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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
14/63

その【馬車】腰破壊につき。



翌朝、全員が朝食の場へと集まっていたのだが――


ノア、セラは互いにぎこちない様子だった。

双方ともに背すじを伸ばし向かい合うが、どちらも気まずいのか無言。


食事場の机には、食欲を唆られる様々な料理が並んでいるが……しかし。

二人の目には、机に広がる食事よりも“昨晩の出来事”がのしかかっていた。


二人とも心此処に非ずといった様相で、彼らは恐らく――

互いにパンを握っているつもりなのだろう。


二人は片手に空気のパンを握り、勇者ノアに至っては、だ。

彼は空気のパンをちぎる動作を見せ、滑稽にもその空気を口に運んでいた。


とても正常とは言い難い二人の姿。

騎士は思わず、向かいに座る小人族とキューに身を寄せ、小声で尋ねた。


『おいルル……。 昨晩なんかあったのか? まさかとは思うがよ――

 ノアが覗きをした……とかじゃねぇよな?』


パルテオンの質問は半分が正解で、半分が不正解だった。

小さくため息を吐き出したルルは、昨晩の出来事を若干だが歪曲して語る。


『服脱いで、湯浴みしようと思ったら、セラちゃんが叫んだ。

 したらノアちゃんが来た。 そしたらこうなったんよ。』


『あたしも知らん。』と切り捨て、彼女は“普通”にパンを咀嚼。

彼女の説明はかなり端折られたもので、その説明だけでは伝わるはずもない。


パルテオンは余計に理解することが出来ず、首を傾げながらも朝食を摂る。


何も気にしていないルル――

気にしてないという彼女の態度が、余計にパルテオンの混乱を加速させていた。


沈黙が流れていたが……沈黙を破るように、セラとノアの二人が声を上げる。


「「昨日はッ!!」」


声が重なり、二人は瞬間的に目を合わせ、空気が凍ったように固まる。

『しゅん……』と肩を落とすノアに、セラが口を開いた。


頬を桜色に染め「あのっ……!」と枕詞の後、震える声を絞り出す。


「昨晩は、私の不注意でしたっ……! 虫さんに驚いてしまったとはいえ――

 あんなに叫んでしまっては、ノアさんが心配するのも当然です。」


小さな声で「ごめんなさい……。」と謝罪の言葉を口にするセラ。

彼女の言葉の端々には、昨晩の羞恥と自己嫌悪が滲む。


そんなセラの様子に、ノアは慌てて首を横に振り全力で否定。

両手をひらひらと翳し、セラのせいだけではないと、身振り手振りで示す。


「ちがうッ! 考えなしに、ノックもせずに扉を開けたのは僕だからッ!

 セラは、何も……悪くない……んだ。 僕が後先考えずに――」


「私だって、悪かったのです――!」


「それだったら、僕のほうが――!」


怒気すら感じられる二人の言い合いに、互いに顔を見合わせ――

やがて、何かが吹っ切れたように「ふふっ」と、気がつけば笑いが漏れていた。


「ノアさん……いえ、ノア。 あなたが善意で扉を開けたこと――

 私はちゃんと分かっています。 ですので、今回の事は水に流しましょう!」


「ごめんね、セラ。 もし……次に同じようなことがあったのならさ……。

 ちゃんと、一声かけてから確認するようにするから……!」


二人で頭を下げ、笑い合いながらも謝罪合戦。

そんな光景を見つめ、パルテオンとルルは、安心したように食事にありついた。


その後――

四人全員で会話を交わし、肩の力を抜き、和やかな朝餉の時間を楽しんだ。


食事が終わるか終わらないかという、微妙な頃合い。


宿の従業員から声を掛けられ、話を聞いてみればなんと――

今日の昼前に、都市行きの馬車が村に来るとの話だそうだ。


従業員の話ではその都市は発展しているらしく、調べ物には最適と。

勇者一行は言葉を受けた後、急いで旅支度を整え、あっという間に出立の時刻に。


馬車の点検に少しだけ時間が欲しいとのことで、時間が余った。


余った時間を有効活用するため、一同は村の広場へと向かう。

改めて村人たちに困り事はないかを尋ねて回るのだが……。


出立の噂を聞きつけた村の子どもたちが、勇者たちに駆け寄ってきた。

子どもたちを代表した女の子の一人が、大事そうに握った花冠を手に、一歩前へ。


照れくさそうにする女の子に対し、ノアは膝をつき女の子に視線を合わせる。


「お花の冠……お嬢さんたちが作ったの? すっごく綺麗だねっ!」


「えっと……勇者のお兄ちゃんに渡したくって……あと、これもっ――

 聖女のお姉ちゃんの分……! 昨日、ご気分が悪そうだったから……。」


白と黄色の花々で編まれた、拙い花の冠――女の子はそっとノアに差し出した。

ノアと女の子のもとへ、セラも屈み、二人で女の子の頭を優しく撫でる。


「ありがとうございます……。 私にも作ってくださったのですか?

