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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

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128/137

頁:86 その【戦闘】訓練につき。



張り詰めた空気の中、長い溜息の音が響き――やがて言葉が紡がれた。


「はぁ……畏まりまシタ。 ネリア様の仰せのままに。」


皮肉をたっぷり込め、言い放たれた半魔の彼(アメト)の言葉。

彼は完全に諦めの境地の表情。羽織っていた上着をバサリと脱いだ。


近辺で待機している小人族(ルル)に自身の服を預け、観戦組には離れるように指示。


つかつかと草原を歩き、全員から距離を取る彼。


騎士(パルテオン)が賢者(バルタザール)の魔導椅子を押し、念のために大盾を構えて待機。

彼の影に隠れるように、女性陣(セラ・ルル)と賢者は、騎士の背に身を寄せる。


勇者(ノア)は気乗りしないらしい。彼は眉を下げつつも聖剣を抜いた。


「えっと……本当にアメトさんと戦うの……? そのぉ……。」


「こうなったらネリア様は止めらんないヨ、勇者サマ。

 手加減はしなくていいヨ。 なるべく、本気でかかっておいでヨ。」


『ヒヒッ』と笑う彼の挑発めいた姿に、ノアはムスッと頬をふくらませる。

やがて互いに構え――真剣な眼差しで向き合った。


「それじゃーーー! ふたりともーー! はじめーーーなのッ!」



大声をあげ、彼女の振り上げた指先からは、炎色の魔力が溢れ出し――

彼女を中心に、まるで炎の壁のような結界が展開された。


結界外では、ネリアたち三人を除く全員が戦いの行く末を見守ることに。


結界が展開され――少しして最初に動いたのは勇者。


彼は強烈な踏み込みで、一気に半魔との距離を詰めるが、しかし。

目標の姿はすでにそこにはなく、横薙ぎに聖剣が空振る。


凪いだ聖剣の余波で、周囲には「ぶわり」と風が吹きすさぶ。


半魔は瞬間移動を行使し、前方へと退避。

彼はその際、気づかれないように特別な種を撒き――深く思考。


(素早い動きではあるケド――彼の動きって単純明快なんだよネ。)

(厄介なのは――速さと……第六感。 それと……《浄化》の力か。)


自身の力が、勇者に通じるか分からないところではあった。

それでも、出来ることを出来る範囲でやるしかないか、と――諦める。


勇者は振り返り、聖剣を構え直し、再び跳躍の姿勢を見せる。


「丸腰だと戦いにくいじゃないっ! 武器とか使われないのですかっ!」


語ると同時、勇者は再び踏み込み、今度は縦方向へと聖剣を凪ぐ。

斬撃は土埃を巻き上げるが――半魔は上空に瞬間移動で退避済み。


腕を横薙ぎに振るい、黒紫の斬撃を勇者めがけて放った。


(困ったネー。 ボクあんまり戦いたくないし、手札見せたくないのに。)

(なるべく、今まで見せたことある魔法だけでなんとか凌げたらいいケド。)


「はぁ……ダルい。」


身体をひねり――回転しながら、半魔の斬撃を難なく躱す勇者。

彼の手には砂が握られており、半魔の顔面めがけ――投擲。


勇者の力で投げられた砂は、そこそこの威力。

半魔は腕で顔を庇い、軽く舌を打ちながらも後方へと“跳んで”回避。


「砂って……キミには騎士道精神的なのナイのカナー?」


後方へと回避した後に前方――つまりノアの背後へと瞬間移動。

が、半魔の動きは見破られており、勇者の彼は振り返ることなく身を捻った。


聖剣を横に払うが、半魔は目視だけで剣先を読み、間一髪で躱す。


「今思ったケドさー、聖剣で戦うのって危なくなぁい? どうすんのサ。

 これでボクが《浄化》でもされちゃったらサー。 ヒヒッ!」


「ボクに『ナニか』あったらとか、考えないワケー? 野蛮だよネー。

 ボク、争いゴト、嫌いなのにサァー?」


精神を揺さぶるような彼の言葉に、勇者は『はっ!』と聖剣に目を向けた。

彼のそんな一瞬の隙を逃さず、半魔は体術で彼の腕を掴もうとするが――


「ちょっとっ!! アメトさん! それはずるいよっ! 待ってって!!

