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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護
22/30

その【令嬢】吟遊詩人につき。



聖女(セラ)が向かった教会では、彼女の噂を耳にした、大勢の人々が押しかけていた。

祈るように声を落とす信徒や、聖女に救いを求めすすり泣く老人。感謝の囁き。


聖女に癒やしを求める大勢のざわめきと、熱を孕んだ視線が、セラに絡みつく。

彼女は一見、落ち着いて対応しているようにも見えるが、それは表面上の話。


彼女の心中はあまり穏やかでなく、プレッシャーを感じつつ、自身に活をいれる。

深呼吸をし、人々の視線が降り注ぐ中、壇上に上がり、錫杖を掲げ《祈り》の言葉を紡ぐ。


「天にあらす我らが主よ、星の巡りの元……

 深き慈愛の雫を今此処に、我らに平穏の癒やしを分け与え(たも)う――《ルメン・サナティオ》」


彼女の祈りが紡がれると、錫杖から淡い虹色の光が零れ落ち、周辺一帯を虹色の粒子が覆い尽くす。

その粒子は人々へと注がれ、たちまち古傷までをも癒やし――人々は沸き立った。


周りからの感謝の歓声が上がり、聖女(セラ)は嬉しくもあり、怖くもあった。


「【聖女】様のお陰で、また畑に立つことができる……!」

「長年痛めていた腰、それに硬かった肩まで――まさに奇跡を呼ぶ聖女(ミラストラフロース)……!」

「さすがは、慈愛の乙女(シャティアメイデン)たる、聖女セラフィーナ様……!!」


口々に放たれる感謝の声。期待と別の何か、色々な感情が混ざった視線。

まるで神様そのものを相手にするように、拝み始める信徒まで現れ、セラは困り果てていた。


「いいえ――どうか勘違いをなさらないでくださいませ。 この力は私では無いのです。

 神様方の尊き御心(みこころ)が、あなた方を癒やしてくださったのです…」


彼女の横顔は、ステンドグラスから落とされた、色とりどりな光に照らされ――

まるで絵画に登場しそうな、聖女そのもので、その姿はかえって人々を沸かしてしまった。


しかし、そんな空気を裂くように、唐突に教会の扉が乱暴に開かれる。


一気に静まり返り、人々は教会の扉――音の方向へと皆視線を向ける。

そこには息を切らし、切羽詰まった状態の一人の子供。


「たすけて!!せいじょさま!! ママが、ママがっ!!」


駆け込んできた小さな少年の顔は、涙でぐしゃぐしゃで、必死にセラの元へ駆け寄る。

セラの心を動かすには十分で、彼女は少年の元へと駆け出した。


「案内してください。 すぐに向かいましょう!」


握りしめていた錫杖を小さくし、首飾りへと変形させると、踵を返し少年の手を取る。

少年は必死に頷きながらも声を震えさせ、彼女を外へと連れ出す。


残された人々は、聖女の残した虹色の粒子に囲まれ、呆然と、その光景を見送るしか出来なかった。


◇ ◇ ◇


場面は、鍛冶屋に大盾の修理を頼んだ後の、パルテオンへと移る。

彼は修理を頼んだ後に、冒険者ギルドへと趣き、その目的は酒場。


「情報収集の定番つったら、ココっきゃねえよな!」


豪快な足取りで冒険者ギルドの扉を開け放ち、その足で酒場へと向かう。

周囲は荒くれ者の冒険者に加え、黒いローブ姿の学生もちらほら確認できる。


常に喧騒が絶えない場所。それが冒険者ギルドという場所だった。

賑やかな笑い声に、乱雑に並んだ木のテーブル……芳しいアルコールの香り。


給仕係の、爽やかな笑顔が眩しい女性が、パルテオンの側まで来ると――

「あんたはビールって顔だね!」と気さくに話しかけた。


パルテオンは苦笑いをしつつ「ああ!頼む!」と短く返答を投げる。


すると、アルコールが運ばれてくる前に、パルテオンの側に寄ってくる小柄な影。

金色に淡い赤色の毛先、ゆるく巻かれている髪を、双髪にした年若そうな女性。


左右非対称の、赤色と金色の目をした小柄な女性が、パルテオンに軽快に喋りかけた。


「おい貴様! どこぞの酒場でも出会った騎士なのだ! 我を覚えてはいるか?」


唐突に話しかけられたパルテオンは驚き、少しだけ考える素振りを見せる。

全身を眺めると、理解し「ああ~あんときの…」と小さく呟いた。


「酒場で相席した嬢……ご令嬢さんだな? ああ、覚えているぞッ!」


給仕係が「あん?あんたら知り合いかい?」と声をかけ、テーブルにジョッキを置く。

パルテオンがジョッキに手を付けようとするが、不思議な令嬢がそれを手で制止。


「まぁ待つのだ、我も酒の席を共にしてやらんでもないのだ。」


令嬢はそれだけ言うと、パルテオンがなにか言う前に、勝手に席につき――

度数の高いアルコールを注文し、パルテオンへと、問いかける。


「こんな都市で、二度の邂逅に逢おうとはの! 感銘なのだ!クックック!