 とっても――嬉しいです。」


顔を真っ赤にさせ、勇者と聖女に花冠を渡そうとするが――

ノアが女の子の手に手を添え、そっと自身の頭へと導き、朗らかに笑う。


「お嬢さんが直接、僕の頭に乗せて? そうして貰えたほうが嬉しいなっ!」


「……駄目かな?」と首を傾け、微笑を零す勇者に、女の子の顔は真っ赤に。

周りの子どもたちから「ほらー!」と急かされる女の子。


女の子はきゅっと目を瞑り、ノアの頭に花冠を乗せ――

そのままパタパタと走り去ってしまった。


ノアの手にはもう一つの花冠――彼の頭に乗せられているものと同じもの。

隣で腰を落とすセラの頭上に、優しく花冠を乗せ瞳を細め、笑顔を向けた。


「えへへッ!お揃いだね、セラっ! 惜しいねぇ?パルとルル……

 それにキューの分があったら、面白かったかもっ!」


彼の言葉に、セラは「ふふっ」と思わず笑みが溢れ、小声で付け加えた。


『人誑しが過ぎますね? ――勇者様ったら。』


ルルの頭の上には謎毛玉生物が鎮座。ルルは無表情で二人の姿を見つめ――


『花粉だけに――鼻をかむってな。 ふへっ……。』


と――ぽつりと呟き、彼女の周りだけ……妙に冷え込んだのは言うまでもない。

しかしそれでも彼女の言葉は、虚しいことに誰の耳にも届かない。


そして、馬車の準備が整ったとの事で、一同は馬車へと乗り込む。

村の入口に停められた荷馬車の周囲には、村人たちが集まっていた。


「勇者様! 聖女様! 騎士様に道化師のお嬢さん! どうかご無事で!

 また、御縁があれば是非、村にお立ち寄りください!」


馬が嘶き――それを合図に車輪が軋む音を上げ、馬車は動き出す。


後方から聞こえてくるのは、村人たちの温かな声援――

勇者たちが見えなくなるまで、それは続いていた。


そうして勇者一行は、学術都市へと向かうのだった。


◇ ◇ ◇


荷馬車は軋む音を鳴らし、石と土の道をガタガタと音を立て進む。

舗装の甘い街道を車輪が叩き、不快な揺れを生み出す。


陽射しが照りつける中、舗装の甘さと柔軟性のない木枠に奪われる体力。


出発早々、彼らの腰は悲鳴を上げており、言葉数少なく時間だけが経過する。


最初こそは呑気なものだった。

が、ものの数十分で音を上げ……ルルはキューを抱え昇天。


セラは時折腰を抑えて項垂れ、なんとか揺れに耐えている状況。


一同は揺れに耐える事に注力し、道中特に会話も無い。

ただ虚しく、時間だけが過ぎていく。


御者は沈黙に耐えかね、手綱を捌きながら一同に対して語りかけた。


「硬い荷物ばかりで申し訳ないです……なんせ荷馬車なものでして――

 して勇者一行の皆様。 今から向かう都市なのですが……。

 なんと、国公認の――“賢者さま”がおられましてな!」


まるで芝居がかったような口調の御者。

御者はせめて、会話だけでも楽しんでもらおうと必死だ。


「少々クセの強いお方との噂ですが、知識量において右に出るもの無し!

 勇者一行の皆さまにとって、きっと良い機会となりましょう!」


「ただ私も……噂のみしか伝え聞いておらずでして。

 賢者さまがどこにいらっしゃるかまでは――すみません……。」


御者の言葉に、ノアは空を見上げながら「けんじゃ……。」と呟く。

淡い金色の細い髪が、陽の光を受け、風に乗せられふわふわと揺れる。


その横顔はまるで絵画になりそうなほどで――


挿絵(By みてみん)


(すごく、絵になる方なんですよね。 ノアって。)

(顔がよろしすぎて、まともに見られません……。)


