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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
18/64

その【迷宮】不穏につき。



都市を抜け、街道を早馬で駆け抜ける二頭の馬。

先頭を行くのはノアとルルの馬、後続に続くのはパルテオンとセラ。


一方は非常に楽しそうに進んでいるのだが、もう一方はといえば、だ――


セラは目を最大限細め、乗馬の揺れに静かに耐えていた。

まるで命綱を握るような強い決意を持って、騎士(パルテオン)の軽鎧を掴み上げていた。


そう――彼女は乗馬に対する恐怖や不安、緊張といった感情を隠せないでいた。

それら総てが、騎士(パルテオン)の軽鎧を掴む手の力へと繋がり、彼の肩を全力で掴む。


「なぁオイ……。 セラがそれで良いなら、それで別にいいんだけどよ。

 そんな辛ェなら、ちゃんと言ってくれよ? ゆっくり行くからよ……。」


「大丈夫ですっ!! ですからッ!! さっさと向かいましょうッ!!」


そうして数十分後――次第に見えてくる迷宮(ダンジョン)の全貌。

迷宮(ダンジョン)の外観は、岩肌を抉るようにくり抜かれたような見た目の洞窟。


遠目からだと、ただの闇にしか見えなかったソレ――


しかし、距離が近づくにつれ、ただの闇ではないことが明らかになっていく。


洞窟の内部には、淡く光る鉱石の灯りが闇を照らす。

また、迷宮(ダンジョン)の付近には人工物がちらほらと点在していた。


早馬用の簡易的な木柵が設置されており、その場所へ馬を繋いでおく。


「なーなー。 この馬ちゃんって、盗まれたりせんの?」


「ほれみろ。 鞍に宿の刻印があんだろ? それと蹄付近にも印がある。

 錬金術師が作ったっちゅー……特殊な道具が使用されてたはずだ。

 盗難対策はそれでばっちりちゅーわけだな。 すげえよな!ガハハ!」


ルルの素朴な疑問に、パルテオンが肩を鳴らし軽快に答えていた。

洞窟の奥からは、不気味な冷たい風が吹き抜け、息を飲む一同。


「僕……迷宮(ダンジョン)は初めて……少しだけ緊張してるよー……。

 それじゃ皆――行こうかっ!」


先頭に立ったノアが聖剣の鞘を小さく叩き――

そして、勇者一行は軽やかな足取りで、迷宮(ダンジョン)へと足を踏み入れた。


◇ ◇ ◇


迷宮(ダンジョン)の内部は洞窟のような空間。

湿気を帯びた空気が漂い、外観からは伝わらなかったが、冷たい空気が肌を刺す。


壁面には、不気味な光を放つ苔がびっしりとこびりつく。


天井からは水が滴り、時折『ポチャ』と石床を叩く音が響く。

思っていた以上に迷宮(ダンジョン)内は静かで、魔物の気配はない。


「静かだねぇ? 入ったばかりだから、魔物さんも居ないのかな?」


それほど大きな声を出したわけではなかった。

しかし、周りの静寂との対比からか、勇者(ノア)の声はやたら大きく残響する。


異様な静けさが漂う中、勇者一行は警戒を怠らず周囲を散策。


そうして、奥へ奥へと誘われるように進んでいくが、さすがは迷宮(ダンジョン)

