が掛かるほど顔を近づけられ、蠱惑的な指先で聖女の顎をなぞる。


「キミにはまだ死なれてほしくない。 ボクが困るから……それダケ。」


軽薄さを残しつつも、どこか真剣さを滲ませたような囁きを落とす。

彼の赤紫の瞳からは――なぜか、どこか、悲哀が滲むようで。


「あー……それと、暴漢に襲われそうになってるの黙ってみてるのはネ。

 “貴族の紳士”としてあるまじき行為デショ? それともなぁに……?」


「ボクの手助けは不要だった……カナ?」


何か言葉を返したかった――が、意味がわからず何も言えないセラ。

青年は聖女の頬に手を添え、怪しい微笑で再び口を開いた。


「もしあのままキミが襲われでもしたら……キミは心を壊しちゃうデショ?

 それはボクにとってもよくないコトだし。 利害の一致ってヤツー。」


「キミの気にしている子どもだケド。 ボクが雇ったダケ。

 母親のコトも嘘。 もう安全な場所に返してるし、安心していいヨ?

 ボクのコト――気になる、デショ……? ヒヒッ……!!」


立ち上がり部屋の隅まで行くと、彼は人差し指で自身の唇を押さえ――

道化のような微笑で「ボクは待ってるから……」と語りかけた。


青年はひらひらと手を振っていたはずだったのだが……再び視界が揺らいだ。

空気が波打つような、輪郭が不快に歪み、視界がぼやけ――


瞬きをすれば、そこに広がっていた光景は、先程までいた教会だった。

セラは教会の裏庭に腰を下ろし、呆然と空を見上げて思考する。


――先ほどの出来事は、夢だったのだろうか?


そう錯覚するほど、清々しい空気が周囲を包みこんでいて。


清潔に干された白い布が風に揺られ、ぱたぱたとはためく。

どこからともなく聞こえてくるのは、正午を伝える鐘の音。


手首や足に縄の痕跡は見られないが、その手首には腕輪が残っていた。


外そうと試みるが、まるで縫い付けられたように手首から離れてくれない。

胸に手を押し当て、呼吸を整えながら教会へ戻り、神父に事情を説明し――


教会を離れた後、足早に中央街へと走り抜ける。


皆の待つであろう大図書館へ、一刻も早く向かいたかった。


「はぁっ……! はぁ……っ!」


セラの手首には冷たく光る腕輪。

かすかに脈打つような光を放つそれは、先程の青年の視線が絡みつくようで。


その余韻が残っているかのように、手首に纏わりついていた。





7/25 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。

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