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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:些細な異変の兆し。

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14/137

頁:12 その【一行】初依頼につき。



 その後ですが、私の体調は見事なまでに悪化いたしました。

 結果としては、お二方から気を遣われるほどの有様でございまして……。


 これは先ほどの貴族の方とお会いする以前の問題でした。


 大勢の人が一箇所に集められた空間に、そも慣れておりません。

 ゆえに人に呑まれて気圧された結果『人混み酔い』に見舞われたのです。


 情けないお話ではございますが、我々神職者は総じてですが……。

 自身に対しては《治癒の祈り(サナティオ)》を行使することは叶わないのです。


 癒し手である私が倒れてしまっては本末転倒だと、そう決断いたしました。

 祝宴の夜会は早めに切り上げましたが、私たちがいなくとも――


『派手好きな貴族たちが勝手に騒ぐだろう――』


 と、国王陛下のお墨付きもあり、お言葉に甘えさせていただくことに。



 そんなわけでして、私たちは夜の喧騒を背に馬車で移動中。

 国が用意してくださった、離れのお屋敷へと馬車を走らせております。


 窓の外から確認できますのは、王城の明かりが遠ざかる光景。

 やがて宵の闇へと溶け込んで――視界からは明かりが消えてゆきました。


「ごめんねぇ……僕、大勢の人たちに囲まれちゃって。

 セラの様子に気がつくことが出来なくってさ……パルが言ってくれなきゃ――

 多分、僕ずっとあのままお喋りに夢中だったかも……それにしてもだよっ!!」


「セラさんは体調は平気かな?僕だって疲れてるんだし……無理はしないでね?」


 対面に座っていた勇者さんですが、彼は確かにお言葉では『疲れた』と――

 そう申していらっしゃいますが、本当に疲れている様子ではありません。


 恐らくは、私に気を遣ってらっしゃるのが目に見えます。


「ノア……おめぇそうは言ってっけどよォ……緊張してなかったろ?

 あんだけの人に囲まれて愛想振りまいてやがったろ……凄ェよマジで……。」


 肩をくるくると回してらっしゃる勇者ノアさん。

 そんな彼の隣で、呆れた様子の騎士様――


 お二人はどこか、長年の付き合いのようなものを感じます。


 二人は気を遣ってくださっていたのに、私ときたら――

 先ほどから胸に感じていた不安ゆえでしょうか。


 体調も然(さ)る事(こと)乍(なが)らではありましたが……表情に出ていたのでしょう。

 心配そうに見つめてらっしゃる勇者さまから、お声がけをいただきました。


「えーっと……セラさんはどうだった?

 僕が見たときにはひどい顔色だったから……なにかあったのかな?」


 朗らかな微笑――ですが、その視線の鋭さに思わず驚かされました。

 でもそうですね……気がかりはありました。


 あの――胡散臭い微笑の貴族の青年の方。

 彼の顔が脳裏に焼き付いてしまって、離れてくださいません。


 直感で何かを……感じ取っていたのかもしれません。


「先ほど――舞踏の時間ですが、一人の貴族の方とお会いしました。

 とても礼儀正しい方で、完璧な立ち居振る舞いの青年の方……でした。」


「お名前は――『アメトリクス・フォン・ニヴェイシア』様、と。

 その方と特別何があったとか、そういったわけではないのです。」


「ただ、胸に拭えない不安……のようなものを感じてしまって――」


 これまでに社交界に出なかったこと――

 これほどまでに後悔をしたことがありましょうか?ああ、口惜しい。


 もし私が、聖女として多少なり社交界に出ていれば……と。


 そうしていれば、彼に関する情報もきっともっとあったかもしれません。


 ですが、後悔先に立たずです。お二方に視線を戻しますが……。

 お二方は怪訝そうなお顔で、唸るように考え込んでらっしゃいます。


「あめとりくす……さん?うーん、当然だけれど僕は聞いたことがないね。

 僕は貴族の産まれじゃないんだぁ……だから知らなくても許してね?」


 笑って誤魔化してらっしゃるけど、どこか真剣な瞳の勇者さま。


「ニヴェイ……シア……?だぁーッ!分からんッ!すまんが俺もだッ!

