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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
16/63

その【賢者】病弱につき。



――その後。

セラとルルの二人は、酒場の前まで急ぎ足で戻った。


勇者たちが出てくるまでの間、腕に抱えられた紙袋を抱きしめるセラ。


セラたちの間に会話は無く、先ほど暴漢に囲まれたこと――

それに、タイミングよくあの貴族が助けてくれたことが、妙に胸に突っかかる。


(どうして、あんな絶妙なタイミングで、助けてくださったの……。)

(偶然にしては出来過ぎではありませんか……? 見張られている、とか……)


心配そうにセラを見つめるルルだが、彼女も不安を抱えていた。


しばらく待機していた二人だったが、酒場の扉が開かれ――

やがて勇者たちが姿を現し、セラとルルの二人は安堵からか、彼らに駆け寄る。


彼らに対し、ルルが「なぁなぁ」と声を掛け『ガサゴソ』と懐を漁る。

先ほどの青年が落としていった紙を取り出し、勇者へと渡した。


地図を受け取ったノアは、その紙を不思議そうにマジマジと見つめる。


「ええっと? これは、地図だね……? 買ったもの……にしては――

 色々と書き込まれているみたいだけれど……これはどうしたのかなぁ?」


「んとね……これ。 ――って理由があって……ほらあの胡散臭いヤツ。

 あのヒョロ長い貴族っぽいのが落としていったんよ。」


改めて地図に目を通してみるが、その詳細さに思わず眉をひそめる一同。

地図にはいくつも丸が書き込まれ、メモ書きのように言葉が添えられていた。


地図の町の中心を示す場所には“大図書館”との記載があるようだ。


「その胡散臭い貴族さんって、あの色白で真っ白の男の人かな?

 確か……お名前は『アメトリクス』さん、だったっけ?

 その人がこれを? どういうこと? なんでぇ……?」


「あたしは名前まで知らんけど、草原で合ったあの気味悪いヤツ。

 多分勇者ちゃんが言っとる人物で間違いないと思う。」


ノアの疑問はもっともなものだが、青年の真意は誰にも理解できない。

パルテオンも不審そうに地図を眺めるが、特段変な箇所は見当たらない。


それどころか――色々な情報が書き込まれており、謎は深まるばかり。


「酒の席で聞いた情報と一致してやがんのがかえって気味悪ィな……。」


が、地図にはひときわ目立つ色で囲われた、矢印つきの丸印――

「これは?」と発言したノアに対し、セラが読み上げる。


「“ここの宿、僕のおすすめだよ”……と書かれてます。」


凍りつく空気――全員が満場一致で即決した一つの解。

全員の気持ちを代弁するように「ここは避けようね……」と呟くノア。


「あの胡散臭い貴族(ニヴェイシア)の野郎のオススメってこったろ……?

 ぜってーなんかありやがるぜ……! 騎士の勘がぷんぷんしやがるッ!」


噂の渦中にある銀白金(アルゲント・アルビナ)の彼。

彼は密かにくしゃみを一つするが、それはまた別のお話。


結局――酒場で聞いた“普通に評判の良い宿”に宿泊することが決定。


怪しい空気もあったが、地図を頼りに歩いていく。

地図は確かなものだったようで、無事に“評判の良い宿”へとたどり着けた。


宿は堅実な旅人御用達といった様で、空き部屋も十分。

二人部屋を二つほど借りた一同は、時間はまだ夜には早かったが――


馬車疲れや先ほどの事件のこともあり、セラは疲労困憊だった。

セラとルルの二人は、もう動く気になれず、すぐに眠りへと落ちていった。


◇ ◇ ◇


そうして訪れた翌日の早朝。

賢者がいると噂の大図書館へと向かうため、一同は石畳の上を歩く。


大図書館の場所はこの街に着いた当初から見えていた、塔が目印の場所。


どうやら大図書館と呼ばれるその場所は、学院との複合施設のようだ。


早朝にも関わらず、往来は大勢の人でざわついている様子。

行き交う人々の中には、黒いローブ姿の学生の影がちらほらと確認できる。


「私、学校行ってみたかったのですよね……。 羨ましいなぁ……。」


「学校ってすっごくお金がかかるって聞いたよ……? さすがはセラだねぇ。

 僕とは住む世界が違う貴族の令嬢さんなんだねぇ……!」


二人の会話に、騎士(パルテオン)が学業は楽しい事だけではないと話に割り込む。

集落に学び舎はあったが、自身は学がないのだと、小人族(ルル)が語った。


四人で会話を交わし、中央の建物へ足を運ばせ、やがて門前へ。

圧倒されるほどの巨大な建物に、皆は口を開き呆然と立ち尽くしていた。


ぐるりと周囲を囲む生け垣に、重厚な石造りのような建物。

学術都市を象徴するような立派な外観に気圧されながらも、門を抜ける一同。


大きな扉を抜けた先、建物の中に入ってからも驚愕させられてばかりだった。


挿絵(By みてみん)


無数にある窓から柔らかく射し込む陽光に、所狭しと立ち並ぶ本棚。

一体どれほどの書物が、この場所に集められているのだろうか?


