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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
17/63

その【騎士】大食漢につき。



それからというもの――

意識を手放してしまった【賢者】に困り果てた勇者一行。


近くにあったソファに彼の身を横たえ、セラが一か八かで治療に励んだ。

青い顔をする【賢者】の為、必死に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈る聖女。


――もう、めちゃくちゃである。


「《祈り》も万能という訳では、ないのですよ……ッ! も、もうっ……!

 気絶からの回復のために《祈り》を行使するだなんてっ……!」


「ご、ごめんねセラ……。辛いなら無理は――っていってもこの状況じゃ……。

 うん、仕方ないよね……。 後で一緒に甘いものを沢山食べに行こうね……。」


彼女の《祈り》により賢者(バルタザール)の体調は良くなったのか、顔色が良くなっていった。

天を仰ぎ、ぽつりと……なかなかな声量で語ってくれた。


――割と、どうでもいい事を。


「もッ!!申し訳、ありませぬッ!! 三徹目を越えたばかりでしてッ!!」


「今訊きてぇのはおめぇのどうでもいい話じゃねぇッ! さっき言ってたろッ!

 魔族とか異変だとかってよッ! 頼むからそっち優先で聞かせてくれッ!!

 おめぇさんが倒れちまったらよ……セラに申し訳が無ェッ!!」


声を荒げるパルテオンに、びくりと身体を震わせる賢者バルタザール。

彼の身体は、彼女――【聖女】セラフィーナの《祈り》で、淡く輝いていた。


賢者(バルタザール)様っ!いいから早くお話を! ここへ来るのも一苦労だったのです!

 それとこれは忠告――です。 今後徹夜はお控え下さいませッ!!」


賢者(バルタザール)を包み込む聖光がひときわ輝く。


怒気を孕んでいる聖女(セラ)の身体からは、虹色の聖光が溢れていた。

賢者(バルタザール)の彼は、聖女(セラ)の覇気に恐れをなし「すみませぬッ……」と小さく謝罪。


賢者(バルタザール)は身体を起こし、なにやら腕を動かし――見えない力を行使している様子。

途端に宙へと浮かび上がる、周囲の紙や羽ペン。


それらを空中で待機させ、咳払いの後、語りだした。


「面目次第もございませぬッ……!不甲斐ないッ……!では簡潔にッ!

 ワタクシの知り得る情報を説明させて頂きますぞッ!!」


そういって語った賢者(バルタザール)の話の内容はこうだ。


恐らく勇者一行が追っているのは、瘴気を纏っている黒色の石――

それに関連する事柄を、彼が把握している範疇で語り聞かせる。


まず『瘴気』とは何かという話――それは、魔族が用いる力の一片であること。


例の黒い石の正体は未だ研究段階にあり、分かってはいないらしい。

そして、魔族たちが何らかの目的で、人間側の領地に仕掛けているのでは?

と、賢者(バルタザール)は推察しているらしいが、しかし推論の域を出ないとのことらしい。


情報がまだ少なく、国も調査をしている段階――とのことだった。


語る途中、彼は苦しそうに咳き込みを繰り返し、セラは必死に指を組み祈った。

彼の為に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈り、輝きを増していく。


「してその石なのですがッ……どうにも魔物を活性化させるとの噂もッ……!

