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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
一章:聖女と勇者と加護。
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思い出とは尊いもので



不気味な笑みの青年が立ち去った後、急いでセラの元へ駆け寄るノア。

心配そうに【聖女】を見つめるが、その瞳の奥には揺らぎが生じていた。


目の前で起こった、あまりにも並外れた、彼女の聖神力(サンクト)

強大な力を前に、不安そうに瞳を細め、彼女の身体を抱きかかえる。


(【聖女】……よく分かっていなかったけれど。 彼女の力は一体……。)

(あの一瞬で、何もかも……あの石や泥、魔物でさえも消してしまうだなんて。)


「神々の寵愛……かぁ……。」


兎にも角にも、摩耗してしまった彼女を、このまま放置するわけにはいかない。


「無理をさせてしまってごめんね……【聖女】セラフィーナさん……。」


清浄化された周辺の草原にあるのは、静寂――

それと、聖女の力の余韻である虹色の粒子と淡い金色の聖光のみ。


一同は再び村へと足を向け、不安を抱えながらも来た道を戻った。


村へと帰還を果たした勇者一行。

彼らが帰還すると同時に、小さな影が跳ね、心配そうにノアの元に纏わりつく。


ルルの故郷から付いて着てしまっていた、名すら不明の謎毛玉生物。


ノアの肩に乗ると「キュ!」と嬉しそうに小さく鳴いた。


やがて、村の長であろう高齢の男性が、勇者たちの姿に気が付き、歩みを寄せる。

気絶しているセラの姿を確認し『何事か?』と目を見開いていた。


「一体何があったのでしょうか……? その前に聖女様ですな……。

 あちらに宿がございますので、お話はその後にお伺いを……。」


聖女の身体を休ませるべく、高齢の男性が示した方角へと向かう勇者一行。


その後――宿を取り、聖女を寝台に横たえ、錫杖を立てかける。

セラの様子を見るため、ルルと毛玉生物は留守番とのことで、話が付いた。


勇者と騎士の二人は、先ほどの男性に事の顛末を伝えるべく、宿の外へ。


村長と思しき男性に『今度こそ脅威は去った』と語り――

その際、異変の元凶である、瘴気を纏う黒石の件を共有。


もし、また目撃したのであれば、伝書魔鳥便にて報せて欲しい事も伝える。


報告を受けた村長は、二人に対し深く詫び、丁寧に頭を下げた。


「異変を解決していただき、感謝の念に堪えません……!

 して、この村なのですが……近くの街にしか馬車が通っておりませぬ。」


「勇者様方が、こちらの村にお越しになった際、利用した馬車ですが……。

 そちらは既に、王都へと帰られましてな。 ゆえに――

 次の馬車が来られるまで、どうぞ村に滞在してくだされ。」


「ありがとうございますっ! では、お言葉に甘えさせてください!

 馬車が来るまでの間、滞在させて頂きますねっ!」


村長に告げられたは良かったが――特にやることが無かった二人。


昼下がりの陽光が、平穏な村を照らし、そんな最中――

二人は気の向くまま足を運び、やがて無意識に足が向いた場所。


その場所は、何の変哲もない――畑。


「ねぇパル。 僕、ちょっと前まではただの農民だったんだよ。 信じられる?

