表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護
19/30

その【童女】魔族につき。



ノアとセラはというと――


彼らの進んだ道は、かなり道が狭くなっており、ノアは若干進みにくそうに歩んでいた。

セラは錫杖が所々引っかかりそうになり、仕方なく首飾り状態へ。


「狭いねぇ…僕にはちょっと、窮屈だしこれじゃあ聖剣さんが振るえないねぇ…

 いざとなったら拳でも戦うけどさぁ…」


「ここ、本当に道なのでしょうか… なんというか、嫌な予感が…」


二人で会話しつつ進むが、特に何事もなく、やがて道は突き当り。

帰る道すがら、通路が狭く足元を取られ――セラがノアのマントを巻き込み転倒。


「きゃっ!」と小さく悲鳴を上げ、すっ転んでしまうが、ノアが庇い下敷きに。

思いっきりノアの身体へ、全体重を乗せる形となってしまったセラ。


彼女は申し訳なさに、青ざめつつも、下にいるノアから離れる。


「まっ……真に申し訳ありませんっっ!!! 重いですよね!!ほんとにっ…!」


顔を覆い隠し、必死に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈るセラだったが、ノアがそれを制止。


「ちょっとまって、セラ!! 大丈夫!!大丈夫だから!! ねっ!

 力使いすぎちゃったら、セラ、また倒れちゃうよ……!」


セラを落ち着かせた後、結局は、来た道を戻るしかない二人だった。


◇ ◇ ◇


一方、パルテオンとルルはというと――


「なんとなくこっちが正解な予感しとんよ。 あたしの勘がそういっとる。

 根拠は全くねーけどよ…でも、これみりゃ――」


「大した自信だなオイ…。 だが俺も同意見だ。 明らかに、スライム――

 いや!いくらなんでも多すぎんだろ!! おいルル!コイツらどうすんだ??

 どんだけ増殖したら、ここまで増えるんだ畜生…!」


そう。彼らは正解の道を引いていたのだが、彼らの行く手を阻むのは、多数のスライム。

多数と言うには少々言葉が足りず、壁や天井を埋め尽くす程のスライムで溢れていた。


パルテオンは大盾を構えつつ、じわりじわりと滲み寄るが――

スライムが「ピョン」と、威嚇するように跳ねるたびに、彼は一歩下がる。


ルルは一見無表情だが非常に困っており、どうすればいいかを逡巡――

やがて一つの解を導き出し、短杖(ワンド)を掲げ、そっと詠唱を始めた。


「万象を覆う白き静寂(しじま)よ、その吐息は時を止め、 その(かいな)生命(いのち)を縛る――

 我が呼び声に応え、氷の棺を築きしめよ。 逃れる術なき絶対零度の冰獄(ひょうごく)――《ヒオルム》!」


ルルの周囲に風が吹きすさび、小さな氷の粒が集まっていく。

ルルが短杖(ワンド)を軽やかに動かすと、氷の(つぶて)を纏う嵐がスライムの軍勢を襲う。


天井や壁にびっしりこびりついたスライムは凍り、自重に耐えきれず、ぼとぼとと落ち――

物理法則に基づき、スライムの身体はバラバラに砕け散った。


「やったぜ。 あたしらの勝ちだな。 へへーん!

