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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
19/63

その【童女】魔の者につき。



狭い道を選んだ勇者(ノア)聖女(セラ)――

彼らの選んだ道はかなり道が狭く、ノアは若干ではあったが、歩きづらそうだ。

錫杖を持っていたセラも、引っかかりそうになり仕方なく首飾りの状態へ。


「なんだか狭いね……? 僕にはちょっと、窮屈かもっ……!

 これじゃ聖剣さんが抜けないし……いざとなったら拳でも戦うけど……。」


「ここ、本当に道なのでしょうか……?なんというか、嫌な予感が……。」


二人で会話を挟み進むが、特に何事もなく――やがて道は突き当りに。

引き返す道すがら、通路が狭く、足元を取られてしまったセラ。


ノアのマントを巻き込み転倒し「きゃっ」と小さく悲鳴をあげる。


勇者(ノア)聖女(セラ)を庇い下敷きになった結果、彼女(セラ)には傷一つ無い。

が……彼女は思いっきり、彼の身体へと、全体重を乗せる形に。


申し訳なさそうに顔を青ざめさせ、下にいるノアから慌てて離れるセラ。


「まっ……! 誠にもうしわけありませんッ! 重かったですよね!?

 ごめんなさいっ! 今すぐ《治癒の祈り(サナティオ)》をっ……!」


顔を覆い隠し、必死に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈るセラ。


「ちょっとまってっ!! セラっ! 慌てないで! 大丈夫だからっ!

 ほら!僕はこのとおり! 力を使いすぎちゃったらまた倒れちゃうっ……!」


その後――落ち着いた聖女(セラ)と共に、来た道を戻る二人だった。


◇ ◇ ◇


一方、騎士(パルテオン)小人族(ルル)は――


「なんとなく、こっちが正解の予感しとるんよ。 あたしの勘がそう言っとる。

 根拠は無いんじゃけどさ。 でも……これ見りゃ――」


「大した自信じゃねェか……。 だが、俺も同意見だ。 明らかに――

 いや……いくらなんでもスライム多すぎんだろッ!! おいルルッ!

 コイツらどうすんだ? どんだけ増殖してやがんだぁ……?」


――そう、彼らは正解の道を引いていた。


が、彼らの行く手を阻むのは多数のスライム。

『多数』というには少々言葉が足りず、壁や天井を埋め尽くすほどの、それ。


騎士(パルテオン)が大盾を構え、じわじわとにじみ寄るのだが――

スライムが『ピョン』と威嚇するように跳ねる度、彼は後退していた。


ルルは一見無表情ではあるが、その(じつ)、状況に手を焼いている様子。

どうすれば最善の策であるかを逡巡し、やがて導き出した一つの解――


彼女は短杖(ワンド)を召喚し、瞳に光を灯し詠唱を始めた。


「万象を覆う白き静寂(しじま)……時を淀ませるその(かいな)生命(いのち)の楔。

 憂う温度は絶対零度の幽柩(ゆうきゅう)、絶対不可避の冰獄(ひょうごく)を今此処に――

 《ヒオルム》ッ!」


小人族(ルル)の周囲につむじ風が吹きすさび、小さな氷の礫が漂う。

小人族(ルル)短杖(ワンド)を軽やかに動かすと、氷の礫を纏う嵐はスライムの元へ。


天井や壁に、びっしりとこびりついたスライムは、たちまち凍りつき――


凍りついたスライムたちは、自重に耐えきれず、ぼとぼとと落ちていった。

物理法則に基づき、スライムの身体は無惨にも、バラバラに砕け散る。


「やったぜ。 あたしらの勝ち。 へっへーん。

 でも魔力の消費がちょいきつめ……。 氷属性は魔力消費が多いんよね……。

 打ててあと……二……もしくは三回が限界じゃとおもうー……。」


「魔法はこの国じゃ忌避されてっからなぁ……。

 俺の身近にも魔力持ちはいねぇし、魔法の事はよー分からんが……しっかし。

 ここまで凄まじいと、魔族っちゅー連中は一体どんなバケモンなんだ?」


「そういや、魔族について賢者に聞くの忘れてたな……。」


その後、二人はスライムとの戦闘の戦利品をかき集めていた。

ガラス玉のような透き通る玉を集め、それを鞄にしまい込む。


そうして“掃除”をしている最中、戻ってきた勇者たちと無事に合流。


「パルーっ! そっちはどうだった? あっちは何もなかったよ……。

 ただ、狭かっただけで、行き損だったよぉー……。」


「本当に……狭いだけでコケてしまいますし……悲しかったです……。」


聖女(セラ)が「そちらは?」と騎士(パルテオン)たちに尋ね、小人族(ルル)がそれに答える。

先程までスライムの軍勢に襲われ、危なかったのだと大げさに説明をしていた。


騎士(パルテオン)が大げさに伝えるなと叱責し、こうして四人は先へと進んでいった。


スライム地帯を超えた先には、六層から七層へと下る階段。

皆、安堵の息を洩らし、ノアを先頭に階段を下っていくのだが――


妙な気配を感じていた勇者(ノア)