 しかし噂は単なる噂ッ……ワタクシがこの目で確認しておりませぬゆえ――

 念のために皆様にご確認いただきたくッ……こちらの石に見覚えはッ……!」


彼は指先をくるくると回し、宙に浮いた紙とペンを動かしていく。

紙に器用に“石”の図を描き、精密に描かれたその図面はまさに――


「これ……こないだ騎士(パル)ちゃんが拾った石と同じじゃね……?」


「んだな。 これだけ特徴が一致してやがると――同じモンだろう。

 どうするよ勇者ノアさんよ。 現物が無ぇからなぁ、確認しようが――

 しっかしあちこちで目撃情報、か……。厄介な事になってんなッ……。」


顎に手を添え、小さく唸りながら思考する様子を見せるノア。

彼は聖剣の柄に触れ、思考を巡らせながらも聖剣へと語り掛けていた。


『ねぇ、聖剣さん。 君はどう思う? 石が何のために存在しているか……

 君には分かったりするかな?』


『……そうさな。 (わたし)は世界の総てを把握してはいない。 故に……。

 分からぬことも多い。 かの石がどのように発生したか、また――

 目的があり造られたのか、今の(わたし)には知り得ぬ。』


皆が思考に耽り、アレやコレやと考えているそんな最中――

『ぱたり』と何かが倒れる音が聞こえ、全員が賢者(バルタザール)の付近へと顔を向けた。


賢者(バルタザール)に《治癒の祈り(サナティオ)》を祈っていた聖女(セラ)だったが……彼女が倒れた音。


全員が「あーあ……。」と声を洩らし、ソファに腰掛ける賢者(バルタザール)へ視線を注いだ。

注目の的となっている賢者(バルタザール)は、申し訳なさそうに顔を青ざめさせる。


「ワッ……!ワタクシの為に力をッ……! 大変お心苦しくッ!!

 伝えそびれていたのですが、近頃この都市近郊の迷宮(ダンジョン)でも、その――

 石の目撃情報が相次いでおりッ……国の研究者が数名、行方不明にッ……。

 事態は一刻を争うものかと――ッ」


賢者(バルタザール)の言葉に呆れた様子のパルテオンとルル。

セラを抱えたノアは、小さなため息を吐き出し、全員の視線は賢者(バルタザール)へ。


「あのよ……賢者さんよ。 こんな事ァ言いたかねえが……。

 そういう重要な話は早く言ってくれ。 セラが倒れちまっちゃあよ――

 行けるモンも行けねぇだろうがよ……。」


パルテオンが零し、セラに視線を移すが――

ノアの腕の中で、力なく横たわる彼女の顔色は芳しくなく、顔色は青白い。


そんな彼女を見つめていたルルは、謎毛玉生物(キュー)を一旦帽子の中に隠した。

慣れた手つきで懐から手巾を取り出すと、手から水を出現させる。


手巾を湿らせ、もう片手で温度を調節し、優しい手つきでセラの側へ。

セラの額の汗を拭い、穏やかな瞳で彼女を見つめ、小さく呟く。


「大丈夫。セラちゃんは案外早く起きるけぇ。

 ノアちゃんはそのまま、セラちゃんのこと抱きかかえとって。

 セラちゃんの事は……このあたしにまかせろーいっ!」


ルルが甲斐甲斐しくも、セラの体温を調節するように額や首すじを拭う。

すると、十数分程度でセラの顔色は健康的な肌色に戻った。


うっすらと瞳を開くと、目の前には勇者(ノア)小人族(ルル)の姿。


「あれ……。 ノア? それに、ルルちゃんも……? わ、私……?」


心配そうに顔を覗き込み、彼女の額に手を触れて、体温を確認するノア。

が――唐突の出来事に、セラは小さく「きゃっ!」と悲鳴を上げ、拒絶。


「あのっ!! っさすがに距離が近すぎですっ! ノア……!」


「ええっ!? ご、ごめんっ! 心配だったからつい……!

 それにルルもいたから大丈夫かなって……。」


彼女の様子に驚き、慌てて手を離すノア。


そのままセラは勇者(ノア)に断りを入れ立ち上がり、頬を膨らませる。

『ぷい』と機嫌を損ねた聖女(セラ)の姿に、ルルが心中で微笑む。


「それでええっと。 私、お話を途中までしか聞いていなくって……。

 結局、どうなったのですか?」


彼女の疑問の言葉に、騎士(パルテオン)が簡潔に説明し、彼の言葉に補足をする賢者(バルタザール)

