頁:15 その【集落】亜人の村につき。◆挿絵有り
その後ですが――
〈神聖術〉の行使に慣れていなかった私――
先の戦闘疲れもあり、足は覚束なくふらふらと情けない姿を晒してしまって。
結局、ルルリカさんの案内のもと、彼女の『集落』へ赴くことに。
集落までの道中、森の中を歩みますが……やはり景色が不思議です。
彼女が仰っていた集落にたどり着く頃には、周囲の景色はすっかり夜色。
木々の隙間から確認できる空模様は、群青色。星たちが煌々としてますが――
一体、今が何時頃なのかは、私には分かりません。
彼女の集落は、驚きに満ちておりました。
それはまるで――『不思議の国』みたいな景色が広がっていて。
木の枝、蔦や花で編み込まれた小さな家たち。
そこら中に咲き誇るのは、大輪の紅い薔薇。
家々を飾るようにぶら下げられているのは、淡い緑色の光のランタン。
ランタンの中央には奇妙な鉱石があって、その鉱石が光源のようです。
道を歩けば、見るからに毒キノコ……だって赤と白の水玉模様ですよ?
キノコの上には丸くて小さな……捻れた角が特徴的な謎の生き物。
集落にたどり着いて早々に、私たちに気が付いた集落のひとたち。
道化師服に身を包んだ彼女と同じく、背丈は私の胸元くらい……?
どこからともなく集まってきて、興味深そうに――
ああ……どうして勇者様のところにばかり……。
最初対峙したときは暗がりで分かりませんでしたが……これは!
皆一様に、白髪で紅い瞳の子どものような見た目……!
(アルビノの小兎みたいな印象ですね……!なんて可愛らしい――)
勇者様や騎士様に群がってらっしゃっていますが……。
それほどまでに私たちが珍しいのでしょうか?
「さっきの人たちじゃろ?なんで人間がここにおるん?」
「たまに迷ってくる人族おるんじゃし、そういうんじゃろ?」
「大変じゃったねぇー!悪い人じゃないんじゃろ?ゆっくりしてきんさい!」
寄って集って、集落の人たちはねぎらいの言葉や質問の嵐。
矢継ぎ早に投げられる言葉の雨――なんて元気なのでしょうか……!
「すっごく元気だねぇ?ええっとね質問だけれど――森で迷子になったんだぁ。
それで気が付いたらこの森にいて――斯々然々で大変だったんだぁ!」
「でもルルリカさんに助けられちゃって!あ、それとねぇ?
森を荒らしてた魔物さんは、僕たちがしっかり、やっつけておいたよ!」
視線を合わせるため、屈み込んで、一人ひとりの頭を撫で――
とても朗らかな微笑で対応なさってる勇者さん……根っから優しいのですね。
勇者さんのお言葉を受けて、集落の人たちは歓喜に身体を跳ねさせてます。
跳ねる姿を見れば余計に『小兎』感が出て、ほっこりする光景……。
そうして囲まれておりましたところ――
周囲の人たちとは一線を画した感じの……大人びた少年さん……?
こちらに歩み寄ってらっしゃいますが、どちら様なのでしょうか?
「先ほどは事情を知らんかったとはいえ、悪いことをしてしもうた。
この辺りは儂らの領土なんじゃ、ほいじゃけ荒らされてしもうて――
儂らも年甲斐なく気を立ててしもうたんじゃ。すまんかったのう……。」
「あんたら、人族の勇者様じゃろう?ソッチの事情には疎くってのう……。
お詫びになるかどうか分からんのじゃけど、亜人の集落で大丈夫なら――」
「手狭じゃろうけど、よかったら泊まってきんさい。」
なんとありがたい申し出でしょうか。
正直なところ、足が痛くて一休みしたいとそう思っておりました。
「長老ー。んならさ、あたしの家泊まってもらおうって思っとる。
どうせあたしの家、部屋余っとるし。ええじゃろ?」
なるほど、この方がこの集落のちょうろ……ちょう、ろうッ!?
長老って……えっと?私の知っている『長老』と違う……!
しかしどうして!?なぜ勇者様も騎士様も誰も――
ツッコミを入れないのですか……?触っちゃ駄目な話題でしょうか……。
長老さんは『好きにし』と一言だけ返してらっしゃいますが……。
「みんなー色々気になっとるじゃろけどーとりまあたしの家案内するけ。
あたしの家で説明する。ほらーこっちこっちー、ついてきてー」
再び道化師服の彼女に案内をされるのですが、その道中。
巨大な“推定”毒キノコの上で群れていた、謎の生き物が跳ねて――
私たちの側へと寄って、臭いを嗅いだりした後、何故か勇者様のお足元へ。
「ね、ねぇっ……!こ、このこたち、なんなの……?」
「とっても可愛いけど――い、生き物、だよねぇ……?
なんでこんなに僕の足元に絡みついてるの……?うわっ……!
ちょっと、取り囲まれちゃった……どうすればいいのぉ……?」
驚いてらっしゃるご様子ですが、緩んでいる頬から分かります。
きっとこの小動物のような姿に、癒されておりますのね……!
