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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護
17/30

その【騎士】大食漢につき。



それからというもの、意識を手放してしまった賢者を、近くにあったソファに横たえる。

セラがダメ元で、彼のために必死に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈った。


「祈りも万能というわけではないのですよっ……!!も、もうっ……!!」


「ご、ごめんねセラ…つらいなら無理は…って言ってもこの状況じゃ…

 うん…仕方ない、よね……。 後で一緒に甘い物、沢山食べに行こうねぇ…」


しばらく祈り続けていると、賢者の体調は先程より良くなったのか、顔色が健康的に。

天を仰ぎつつも、ぽつりぽつりと、なかなかな声量で語る。


――割りと、どうでもいいことを。


「も、申し訳ありませぬッッ!!! 三徹目を越えたばかりでしてッ…!!!」


「今訊きてぇのはそんな話じゃねえ!!! さっき言ってたろ!魔族とか異変とかってよ!

 頼むからそっちを聞かせてくれ!!! おめぇさんが倒れたら、セラに申し訳ねぇよッ!!」


声を荒げるパルテオンに、びくりと身体を震わせる賢者バルタザール。

彼の身体は、彼女――【聖女】セラフィーナの《祈り》で、淡く輝いていた。


「賢者様ッ! いいから早くお話を! ここへ来るのも、大変な一苦労だったのです!!

 それと、これは忠告――です。 今後、徹夜はお控えくださいッ!!」


彼を包む聖光が一瞬強まったかと思うと、彼女の身体から、虹色の粒子がぶわりと溢れる。

賢者バルタザールは、聖女の怒気の孕んだ声量に驚きつつ「すみませぬッ」と小さく謝罪。


彼は身体を少し起き上がらせ、なにやら腕を忙しなく動かす。

彼が腕を動かすと、周囲に置いてあった紙と羽ペンが宙へ浮かびあがった。


紙と羽ペンは、賢者の付近にて、宙に浮いたままふよふよと待機。


「面目ない姿を晒してしまいッ…不甲斐ないッ…! ええ、では簡潔にッ!

 ワタクシの知り得る情報を、説明させて頂きますッ! まず、皆さまの疑念ッ!

 それは――黒紫色の瘴気を纏う石…それに関連する事と、お見受けしますッ!」


ドンピシャ過ぎる賢者の発言に、皆一同彼へ視線を注ぐ。

賢者は皆の様子を伺い、自身の認識に間違いがない事を確認したのか、言葉を続けた。


「瘴気とはッ、本来魔族の用いる力の一片ですッ! そちらはご存知ですかなッ?

 して石、ですが――ッ…恐らく魔族が何か、目的があり仕掛けたモノであると、推察しますッ

 あくまで、ワタクシの耳に入ってきた情報を纏めた…言わば考察のようなモノ…ではありますがッ…

 情報があまり出回ってはおりませぬ故、国も調査をしている段階、ですッ……ゴホッ」


肩で呼吸をし、苦しそうに咳き込む賢者バルタザール。

セラは必死に指を組み、彼のために《治癒の祈り(サナティオ)》を祈り、輝きが増していく。


「その石、なのですがッ…どうにも魔物を活性化させる効果があるとの、噂もッ…!

 しかし噂は単なる噂、ワタクシが直接この目で確認したわけではないため、不確定――ッ

 念の為に、皆さまにはご確認頂きたくッ――こちらの石に、見覚えはッ!」


賢者はくるくると指先を回し、宙に浮いた紙とペンを動かす。

紙に器用に“石”の図を描き、精密に描かれたその図は、まさに――


「これ…こないだ、騎士(パル)ちゃんが拾った石と、同じ石じゃん…」


「んだな…これだけ特徴が一致してやがると、同じものとして考えるのが当然だろう。

 どうするよ、勇者ノアさんよ…あちこちで目撃情報ってなると困ったな…。」


ノアが小さく唸り、顎に手を当て、何やら思考している様子。

彼は聖剣の柄に触れ、思考を巡らせながら、聖剣へと語りかけていた。


『ねぇ聖剣さん。 どう思う? 一体何の為にある石か、分かったりするかな?』


『――そうさな。 (わたし)は世界の全てを知っている訳ではない、故に分からぬことも多い。

 かの石が、どのように製造されたか、またその目的も今の(わたし)には、分からぬ。』


皆が思考にふけり、あれこれ考えている最中に、ぱたりと、何かが倒れる音。

今度は【聖女】であるセラが、聖神力(サンクト)の行使の影響で、気を失ってしまった。


全員が「あー…」と声を漏らし、ソファへ転がる賢者へと視線が注がれる。

視線を注がれた賢者は、大層申し訳なさそうに、顔を青ざめさせながらも、言葉を紡いだ。


「ワッワタクシの為にッ…大変お心苦しくッ!ぐぬッ……!!

 伝えそびれていたのですが、近頃、この都市の外れにある、迷宮でもッッ…

 その、目撃情報が相次いでおりッ…! 国の研究者が数名行方不明になっておりッ…!