次第に表情が強張っていく聖女(セラ)――張り詰めていく空気。


ノアが深呼吸の後、皆を見渡し言葉を落とした。


「このまま放置するだなんて、絶対にできない。 迷宮(ダンジョン)に行こう。」


騎士(パルテオン)小人族(ルル)は共に小さく首を縦に振り同意の意思を見せる。

聖女(セラ)も意を決し、拳を固く握りしめた後、皆へ視線を移した。


皆が去る前、賢者(バルタザール)が全員分の禁書庫への立ち入り許可証を譲渡。


「も、戻り次第、できればワタクシに報告……をッ……!」


それだけ伝えると、彼は限界だったのだろうか――

ソファの上で静かに寝息を立て、沈黙。


謎毛玉生物(キュー)をバルタザールの付近へと待機させるルル。


「キューちゃんはこっちでお留守番。 戦闘になったら……ね。

 クッソ邪魔になりそうじゃけぇ、しゃーなし。」


こうして、目的地は近郊の迷宮(ダンジョン)へと、定められた――


◇ ◇ ◇


大図書館を抜け、目的地である迷宮(ダンジョン)へと足を向ける一同。

しかし、疲労と緊張が和らいだためか――『きゅるり』という可愛い音が響く。


どうやらセラの腹部から、空腹を示す小さな音が鳴ったようだった。


彼女は恥ずかしさのあまり、顔を桜色に染め上げる。

「あの……。」と控えめな挙手の後、話しを切り出す。


「も、申し訳ないのですが、私……お腹が空いてしまって……。」


空腹を感じていたのは、なにも聖女(セラ)だけではない。

どうやら騎士(パルテオン)も同じく空腹を感じていたようで、彼は全力で同意。


さしあたり、空腹を満たすべく、食堂を探すこととなった一同。


大図書館付近では学生たちが溢れかえる。

故に、食事が出来そうな場所は案外すぐに見つかった。


「此処から、凄まじい肉の気配を感じやがるッ……! 騎士の勘だッ!」


という騎士(パルテオン)の言葉に、彼に付いていく形で町の一角にある食堂へ――


庶民的な外観の食堂。

しかし内装はやや冒険者向きにも感じる、野性的な見た目だ。

木の壁には無数の傷跡があり、その傷跡はどれも最近のものには見えない。


長年蓄積されたであろう、油汚れのような物がこびりついている。


しかし不快感はなく、不思議と小綺麗に感じるもので――

一同は興味津々の眼差しで、思わずぐるりと周囲を見渡した。


天井にぶら下げられている、煤けたランプ。

香辛料や、熱した肉油の香り――野菜が焦げたような芳ばしい香り。


昼時の喧騒に包まれた店内……周囲は旅人や冒険者でごった返しの様子。


挿絵(By みてみん)


空席を見つけ、全員が席へとつき、何を食べるのかの相談の最中――

颯爽と現れたのは給仕の娘で、彼らの注文を取るべく席のそばへ。


「さて、注文はなんにするかい? ウチは肉がオススメだよっ!」


ノア、セラ、ルルの三人は、書き置きに目を通した後、息ぴったりに――


「「「オムライスください(おなしゃーす!)」」」


と声を上げ、場の空気が一瞬だけ和んだ。

給仕の娘は少しだけ驚いた表情を浮かべ、やがて「はいよッ!」と応えた。


そうして、給仕を含めた全員の視線はパルテオンへと注がれる。

が、先程の空気をぶち壊すが如く、場違いなほど落ち着いた低音が響いた。


「んだなぁ……。 んじゃ、俺はこのモウルの香草ステーキだな。

 数は……六。 いや、ちげぇ。 八……八人分頼む。」


喧騒が一瞬途絶え――静寂の後、客たちの視線は一斉に勇者一行の卓へ。


「は……はちにん……ぶん……?? え?八人前ッ!?」

「おいおい!!ウッソだろ!! さすがに一人で食べる量じゃねぇぞッ!」

「でもあの騎士のガタイ見てみろ……ありゃ、納得の筋肉だ……!」


店内に落とされたのは客たちのどよめき。

しかし当の本人はといえば、あまりにも平然とした顔で腕を組むだけ。


「はいよっ! オムライス三つと――それと、そこの騎士さんっ!

 あんたは特別だしちょい時間を貰うからねっ! まっとくれっ!」


少しの時間を置き――最初に運ばれてきたのは、オムライスが三つ。

三人の前に並べられた料理は、ふわふわの黄金色に輝く卵のソレだ。


トマトのソースがかけられ、白い湯気と香草の香りを漂わせる食べ物。


並べられた三人分の料理を眺め、騎士(パルテオン)が豪快に笑い、全員に提案を投げた。


「俺は食うのが早い自信があるッ! ガッハッハ!