そう考えずにはいられないような空間。


建物の内部は薄暗く、本が日焼けせぬようにと尽くされている空間。

長年蓄積したであろう紙束に、ほんのりと鼻腔をくすぐるインクの香り。


コツコツと足音を鳴らし、周囲を見渡し、図書館内部を渡り歩く一同。


建物の内部は、そこかしこに学生の姿――ちらほらと一般客も確認できた。


ノアが手短に近くにいる女子生徒へと、やや小声で声を掛ける。


「あの、すみません。 少しお尋ねしたい事があるんですが……。

 禁書庫ってどうやって行けばいいか、分かりませんか……?」


「ええ? はい……? 禁書庫ですか? 禁書庫でしたら許可証……。

 国から発行される証明書が必要ですが……。」


「とりあえずは、まずは司書様にお話を通してみないことには……。

 よろしければ、私が司書様の場所までご案内を致しましょうか?」


女子学生に案内をお願いし「こちらです。」と案内されるがままに進んでいく。


やがて、一同が案内された場所は、階段下にある扉の前。

女子学生は小さな声で、勇者たちに待機してほしいことを伝え――しばらくの間。


扉の中へと入っていった女子学生だったが、出てくると同時に語りかけた。


「司書様にお話は通しておりますので……あとはどうぞ、ごゆっくり。」


入れ代わり立ち代わりで、勇者たちは扉前まで行き、勇者が扉を鳴らす。

中から優しさを感じる年配の女声で「はい、どうぞ。」と聞こえ――


入室を促され、勇者が皆を代表し、先に小部屋へと入室。


どうやらその場所は管理室らしく、帳簿が几帳面に並べられていた。

小さな机には紙束と羽ペンが広げられており、何やら作業中だったようだ。


全員が入室を終え、司書の女性が振り返り、一同に優しく微笑みかけた。


「さて……どのようなご用向きでしょうかね? 本を探しに来た――

 という風には見えませぬが……。」


ノアが何かを言おうとするのだが、彼は口ごもり、唸っていた。

どうやら彼は、何をどう伝えればよいか、分からないらしい。


勇者の様子をちらりと確認し、セラがノアの代わりに口を開いた。


「本ではなく、人を探しにこちらまで赴きました。 賢者様にお会いしたく。

 こちらにいらっしゃると、そのようにお聞きしましたので。」


司書は『ふむふむ』と頷くが、苦い表情を浮かべ、皆に視線を向けた。


「ふむ、賢者様……ですか。 彼方(かのかた)は禁書庫から動けませぬ。

 して禁書の立ち入りは、私の一存では決めかねますゆえ。」


「禁書庫への立ち入りに関しては、国からの許可証……もしくは――

 賢者様直々に、許可を下された者のみ、立ち入りが可能です。

 ですが……それでも書物の閲覧までは、許されておりませぬ。」


こんな時に使いたくない手段ではあった――が、四の五の言ってられない。

そう決意し、セラは最終手段に出ることにした。


「司書様。 こちらの方は【勇者】様にございます。 そして――

 私は【聖女】です。 それでも……駄目なのでしょうか……?」


彼女の言葉に驚いたのは司書だけではなかった。

勇者、騎士、小人族――そこにいる全員、聖女に視線を送る。


「あら! これは失礼。 私はここから出ることが出来なくてねぇ……。

 無知蒙昧な老骨めをお許しくださいませね、聖女様、勇者様。

 仕事がありますゆえに、私は同行が叶いません。」


「禁書庫への入口は、ここから右手側の通路奥です。

 地下へと続く螺旋階段がありますので、そちらから入室なさって下さい。」


心の中で大きなガッツポーズを決めるセラ。

後ろに控えていた騎士たちに顔を向け、妙なしたり顔を披露した。


騎士は驚いた表情を浮かべながらも、控えめに司書へと質問を投げる。


「勇者と聖女が許可をされるんは分かり、ますッ。 分かるんだけどよ……。

 その、俺らが禁書庫に入るのは……流石にまずいと思うん、ですが――

 あー……俺らはその、完全な部外者な気ぃしててよ……。」


敬語に慣れていない騎士(パルテオン)は、妙な言葉遣い、緊張の面持ちで尋ねるのだが――

司書は「ホッホッホ」と喉を鳴らして笑い、紙束を整えながら質問に答えた。


「なぁに、二人も四人もそう変わりませぬ。 賢者様に会うだけ――

 それだけなら何の問題もありませぬ。 どうぞ行ってくだされ。

 私は何も見ても聞いてもおりませぬ……そういう事にしておきましょうね?」


皆は司書に感謝を述べ、言われた通りの場所へと向かった。


禁書庫へと通じる扉は、荘厳さを感じる分厚い鉄の扉。

扉を押し開けると『ギギッ』と軋む音を立て、開かれた瞬間に突き抜ける香り。


やや黴臭いような、古臭いような――独特な風が一同の間を吹き抜ける。


管理は行き届いているが、不思議な圧力を感じる空間。

誰も口を開けず、石造りの螺旋階段を足音を響かせ下っていく。


「賢者って人……どこに居るんか、訊いとった方が良くなかった……?