 でも魔力の消費がちょいきついかも…ふぅ…。 打てて後二、三回が限界だぜー…」


「魔法ってこの国じゃ忌避されてっからなぁー、あんまお目にかかれねえからよぉー…

 ここまで凄まじいと、魔族って一体どんなバケモンなんだって思っちまうな…

 そういや、魔族について、賢者に聞くの忘れてたな…」


二人はスライムとの戦闘の戦利品である、ガラス玉の様な透き通る玉を集める。


スライムの核は割れやすい為、扱いは丁寧にしたほうが良いと、パルテオンがルルへと指示。

ルルが持ってきていた手巾に、丁寧にスライム核を包み、パルテオンの鞄へと入れる。


そうして“掃除”をしていると、ノア、セラと合流を果たした。


「あっちは何もなかったし、狭かっただけだったよ…行き損だったねぇ…」


「はい…狭いだけで何も無いのは…ちょっと悲しかったです…そちらは?」


ルルが先程までスライムの大群に襲われ、危なかったと大げさに説明。

ノアの顔が青ざめ、二人に申し訳なさそうに謝罪。


スライム地帯を越えた先に、六層から七層へと降りる階段が現れ、皆安堵の息を漏らした。


ノアが先頭に立ち、階段を下っていくが……。

妙な気配を感じていたノアは、いつでも聖剣が抜けるようにと、柄に手を触れていた。


「なんだか、嫌な気配がする…。 みんな、いつでも戦えるように構えておいて…っ!」


ノアの言葉に一同が頷き、戦闘態勢を取りながら、長い階段を下る。


七層に降り立った瞬間から、景色が異様だということが見て明らかだった。

そこに蠢いていたのは――顔が虚空に呑まれてしまった魔物たち。


ゴブリンや、先程戦った二足歩行の鼠頭の魔物――その奥には黒い泥。

黒い汚泥が泡立ちながら変形していき、触手のような形を取り、蠢く。


「また、だな。 賢者が聞いたっつー、噂通りってわけだな。」


「これで、三度目――だね。 近くに石は…無いみたいだけど…」


パルテオンが大盾を構え、前へとじわりと迫り、ノアが聖剣を抜き放ち――

彼は強く踏み込むとゴブリンと鼠型の魔物を圧倒していく。


だが彼は、触手の脅威を知らなかった。


ぬらぬらと、光を反射し、機を伺うように蠢く触手――

ノアをするりとすり抜け、後衛二人めがけ、勢いよく伸び、手足に絡みつく。


セラは《祈り》を紡ごうとしていた最中で、止められてしまったようだった。

錫杖を持つ腕を、がしりと拘束されてしまい祈れないセラ。


「ちょっ……! 嘘っ…… ま、まって! きっ気持ちわるっ…!

 へ、変な所…触らないでくださいっ…! くっ、このっ!」


がむしゃらに抵抗するセラは、手足を拘束され――身体を持ち上げられつつあった。

一方でルルはというと、触手に絡まれているにも関わらず無表情。


「わー、しんど。 まじだる。 パラライズっ」


彼女は麻痺の魔法を放つと触手は動きを止め、彼女の拘束は解けた。

しかし拘束が解けたのはルルの周りの触手だけで、セラは未だにされるがまま。


「わりぃ、セラちゃん。 あたしのパラライズ、そっちにつかえん。

 使ってもいいけど、セラちゃんが麻痺っちまうから、無理。」


セラの身体は触手に持ち上げられており、彼女の顔色は悪くなる一方。

神官服でわからないが、足元を見れば、這い上がってきているのは見て取れる。


(まずい、ですねっ…ふくらはぎ辺りまで登ってきてるっ…!)

(錫杖、は……掴まれてしまって、とても祈れないっ…! ああもう!)


セラは抵抗を諦め、顔をノアへと向け、彼に向かって声を上げた。


「ノアッ! お願いですっ…助けてくださいっ…! 錫杖がなければ――

 祈りの力が弱まる上、集中しなければそもそも祈れないのですっ!

 【聖女】とて、万能ではありませんっ……! どうかっ…おねがいっ…!」


助けを請われたノアだったが、彼は切り込もうにも決断出来ずに居た。

触手だけ切れば良いことは、ノアでも流石に理解はしているのだが――


彼女の身体は持ち上げられ、このままでは色々と危ないことは想像に容易い。

切り込もうにも、何処から切り込めば良いのか分からず、尻込みしていた。


(どっ、どうしたらっ!? 聖剣は長剣なんだ…仮にセラを怪我させてしまったら…!)


パルテオンが見兼ね、舌打ちをしつつノアに怒声を浴びせる。


「おいノアッ! 戦闘中だぞッ! 冷静になれ!

 錫杖を持つ腕の触手だけ、切ればいいッ! それさえやりゃ、恐らく聖女(セラ)は祈れるッ!」


ノアは一瞬、驚いたような顔を浮かべ、即座に言われた通り触手を切り離す。

セラの身体は持ち上げられたままだったが、彼女は錫杖を胸に抱え、祈りを紡ぐ。


「天にあらす我らが主よ、不浄、穢れ……

 あらゆる醜穢を星の巡りの元、慈愛を以て還し(たも)う――《ピュリタス》」


彼女の身体から、ぶわりと淡い金色の光が迸り、セラの身体を包み込むと――

拘束が解け、彼女はようやく地に足を付くことができ、息を付く。


「パルテオンさん、ノア、ありがとうございますっ!」


セラは錫杖を掲げ直し、力強く祈る。

触手を成した黒い汚泥はぶくぶくと泡立ち、浄化の影響で、体積を小さくしていった。


周りの魔物たちはノアがあらかた殲滅をしていた事もあり、後は楽なものだった。


パルテオンが大盾で今度こそ後衛を守り、ノアが両断していく。

セラは両手に錫杖を握りしめ《防御の祈り(グラティア)》を紡ぎ、皆を守護。


しかしジリ貧で、黒い汚泥からは、無限に触手が湧き出ており、皆を邪魔していた。

ルルがためらいつつ、ため息と共に短く唱える。


「あーもうッ! パラライズっ!