 事態は一刻を争うものッ――かと…ワタクシは此処から出られませぬゆえッ……!!」


賢者の言葉が最後まで落とされ、セラを抱きかかえたノアが、静かに全員を見つめる。

パルテオンは、大きなため息を付きつつ「たくよォ…」と呆れたように呟いた。


「あのよ、賢者さんよ、こんなこたぁ言いたくねえけど、そういうのは、早く言ってくれ。

 セラが倒れちまっちゃ、すぐに行けねえ…」


ノアに抱きかかえられたセラの顔色は芳しく無く、顔色は蒼白気味。

そんなセラの様子を見兼ねたルルが、謎毛玉生物(キュー)を一旦側に座らせ、懐から手巾を取り出す。


手から水を出現させ手巾を湿らすと、もう片手で温度を調整。

優しい手つきでセラの顔を拭い、穏やかな瞳でセラを見つめ小さく呟く。


「大丈夫。 セラちゃんは案外早く起きるぜ。 ノアちゃんはそのまま抱えとって。

 セラちゃんの事は、あたしにまかせーい。」


ルルが甲斐甲斐しくも、セラの体温を調節するように、顔を拭う。

数十分ほどでセラの顔色は、健康的な肌色に戻り、薄っすらと目を開いた。


「あれ…ノア…? ルル、ちゃん…? もしかして、またわたしっ……?」


ノアが心配そうに、セラの額に手をあて体温を確認。

唐突の事態にセラは小さく「きゃっ!」と、悲鳴を上げた。


ルルの側にいたキューが驚き、そんなキューに驚いたルルが、体を震わせ驚愕。

その様子を後方で見ていた、騎士(パルテオン)が「ブフッ」と吹き出すという謎の連鎖が起こる。


「あのっ……さすがに距離が近すぎではないかと、思うの、ですがっ…?」


「あっっ!!ごっごめん!!心配でつい…!! それにルルもいたから…!」


小さく鳴くようなセラの声に、ノアは焦って彼女を立ち上がらせる。

ルルは、くすくすと口角だけ上げ、笑ったような顔で、その様子を微笑ましく見ていた。


「それであの、お話を途中までしか聞いていなくって…結局、どうなったのでしょうか…?」


セラの言葉にパルテオンが簡潔に説明。

彼の言葉に、補足するようにバルタザールが付け加えた。


張り詰めた空気の中で、ノアが深呼吸をし、皆を見渡し、言葉を落とす。


「放っておくなんて、できない。 迷宮に行こう。」


パルテオン、ルル共に小さく首を縦に振り、同意の意思を見せる。

セラも決意を固め、拳を固く握りしめ、皆に視線を移した。


皆が去る前に、賢者は全員分の禁書庫の許可証を渡し、小さくか細い声で鳴いた。


「で、できればッ――ワタクシに、報告、をッ…」


それだけ伝えると、彼はソファの上で、ついに静かに寝息を立て沈黙。


ルルが、謎毛玉生物(キュー)を彼――バルタザールの付近に待機させ、振り返る。

全員、その情けない賢者の姿を見届けると、禁書庫を後にし外へ。


「キューちゃんは留守番だぜ。 戦闘になったら邪魔になりそうだからよ…」


目的地は近郊の迷宮へと、定められた――


◇ ◇ ◇


一同は大図書館を抜け、目的地へと向かおうと一歩目を踏み出すが……。

疲労と緊張の解れからか、セラのお腹が小さく「きゅるり」と空腹を示す音が響いた。


彼女は恥ずかしさのあまり、顔を真赤に染め上げ「あの…」と話しを切り出す。


「ご、ごめんなさいっ…! わ、私…。 お腹がすいてて…」


空腹を感じていたのは、セラだけではなく、パルテオンも同じだったらしい。

彼は全力で同意すると、差し当たり腹を満たす為、食堂を探す。


大図書館付近は、学生で溢れていることもあり、食事処はすぐに見つかった。


パルテオンの「ここから凄まじい肉の気配を感じる。」という言葉と共に――

彼に付いていく形で、街の一角にある庶民的な食堂へと、足を踏み入れた。


外観は庶民的だったが、内観はなかなか冒険者向きなような、野性的な見た目。


木の壁には、無数の傷跡――その傷はどれも、最近付けられたようには見えない。

長年蓄積されたような、油汚れのようなものがこびりついているが――


不思議と小綺麗に感じる内装で、一同は内装を見回しながら、空席を探す。


天井には煤けたランプがぶら下がっており、やや古臭い油の匂いが染み付く店内。

しかし香辛料の香り、熱された肉と、野菜が焦げるような香ばしい匂いが漂い、気にもならない。


昼時の喧騒に包まれた店内は、旅人や冒険者、学生たちでごった返していた。

全員が席につくと、颯爽と陽気そうな給仕の娘が、にこやかに声を掛ける。


「注文はなんにする? ウチは肉がオススメだよ!」


ノア、セラ、ルルの三人は、真剣に書き置きに目を通し、息ぴったりに――


