↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/137

頁:94 その【名前】伝承の無いものにつき。



食事を終え、大図書館の禁書庫へと戻ってきた二人。

賢者の元へと歩み、戻ってきたことを伝え、軽い挨拶を交わす。


「やー賢者サマ。聞いてヨ。」


「聖女サマと『休憩街』行ってきたヨ。ごちそうさまー、ふぅー。」


いつもの飄々とした態度で賢者に言葉を投げた半魔の彼。

賢者は驚愕のあまり『エッ!?』と大絶叫。


賢者の顔は、たちまち燃え盛る石炭のような赤に染まり――

彼の脳内では猛烈な速度で、学術都市の地図が展開されて駆け巡った。


彼の【加護(ギフト)】である【書庫(ライブラリ)】の本領が今この場で惜しみなく発揮され――

トラメリアの区画を隅々まで展開。僅か数秒で推論を導き出した。


「理解、いたしましたッ!子爵閣下が仰られているのは――貴族の飲食街ッ!

 それに――時間を逆算すれば致していないコトは明白ッ!」


「さっすがは賢者サマー。近いから間違えて立ち寄ってネ?

 時間を逆算って……キミ、ナニを想像しちゃったのサー?」


彼らの話についていけず、聖女はぽかんと口を開けて呆然。

肩を揺らして笑う半魔に、視線を頑なに逸らしている賢者。


「え?本当にあの……『休憩街』というのはなんなのですか?

 身体を休ませることができる飲食街……では?」


どうやら彼女の言葉にツボに入ってしまったらしい半魔。

彼は『いんしょく、がいっ……』と腹を抱えてケラケラと笑っていた。


賢者は賢者で、顔から湧き出た蒸気で眼鏡が曇っており――わけがわからない。


「あー……聖女サマ。『休憩街』って場所はネ……大人が……ッ

 く、組んず解れつするような場所……だヨ……イヒッ……イヒヒヒッ!」


「なッ……な!そ、そのような場所に……閣下と……通った……のですか……?」


キッ――と賢者を睨みあげる聖女。

しかし彼はすでに念動で浮かせた書物で身を隠しており、誤魔化していた。


「ば、場所が隣接しておりますゆえにッ……仕方がないと言えますッ!それに――

 お二方が大図書館を出られて帰られるまでの時間を考慮。」


「男女の情事の平均時間を――ッ!」


「おやめくださいませッ!」


賢者はもちろん、彼女を激怒させようとしたわけではない。

彼なりの援護のつもりで放った言葉だった。しかし言い方が悪すぎた――


「ひどいネェ……?まったくー。 はぁ……賢者サマも興味ある感じ?

 ボクと一緒にイってみる? ヒヒッ!冗談冗談。」


「さぁて……それじゃボクは読書に戻るヨ。ちょっと集中したい。」


混沌とした現場ではあったが、彼はけろりと表情を改め、着席。

置きっぱなしの本を広げ――活字を貪るように集中してしまった。


そうして再び禁書庫には静寂が訪れた。


禁書庫内に響くのは、紙をめくる音やペン先が紙を撫でる音のみ。

三人はこうして互いに知識を求め――読書に没頭するのだった。


◇ ◇ ◇


どのくらいそうしていたのか。

読んでいた書物から目を離した聖女だったが、小さな目眩にふらり。


禁書庫内は地下空間。そのため時間の流れがまるで分からなかった。

椅子から立ち上がり、アメトとバルタザールの元へと視線を向けるのだが。


彼らは場所から動いた気配がなく――文字を睨みつける眼差しは真剣そのもの。


(二人とも……すごい集中力ですね……私には到底ムリです。)


そんな彼らの顔を見つめていて、ひとつの疑念が湧いた。

それは――なぜ、半魔の彼は左右で違う色の瞳なのだろうか?と。


まじまじと瞳を見つめていたが――気になったのだろう。

半魔の彼が視線を聖女へと向け、首を傾げて口を開いた。


「なぁに、聖女サマ。ボクの顔……そんなに変カナ?綺麗な顔デショー?」


慌てて首を横に振り『あ、いえ!』と返したまではよかった。

しかし好奇心が勝ってしまい、疑問に思ったことを直接ぶつけた。


「あの――閣下の瞳の色。どうして左右で違ってらっしゃるのか……。

 あまり煌陽国(セレスタリア)では見られないお色でしたので……それで不思議に思って。」


「血が半々だと――瞳の色が左右非対称になりやすいと聞いた覚えがあるネ。

 実際、ボクの姉もそうだし。ボクの知っている没落貴族の令嬢に――」


「同じく左右非対称の瞳を持っている子が居るヨ。

 今どうしてるんだろうネー? ……あのボンクラ令嬢。」


彼らの会話内容が気になったのか、バルタザールが口を挟んだ。


「閣下の仰るとおり、血を別けた半種族の方に多い傾向があるとッ!