一本道ではあったが、妙に曲がりくねっており、また水分を含んだ苔が足を取る。


魔物は現れないが、ぬかるんだ足元がそれ以上の恐怖を生み出していた。


やがて、人工物かと疑いたくなるような、下りの階段が姿を現した。

一同は階段を下り、二層目へと足を運ぶ。


迷宮(ダンジョン)ってどういう仕組み? 今までめちゃ自然物みたいな感じじゃったじゃん。

 なのに急にこんな、人の手が加えられたみてーな階段が出てくるって。」


階段を一段一段丁寧に下り、質問のような言葉を落とすルル。

彼女の問いかけに対し、聖女(セラ)が言葉を拾い、疑問に答える。


迷宮(ダンジョン)とは――魔物の延長線上……元来からそう伝えられているみたいです。

 私はそう聞き及びました。 こうして人工物のように見える階段も……。

 私たちを、より奥へと誘い、養分とするためだとか。」


「入り組んでいるのもそうでして、侵入者を逃さないためだと。

 諸説あって、まだ研究途中らしいですが……未だに全貌は不明らしいです。」


会話を挟み、長い階段を下りきる勇者一行。

二層目へと降り立った瞬間、殺意を持った眼差しが一行へと向けられた。


セラはすぐに胸元の錫杖の首飾りを握り、咄嗟に錫杖へと形態変化。


「ギギィ。 ギギ……ッ! グチ、チチッ!」


舌を打ち付けるような耳障りな音。

暗闇の奥からぞろぞろと小さな影が溢れ出した。


飢えた瞳に濁った緑色の肌――口から滴る涎……にじり寄るゴブリンの群れ。

牙を剥き出しにし、ゴブリンの群れは棍棒を構え、後衛二人目掛け襲い掛かる。


大盾を構えた騎士(パルテオン)が前へ躍り出ると、ゴブリンたちを押し留めた。


「狙いはセラとルルだッ! 明らかにそっちに行こうとしてるッ!」


ゴブリンの生態を理解しているがゆえ、セラは身震いし、すぐに錫杖を構えた。

騎士(パルテオン)が作ってくれた時間を有効活用する為《祈り》の体勢へ。


「天にあらす我らが主よ、星の導きの元……

 その御自愛で守護を与え(たも)う――《グラティア》」


聖女(セラ)の身体から溢れる聖光が全員を包み込む。

聖剣を抜いた勇者(ノア)騎士(パルテオン)の前へと向かい、小人族(ルル)短杖(ワンド)を召喚。


ゴブリンたちとの、戦いの火蓋が切られた。


外にいる野生の魔物と違い、迷宮(ダンジョン)内の魔物は知能が高い。

小賢しい連携で騎士(パルテオン)を翻弄しつつ、じわりと女性陣へ視線を向ける。


錫杖を両手に握り、瞳を閉じて《祈り》に集中する聖女(セラ)


