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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:些細な異変の兆し。

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13/127

頁:11 その【祝宴】出会いにつき。◆挿絵有り



 移動した先の祝宴の広間。

 早速【勇者】と私の元には、人だかりができました。


 勇者である彼は、笑顔で朗らかに対応して、ハキハキとしてらっしゃいます。


 ですが私は――緊張のあまり、喉が乾ききっておりました。

 人だかりだとか、そんな場合ではございません。


 付近で待機してらっしゃる騎士様に断りをいれて、食事のテーブルへ。

 目的はもちろん、喉を潤すための飲み物の確保。


 少し離れただけで、勇者様のお姿は人に飲まれ、消えていって……。

 私の視線からでは確認できないほど、囲まれてらっしゃるご様子です。


(いったい、あちらでは何が起こっているのでしょうか?)


 気になるところではありますが、ともかくは一刻も早く喉に潤いです。

 私の動向を気にしてらっしゃるのか、騎士様からの視線が刺さりますが――


(これだけ人がいますのに……心配してくださるのは結構ですが……。)


 様々な食事が並ぶ机へと足を運んで、飲み物が入ったグラスを取り――

 口に含んでみますが……爽やかで喉越しの良い清涼感です。


 少しは落ち着きを取り戻してくれる手伝いにはなりましょう。


(ふう……ノアさんは……?ずっと囲まれてらっしゃいますね……。)

(私ときたら『ぼっち』になってしまったではありませんか。)


 私自身自覚はありませんが――

 もしかしたら私には『話しかけるな』のオーラが出ているのやもしれません。



 そうして勇者様の元へと戻る途中、広間の光が落とされ――

 流れる音楽が雰囲気をがらりと変え、貴族たちはたちまち舞踏へと。


 壁際にはちらほらと、花が咲いてらっしゃいます。

 ああ……私も混ぜていただきたい……私は壁に咲く一輪の花……。


 薄暗い広間に、鳴り響く三拍子。華やかさは最高潮。


 広間のあちらこちらでドレスが翻っていて……。

 一見見れば、彩り鮮やかな大輪の花が咲き乱れる美しい光景ですが。


 舞踏の心得はあったものの、私を纏う衣装は……法衣。

 ええ――そう。完全に『場違い』なのです。


 壁際へと歩んでいたのですが、その時にふとなにか――

 周囲に溶け込んでいない、静かな視線を感じて。


 舞踏に励んでらっしゃらない人たちは、ちらほらと確認できます。


 ですが――もっと、その奥。


 群衆の喧騒とはまるで無関係な、静謐を纏った長身の貴族の青年。


 光を反射した、輝くお色の美しい銀白金(アルゲント・アルビナ)色の波打つ毛髪。

 後ろで綺麗に纏められておりますのに、軽やかに跳ねて可愛げを感じます。


 目を引くような病的な色白の肌に、赤みを帯びた濃紫色の瞳。


 片目を覆うように流されていらっしゃる前髪の隙間……。


(――綺麗……。宝石……黄水晶のような澄んだお色の瞳……なのに。)


 簡素な白と金糸のお衣装に身を包んだ、まるで……人形のような。

 とても美しい出で立ちの方ですのに、感情が読めない。


 周囲の楽器の音色すら、その青年の周りだけは霞んで聞こえるような錯覚。


 それは――青年の存在そのものが、紛れ込んだ別舞台の観客のような。


 気になってしまって、ずっと見つめていたからでしょう。

 青年の方もこちらにちらりと視線を移して、完全に目が合ってしまいました。


(ど、どうしましょうッ!?あ、挨拶……?でも今は舞踏の時間……ッ!)


 総毛立つようなぞわりとした感覚。おかしい……のです。

 青年の表情は、確かに穏やかな微笑のはずですのに、どうして?


 柔らかな目尻の線……上げられた口角、細められた瞳――

 その全てに――愛想どころか一滴の感情すら感じないだなんて。


 もしかして本当に人形なのでは?とそう疑いたくなるほどの、完璧な微笑。


 一歩、また一歩と、徐々に私と青年の距離が詰まっていきますが――


(い、息が……息が詰まるような……本当に人間なのでしょうか……?)


 距離が縮められるにつれて、空気の密度まで変わっていくようで。

 いざ、目の前に立たれると、遠くで見たときよりも感じる威圧感。


 私と……頭一つ分くらいは身長差がございますし、その所為(せい)……でしょうか?


 ぎこちなく軽く会釈を交わした後――口を開いた青年。


「やあ――初めまして、今晩は……。キミは聖女サマだネ?」


「随分と人混みに酔っているように思える。

 確かに……この喧騒は毒だネ?……おっと、これは失礼。」


「ボクは、アメトリクス。

 アメトリクス・フォン・ニヴェイシア……と、申しマス。」


「以後、お見知りおきを。」


挿絵(By みてみん)


 流れるような所作で一礼し、手を差し出してくださいましたが――

 差し出された手は、病的という言葉では済まされないような白色。


「ええっと……ご丁寧にどうも、ありがとう存じますわ。」


「そ、そう……ですね。私(わたくし)、こういった華やかな場所は……。

 あまり――性に合っておりませんの。」


「聖女のセラフィーナ・ヴァイオレットと申しますわ。

 ニヴェイシア様……こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


 少しだけ世間話をいたしますが、緊張で言葉が、出てきません。

 軽い挨拶の後、手を重ねて握手を交わしたのですが、肝が冷える感覚。


 胸の奥まで冷えるみたいな、冷たい空気を吸い込んだときの悪寒。


(――ものすごい……末端冷え性の方なのでしょう。)

(もしかしたら私と同類で、今はとてもご気分が優れない方なのですわ。)


「では――ボクはコレで。 また、どこかでお逢いしましょう……?」


 “ニヴェイシア”と名乗った方は、その後颯爽と、姿を消してしまわれて。

 あれだけ目立っていた、銀白金色の姿は視線を移しても見当たりません。


 最後まで崩れることがなかった、胡散臭い微笑。まるで仮面に描かれた模様。


 後に残されたのは、掌に感じる冷たさと、不気味な余韻だけ。


『……先ほどの貴族の方――なんだか。』


 思考に留めておいたつもりでしたのに、気がつけば私は声が出るほどに。

 私の背後には、いつの間にやら騎士様がお控えになってまして――


「ありゃ絶対なんかあるぜ。……さっきの男、怪しすぎるッ……!」


 短い言葉ではありましたが、確かに妙な違和感を感じたことは事実です。


 あの青年から感じた、釈然としない重く沈むような空気。


 しかし……勇者様の姿は、未だに人混みの中。

 私たちのやり取りには、気が付いてらっしゃらない様子で。


(理由は分かりません。ですが……あの方とはきっと、もう一度。)





ここまで読んでくださって、とても嬉しく思います。

誤字脱字があればご報告いただければ幸いです。


お気に召していただけましたら、

ブクマなどいただけますと、励みになります。


『ニ(カタカナ)ヴェイシア』が『二(数漢字)ヴェイシア』になっていたようです。

もうわけが分かりません。


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