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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護
14/30

その【馬車】腰破壊につき。



皆がぼちぼち起床し、迎えた翌朝――全員が朝食の場へと集合していた。


ノアとセラは、互いにぎこちない様子で、双方共に背筋を伸ばし向かい合う。

食事場のテーブルには、焼き立てのパン、果物、温かなスープが並ぶ。


しかし、セラとノアの二人には、眼前に広がる食事よりも――

“昨晩の出来事”が重くのしかかり、二人とも呆然とパンを片手に、沈黙を貫く。


パルテオンは、向かいに座るルルとキューに身を寄せ、小声で尋ねた。


「お、おい…昨晩なんかあったのか…? まさかとは思うがよ…

 ノアが覗きをしたとかじゃ…ねぇよな…? アイツに限ってねぇとは思うけどよ…」


かなり声を抑え、ルルに声を掛けるパルテオン。

ルルは小さく溜息を吐くと、昨晩の出来事を、若干歪曲して伝えた。


「服脱いで、湯浴みしようとおもったら、セラちゃんが叫んで、ノアちゃんが来た。

 そしたらこうなった。 あたしもようわからん。」


ルルの説明はかなり端折られており、その説明だけでは、伝わるはずもなく――

パルテオンは余計に理由がわからず、首を傾げ、唸りつつも朝食を摂る。


ルルはまるで何も気にしておらず、パンを頬張り、咀嚼しながら二人の様子を見守った。

頭の上にキューを乗せ、紅い瞳に二人を映し、小人族の彼女は一体何を思うのか。


そんな沈黙を破ったのは、セラとノアから同時に放たれた大きめの声。


「「昨日は!!!」」


完全に声が重なり、二人は瞬間的に目を合わせ、空気が凍ったように固まる。

ノアは「しゅん」と肩を落とし、そんな様子に耐えかねたセラが、口を開いた。


頬を小さく染め上げ、若干声は震えているが、それでも声を上げた。


「――あの、不注意でした。 虫さんに驚いてしまったとは言え…。

 あんなに叫んでしまっては、ノアさんが心配するのも当然です…ごめんなさい。」


彼女の言葉の端々には、昨日の羞恥と、自己嫌悪からなのか、眉は下がっていた。


ノアはそんなセラの様子を見て、慌てて首を横に振り、全力で否定。

両手を前に翳し、ひらひらとさせ、セラのせいだけではないと、身を挺して示す。


「ちっ違う!! 考えなしに…ノックもせずに扉を開けたのは僕だからっ…!