短杖(ワンド)を構えたルルは、余裕綽々の様子で、口を開き短く詠唱の言葉を紡ぐ。


「《麻痺(パラライズ)》っ!」


彼女の短杖(ワンド)から小さな稲妻が奔り、ゴブリンたちへと放たれた。

たちまちゴブリンたちの侵攻を止め、その場から動かなくなった魔物の群れ。


その隙をつき、ノアが切り捨てるが――ゴブリンの数はあまり減っていない。


しかし勇者(ノア)は臆することなく、次から次へと斬り伏せ――

後に残ったのは、討伐の証である牙や棍棒……はたまた汚い布まで。


子鬼(ゴブリン)は僕の村でもよく現れてたからね……あはは……。

 放っておくとその、うん。だから子鬼(ゴブリン)には多少の心得があるっていうか……。

 セラ、ルル。 怪我はないかな? 怖かったよね……大丈夫?」


心配そうに女性陣に目を向ける勇者(ノア)だったが――

二人とも無事らしく「大丈夫」との言葉を受け、安堵する男性陣二人。


ゴブリンの討伐品をかき集め、大きめの鞄に雑に放り込むルル。


「こんなでも路銀の足しになるじゃろ? 拾っておいて損はないじゃろ。」


こまめなルルの姿に感心しつつ、一同は再び二層目の散策を開始。

先ほどの勇者(ノア)の、人外じみた動きに恐れをなした為か、なんなのか。


ゴブリンは以降、姿を現す事は無かった。


そうしてしばらく散策していると、三層目の階段が現れ下る一行。


全員が三層目へと下ったが……がらりと代わる空気に驚きを隠せない。


「なんこれ?……氷の、洞窟? さ、寒そう。 てか寒い!」


そう――三層目は透き通る氷が一面に広がった、凍てついた世界。

天井や壁、床ですら氷に覆われており、幻想的な光景が広がっていた。


そして、床は『ツルツル』と音を立てて滑る。

歩けば滑り、こんな場所で魔物が現れたら、戦闘どころではない。


「ちょ、ちょっとまって。 これは進みにくいねぇ……! どうしよ……。」


「俺もやべぇ。 こんな事になってるだなんて聞いてなかったからよ……。

 悪ィが……俺は対策もなんもしてねぇッ……!」


じっと眺めていたルルだったが、彼女は何かを閃いたらしい。

「ちょい下がっとってー。」と全員に声を掛けると、短杖(ワンド)を掲げた。


生命(いのち)の祖たる母なる水よ……変遷(へんせん)の焔を抱き、瞋恚(しんい)の熱を顕現せしめよ。

 我が御敵(おんてき)を覆い、逃れ得ぬ奔流の抱擁を――《アクア・エブルリオ》」


小人族(ルル)が詠唱を終えると、宙にぶくぶくと泡立つ熱湯が生成されていく。


魔法で作られた巨大な熱湯の塊が、洞窟の氷を押し流す。

あっという間に、氷は無惨にも溶けて消え、無くなってしまった。


小人族(ルル)の彼女は短杖(ワンド)を片手に持ち、腰に手を当て、得意げに鼻を鳴らす。


「す、すっげぇな……。 魔法って便利すぎんだろ……。」


「さすがはルルだねぇっ! これなら……うん、歩けそうだよっ!」


小人族(ルル)の魔法により、岩肌が露出した二層目。

歩きやすくはなったが、そもそもが入り組んだ構造の階層だった。


しばらく歩いていると、岩肌から突如として飛び出してきた影――

『ギャアギャア』と甲高い鳴き声に、歯をガチガチ鳴らし、現れた魔物。


げっ歯類特有の長い前歯に、鼠のような頭部を持った二足歩行の姿の魔物。


群れをなしたソレは、なぜか憤怒の様子で騎士(パルテオン)の元へと殺到。

大盾とメイスを咄嗟に構えたパルテオン。


「おいッ!!なんかコイツら、すっげぇ怒ってんぞッ!!」


前歯で齧りつこうとするが、大盾で弾き返し、メイスで叩きつける。

体勢を崩していった魔物たちを、勇者(ノア)が処理。


二人は見事な連携で、あっという間に蹴散らしてしまった。

女性陣二人は互いに顔を見合わせ「存在意義……」と小さく呟く。


「なんだか拍子抜けだねぇー? 僕たちって、もしかして強いのかな?」


とぼけたようなノアの発言に、パルテオンが豪快に笑い返答。


「そりゃノア! お前もう農夫じゃないからなッ! お前――

 【勇者】じゃねぇかッ! それにノアには頼りになる俺らがいるだろ?」


その後――

しばらく散策するのだが、以降は魔物の姿はぱたりと止んでしまう。

不気味な静寂が勇者一行を包む中、四層目、五層目と難なく進んでいく。


「さすがに何もおきん過ぎじゃね? あたしちょい怖いんじゃけど……。

 嵐の前の静けさ……? それかすでに別の人らが潜っとるんかね?」


四、五層目共に、魔物という魔物に出会わなかった一同。

どちらの層も一本道で進みやすく、その静けさが逆に不安を煽るようで。


そうして、六層目へと繋がる階段を下りる一同。

下りた先はまたガラリと姿を変え、一同を迎え入れる。


確かに、洞窟の中のはずだったのだが、広がるのはまるで地底湖。


透き通った水は、水底が確認できるほど。

透明度は測りしれず、圧倒される絶景が広がっているが――


生物の存在は確認できず、一体何が潜んでいるのか不明瞭だった。


天井にはいくつも色の鉱石が輝きを放ち、水面を明るく照らす。


「綺麗な場所だねぇ……! 水も見てほらっ! とっても透明――」


ノアが水に手を触れようとするが、ルルがそれを手で阻止。


「待って。 これ、ただの水じゃねぇ。 スライム住んどる。 怖ぇ……」


ルルの言葉に、疑問符を浮かべ『怖い?』と言いたげなノア。

そんなノアに対し、ルルがため息を吐き出し、懇切丁寧に“脅威”を語った。


一同は彼女の説明を聞き、縦並びになりながら、六層を慎重に屈んで歩む。

――というのも、ルルが恐れるほどの“脅威”が、完全に真隣なのだ。


一本道かつ、隣に広がるのは、透明度の高い湖のような“魔物”の群れ――


が……そんな全員の恐怖を知ってか知らずか、水が跳ね、そして――

ノアへと一直線に向かう、おおよそ人の顔の大きさはあろうかという水塊。


(なるほどッ! スライムさんは分かってますね……ッ!)


錫杖で水塊を薙ぎ払い、脅威を封じるセラ。

この場で一番の長物を持ったセラは、脅威(スライム)キラーと化していた。


「ありがとうセラッ……! 僕の尊厳と服を守ってくれて……!」


「しかし、驚きました……。 まさかスライムさんに対して――

 私の渾身の《祈り》である《防御の祈り(グラティア)》が効かないだなんて……。

 ノアがやられてしまっては、ここで全滅もありえますっ……!」


そう――スライムという魔物は、あまりにも脅威度が低い。

そのため、セラの《祈り》はスライムを敵と認識できないのだ。

且つ、この厄介極まる魔物の生態……この魔物の脅威は別のところにあった。


スライムという魔物は、衣類や繊維をじわじわと溶かすのだ。


故にノアは、小動物のような瞳で、セラを必死に見つめていたのだ。


情けない姿を晒す勇者ノア。

彼は、ルルやパルテオンに笑われていることなど、気が付かない。


そうして地底湖を進んだ先では、道が二股に裂け、完全な分かれ道が広がる。

後衛と前衛のバランスを考慮した結果――


勇者(ノア)聖女(セラ)チーム、騎士(パルテオン)小人族(ルル)チームの二人組に分かれることとなった。

そして二組はそれぞれの道へと向かうのだった――





7/20 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。

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