 もっと狭い場所じゃって思うとったんじゃけど……クッソ広くね……?」


ぽつりと零すルルに、賛同するようにパルテオンが小さく呻く。


螺旋階段を下りきった先には、開けた空間が広がっていた。

中央には丸いテーブル。その周りを囲う小さな椅子。


複数の区画に別れており、目に見える範囲だけでも広さが伝わる。


それでも、先程の大図書館の外観と比べると、規模はやや小さめ。

しかしながら並べられた書物の数は、やはり“書庫”と呼ぶに相応しい。


皆が『賢者はどこ?』と、視線をあちらこちらへと移し、狼狽える。


そんな彼らの背後――どこからか『コツコツ』と降り注ぐように響く靴音。


先ほど下ってきたばかりの螺旋階段から現れたのは、一人の青年――

宙に浮く無数の書物と共に、黒いローブに身を包んだ男が階段を下る。


宙に浮いた書物は、一人でに頁を『ばらばら』と音を立て、捲られている。


分厚い眼鏡の奥に、知性を感じる鼈甲色の瞳――その目には深い隈。

新緑色の肩まである髪を、きっちりと中央で分け、頭上には博士帽。


見た目から理解することができる“学者”然りとした堂々たる姿――

誰が言うまでもなく、その人が【賢者】であることは一目瞭然。


「お噂はッ!!!かねがねッッ!!!」


が【賢者】と思しき人物が放った第一声は、これ――


「選定の剣に見初められた【勇者】殿ッッ!! そしてェッッ!!!

 神々の寵愛を受けしッ!!“奇跡を呼ぶ聖女(ミラストラフロース)”!!【聖女】殿ッ!!!」


「ワタクシはァッ!! そうッ!! お待ちしておりましたッ!!」


禁書庫内に響き渡るのは、まるで演説……。

空気を震わせるほどの声量で、言葉を放つ賢者の男。


両手をわざとらしく広げ、彼の周りを踊るように飛ぶ複数の書物。


「――良くぞッ!! 良くぞ参られましたァーーーッ!!!

 【勇者】殿ッ!! 【聖女】殿――ッッ!!!」


軽やかに……優雅に階段を下っていた【賢者】だった、が。

彼はふいに足を踏み外し、浮いている本と共に、彼の身体は宙へ投げ放たれる。


しかしそこは【勇者】であるノアの行動が早かった。

賢者が足を踏み外す前から、勇者は踏み込んでいたのだ。


賢者の身体が地へたどり着く前に、すでに彼の身体を抱きかかえていた。


「――ッ!! あっっ……ぶなかったぁ……!! 間に合って、よか――」


「しッ……!! 失礼ッッ!! いッたしましたァァッ!!!

 ワタクシッ!! 僭越ながら、国から【賢者】を任命されましたッ!!!

 名を『バルタザール』と申しますゥッ!! 家名は御座いませんッ!!」


とてつもなく元気良く宣言――

もとい、自己紹介をしてくれた賢者なのだが、彼は勇者の腕に抱かれたまま。


凄まじい勢い、凄まじい事態――駆け出したセラの足は……止まっていた。


ルルは恐怖からか、キューを抱きしめ後退し、戦慄(わなな)いていた。

とても小さな声で『テンションたっか……。』と呟き、パルテオンの後ろへ。


パルテオンはといえば、彼は頭を抱え納得の表情を浮かべていた。


賢者・バルタザールはノアの腕からそっと脱出。

何事も無かったかのように立ち上がり、再びその口を開いた。


「助かりましたぞッ!! 勇者ノア殿ッ!! さてッ……!!

 皆様の興味はッ――この土地に広がる異変……それと魔族の事ですなッ!!」


賢者から放たれた核心を突く言葉に、全員で顔を見合わせたのだが、しかし。

立ち上がったばかりの賢者の彼は、再びふらりと膝を折った。


ノアがすんでのところで抱きとめるが、困惑の眼差しを賢者へ注ぐ。


「も、もしかして――賢者さんって……。」


「やっぱりそういうこったな……。 酒場で聞いた“気難しい”――

 恐らくだが……こういうこったよ……。 なぁ……ノアさんよ……。」


目の前に広がる混沌の光景を、静かに見守る聖女。

謎毛玉生物を変形するほどに抱きしめ、無表情で睨むことしか出来ない小人族。


「コイツ……ほんまに大丈夫なん……?」


禁書庫内に静かに響く小人族の声――

勇者一行は、賢者の理解しがたい様子に、ただただ沈黙するしか出来なかった。





7/17 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。



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