頁:18 その【長老】寝坊助につき。
先頭を歩くルルに、ぞろぞろと付いて歩く三人。
遠くからはエルフたちからの視線が刺さり、気が気でない聖女。
歩いていくと、遠くの視界に映るのは、とても大きな樹木。
歩いている途中、ルルが全員に語り聞かせたのは、古い伝承。
それは――まだエルフという種族が産まれてすらいない太古の時代。
いつから存在しているか分からない『精霊樹』と呼ばれている大樹。
今現在もなお、成長を続けている『ティル・エルド』と呼ばれる植物とのこと。
大樹が存続するかぎり、この土地は護られているのだと語った。
そうして、エルフの長がいると言われた区域に無事到着した一同。
“長”という単語から、豪奢な場所を想定していた彼らだったのだが――
確かに規模感はそこそこなのだが、周りと大差はないツリーハウス。
短杖を手にしたルルが扉をコンコンと叩き、扉に向かって語りかけた。
「おーい、ババアー人族の迷子連れてきたけ、帰したげてー」
「はぁ……エルフ連中ってさ、長寿じゃけぇかしらんけど、すげえトロいんよ。
下手したら数時間――んや、数十年待たされるぜ?ほんまやんなるわ。」
くるりと身を翻して扉に向かって「聞いとんかワレェ!」と叫ぶルル。
凄んでいる彼女だが、無表情ゆえにかえって倍増する恐怖。
結局のところ、三人にできることといえばただ待つことのみだった。
◇ ◇ ◇
その後――
どのくらいの時間が経過したのか不明だが、一向に出てこない長。
仕方なく談義中の彼らだったのだが、他のエルフたちからの視線が刺さる。
しかし――待てど暮らせど、長という人物が出てくることはない。
ただ会話を重ね……時間だけが緩やかに過ぎ去っていくばかり。
「――そうそう、それでねぇ?その畑にいたモグラが……」
談笑していた一同の元へ、近づいてくる影。
先ほど一同に対峙した、薄葉色の髪色をしたエルフの姿。
彼は宙に身体を漂わせて、片手を上げ軽い調子で挨拶を交わし、着地。
はんなりとした微笑なのだが、どこか笑顔の裏の『憤り』を漂わせる。
「まだ帰ってはらへんの?あの長……ほんっま呑気でいはりますもんなぁ……。
ウチに任せてもろてもかまへんやろか?ウチ、ちょっと気の毒でなぁ。」
「かわいそで、見てられへんわぁ……」
「はぁ……まじおなしゃーす。」
簡単な応酬の後、はんなりとした微笑を湛え、扉の前に立った青年。
手に長杖を召喚し、ぶつぶつと何か言葉を落とし風を起こし――
凄まじい暴風が吹きすさび、扉を強引に開け放った。
開口一番、穏やかな口調ながらも声を荒げるエルフ。
「自分に素直なのはええことかもしらへんけど……何してはりますの?」
「いつまで、お客人をおまたせなさるおつもりなんやろか?
お相手はん人族え?ウチらと寿命の刻み方違いますさかいに。」
「長……ウチらのまとめ役あらはるお方やろ?
そないな方が時間を軽う扱わはるの、如何なもんやろか?」
「そろそろ、いい加減にお出まし願えます?」
穏やかな口調ではあったが、なかなかにドスを利かせた声。
やがて――部屋の奥から出てきた姿。
「やかましおすなぁ……そない声荒げんでもよう聞こえてますえ?」
寝ぼけたような声。寝癖たっぷりの苔色の髪色に、銀色の瞳のエルフの女性。
「なんや思いましたら……同族どしたか?よー耳に障る声どしたさかいに……。
どこぞのドワーフやと聞き間違えましたわぁ?それで……なんの御用どす?」
「ふわぁ……こないな面倒な他種族の方まで連れてきはって……。
さてはて――わたいに出る幕はありますやろか?」
長の女性はあくびひとつ。視線を全員に移した後に同族へと説明を求めた。
物怖じすることなく、薄葉色のエルフが全員の代わりに事情を説明。
「なるほど……精霊様の悪戯でここまで来はったんどすなぁ?
そりゃさぞかし大変どしたやろ?ほなら、そのことはわたいに任せとき。」
「そこな人族の……えらい勇ましいお召し物纏ってはるそこなお子さん。
最後に自分がどこおったか、覚えてはります?情景でええねんけど。」
「あぁ……そない怖がらんでもええで?ちゃぁんと、送り届けますさかいに。
せやから心配せんと楽にしておくれやすー……ふわぁ……。」
勇者が簡潔に説明し、長がうなずき――帰れる目処がたった一同。
薄葉色の髪色をしたエルフが安堵の息を漏らし、一同から身を引いたが――
「あっ!待ってくださいっ!えっとその、とっても助かりましたぁっ!
どうお礼を言ったらいいかなぁ……?あ、そうだ――」
「僕は人間族……?の勇者をやってます!名前はノアッ!
なにかお困り事があったら、なんでも言ってくださいっ!」
「必ず――僕たちがなにかお役に立ちますのでっ!えへへーっ!」
「ご丁寧にどうも……」という言葉の後に、照れくさそうにする薄葉色のエルフ。
「ウチ……エルヴェイン申します。ほなら……せやねぇ……?
人族の国に旅行でも行ったときとか――あんさんが案内してくれはる?」
「それでよろしおす。お礼やなんて、かえってくすぐったいだけやし……。
それにウチ、そないなもん貰うため、あんたはんら助けたわけやあらへんし?」
互いに笑い合い、軽く握手を交わすエルフと勇者。
「ほなら……今度は精霊様に惑わされんよう、気をつけなはれー?」
長の声とともにルル含めた勇者一同の姿は風に包まれ――
またたく間に、その場所から姿を消した。
◆第一章 了
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