 ここの人たちと、何の変わりもない……毎日野菜と対話して……さ。」


選定の剣に選ばれ【勇者】として覚醒して、まだ日は浅いはずだった。

が、何故かひどく懐かしい気持ちが蘇り、何気なく畑の土を手で掬い取るノア。


指先に触れる冷たく柔らかな土の感覚、その香りを味わう。


勇者の様子に、騎士が軽鎧の音を響かせ、彼の側へそっと腰掛けた。


「……ねぇパル。 なんだかさ……懐かしくなあい? ――畑。」


ノアの何気なく呟かれた言葉……パルテオンは彼の側で、土に触れた。

「ハッハ!」と豪快に笑うと、ノアの質問に答えるように言葉を掛ける。


「ノアが言ってんのはあれだろ! 俺とノアとの出会いの時……だろッ?」


「ふふっ! そうだよパル。 覚えててくれたんだっ! あの時さ――」


気がつけば、ノアの口角は自然と持ち上げられ、柔らかな微笑みに。

そうして、二人の“最初の出会い”の記憶が蘇る――


◆ ◆ ◆


時間は約、十年ほど前まで遡る――


淡い金色の髪色をした小さな少年……少年は畑で無邪気に遊ぶ。

周囲には農業に勤しむ人がちらほら見える――長閑(のどか)な田園の光景。


そんな畑道を、似付かわしくない姿が一つ。

銀色に輝く、大きな盾を背負った騎士の姿が少年の目に入った。


少年は盾の輝きに目が奪われ、土いじりを中断し、衝動で駆け出す。

甲冑を纏い、立派な大盾を背負った騎士に心を奪われた少年。


騎士の背後から、少年はあどけない声を響かせ、話しかけた。


「ねぇ!かっこいいおにぃちゃん! そのでっかいのなあに? すっごい!

 ねぇーえ! おっきぃお鍋のおにぃちゃん! 僕と畑で遊んで!」


「おうッ!? なんだぁ……? どうした坊主ッ! 一人か?

 ちなみにだが、これは……鍋じゃねえぞッ! 盾だッ!

 ――で? 畑で遊ぶのか? 良いぞッ! なんでも掛かってこいッ!」


騎士の表情には、困惑も混ざっていた。

しかし所詮は子どものままごとだと、割り切る。


少年の手に引かれやってきた場所は、まごうことなき立派な畑。

まだ整備途中らしく、視界は茶色で埋め尽くされ、土の香りが芳しい。


「ここでね!遊ぶんだっ! いいでしょー? 土のいいにおいー!」


青空のような碧灰(シエルグレイ)の瞳で騎士を見つめ、騎士は更に困惑。

少年は煌めくような目で騎士を見据えており、邪気一つ感じられない。


「あー……。 こりゃ、どうやって遊ぶんだ? 転がれってか……?

 なぁ坊主、兄ちゃんはどうすりゃいいんだ?」


「んっとね、これ! はい、これもって!」


無邪気で朗らかな笑顔で騎士に渡した農具――そう、鍬である。


「おいおい……こりゃ鍬じゃねぇか。 これで畑を耕せって……?」


騎士が何かツッコミを入れる前に、少年は身体を動かしていた。

両腕で鍬を掴みあげると腕を上げ、そして――振りかぶる。


単純な動作ではあったが、少年は華麗な鍬捌きで畑を耕していた。


甲冑を身に纏った大盾の騎士は、しばしその光景を見つめていたが――

やがて苦笑交じりに大盾を地面へと立てかけ、籠手を外して素手に。


鍬に手をかけ、持ち上げ、見様見真似で土へと振りかざしていった。


「ったくよ……俺、鍬なんざ握ったことねぇぞ? これであってんのか……?」


少年の隣で、ぶっきらぼうに畑を耕す騎士。


「えへへっ! おにぃちゃんとってもおじょうず! こうやって――

 土をいじめるの! そしたらね? 土がよくなるの!」


「よくなった土はね、お野菜さんのおねんねに、とーってもいいんだよ!

 だからねぇ、たくさんいじめて、お野菜さんのために、いっぱいがんばるの!」


「ガッハッハ! 成る程な! 土を虐めるたぁ、すげぇなッ!

 将来有望な坊主だッ! じゃあ俺も、その“お野菜さん”の為――

 全身全霊を掛けて、土を虐め抜いてやるぞッ!」


少年と騎士――二人の間に接点は無い。

しかしこうして畑を耕す姿は、妙に様になっていた。


先に音を上げたのは騎士で、彼は疲れからか「ふぅ」と一息付く。


「なあ坊主。 おめぇさん、変わってるって言われねぇか?」


畑を耕すことを止めた騎士は、鍬を手に少年に語り掛ける。

少年は疲れていないのか、一心不乱に畑を耕し続け、騎士に言葉を返した。


「僕“おめぇ”ってお名前じゃないよ? 僕のおなまえ……ノア!

