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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:些細な異変の兆し。

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12/127

頁:10 その【胃痛】緊張性腹痛につき。

 ――◆第一章



 煌陽国(こうようこく)セレスタリア・王都セレスティオン――王城。


 勇者様方との旅立ちが決まって……数日が経過しました。


 旅立ちを祝した祭事を、国を挙げて催すとのことで――

 簡単なお話、聖女である私と、勇者であるノアさんのお披露目会。


 私にとってはあまりありがたくない催し物ではありました。

 しかし、国を挙げての祭事となれば――そこに私の意志は関係ありません。


 王城へと赴いた私たちだったのですが、私ことセラフィーナはといえば――

 現在進行系で胃の痛みとの戦いの真っ最中――で、ございます……。


 王城という名の通り、玉座の間は圧倒的な威厳しかありません。


 床を見れば磨かれた大理石、壁を見れば巨大なタペストリー。

 目を移せば、どこもかしこも“豪奢”という演出がなされております。


 高い天井に吊り下げられたシャンデリア。

 光の粒がそこら中に散っていて、注意力も一緒に散ってしまって。


(ああ……今まで社交界に出てこなかったのは、完全に悪手でした。)


 祝賀会はまだ始まってすらないというのに、私の頭はくらくら。

 たっぷりの威厳と権威、圧倒的な気配に気圧されてしまって。


 首筋には冷や汗が伝ってますが――ああ、どうしたらよいのかしら。


 私は、男爵家の娘としても、聖女の修行期間中でさえも――

 断固として、社交界という場所に出ておりませんでした。


 というよりも、出してもらえなかった……と言ったほうが適切です。


 ゆえに、この場所が聖女として初めて国の中心に立つ場所でして。

 肩の力を抜こうにも、身体が竦んでしまって胃も縮小気味です。


 貴族や平民――人々の視線が嫌なほどに突き刺さっております。

 拭えない緊張からか、必死に手のひらに『人』を刻んで飲み込む。


 どうしてそのような行動を?と問われると、答えようがありません。


 どこかで知っていた――緊張を和らげるおまじないとしか。


「とても人が多い……私、王城に入った経験がなく、緊張で――」


 小さく呟いてみましたが、周囲の雑音で掻き消されていくよう。

 私の独り言に反応を示してくださったのは、騎士様。


 といっても、現在彼は、軽鎧を身に纏っておりませんが。


「油断はするなよッ……常に気は張っておけ。式典の場ではあるが――

 いつ何時(なんどき)も注意を怠っては……いかん。」


「――と言いつつも……実は俺も緊張してるんだがなッ! ハハッ……。」


 寡黙だと思っておりましたが――彼は案外気さくな方なようです。

 今現在はおそらく、言葉通りに緊張で仏頂面になってらっしゃるのでしょう。


 守るべき――私という存在を前にした責任でしたり。

 あと……これが一番彼の緊張の要因になっておりましょう。


 付近に控えてらっしゃるのは王侯貴族さまや、近衛騎士さま方。

 国の重鎮の方と――お偉いさま方が勢揃いなのです。緊張して当然ですよね。


 彼らの手前、カッコ悪いところを、見せるわけにはいかないのでしょう。



 そんな緊張していた私たちと違い、勇者様でらっしゃる彼――ノアさん。

 彼は持ち込みを許可された選定の剣の柄を叩いて、笑ってらっしゃいます。


(この状況下というのに、物怖じしないのは――ある意味恐怖ですね。)


「大丈夫だよっ!僕がいるから、だから二人とも落ち着いてねっ!」


 とても柔らかくって優しい微笑と声色。少しだけ緊張がほどけます。



 通された玉座の間の奥。見えるお姿は国王陛下と王妃さま。

 王族の方にお会いするのは初めてなのですが――圧倒的なオーラ……。


(余計に胃がキリキリしてきました……。)


 国王陛下が視線をこちら側へと落として、じっと私たちを見つめ――

 勇者様が跪いて、それに倣って私たちも膝をつく。


 無意識の内に伸びる背すじ。自然と頭が下がって、視線は床へ。


「【勇者】ノア――【聖女】セラフィーナ……騎士パルテオン。」


 玉座の間に響く国王陛下の声。


 とても重厚ですのに、それでもどこか暖かさを帯びているような。

 周囲の人々の視線が一斉に向けられているのか、とても……圧力を感じます。


 期待とか嫉妬とか、畏怖の念だったり、好奇の目でしたりとか。

 そういった感情を一度に浴びているような感覚で。


 少しばかり観衆がざわついてらっしゃいますが――

 国王陛下が一瞥すると、途端にしんと静まり返って、静寂が訪れて。


「勇者。それに聖女よ。」


「貴殿らの噂はすでに国を越え、世界中に轟いておる。

 選定の虹剣に選ばれし勇者……そして神々の寵愛を賜りし聖女。」


「臣民は貴殿らに大いなる期待を寄せている。王国は貴殿らを称え――

 今ここに、祝宴の開催を宣言しよう。」


 国王陛下は『ふぅ……』と、息を吐き出したかとおもえば――

 再び口を開いて、そのお声をお届けになられました。


「勇者に聖女、それに騎士よ。良い、面(おもて)をあげよ。余はこれにて失礼する。

 これ以上、この場にいては主役に失礼であろうからなぁ?ハハハ!」


 国王陛下の言葉とともに、恐る恐る顔を上げますが……。

 陛下は見る人が見れば分かるような、厳かなのに柔らかな表情で。


 それと同時に玉座の間はたちまち、貴族方の歓声で溢れかえって――

 祝福の声に包まれる中、私たちは笑顔を振りまいて――場所を移した。





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