 セラは何も、悪くない…んだ。 後先考えずに…僕が扉を開けちゃったから…」


「わっ、私だってっ!悪かったんです!!」


「それだったら、僕のほうが――!」


若干怒気すら感じられる、二人の言い合いに、セラとノアは互いに顔を見合わせる。

何かが吹っ切れたように「っふふ」と気がつけば、二人からは笑いが漏れていた。


「ノア。 あなたが善意で扉を開けたこと、ちゃんと分かってます。

 ですので、今回のことは水に流しましょう! ――ね?」


「ごめんね、セラ。 もし、次にこんな事があるなら、さ――

 ちゃんと一言、声を掛けてから確認するようにするからっ…!」


二人で小さく頭を下げ、小首をかしげつつ、笑いながら謝罪合戦をする二人。

パルテオンとルルは、その光景を見つめ、安心したように食事にありついた。


その後は、四人全員で、会話を交わし――肩の力を抜き、笑い合う。

一時の、和やかな朝餉の時間を楽しんだ。


食事が終えるか終えないか位の時間に、従業員から声を掛けられた一同。

内容は、今日の昼前には都市行きの馬車が、この村に来るとのことだった。


従業員曰く、その都市は発展しているらしく、調べ物には最適だということ。

一同は言葉を受け、急いで旅支度を整え――そして出立の時刻となった。


御者が、馬車の点検の時間が欲しいとのことで、少しだけ時間が余る。


余った時間を有効活用するため、一同は一旦、村の広間に集まった。

改めて村人に、もう困りごとはないかを、訊ねて回る。


すると、出立の噂を聞きつけた村の子どもたちが、勇者に駆け寄った。

その手には、二つの花冠が握られており、照れくさそうに一人の女の子がノアの元へ。


ノアは膝をつき、女の子へと視線を合わせ、首を小さくかしげ、朗らかな笑みを落とす。


「そのお花の冠、お嬢さん達が作ったの? すっごく、綺麗だねっ!」


「えっと、勇者のお兄ちゃんに、渡したくて… あとこれ……

 えっと…聖女のおねぇちゃんにも… 昨日…ご気分悪そうだったから…」


そういって、セラとノアの為に編まれた、白と黄色の花々の拙い花冠。

セラも、子どもたちの目線に合わせるように屈み込み、冠を持つ女の子の頭を優しく撫でる。


「ありがとうございます…私もとても、嬉しいですっ!」


女の子は照れくさそうに花冠を渡そうとするが、ノアが目を細め微笑み――


「お嬢さんが、お花の冠…僕の頭に乗せてもらえたら…嬉しいな? ――だめ、かな?」


女の子は途端に顔を赤くし、周りの子どもたちに「ほらー!」と急かされる。

照れくさそうに、ノアの頭に花冠をのせると、その女の子はパタパタと走り去っていった。


ノアの手には、もう一つの冠が握られていて、隣で腰を落とすセラの頭へちょこんと乗せた。


「えへへ、おそろいだねぇ、セラ?

 惜しいねぇー、パルやルル、キューの分もあったら、よかったのに…」


そう呟くノアに、セラは「ふふっ」と小さく笑い、小声で付け加える。


「人誑しが過ぎますね? ――うちの勇者様。」


ルルが頭の上にキューを乗せ、無表情で二人の姿を見つめる。

パルテオンは仏頂面で腕を組みつつも、どしりと構え、その様子を穏やかに見守った。


御者は、準備と整備が完了との報告を一同にし、皆は馬車へと向かう。


村の入口に停められた荷馬車の周囲に、村人たちが集まり手を振る。


「勇者様! 聖女様! 騎士と道化師の方! どうかご無事で!

 また、御縁があればぜひ、村にお立ち寄りくださいませ!」


村人に見送られつつ、馬車の荷台へと乗り込む一同。

馬が嘶き、それを合図に車輪が軋む音をあげ、ゆるりと動き出す。


村の人々の笑顔と声援は、いつまでも後ろから聞えており、見えなくなるまでそれは続いた。


そうして、次の都市――学術都市へと向かうのだった。


◇ ◇ ◇


荷馬車は軋む音を鳴らし、石と土の道を、ガタガタと音を立て進む。

舗装の甘い街道を車輪が叩き、不快な揺れを生みつつも、着実に進んでいく。


陽射しが照りつける中、舗装の甘さと、柔軟性のない木枠に奪われる体力。

出発早々、彼らの腰は悲鳴を上げており、言葉数少なく、時間だけが経過する。


最初こそは呑気なものだったが、ものの数十分で音を上げ、ルルはキューを抱え昇天。

セラは腰をたまに抑えつつ、項垂れ、なんとか揺れに耐えている状況。


一同は揺れに耐える事に集中し、道中特に会話も無く、ひたすらに時間だけが過ぎていた。

御者は沈黙に耐えかね、手綱を捌きつつも、一同に振り返り、語りかける。


「いやはや、硬い荷物ばかりで申し訳ないです、なんせ荷馬車なもので…。

 して勇者一行の皆様。 今から向かう都市なのですが……

 なんと、国公認の――“賢者さま”がおられましてな!」


まるで芝居がかったような口調の御者。せめて会話だけでも楽しんでもらおうと、必死だ。


「少々クセの強いお方ですが、知識量においては、右に出るもの無し!