彼はいつでも聖剣が抜けるようにと、聖剣の柄へと手を触れさせていた。


「なんだか……嫌な気配がする。 みんな、いつでも戦えるように構えて。」


勇者(ノア)の言葉に一同が頷き、戦闘態勢を整え長い階段を下る。


七層へと降り立った瞬間から、見て分かるほどの異様な光景が広がっていた。

そこに蠢くのは、顔が虚空に呑まれた魔物たち――


先ほど戦ったゴブリン、二足歩行の鼠頭の群れ……奥には、黒い汚泥溜まり。

『ぶくぶく』と不快な音を立て泡立ち、変形する汚泥。


やがて触手のような形へと変貌し、ぬらぬらといやらしく蠢いていた。


「まただな。 賢者が聞いたっちゅー話はこれか? 噂通りって事か。」


「これで三度目……だね。 近くに石は……見当たらないみたいだけどっ……!」


パルテオンが大盾を構え、前へと迫り、ノアが聖剣を抜き放つ。

聖剣を片手に強く踏み込み、魔物たちを圧倒する勇者ノア。


が――彼らは、触手の脅威を知らなかった。


黒光りする触手は光を反射し、機を窺うように蠢いていた。

前衛をするりと抜け、後衛の二人めがけ勢いよく伸び――手足に絡みつく。


《祈り》を紡ごうとしていた最中のセラは、言葉を中断されて動けない。

錫杖を持つ腕をがしりと拘束され、祈るに祈れない聖女。


「ちょ、ちょっとっ……! 嘘っ……! ま、まって……ッ!

 き、気持ち悪い……!へ、変なところ触らないでっ……くださいっ!」


「このっ……!」と抵抗をするが、セラは手足を拘束されてしまっていた。

徐々に身体を持ち上げられつつあり、身体は宙へ――


その一方、小人族の彼女(ルルリカ)は触手に絡まれてはいるが、変わらずの無表情。


「わーしんど。 まじだるー。 《麻痺(パラライズ)》っ」


彼女の放った麻痺の魔法で、触手は動きを止め拘束が解けるが――

しかし拘束が解けたのは、小人族(ルル)の周りの触手のみ。


セラは未だ触手にされるがままになっており、危うい状況に変わりない。


「わりぃーセラちゃん。 あたしの《麻痺(パラライズ)》なんじゃけど……

 そっちには使えん。使ってもいいんじゃけど、セラちゃんが麻痺(まひ)る。」


セラの身体は触手に持ち上げられ、彼女の顔色は悪くなる一方だった。

法衣により全貌は明らかではないが、足元に絡みつく触手を見れば一目瞭然。


ぬらぬらと光る無数の触手が、彼女の足を絡め取りうねうねと蠢く。


(まずいですね。 ふくらはぎ辺りまで登ってきてる……力が強い……!)

(錫杖は……掴まれてしまってとても祈れないっ……! ああもうっ!!)


抵抗を諦め、顔をノアたちへと向け、声を上げる聖女(セラ)


「ノアっ! お願い、ですっ……! 助けてくださいっ……!

 錫杖が無ければ《祈り》の力が弱まる上、集中せねば祈れないっ……!

 【聖女】とて万能ではないのです……! どうか、お願い……っ!!」


助けを請われたが、彼には切り込もうにも決断できずにいた。

触手だけ切れば良いことは、頭では理解はしているノア。


しかし、彼女の身体は持ち上げられている。


足元の触手を切断したところで、彼女の身体をどう支えればよいのか――

切り込もうにも、腕に絡まるソレか、足に絡まるソレか……。


一体どこから斬れば良いのか、判断がつかず尻込みしていた。


「っ……!どうしたら……! (聖剣さんは長剣なんだ……!)

 (仮にセラを怪我でもさせてしまったら……!)」


大盾で敵の攻撃を防ぎ、メイスで蹴散らしながら、怒声を浴びせる騎士(パルテオン)


「おい、ノアッ! 戦闘中だぞッ!冷静になりやがれッ! いいかッ!