 して騎士よ! 賢者には会えたのか? 禁書庫とは厄介な場所であろうが――

 まぁ、勇者のお仲間ともあろうものが、会えなかったワケなどなかろうな! ククッ!」


やや尊大な態度で豪快に笑いながら、何処まで彼らを知っているのか、不思議な言葉。


「おうおう、ご令嬢さんよぉ? なんで俺らの事情、知ってんのか分からんが…

 ちょうどいい。 ニヴェイシアっつうー…貴族の情報探してんだ、なにか知らねぇか?」


「アメトリクス・フォン・ニヴェイシア子爵の事だの? 情報は高くつくぞ?ククッ!」


眉を吊り上げ、いやらしく笑う令嬢は、運ばれてきたジョッキを手に掲げる。

「とりあえずは乾杯なのだ!」というと、パルテオンは呆れた顔でジョッキを打ち鳴らした。


「さて、どうする、騎士よ? 我は情報を言ってやらんでもない。

 しかし対価はきっちり要求させて頂くのだ!

 我の事が信用ならぬなら、勿論それでも構わぬのだ。」


「――所詮は、たかが噂話と酒が好物な、吟遊詩人ゆえな! クックック!」


パルテオンは泡立つジョッキをぐいと煽ると、快諾。


「なんとなく解っちゃいるけどよ、どうせ、酒だろう!!

 俺が奢ってやるから、その代わりちゃんと情報教えろよッ!」


令嬢が手を上げ、給仕係を呼びつけると、なにやらコソコソと耳打ち。

すると、パルテオンと不思議な令嬢の二人は、ギルド備え付けの個室酒場へと案内された。


「一応なのだ、貴族の話をするゆえな? 人の目や耳があっては困ろう?

 貴様も貴族のはしくれなら、分かるであろう? なぁ――

 元・騎士…パルテオン・バルムンク・ヴァルクレスト卿。 クックック!」


「マジでおめぇさん、何処まで知ってんだ? 単なる噂好きの令嬢って訳じゃねぇな。」


くすりと笑い、女性はジョッキに注がれている酒を一気に飲み干す。

彼女が小さな鞄を漁り、その鞄の大きさに合わない紙と羽ペンを差し出した。


「書き置きしておいたほうが良いと、我はそう睨んだのだ。 感謝するがよい!ククッ!

 して我はただ、記憶力が優れているだけの、か弱いか弱い乙女なのだ!

 ニヴェイシアに関する事であったな? では語る故に、心して聴くが良いッ!」


吟遊詩人を謳うだけあり、彼女の言葉はまるで詩のごとく紡がれた。


曰く、かの子爵は、その名を轟かせた頃から、奇跡のような美貌だった――

曰く、黒い噂一つない、賢人のような存在で、人々から慕われている――

曰く、時が経っても、皺一つ増えない様は、人ならざる不気味な姿――

曰く、神出鬼没で、何処で何をしているのか、誰にもわからない――

曰く、ニヴェイシアの名を継ぐものは、瓜二つの容姿――


白金(プラチナム)子爵(ヴィコント)――かの幽玄の白雪(ニヴェイシア)は、先祖代々同じような顔つきだったと噂に聞く。

 我も直接この目で見たが、あれは“エルフ”か“ナニカ”であろうよ?

 我と同じ、長命特有の香りを――おっと、これ以上は有料なのだ、ククッ!」


羽ペンを走らせていたパルテオンの手が止まり、怪訝な瞳を彼女へ向ける。

長命特有の香り――彼女も同じ?思考が渦巻くパルテオン。


「なぁに、難しい顔をするでないのだ! 我は、半分の血がドワーフというだけ。

 あれだけ酒を飲んでいたのだ、示唆してやったというのに…

 ヴァルクレスト。 貴様はさては、鈍感であるな? クックック!」


唸り上げ、何も言えないパルテオンに対し、令嬢は言葉を続けた。


「まぁ良いのだ、次は我が記憶している国の公式記録を紡ぐのだ!

 しかと……我の美声を!その耳に!その心にッ! 刻み込むが良いのだ――ッ!」


――王歴、六百六十八年にて、叙爵、王国の勅命として、子爵位を賜る。

――王歴、六百九十七年に、功績を残し初代没、二代目に継承。

――王歴、七百二十四年に、二代目没、三代目に継承。


「これが国の公式記録なのだッ! それとだがな…。

 これも記録に残っているのだが、かの幽玄の白雪(ニヴェイシア)当主は――

 代々“アメトリクス”という名を継承しているそうなのだ。」


パルテオンがため息を付きつつ、雑な書き置きを見直し、眼の前の令嬢を見る。

懐疑的な色を孕んだ強い眼差しを、彼女へと向けるが、令嬢はなんのその。


「んでもってよ、おめぇさんは何者なんだ? 半分ドワーフってのは解ったがよ。

 ただの貴族令嬢じゃねえだろうよ? どうしてそんな事情に詳しい?」


「最初に言ったのだ!我はただの噂話と酒が好物な、吟遊詩人で半ドワーフであると!

 だがの、我は“もう”貴族の令嬢ではないのだ! 今の我は――

 ゼクスなのだ! 家名は無い! 疾うの昔に、捨て去ったのだ。」


“ゼクス”という名は偽名であることは、すぐに理解できた。

しかしそれ以上踏み込むのは野暮だと判断し、パルテオンは感謝を述べ――


そして、彼女が注文した酒、その十杯分の代金を机に置き、その場を後にするのだった。





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