 今聖剣さんを鞘に納めるからッ!! もーーッ!!」


聖剣を鞘へと戻し、素手で戦う様子を見せるノア。


両腕を上げた半魔――彼の周りにはたちまち光が舞い踊った。

それは淡い緑色の光と、薄い紫色の光球の群れ。


光の粒が舞い踊ると同時、勇者の足元をを這い回る白い蔦。

『じわり』と蠢き、勇者の足に絡みつくが……彼には全く効果がなかった。


勇者が軽く足を動かせば、蔦は見るも無惨に引きちぎられ――

拳を構え、再び動こうとする勇者に、半魔は両手を上げた。


『ゴメーン』と、軽薄な声を響かせ、勇者に降参の意を示す。


(霊氣力(アニマ)を封じる為の蔦なのに、効果が皆無って……。)

(勇者の力の根源って、一体何なのさ……。 恐ろしいネ。)


「ボクはこれ以上、戦えないヨ。 魔力残量がイマイチだしー。

 んでもって上手く魔力も練れないし、聖剣持ちの勇者と戦うの怖いし。」


「残念だけれど、ボクは戦い専門の魔族じゃないし。」


実際のところ、アメトにまだ戦う余力はあった。

が、勇者との戦闘を避けたいのも事実ではあったのだ。


彼らの戦闘訓練はこれにて一旦幕を閉じ、ネリアは結界を解く。


「えー? なんか全然ぱっとしないの。 メトちゃ……もっと戦えてたのよ。

 どうして? どうして力を全部出さないの? 魔力切れ……ウソなの。」


「それに『筋力変換』は? なんでしないのよ。」


彼女は心底の疑問の表情を浮かべ、アメトへと身を寄せた。

しかし彼はどこ吹く風。指の関節を「ポキポキ」と鳴らし、一息。


「ネリア様が、何を期待されているのか分かりません。 デスが――

 ボクは基本的に“遠距離”専門ですし、時間稼ぎや逃亡が目的デス。

 それとデスが……先ほども申し上げました通り、魔力回復がまだデス。」


「あと……言い訳じみてマスが『認識阻害』を纏ったままの戦闘でシタので。」


諦めた顔つきで大きなため息を付き、懐から小瓶を取り出し、一気に煽るアメト。


「ふぅ……。 ちなみにだケド『筋力変換』デスが――」


「アレ、やったトコで焼け石に水デス。 勇者サマの力には遠く及びません。

 それと“剣”で戦えと言われましても、まともに振るったことはないデス。」


「ふむふむ、なるほどなのよ。 勇者ちゃ。 まだ戦えるの?」


顎に手を当て、少し考え込んだ後に視線をノアへと配るネリア。


「はいっ! 僕は戦えるよっ! ただ……訓練で聖剣さんはさすがに――

 反則だなって、反省したので……。 木剣かなにかあればいいんだけど……。」


彼の言葉に遠くで聞いていたパルテオンが、つかつかと三人の側へ。

彼は腰に携えた木剣をノアへと投げ渡し――遠くから声を響かせる。


「んなもんでよければ使ってくれ。 俺の修練用だが……。

 全く使ってねぇ、騎士時代のモンだ。 手入れはちゃんとやってるからよ。」


「ありがとうパルっ! やっぱりパルって用意がいいねっ!」


木剣を渡した後、彼は大盾を構え観戦組の元へと戻った。

再びネリアが結界を展開するが――逃れられなかったアメト。


彼は小さく『あの。ボクが居るのですが。』と呟くのだが――声は届かない。

仕方がないと肩を竦め、彼は結界の端へ瞬間移動し、二人を見守る。


龍翼を大きく広げ、砂塵を撒き散らして跳躍するネリア。

彼女は一気に空へと舞い上がり、天から声を届ける。


「えーっとなの! アタイみたいにお空飛んでる相手とかだと――」


龍翼が羽ばたく音が聞こえていたのだが――彼女の姿はこつ然と消えた。

風を残し、彼女の姿は気がつけばノアのすぐ横。


空気を裂くような猛烈な突風と共に、突き出される拳がノアの頬を掠める。


「――みたいな感じなのよ! わかるの? わからない?