「「「オムライスください(おなしゃーす!)」」」


場の空気が一瞬だけ和み、給仕の娘もにこやかな微笑みで「はいよっ!」と応える。

三人の視線は自然とパルテオンへと注がれるが、場違いなほど落ち着いた低音が響いた。


「そうだな。 俺はこの…モウルの香草ステーキを――八人前、頼む。」


喧騒が一瞬で途絶え、静寂が訪れ、客たちの視線が一斉にパルテオンへ。


「は、はちにん…まえ…???八人前ッ!?」

「おいおいウッソだろ! さすがに一人で食べる量じゃねえ!」


客たちは、一斉にざわつきだし、パルテオンは一気に注目の的へ。

だが、当の本人はというと、あまりにも平然とした顔で、腕を組んで待っていた。


「はいよっ!オムライス三つね! そこの騎士さんはちょいまっとくれ!」


やがて運ばれてきたオムライス。

三人の前に並べられたのは、ふわふわの黄金色に輝く卵のソレ。


並べられた三人の料理を眺め、パルテオンが豪快に笑いながら、全員に提案。


「俺は食うのが早い自信があるからなッ!ガハハ!皆は先に食っててくれ!」


パルテオンの言葉を受けた皆は、顔を綻ばせつつもオムライスを食していた。


しばらくすると、パルテオンの料理が運ばれてくるのだが――

ジュウジュウと音を立て、熱した鉄板に積み上がる、巨大な肉塊。


偶に大食いの客が来るそうで、鉄板は大食いように設計された特注品らしい。

パルテオンの注文した料理で、たちまち机は混沌の光景へと変貌。


三人は、オムライスを口に運びながら、仰天の眼差しをパルテオンへと向ける。


「た、大食漢(たいしょくかん)なのですね、パルテオンさん…」


「あははっ…パルは、昔っからよく食べてたからねぇ… これでもまだ、少ないほうかも…。」


呆れ混じりに呟いたセラの言葉に、ノアが付け加える。

ノアの衝撃的な言葉に、思わずセラは絶句しながら、食指を止めていた。


パルテオンはというと、豪快に食器用ナイフを使い、肉を裂きながら笑う。


「戦うためには、食うのが一番! !肉は力! 力こそ勝利!

 つまるところな――肉とは、勝利そのものだッ!」


熱く語るパルテオンに、周囲の客は「なるほど!」と頷きかける始末。

全員で食事を楽しみつつ、ルルは先程の給仕の娘へ、さり気なく声を掛けた。


「なぁなぁー綺麗なお姉ちゃん。 この街の外れにある迷宮ってよー

 なんがあるん? あたしら、そこ向かうんだけどさー よーわからんで。」


「あら嬢ちゃん、言葉が上手いね! 有難うね! えーと、あの迷宮かい?

 ここから二、三十分で行ける近場で、たしか全部で八階層だって、冒険者が話してたねっ!

 それ以上は、アタシは冒険者じゃないから分からないねっ!」


笑顔で応えた給仕の娘はそれだけ言うと、そそくさと仕事に戻った。

皆で軽く作戦会議をし、腹ごしらえを済ませ、準備を整える。


近場の迷宮という事だったが、改めて街人に尋ねると、二、三十分というのは、早馬での話。


「だったらよ、早馬を借りられる宿を探せば、一石二鳥じゃねぇか?」


という、パルテオンの青天の霹靂の言葉を受け、一同納得した様子で手軽な宿を探す。

さすが学生が集まる大都市というだけあり、呆気なく早馬が借りられそうな宿を押さえた。


「あの、私、乗馬の経験がなくって…お馬さんに乗れません…」


「あたしも、無理じゃ。 後ろに乗っけてくれー、前でも良いぜ。」


借りた馬は二頭、乗馬の経験がない女性陣二人を考慮し――

身長や、体格差の事も考え、ノアルル、パルセラという割り振りに落ち着いた。


「それじゃ、行こうかっ! ルル落ちないようにねっ! なるべく安全に行くから!」


「まかせろーい! 安心せーい!あたし、結構平衡感覚あんだぜ!」


なんとも頼もしい二人のやり取り。だが、後衛二人は、若干不安を煽るようなものだった。

パルテオンの馬に同乗するセラは、緊張からか、身体が強張りまくっていた。


「す、すみません…今まで馬車か徒歩でしか移動したこと無くって…

 乗馬は初めてなのです…ですので……! こ、こわくてっ…!」


「安心しろセラ! 馬は大人しい、それにビビってたら馬にも伝わっちまうんだ。

 俺がちゃんと手綱を握ってるから安心しとけッ! ガッハッハ!」


馬の蹄が石畳を打ち鳴らし、セラの不安もあり、街を出るまではゆるりと出発。

こうして一同は、賢者の懸念の迷宮へと向かうのだった。





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