 錫杖を持つ側の腕だけ斬れッ! それさえすりゃ恐らく聖女(セラ)なら祈れるッ!」


一瞬驚いた表情を浮かべるノアだったが、即座に行動に移した。

言われた通り、セラの腕に絡まる触手を切り落とす。


セラの身体は、依然として持ち上げられたまま。

が、彼女は錫杖を胸に抱え《祈り》を紡ぎ始めた。


「天にあらす我らが主よ、不浄、穢れ……

 あらゆる醜穢を星の巡りの元、慈愛を以て還し(たも)う――《ピュリタス》」


彼女の身体から淡い金色の聖光が奔り、身体を包み込み、拘束を解いた。

地に足をつけ、セラは二人に対し感謝の言葉を投げると錫杖を構え直す。


瞳を閉じ《祈り》に集中するセラ。

たちまち周囲には浄化の効果が広がり、触手は体積を小さくしていく。


周辺の魔物たちは、ノアたち前衛があらかた殲滅していた。


騎士(パルテオン)が大盾で後衛を守り、勇者(ノア)が聖剣で一刀両断し、聖女(セラ)が《祈り》で皆を守護。

が、これではジリ貧――黒い汚泥からは無限に触手が湧き出る。


躊躇いもあったが、ルルが「しゃーない。」と呟くと、息を吸い込み――


「《麻痺(パラライズ)》っ!! あーーもうだめぇ……。

 あたし、あと魔法一発が限界……。」


彼女の放った魔法で、魔物や触手たちは動きを止めるが、それは彼女も同じ。

短杖(ワンド)を膝の上に、小人族(ルル)はその場へとへたり込んでしまった。


ルルの作った絶好の隙――逃すわけには行かないと、決意した勇者(ノア)

聖剣の刀身に触れ、胸中で語りかける。


『【勇者特権(ブレイブ・オーダー)】……使わせてもらうね、聖剣さん……!』


碧灰(シエルグレイ)の瞳には極光が宿り、彼の手に握られた聖剣に光が収束する。

やがて光は最高潮に達し――次いで彼の脳内に届けられた冷たくも澄んだ女声。


『【勇者特権(ブレイブ・オーダー)起動(アクティベート)……【使用・承認(エグゼキュート)】』


「――聖光一穿(セイコウイッセン)ッ!!」


聖剣を大きく引き強く突き出す――切っ先から穿つように放たれた光。

光は大砲のような轟音と共に、一直線に魔物たちや触手を貫き、全てを蒸発。


七層を覆っていた不気味な気配は一斉に霧散し、後には何も残らない。

光が消え、聖剣の透明な刀身は変化し、実体感のある物質に変わっていた。


聖剣を鞘へと収め、マントを翻し全員の無事を確認しようと顔を向けた。


――が、その時だった。


乾いた空気を裂き、銀色の光を纏った短刀が、セラ目掛けどこからか飛来。

短刀は彼女の胸部を狙ったことは、軌道からも明確であった。


しかし、刃が彼女を貫くことはなく《防御の祈り(グラティア)》が弾き返す。

甲高い音を立て、彼女を包んでいた聖光は、ガラス片のように砕け散り霧散。


『カラン』と乾いた音――石の床に転がる短刀。


「え……っ? な……?」


すぐさま聖剣を構え直したノア――

大盾を構えたパルテオンも、すかさずセラの側へ駆け寄る。


やがて『コツ……コツ……。』と、どこかから響く軽い足音。


短刀が飛んできた方向から聞こえてくる足音に、皆が警戒し武器を構え直す。


闇の中からふわりと現れた姿――


浮遊するように揺れ蠢く、白金色(プラチナブロンド)の波打つ毛髪は、床に届くほど。


黒を基調とし、血のような赤いフリルで彩られた派手なドレス。

半束ねにした二つ結び――幼い姿だが、頭部から覗く鋭利な二本の黒い角。


血色を感じられない蒼白肌、柔らかなのに、どこか嘲笑的な微笑。


挿絵(By みてみん)


灰黄(かいこう)色と紫水晶(アメジスト)色に輝く左右非対称な瞳は、僅かな狂気を孕むようで。

誰の目から見ても、その異様な童女の姿は“魔族”であることを雄弁と物語る。


「あっれれぇー? ぼくのぉ、ナイフぅ……当たってないのぉ? ふぅん……?」


舌足らずで拙い猫なで声は、神経を逆撫でするように不快感を催すようで。

童女の視線はただ一人――【聖女(セラフィーナ)】へと向けられていた。


「ちょっとぉ……ざんねぇん……でもでもぉ――」


恍惚とした嘲笑の微笑を湛えたまま、童女は両手を大きく広げ――

あまりにも優しく、穏やかな声音で全員に語りかけた。


「さっきぃ、うちの子たちと遊んでくれたぁ…? からぁ……。

 だからぁ……いーのぉっ! またあとでぇ、遊ぼうねぇっ! ぃひひっ!」


幼い声と共に、童女の身体は揺らぎ『びちゃり』と音を立て――

先程まで確かに存在していた姿はもうどこにも無い。


童女が居たであろう場所に残されたのは、黒い汚泥のみ。


残されたのは不気味な余韻に、聖女の足元に転がる短刀。

セラは肩の震えを誤魔化すように、錫杖を握る指に力を込めていた。


(《防御の祈り(グラティア)》が一瞬で……もし《祈り》が無ければ、私、は……。)


動けないセラの元へ駆けつけるノア。

しかし彼女の表情は恐怖で強張っており、ノアは掛ける言葉が見つからない。


異様な童女の出現……そして不気味な余韻。

彼らは恐怖からか動くことが出来ず、立ち尽くすしか出来なかった。





7/21 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。

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