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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:些細な異変の兆し。

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20/137

頁:18 その【長老】寝坊助につき。



 先頭を歩くルルに、ぞろぞろと付いて歩く三人。

 遠くからはエルフたちからの視線が刺さり、気が気でない聖女。


 歩いていくと、遠くの視界に映るのは、とても大きな樹木。


 歩いている途中、ルルが全員に語り聞かせたのは、古い伝承。

 それは――まだエルフという種族が産まれてすらいない太古の時代。


 いつから存在しているか分からない『精霊樹(シーラ)』と呼ばれている大樹。

 今現在もなお、成長を続けている『ティル・エルド』と呼ばれる植物とのこと。


 大樹が存続するかぎり、この土地は護られているのだと語った。


 そうして、エルフの長がいると言われた区域に無事到着した一同。

 “長”という単語から、豪奢な場所を想定していた彼らだったのだが――


 確かに規模感はそこそこなのだが、周りと大差はないツリーハウス。


 短杖(ワンド)を手にしたルルが扉をコンコンと叩き、扉に向かって語りかけた。


「おーい、ババアー人族の迷子連れてきたけ、帰したげてー」


「はぁ……エルフ連中ってさ、長寿じゃけぇかしらんけど、すげえトロいんよ。

 下手したら数時間――んや、数十年待たされるぜ?ほんまやんなるわ。」


 くるりと身を翻して扉に向かって「聞いとんかワレェ!」と叫ぶルル。

 凄んでいる彼女だが、無表情ゆえにかえって倍増する恐怖。


 結局のところ、三人にできることといえばただ待つことのみだった。


 ◇ ◇ ◇


 その後――


 どのくらいの時間が経過したのか不明だが、一向に出てこない長。

 仕方なく談義中の彼らだったのだが、他のエルフたちからの視線が刺さる。


 しかし――待てど暮らせど、長(おさ)という人物が出てくることはない。


 ただ会話を重ね……時間だけが緩やかに過ぎ去っていくばかり。


「――そうそう、それでねぇ?その畑にいたモグラが……」


 談笑していた一同の元へ、近づいてくる影。

 先ほど一同に対峙した、薄葉色(うすばいろ)の髪色をしたエルフの姿。


 彼は宙に身体を漂わせて、片手を上げ軽い調子で挨拶を交わし、着地。


 はんなりとした微笑なのだが、どこか笑顔の裏の『憤り』を漂わせる。


「まだ帰ってはらへんの?あの長……ほんっま呑気でいはりますもんなぁ……。

 ウチに任せてもろてもかまへんやろか?ウチ、ちょっと気の毒でなぁ。」


「かわいそで、見てられへんわぁ……」


「はぁ……まじおなしゃーす。」


 簡単な応酬の後、はんなりとした微笑を湛え、扉の前に立った青年。

 手に長杖(ロッド)を召喚し、ぶつぶつと何か言葉を落とし風を起こし――


 凄まじい暴風が吹きすさび、扉を強引に開け放った。


 開口一番、穏やかな口調ながらも声を荒げるエルフ。


「自分に素直なのはええことかもしらへんけど……何してはりますの?」


「いつまで、お客人(まろうど)をおまたせなさるおつもりなんやろか?

 お相手はん人族え?ウチらと寿命の刻み方違いますさかいに。」


「長……ウチらのまとめ役あらはるお方やろ?

 そないな方が時間を軽(かろ)う扱わはるの、如何なもんやろか?」


「そろそろ、いい加減にお出まし願えます?」


 穏やかな口調ではあったが、なかなかにドスを利かせた声。


 やがて――部屋の奥から出てきた姿。


「やかましおすなぁ……そない声荒げんでもよう聞こえてますえ?」


 寝ぼけたような声。寝癖たっぷりの苔色の髪色に、銀色の瞳のエルフの女性。


「なんや思いましたら……同族どしたか?よー耳に障る声どしたさかいに……。

 どこぞのドワーフやと聞き間違えましたわぁ?それで……なんの御用どす?」


「ふわぁ……こないな面倒な他種族の方まで連れてきはって……。

 さてはて――わたいに出る幕はありますやろか?」


 長の女性はあくびひとつ。視線を全員に移した後に同族へと説明を求めた。

 物怖じすることなく、薄葉色(うすばいろ)のエルフが全員の代わりに事情を説明。


「なるほど……精霊様の悪戯でここまで来はったんどすなぁ?

 そりゃさぞかし大変どしたやろ?ほなら、そのことはわたいに任せとき。」


「そこな人族の……えらい勇ましいお召し物纏ってはるそこなお子さん。

 最後に自分がどこおったか、覚えてはります?情景でええねんけど。」


「あぁ……そない怖がらんでもええで?ちゃぁんと、送り届けますさかいに。

 せやから心配せんと楽にしておくれやすー……ふわぁ……。」


 勇者が簡潔に説明し、長がうなずき――帰れる目処がたった一同。

 薄葉色の髪色をしたエルフが安堵の息を漏らし、一同から身を引いたが――


「あっ!待ってくださいっ!えっとその、とっても助かりましたぁっ!

 どうお礼を言ったらいいかなぁ……?あ、そうだ――」


「僕は人間族……?の勇者をやってます!名前はノアッ!

 なにかお困り事があったら、なんでも言ってくださいっ!」


「必ず――僕たちがなにかお役に立ちますのでっ!えへへーっ!」


「ご丁寧にどうも……」という言葉の後に、照れくさそうにする薄葉色のエルフ。


「ウチ……エルヴェイン申します。ほなら……せやねぇ……?

 人族の国に旅行でも行ったときとか――あんさんが案内してくれはる?」


「それでよろしおす。お礼やなんて、かえってくすぐったいだけやし……。

 それにウチ、そないなもん貰うため、あんたはんら助けたわけやあらへんし?」


 互いに笑い合い、軽く握手を交わすエルフと勇者。


「ほなら……今度は精霊様に惑わされんよう、気をつけなはれー?」


 長の声とともにルル含めた勇者一同の姿は風に包まれ――

 またたく間に、その場所から姿を消した。





 ◆第一章 了

ここまで読んでくださって、とても嬉しく思います。

誤字脱字があればご報告いただければ幸いです。


お気に召していただけましたら、

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