 俺も聞いたことない家名ゆえ全くわからんッ!どこの貴族だぁ……?」


「嬢ちゃんが言ってんのは――あんとき……。

 挨拶交わしてたときの、胡散臭ェ野郎のことだよな?俺よりデカかった――」


 問われましても、申し訳がないですが、私に分かるはずなどありません。

 ゆえに答えられるのは『はい。』と一言だけでした。


「それとなのですが――その方と握手を交わした際……。

 とても……冷たく感じました。ただの冷え性というには……。」


「……うん、わかったよっ!セラさんが怪しいって思ったのなら――

 きっと何か変な人なんだねっ!気にかけておこうっ!」


「次その人に会うときは、僕たちが側にいるからっ!」


 勇者さまのお声は、とても柔らかくて……。

 年齢は私とそう……大きく離れておりませんのに。


 どうして彼はこうも、不可思議な安堵感があるのでしょうか?


 まだ出会ってから数日とありませんが、それでも理解できること。

 勇者さまは非常に真っ直ぐな方で、心がお強い方なのだと。


 私ももっと……精進いたしませんと。


 心中で決心して、頬を軽く叩いて活を入れましたが、お二方は驚きの眼差し。

 視線がお二方と合ってしまって『ふっ』と笑いの吐息が漏れて――


(これからどうなるのかしら……不安は絶えませんが……気合ですね。)


 ◇ ◇ ◇


 祝賀会のお披露目会から数日が経過。

 聖女である私を含めた三人で、王都から別の場所へと移っておりました。


 というのも――

 勇者さんが祝賀会のとき、とある貴族の方に頼まれたのだそうです。

 その貴族さまが領主を務められている、王都近隣の村での異変――


 なにやら、お困り事とのことらしいです。


『なにとぞ……勇者様方に解決をして欲しく――』


 と……どうやらその貴族様が仰るには、このような話だそうです。


 大人しかったはずの動物たちが、近隣の森から逃げてきたのだそう。

 動物たちが暴れ、畑を荒らして家畜や魔物にも影響が――と。


 領地経営にも支障が出ているとのことらしく、そちらに赴くことに。

 ……なぜか勇者さまはとても真剣なご様子で、その話をされていて。



 そうしてたどり着いた村でしたが――

 着いて早々、村人たちは私たちへと駆け寄ってきました。


 口々に助けを求められて、胸が苦しくなるような思いになり――

 私が知らないだけで、こうした細々した困りごとがあるのだと。


 自身の無知を恥じるとともに、少しでもお力添えできたらな……と。


(私なんかがお役に立てるとよいのですが……。)


「お待ちしておりました勇者御一行さま!森を通れずにこれでは狩りが――」

「森から逃げてきた魔物や動物たちが暴れ、畑が……このままでは村が――」

「作物がだめになるわ、狩りにも行けねぇわで……どうすれば……。」


 怯えきった様子の村人たち。縋るような眼差しの人々。

 村人一人ひとりの手を取り、優しく微笑みを返す勇者様。


「お任せくださいっ!僕たちはそのためにいるんですからっ!」


「おうともっ!大船に乗ったつもりで、解決まで待っていてくれ!」


 勇者さんも騎士さんも気合十分といったご様子ですが――

 私はただ、胸の前で手を合わせることしか、できませんでした。



 こうして――村人たちの杞憂を晴らすため、異変のある森へ。


 初めての任務ということもあって、私はずっと緊張しっぱなし。

 修行期間中、外へ繰り出すことはあれど、周囲には常に大勢の人がいました。


 少人数での行動は今回が初めての経験となります。


 若干の緊張や不安が胸に残りますが、きっと私たちは同じ思いです。


 気を引き締め――改めて森へと向かいました。





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