 だめじゃーあたし… もうっ…打てて、一発が限界だぜ…」


短杖(ワンド)を軽やかに動かし、敵の動きを封じると同時に、ルルはその場にへたり込む。

ルルの作った隙を逃す訳にはいかないと決意し、ノアは心の中で聖剣へと語りかける――


『【勇者特権(ブレイブ・オーダー)】使わせていただくよっ!』


碧灰(シエルグレイ)の瞳が、いっそう強く輝きを増し、彼の手に持つ聖剣に光が収束していく。

収束した光が最高潮に達した時、彼の脳内にのみ響く、冷たく澄んだ女声。


勇者特権(ブレイブ・オーダー)起動(アクティベート)……使用を承認(エグゼキュート)


「――聖光一穿(セイコウイッセン)ッ!!」


聖剣を大きく引き、強く突き出すと、剣先から穿たれた光――

その光は大砲のような轟音と共に一直線に敵を貫き、全てを蒸発させた。


七層を覆っていた不気味な気配が、一斉に霧散し、後には何も残らない。

大技を放った後の聖剣は、透明な刀身が変化し、色味を帯び実態感のある物質へと変化。


迷宮・七層を覆っていた不気味な気配は、何事もなかったように晴れた。

ノアは聖剣を納め身を翻し、全員の無事を確認しようと顔を向けた――その時だった。


乾いた空気を裂き、銀色の光を纏った短刀が何処からか飛来し――

一直線へセラの胸元へと放たれたが《防御の祈り(グラティア)》が胸に到達するのを阻止。


しかし、甲高い音を立てながら、ガラス片のような聖光が砕け散った。

「カラン」と音を立て、短刀は彼女の足元へ、鈍い金属音を立て転がる。


「えっ……なっ―― な、に……?」


ノアはすぐさまに聖剣を構え直し、パルテオンがセラの側へと駆けつける。


短刀が飛んできた方向から、軽い足音が聞え、闇の中からふわりと現れる姿。

浮遊するように揺れ蠢く、白金色(プラチナブロンド)の波打つ、床に届くほどの長い毛髪。


黒を基調としたドレスに、血のような赤いフリルが彩られた派手な衣装。

半束ねにした双髪が、幼い印象を与えるが、額――こめかみ部分から覗く鋭利な二本の黒角。


血色をまるで感じられない蒼白な肌に、柔らかだが、どこか嘲笑的な笑顔。


灰黄色(かいこうしょく)紫水晶(アメジスト)色に輝く、左右非対称の無垢な瞳が、僅かな狂気を孕み、聖女を見据える。

誰の目にも明らかな、その異様な童女の姿は“魔族”であることを雄弁と語っていた。


「あっれれぇー? ぼくのぉナイフ、当たってないのぉ?

 ちょっとぉ、ざんねぇん…… でもでもぉ――」


舌足らずで拙い猫撫声が、石壁に不気味なほどに反響する。


恍惚とした、嘲笑の笑みを浮かべた童女は両手を広げ、全員に優しく語りかけた。


「さっきぃ、うちの子達とぉ…遊んでくれたー? からぁ…いーのぉ!

 ――またあとでぇ、あそぼうねぇっ! ぃひひっ!」


その幼い声と共に、彼女の身体は揺らぎ「びちゃっ」と音を立て――

その姿はもう既に無く、彼女の居た場所に残されたのは、黒泥。


後に残ったのは不気味な余韻と、セラの足元に転がる短刀。

彼女は肩を震えさせ錫杖を握りしめ、自身を落ち着かせるように胸元を押さえた。


(《防御の祈り(グラティア)》が一瞬で――もし、祈りがなければ…私はっ…!?)


震えるセラの元にノアが駆けつけるが、その表情に朗らかさはない。


「セラっ!!! ごめん……!! 僕が油断したばっかりに……!怪我はっ…?」


ノアがセラの身体に傷がないかを確認しようとするが、彼女の様子を見て、辞めた。

セラは恐怖からか、震えたまま動けず、足を竦ませるばかり。


一同は皆、恐怖で固まり、全員がその場で立ち尽くすしか出来ないでいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