御者は手綱を軽く鳴らし、再び口を開いた。

都市までは長くとも、二日程度は掛かることを皆に聞かせる。


セラ、ルルの二人は同時に表情を暗く落とし、項垂れていた。

それ程までに“荷馬車”での移動は、身体の負担が大きいらしい。


穏やかに街道を進んでいくが、次第に陽が落ち、空が茜色に染まる頃合い――

御者が手綱を打ち鳴らし、馬車が軋んだ音を響かせて停車。


野営地にたどり着いた様子で、御者が手を払い、荷台にいる一同へ声をかけた。


「お疲れ様です勇者さま方、今夜はこの辺りで野営といたします。

 食料ですが、荷馬車に乗せてあるものを、よければ使ってください!」


馬車から降りたパルテオンは、座りっぱなしだったためか――

彼は降りて早々、身体を軽くひねり、柔軟しながら声を落とす。


「ふぅッ……んじゃ。 俺はテントを張る。 食事は任せてもいいか?」


言うが早いか、彼は荷物からテントを取り出し、設営の準備へ入る。

彼の行動を皮切りにノアが薪を集め、ルルはと言えば……傍観の準備を始めた。


あらかた野営の準備を終え、料理係に任命されたセラ。

彼女は法衣の袖をまくり、気合十分に調理に取り掛かった。


「では料理は不肖私めが……このセラフィーナ……腕によりをかけ――

 精一杯っ! 失敗をしないよう、調理に励むとしますっ!」


調理器具を取り出し、早速料理の準備を始めるセラ。


不思議なことに、手は迷いなく効率的に動いてくれる。

まるで調理そのものが“長年してきた動作”のように軽やかだった。


鍋はあらかじめ火に焚べ、油を引き熱しておき、その間に野菜の準備。

芋、人参、玉ねぎのような野菜を刻み、熱した鍋にそれらを放り込む。


火が通った事を確認し、干し肉を追加し、水を加えてひと煮立ち。


泡が立つ頃合いに火から離し、そこに小麦粉、固形の植物乳、塩を追加。

鍋が焦げ付かないよう、細心の注意を払いながら、複数の香草を少量加える。


しばらく火の上で煮立たせ――完成したものは、簡易的なホワイトシチュー。


(あれ……とろみが足りないですが……御愛嬌ですね!!)


「みなさまっ! できましたっ!! 味は、少し濃いかもしれません……。

 それと、とても熱いので、食す際はお気をつけくださいっ!」


木の器に盛り付け、御者含めた全員へ食事を振る舞うセラ。

セラにとっては、粘度が少しばかり足りないと感じる成果物だった。


しかしそれでも、皆にとっては美味だったようだ。


ノアが固い黒パンをシチューに浸し、頬張り、綻んだ微笑を浮かべる。

とても満足そうに咀嚼しながら絶賛し、舌鼓を打ち、セラへと語りかけた。


「優しい味付けでとっても美味しいっ! 手際も良かったし――

 セラってもしかして……むぐ。 すごく料理上手なのかな?」


「ノアのお口に合ったみたいで良かったです……! パルテオンさん――

 ルルさんは如何ですか? 美味しいですか? 御者さんも――」


セラの言葉に被せるように、御者は興奮した様子でまくしたてた。


「聖女様は貴族のご令嬢とお聞きしておりましたが、これは参りました!

 料理がこれほどできる貴族令嬢だなんて、聞いたことがありませんっ!

 それにしても本当に美味です! 宜しければ作り方やコツ――

 それと材料等、ご教授くだされ! これは売れますぞ!」


パルテオンやルルは黙々と食事を続け、多めに作っていた料理は見事に完食。

皆がセラの料理を絶賛し、そんな彼らに彼女はくすぐったい衝動に駆られていた。


単純に褒めてもらえることが嬉しく、頬を染めて皆に感謝を伝える。


『誰かのお役に立ちたい』――その想いは、こんな形でも叶えられるのだな、と。


なにか……胸に温かいものを帯びていく感覚。


『また機会があればいつでも作ろう』と、静かに決意するセラだった。


(最初はどうなるか不安でいっぱいでしたが。 旅って……良いものですね。)

(これから先どうなるか、未来の事はわかりません……ですが……。)

(少なくとも今この時を大事にして――忘れないようにしましょう。)






7/17 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。


ひとくちメモ:セラの作っていたホワイトシチューモドキの補足。


挿絵(By みてみん)


・固形の植物乳:無塩バター、脱脂粉乳のいいとこ取りの便利アイテム。


・複数の香草詳細:パセリ、タイム、バジル、ペパーミントが隠し味。


・干し肉:豚頬肉の塩漬けで、グアンチャーレに近いもの。

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