 風聞などではなく事実そういった傾向だと論文でも――っと……」


「ちなみにお聞きしたいのですが子爵閣下、そのご令嬢の家名ですが――

 もしかしてなのですがッ……『高貴な亡霊(エーデレイス)』ではッ?」


「ん?お知り合いだったりする?そうだヨ。名前は『システィ』だネ。

 システィ・アウレリア・エーデレイス。」


「半人間、半ドワーフ族の没落令嬢だネ。ま……彼女のコトは置いて――

 色々な書物を読み漁って解ったコトがあるヨ。どうにもおかしいネ……。

 名前の記述だけがさっぱり抜け落ちた神様がいる……みたいだネ。」


彼らの話についていけなかった聖女。彼女は頭上に『?』を飛ばしていた。


「やはり、ですか――神々の御名……言い伝えられている名は主に十二ッ。」


「魔族領守護神様を含めたら十三?伝承のみ伝わっている神の名を足して――

 十四……十六柱……だよネ。」


顔を合わせる賢者と半魔の彼。そして――二人の声が重なった。


「「足りない名がある(ありますッ!)」」


二人の声が重なったことに驚きを隠せない聖女。やがて瞳を細め――

自身の認識が正しいかどうかの判断も込め……神々の名を口に出した。


「煌陽国で伝えられている神々の御名は……元素系神々と、自然神様……。

 火神ロキ様、水女神アープ様、地母神ティアマティ様、風神アウロラ様。

 植物神イドゥ様、光女神セラフィリム様、闇女神ノクターン様――」


「それと……太陽神サニア様、月女神ルナディア様。」


一呼吸を置いてちらりと彼らに視線を移すが、彼らは言葉を待っている様子。


「続けます。私たち……煌陽国で信仰されております……我らが守護神様。

 創造神ダヌ様、須臾神イストラ様、浄化神ルストラ様。」


「かの神々は星律教導(オルディナストラ)……神殿内部にて石像もございます。」


「仰るとおり――そしてェッ!あまりその名を知る人はおりませんが……ッ!

 混沌神ケイオス、名も伝えられてない精霊神様ッ!」


「んでもって、魔族領守護神様の不滅神エタニティ様……だネ。

 それと、伝承のみ残っている戦女神……カナ?」


神々の名前を連ねたとて、聖女にはやはり二人の言葉の意味が分からない。

彼らに視線を投げ『それで……?』と、今度は聖女から彼らの言葉を待った。


「あの魔族文字で書かれた書物にある一節“汝、唆されること、なかれ”――

 その一節に関する『黒き愉悦の主』という神なる存在の記述が、一切ないッ!


「ワタクシの脳内知識……禁書庫の神話――

 どこを当たってもッッッ!! 無いのデスッッ!!!」


ひょいひょいと二人に招集をかけるアメト。何事かと身を寄せ合う二人。

集まってきたのを確認し、アメトは声を落として二人に囁くように言葉を投げた。


『実は――魔族領の遺跡のような場所に『力をお与えになった偉大なる存在』

 みたいな記述があったのを確認したのネ、ボク。』


『それで、ボクが単独で調査してたのネ。 でも――駄目だった。

 途中で戦争派の連中から横槍が入ってしまってネ。』


『おかしいのが――それが数十年も前だってコト。つまり、ネ……?

 戦争はもう、ずっと魔族が準備していたって話になるのサ。』


それだけ伝えると、アメトは二人から離れ――天を仰いだ。

腕で瞳を塞ぎ、低く……それでいて諦念の滲むような声を響かせる。


「だからボクは調査のために戻りたかった。ネリア様は丁度いい存在なのネ。

 ちなみに――遺跡がいつから存在しているかは、ボクは分からない。」


「つまり……その『黒い神様』という存在が……悪さを……?

 そう……仰っているのです……か?」


「神々とは、総じて気まぐれでありますからね――我々定命の者とは……。

 それこそ人の善悪では推し量れないお考えがあるのでしょう。」


賢者の含みを帯びた口調。それはどこか――神々に対する憤り。

三人を包む空気は……どこか重く、淀んでいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。