 勇者一行の皆さまにとって、きっと良い機会となりましょう!」


「ただ私も、噂のみしか伝え聞いておらず、どこにいらっしゃるかまでは――すみません。」


御者の言葉に、ノアは空を見上げながら「けんじゃ…?」と呟く。

淡い金色の細い髪が、陽の光を受け、風に乗せられふわふわと揺れる。


その横顔はまるで、絵画になりそうなほど、様になり、セラは思わず見惚れた。


(すごく、絵になる方なんですよね、ノアって。 顔がよろしすぎて、まともに見られません…)


御者は手綱を軽く鳴らしつつ、再び口を開いた。

都市までは長くとも、二日程度は掛かることを皆に聞かせた。


セラ、ルルの二人は思わず表情を暗く落とし、あからさまにテンションを下げる。

それ程までに“荷馬車”での移動は、身体への負担が大きいらしい。


穏やかに街道を進んでいくが、次第に陽が落ち、空が茜色に染まる頃合い――

御者が手綱を打ち鳴らすと、馬車が軋んだ音を響かせて停車。


野営ポイントにたどり着いたようで、手を払うと、荷台にいる一同へ声をかけた。


「いやはや、お疲れ様です勇者さま方、今夜はこの辺りで野営といたします。

 食料ですが、荷馬車に乗せてあるものを、よろしければ使ってくださいっ!」


パルテオンが馬車から降り、身体を軽くひねらせ、伸ばし――


「んじゃ、俺はテントを張るからよ、食事は任せてもいいか?」


そう伝え、彼は荷物を漁り、そそくさとテントを設営するための準備に入った。

ノアが「それじゃ僕は薪を…」と其々が野営の準備をし始める。


ルルは体格のこともあり、キューと共に、何もせずの番。


あらかた野営の準備が終わると、料理係に任命されたセラは、腕まくりをし、気合十分。


「では料理は…未熟者ではありますが、このセラフィーナ…腕によりをかけ――

 調理してみせましょうっ! …失敗しないように頑張りますっ!」


調理器具を取り出し、早速料理に取り掛かる、聖女セラ。

不思議なことに、手は迷いなく効率的に動き、まるで“長年してきた動作”のように軽やか。


鍋を予め温めておき、その間に野菜を均一に刻み、鍋に野菜と少量の油を放り込む。

火が通ったことを確認し、干し肉と少量の水を加え、そこに更に小麦粉を加える。


煮詰まる前に植物乳と塩、複数の香草を加え、しばらく火の上で煮立たせ――完成。

白い湯気と優しい香りがする、簡易的なホワイトシチューを作り、御者含めた皆に振る舞う。


「味は…少し濃いかもしれません… それと、とても熱いので、お気をつけくださいっ!」


木の器に丁寧に盛られた、少し粘度の甘いホワイトシチュー。

ノアが硬い黒パンをシチューに浸し、頬張ると、ふわりと笑顔を浮かべた。


「すごく優しい味付けで、とっても美味しいよ? 手際も良かったし…

 セラってもしかして…むぐ。 すごく、料理上手だったりする…?」


ノアは咀嚼しつつ、絶賛しながら美味しそうに食している様子だ。

セラは真っ直ぐなノアの言葉に、心が暖かくなり、思わず笑みをこぼす。


「ノアのお口に合ったみたいで、良かったですっ…!」


「聖女様は貴族のご令嬢とお聞きしておりますが、料理ができる貴族令嬢なんて聞いたことが…

 それにしても本当に美味しいですな…作り方を教えて頂いても…?

 これ、売れますぞ…いや本当に……【聖女】の白きスープとか名称を付け、売りに出したら――」


ノアや御者に続き、ルルとパルテオンもセラの料理に手を付け、互いに顔を綻ばせた。


男性もいるからと、セラは予め量を多めに作っていたのだが、見事に完食。

皆絶賛のセラの料理に、彼女はくすぐったい衝動に駆られていた。


単純に褒めてもらえることが嬉しく、頬を染めながらも、皆に感謝を伝える。

誰かの役に立ちたい――その思いは、こんな形でも叶えられるのだなと。


心の中がじわりと暖かくなり、また機会があればいつでも作ろうと静かに決意していたのだった。


(最初はどうなるか、不安でいっぱいでしたが…旅って、良いものですね。)

(これから先、どうなるか、未来の事はまだわかりませんが…)

(少なくとも、今この時を――大事にして、忘れないようにしましょう。)





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