頁:19 その【異変】未解決につき。
――◆第二章
身体に覚える浮遊感と共に、気がつけば全員の姿は迷う前の森。
「ふう……エルフ族の方って、とてもその……なんとも言えない恐怖が……。
私、情けないのですが怖くて一言も喋ることが叶わず……。」
泣き言を洩らす聖女に同意の意志を示す騎士。
二人で『大変だった』と語る隣――勇者が『あ!』と声を上げた。
全員の視線が勇者へと向けられるのだが――
彼の肩に乗っているのは、あの小さなふわついた生き物。
彼……彼女なのだろうか、この生き物は勇者たちに同行してしまっていた。
「ど、どうしよう……エルフさんたちに預けようって思ってたのに……。
――もういっそ、名前でも付けちゃう?」
「ガッハッハ!とんだ肝が据わった毛玉だなッ!」
苦笑交じりに、頬を掻いてふわふわ生物を頭の上に乗せるノア。
彼の頭に鎮座したそれをゴツい手で撫でる騎士……微笑ましい光景。
「んー……ほんなら名前じゃけど――」
「“きんぴら”か“ぶぶづけ”とかよくね?どう?」
小人族の彼女が提案した名は、あまりにもネーミングセンスに欠けたもの。
勇者たちは顔を見合わせるまでもなく――呆気なく却下の流れ。
(なぜ……食べ物の名前ばかりなのでしょうか……?)
「あまり……可愛いとは言えない名前な気がしますねぇ……。」
「んだなぁ……もうちょい、可愛いのをたのむッ……。」
「あはは……まぁ、おいおい考えていこうね?」
◇ ◇ ◇
雑談を交わし、和やかな雰囲気で森を歩んでいた勇者たちだったのだが――
木々の切れ間に差し掛かった頃合い、違和感しか感じない森の様相。
真っ先に気が付いたのは、集落暮らしが長かった小人族の彼女。
「ちょい止まって……。音が、聞こえん。虫とか……?
あと……動物の鳴き声も――聞こえんのじゃけど。」
彼女の言葉に、皆耳を澄ませてみるが――確かに聞こえない。
森に到着した当初は、確実に鳥の囀りや、獣の足音がどこかから響いていた。
が……今はそれらが全て途絶え、代わりに響くのは、葉擦れのざわめきのみ。
周囲に目を向ければ、木の根元で震えて怯える小動物。
木々の間では大人しい魔鳥が羽毛を逆立て、何かに対し威嚇。
どの動物も総じて言えるのが、騎士に対し敵意を向けているような――
「絶対昨日拾った変な石のせいじゃろ?こりゃ――
もう早いとこ処理した方がええんじゃないん?瘴気かなんか知らんけど。」
大きめのフードを目深に被り、露骨に嫌悪を露わにする小人族の彼女。
「そう、だよね。」
「でも――怪しいからこそ、ちゃんと調べてもらうのが良いって思うんだ。
きっと、その石のせいで昨日出会った魔物さんも変になっちゃったって。」
「僕たちで分からない以上、他の人に見てもらうのが適切かなって。」
「んだな、国の研究機関に持っていって、見てもらうのが先決だろう。
俺もノアの意見に賛成だ。」
「魔物を変質させるだなんてよ、ただ事じゃねぇ。
それにもしかしたら、もう既に研究されてるかもしれんだろ? 違うか?」
瞳を細めていた小人族だったが、彼らの言葉に『ふう』と一息。
「わーった。しゃーなし。」
そうして森を抜け、森に入る前の景色に安堵する勇者たち。
勇者一行に依頼をした村へ、報告のために戻ったが――
早速村人たちに取り囲まれ、どうなったのかと説明を求められた。
どうやら村人が語るに――
勇者たちが出立してから日にちが空いていたとのこと。
村人たちの言葉に困惑し、互いに顔を見合わせる一同。
確かに一晩はあの森で過ごしたが――がしかしだ。
過ごしたのは一晩限り。数日ともなると時の流れの辻褄が合わない。
「ああー……そこはあたしから説明するわ。ええっと……。
勇者ちゃんたちなんじゃけど、斯々然々って事情があったんよ。」
小人族が説明をし、問題解決かと思っていたのだが、浮かない顔の村人。
彼らの表情は未だに晴れることはなく、怪訝に思ったノアが優しく尋ねた。
「あの――ちゃんと異変は解決出来たと思うんだけど……もしかして――
まだ何か、お困り事があったりしますか?」
勇者の言葉を受け、村人を代表した一人の老人が勇者たちの前へ。
やがて老人が――ぽつりぽつりと語りだした。
「そうですなぁ……勇者様方が村を立たれてすぐ――
確かに暴れていた動物たちは沈静化したんじゃがの……。」
「勇者様方が出立して二日目……つまり昨日からまたなのですじゃ。
別の方角の森林の様子がおかしくての……。」
「そうですなぁ、なんとも不気味な……まるで、木々そのもの――
いや、あれはまるで、大地すら怯えているような……。」
勇者たちは互いに顔を見合わせて眉をひそめた。
そう――異変はまだ解決などしていない。
まだ始まったばかりなのだ、と。
「大地すら怯える、ですか……パルテオンさんが持ち帰った石……。
関連性が無いと、言い切れない……ですね。」
「んだな。これ一個ってのはまず考えられんし、複数あんだろ。」
勇者誕生の時点で不信感を覚えていた聖女。
世界に奔る異変はもっと――根が深い物なのかもしれないと。
肩を小さく震わせるが、気づかれては、また勇者たちを心配させてしまう。
こんなことではいけない――と。
自身を奮い立たせ、誤魔化すように首飾りを握りしめる聖女。
その後、村人たちに、異変の方角を示してもらい――
急ぎ足で示された方向へ、向かう運びとなった。