 俺のことは気にすんなッ! 皆は先に食っててくれッ!」


パルテオンの言葉を受け、皆は食事に手を付け、もそもそと食す。


しばらく後――パルテオンの料理が運ばれてきたが、圧巻の光景。

『ジュウジュウ』と音を立て、熱した鉄板に積み上がる、巨大な肉塊。


稀に大食いの客が来るそうで、鉄板はその客用に設計された特注品らしい。

パルテオンの注文した料理で、たちまち勇者一行の卓は混沌の光景へ。


三人はオムライスを口に運び、仰天の眼差しを騎士(パルテオン)へと向けていた。


「大食漢なのですね……パルテオンさんって……。」


「あはは、パルは昔っからよく食べてたからねぇー……。

 でも、これでもまだ少ない方だよ……。」


「あたし、見とるだけでお腹がいっぱいなんじゃけど……。」


呆れる三人のことなど気にせず、パルテオンは豪快に食器用のナイフを走らせる。

肉を裂き、美味しそうに肉を頬張りながらも声を上げた。


「戦うためには食うのが一番ッ! 肉は力、力こそは勝利――

 つまりな、肉とは勝利そのものッ! 分かるかッ!」


熱く語る騎士(パルテオン)の姿に、周囲の客たちは「なるほど。」と頷く始末。

全員で食事を楽しみ、ルルは先程の給仕の娘へと、気さくに語りかけた。


「なぁなぁー、そこのキレーなお姉ちゃん。 ここの都市外れの迷宮(ダンジョン)って――

 なんがあるん? どんなとこなんー? あたしらさーそこ向かうんよ。

 んでも、場所もよー分からんくって。」


「あらお嬢ちゃん!嬉しいことを言ってくれるねぇっ! ありがとうねっ!

 あの迷宮(ダンジョン)かい? 確かここから数十分で行ける近場の迷宮(ダンジョン)だねっ!

 全部で八階層って冒険者が語ってたよ! それ以上は分かんないね!」


給仕はそれだけ答えると、そそくさと仕事に戻り、その後は皆で軽い作戦会議。

腹ごしらえも済ませ準備を整え、改めて迷宮(ダンジョン)へと向かおうとするのだが――


詳しい場所が分からなかった為、改めて町の人に尋ねてみるが、なんと……。

数十分というのは、早馬での話だということが分かった。


「だったらよ、早馬を借りられる宿を探せば、一石二鳥じゃねぇか。」


騎士(パルテオン)の言葉を受け、一同は皆賛成の流れに。

その後、手頃で早馬も借りられるという宿を押さえ、いざ出発となったが……。


「あの、私……乗馬の経験がありません……。 基本的に移動手段は馬車――

 もしくは徒歩だったものでして……お馬さんに乗れません……。」


「それ言ったらあたしも無理。 一緒に乗っけてくれんと無理じゃー。」


そうして借りた馬は二頭。

乗馬の経験がない女性陣を考慮し、身長や体格差も考えた結果――

ノアとルル、パルテオンとセラの割り振りに落ち着いた。


「それじゃ行こうっ! ルルっ! 落ちないようにねっ!」


「まかせろーい。 あたし、案外平衡感覚あんだぜっ!」


頼もしい二人のやり取り――

しかしその隣は、若干不安を煽るようなものだった。


騎士(パルテオン)の馬に同乗するセラは、緊張からか身体が強張りまくっていたのだ。


「す、すみませんっ……! 今までお馬さんに乗ったこと無くて……!

 乗馬は初めてなのですっ……ですので怖くって……!」


「安心しろッ! 馬は大人しい性格の子だッ! それによ――

 ビビってたら馬にも伝わっちまうんだ。 俺が手綱をちゃんと握ってるッ!

 それに俺は騎士だッ! 舐めてもらっちゃ困るぜッ! ガッハッハ!!」


馬の蹄が石畳を打ち鳴らす。

セラを考慮し、都市を出るまではゆっくりと出立することになった。


こうして勇者一行は、賢者懸念の、迷宮(ダンジョン)へと向かうのだった。





7/20 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。


ひとくちメモ:パルテオンさんが召し上がっていたステーキ。


挿絵(By みてみん)


・モウル:とっても大きい角のとっても大きい牛。(非魔物)

→ パルテオンさんが召し上がっていたのはサーロイン。


・香草:クレソン、タイム、パセリが少々。


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