 わかってほしいのーーーッ!! わかれーーーッ!!」


目を見開き、言葉を失い自身の頬に触れるノア。


「ご、ごめん……!僕、全くなにも見えなかった……勇者失格だよぅ……。」


困ったように眉を下げ、ネリアは逃亡した同族へと視線を向けるが――

ネリアの放った拳の風圧で、アメトは砂だらけになっていた。


「メト……メトちゃ!? どうしちゃったのよ! 砂まみれなの!」


「……お気になさらないでくだサイ。 で、ボクに何用デショウか。」


『あっと、そうなのっ!』と改めて彼へ、幾つかの質問を投げるネリア。


ひとつ――魔族の“固有能力”や、魔力について。

ふたつ――〈核〉に関すること、不滅神の守護について。

みっつ――“固有能力”に関連する『二つ名』の制度について。


「えー、魔族の固有能力は制約のため、人族には話せません。

 それと『二つ名』はボクにもよくわかってないので。

 “核”については――ボク、話したっけ?」


アメトの言葉に、ノアが小首を傾げながら二人へと新たな問いを投げる。


「えっと、話に割って入ってしまうようでごめんなさい。

 その――『核』とは一体なんなの……かな?」


アメトを睨みつけるネリア。睨みつけられた彼は――

視線を遠くへと投げ、気味悪い微笑を浮かべていた。


その後――結界を解いたネリアが全員を招集。

彼女の目的の人物は、黒ローブの青年……賢者バルタザール。


実は密かに目を覚ましていた彼だったが、彼はビクリと肩を震わせた。


「そこの黒いキミッ! どこまで知っってるのよ! 魔族のコト!」


「ええッ!? ワ、ワタクシッ!? ええとッ――」


問われるがまま、彼の知りうる魔族の情報をすべて吐き出したが――

彼女のお眼鏡にかなうものではなかったようだ。


「つかえないの! 仕方ないの! そこのメトちゃの彼女ちゃ!

 聖女ちゃーーー! こっちに来るの! 急ぎなのよーーーッ!」


ネリアの言葉が平原にこだました瞬間――冷えゆく場の空気。

もちろん、単純な外気の冷え込みだけではない。


全員の首が、名指しされた聖女へと向けられ、怪訝な視線を投げられる。


「はぁ……。 デスから、ボクたちはそういう関係では――」


アメトは項垂れているが、しかし彼はネリアに対して弁解を述べてない。

彼女の前で聖女と濃厚な接吻を交わし、あまつさえ『夜を楽しむ』――


とまで言っているのだ……勘違いしないほうが無理難題。


青天の霹靂のネリアの言葉に、立ち尽くしていた全員だったが……。

やがてやたら上ずった、素っ頓狂のような情けない声色が響く。


『えっとぉ……?』と、勇者であるノアの発した言葉。


「セラって……いつの間にアメトさんとお付き合いをしていたのっ!?

 僕たち、教えてもらってないよっ! なんで言ってくれなかったの!

 言ってくれたら良かったのにっ! いつからそういう関係なのっ?!」


「アメトさんに、ちゃんと大事にされてるっ!?」


「ガックリ」と膝を折る聖女(セラ)と半魔(アメト)。

ずっこけるように足をもつれさせながら『キミも?』と項垂れる半魔。


聖女の身体からは虹色の粒子が溢れ出しており、神々しく輝いていた。


「ノア、勘違いをなさってますが……私たちは一切、恋仲ではありません。

 全ては私の第一声が原因です。 弁解もなにも……そもそも、です。」


「ネリアさんは私の話を、全然聞こうともしてくださいません。

 閣下も私も、もう諦めました……。」


とは言っている聖女ではあったが――彼女もまた、弁解していないのだ。

ただただ“濃密接吻”を目撃されただけで、彼女の言葉も無意味。


アメトもセラも、互いにネリアに対し、勘違いを払拭させる言葉をかけてない。

しかしなぜなのか。この二人――ポンコツなことに、気がついていないのだ。


「メトちゃの彼女ちゃー! 聖女ちゃなのよね? 聖女ちゃなら《祈り》――

 使えるはずなの!《祈り》の中に、肉体強化するヤツ! あるはずなの!」


「そのお祈りが出来るなら、すっごく強く祈ってほしいの!!

 強い想いは強い力になるの!《肉体強化の祈り(ヴァルトゥス)》には感覚強化もあるの!」


「ずーと前の【勇者】ちゃが、そう言ってたから確かなはずなのよ!」


ネリアは身振り手振りで説明をしているのだが――

全く何も伝わらない、奇妙なダンスにしか見えない無様な有り様。


が、彼女の発した言葉――『前の勇者』という単語。

その言葉は、バルタザールの知識欲を刺激してしまったのだった。


「ずずず……『ずっと前の【勇者】』殿ですとおおおぉぉぉッ!!!???」


遮るものもない、屋敷でもない、人気のない平原に響く賢者の弩声(どせい)――

世界を震撼させるほどの響きを孕んだ彼の声で、一同は耳を抑えていた。


が、ネリア……彼女だけは違った反応を示していた。

なにかがツボに入ったらしい彼女は、抱腹絶倒。草原に転がりまわる。


「ぎゃっははははッ!!! 黒服ちゃ!!ほんとーに人間なのよ???

 超絶うるさいのよーーー!! ぎゃっははははーーッ!!」





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