 おにぃちゃんはもう疲れちゃった? ごめんねぇ……」


あどけなくも、困ったように笑うノアという名の少年。

まるで太陽のような温かさの笑顔で、騎士の瞳には少年の姿は輝いて見えた。


「ハッハ! デカイ兄ちゃんの名前はな、パルテオンだ!

 すっげぇ盛大な名前してんだろ! ハッハー!」


「ぱるておん……?ぱるておん! ぱるておん!! かっこいい!

 お名前も、みためも、きんにくも、とってもかっこいいねぇ!」


茶色の土の色で溢れる畑の中、小さく笑い合う騎士(パルテオン)少年(ノア)

少年はどれだけ土に塗れようと、笑顔は輝いていた。


その、穏やかで尊い時間は、騎士の心に深く刻まれていった。


これが――約十年ほど前に起こった、畑での二人の出会いで、思い出だった。


◆ ◆ ◆


思い出話に花を咲かせ、二人は笑い、語り合った。

いつの間にやら、陽光は沈みかけており、夕暮れの涼しい風が二人を撫でる。


暮れゆく空模様に、ノアは瞳を細め視線を空へ落とし、口を開いた。


「あの時……出会っていなかったらさ、今こうして一緒にいなかったかも。

 僕が選定の虹剣(聖剣)さんに選ばれた時、パルが付いてきてくれるって――

 そう言ってくれたこと……とっても感謝してるんだっ!」


パルテオンは照れくさそうに「っへ……」と喉を鳴らし、視線を上げる。

彼もまた、ノアと同じ景色を目に映し、言葉を返した。


「あん時のちっこかった坊主がなぁ……。 こんな立派になりやがって!

 俺はもうオッサンになっちまったしよー……へへッ!

 感慨深いちゅーもんよな、本当によ。 んでもよぉ、久々に――」


日が沈むまで二人は畑で話し込み、これまでの思い出を語り合った。

やがて日は完全に沈み、空にはいくつかの星が散らばり始める頃合い。


二人はようやく、宿へと足を向け、歩幅を合わせて歩みだした。

村の家々には明かりが灯り、二人に優しい明かりを届ける。


聖女たちが待つ宿へと戻った勇者たち。二人が戻り、全員が宿へ集まった。

従業員が全員の姿を確認した上で、言葉を伝える。


「本日はこのような宿にお泊まりいただき、ありがとうございます!

 ささやかではありますが、お礼も兼ねて食事の席を設けております!

 勇者様方の貸し切りですので、良かったらどうぞ!」


その後、従業員に案内され、食事の席へと通される勇者一同。

若干、落ち着きのない様子で椅子に腰掛けるセラ。


ルルは謎毛玉生物を抱き「遅かったなー」と愚痴を漏らしている様子。


机に並べられた様々な料理――ランタンの光に照らされ、輝いて見えた。


煮込み料理、肉料理、炒め料理やパンが並び――

どれも美味しそうな湯気を上げ、芳しく香る食事たちは垂涎もの。


「わぁ! どれも凄くおいしそうだねぇ! ……ルル。

 ずっとその子と一緒にいたの……? その毛玉さんっ……。」


「そうなんよ。 コイツの名前さ……もう『キュー』ちゃんでよくね?

 鳴き声が『キュ』じゃし……一番しっくりくると思うんじゃけど。」


ルルの一声で、毛玉生物の名は『キュー』と命名。

そんなキューはというと、大変嬉しそうに跳ね回り、セラへと一直線。


彼女の胸元へ潜り込むように身体を埋め「キュ!」とあざとく鳴いてみせた。


「な、なんだか……私が気絶している間に、一緒に寝てたみたいでして。

 それで、気がついたら私にも懐いて下さるように……!」


彼女はキューの身体を抱きしめ「可愛い……。」と微笑ましい様子を見せる。

かくして――和やかな空気で机を囲み、四人で語り合っていく。


穏やかに流れていく食事の時間……これまでの戦いを、ほんの少しだけ――

忘れさせてくれるような、そんな時間を四人で過ごした。





7/15 大幅加筆修正。主にPCブラウザで見やすいよう、調整致しました。

また、誤字脱字修正の念話、感謝感激です。


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