ですが、お尋ねになった勇者様の質問への返答は呆気なく――
この集落の案内人であらせられるルルリカさんからは『しらね』と一言。
これでは何も分かるはずもなくって、思わずくすりと笑ってしまって。
不思議な集落をしばらく歩いた後――
あれこれ妨害を受けたりもしましたが、ようやっとたどり着きました……。
木の幹をくり抜いたような、可愛らしい見た目の家屋なのですが――
なぜか家の扉の隣には、雪だるまさんが鎮座しております。
(なぜ……腹太鼓を叩かれているのでしょうか?)
扉を開けば、駆け出してくる二つの姿が確認できるのですが……あらあら?
ご家族の方なのでしょうが、小さな姿で、とても成人には見えません。
「たでーまー。」
「ルルッ!!あんたぁ……!もうええ歳こいて……!森の奥は駄目って――
なんべん言うたら聞いてくれるんよ……ほんまにもう……!」
どこか民族衣装にも見える少女が、ルルリカさんに駆け寄って――
目尻に涙を浮かべていらっしゃいますが……ルルリカさんのお姉様でしょうか?
「んー、ママー。……めんごー。」
そうでしたか、ママでしたか。なるほど、ママですか……――ママ?
この少女にしか見えない姿が……お母様!?
「もー……心配かけさせんで……?ええっと、まず自己紹介からかねぇ……?
はじめまして、わし、スージーいうんよ、よろしゅうにね。」
「ほんで、ルル……そちらの方々は?」
「こんばんは!煌陽国セレスタリアから来ましたっ!勇者のノアと――」
「騎士・パルテオンだ。よろしく頼む。」
あまりにも呆然としすぎて、私だけ反応が遅れてしまっておりました。
騎士様に肩を小突かれて、ようやっと名乗りを上げてないことに気がつくほど。
「申し遅れました、聖女のセラフィーナです。」
「あらあらまぁまぁ、遠い土地からわざわざご苦労さまねぇ……。
白兎小人族の集落にようきんさったねぇー?」
「狭いじゃろうけど、ゆっくりしてきんちゃいね。」
頭を軽く下げてくださってますが、なんとも言えませんね……!
隣にいらっしゃる寡黙な青年の方も、一緒に頭を下げてくださってますが……。
「ワシの名前はランドル。娘を助けてくれたか知らんけど、その――
なんじゃあ……まぁ、ウチのじゃじゃ馬が迷惑かけたようで……すまん。」
なんと――見た目は少年ですが、声の低さが……し、渋い!
家族団らんを邪魔しているみたいで、なんだか申し訳が立たない……。
と――杞憂していた私ではありましたが……。
「ママ、オヤジ。あたしさ……こいつらに付いていこうとおもう。」
まるで、決定事項であるかのように当然と語るルルリカさん。
ご両親も驚かれておりますが、勇者様や騎士様、当然ながら私も驚愕です。
「ちょ……それどういうことなん?!ルルッ!!」
「おま……集落を出るって言いたいんか!?」
ご両親が納得されないのも、無理はありません。
だって私たちは今日初めて出会ったばかりですし、それに――
彼女から一切、そういったお話は聞いておりませんでしたから。
「いやーさ。ずっとこっちおったとこで、得られることって限られとる。
上もうるさきゃ、下もうるさい。んじゃけーさ。」
「森以外の場所――世界を、あたし自身の目でもっと見たいんよ。
それにあたし、集落じゃ強いほうじゃし。戦力にもなるかなって。」
彼女の事情は私には知る由もありませんが、それでも分かること。
それは、彼女の瞳から感じられる『真剣』さ。
そんな彼女を止めることなんて、私にはできるはずもありません。
「ほうね……本気なんじゃね?ならもう……ママは何も言わんけ。
ルルが決めたことなんじゃけ、ママはルルの意向に沿うけぇね。」
「わりー、でもずっと離れるってわけじゃないけぇ。飽きたら戻る。
じゃけ安心してやーママ。それにオヤジも。」
私にはどうすればよいのか分かりません。
私たちの仲間に加わるということは、戦闘は避けられない。
本当に承知の上で『付いてくる』と仰っているのか……分かりません。
勇者様がこちらに一瞬だけ視線を移して、微笑みかけましたが――
「ええっと……そのお話ですが――僕も今初めてきいたところでして……。
正直すっごくびっくりしてます!でも……ルルさん、彼女の魔法――」
「先ほどはとても助けられたんです。実は僕、仲間になってくれたらなって。
そう思っていたから――ルルリカさんの申し出はありがたいですっ!
勇者として、男として誓わせて下さい。絶対に仲間を――」
「ルルリカさんを、一人にはしない……って。」
勇者さんの笑顔は、まるで陽光。全てを照らすような明るい輝き。
ルルリカさんのご両親を、じっと見つめてらっしゃるのですが――
ご両親方も、彼の眩しさに驚いてらっしゃるのでしょうか?
「俺もだッ!俺もしっかりお嬢さんをお守りするぞッ!」
私からは……何も言わなくても良さそうですね。
「まぁ……そんなにいうんじゃったらええじゃろ。
じゃけど、娘になんかあったら……ワシが容赦せんけぇの?」
まるでいたずらっ子みたいな、幼い微笑みのランドルさん。
勇者様の腹部へ、優しい拳を繰り出していて――
なんだか、とても微笑ましいです。
こうして――やや強引ではありましたが……。
道化師服の彼女は、私たち勇者一行の仲間に加わりました。




