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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

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頁:85 その【朝食】戦場につき。



混沌とした空気の中、気絶から覚醒した賢者(バルタザール)。

彼はよく分からない事態に『ナニゴトですかッ……?』と困惑。


「あー……。 賢者サマおはよ。 ええと『こうこうこれこれ』でネ……。」


簡潔に事件の経緯を説明する屋敷の主(アメトリクス)。輝きを帯びる賢者の眼鏡。

彼は何かを問いかけたいのか、ウズウズした様子をみせているが……。


魔族である彼女、ネリアの圧力に気圧され、口を噤んでいた。


「お話続けるの! アタイはメトちゃより頭はー……んー? ちがうの。

 比べちゃだめなの! アタイ、頭を動かすのは得意じゃないのよっ!」


「それでね! アタイ、人間さんが大好きなの! 美味しいもの……。

 楽しいこと……。 人間さんには、可能性が沢山あるの!

 あっちの喧嘩ばっかな場所より、よっぽど楽しいのよ?」


語る彼女の表情は、どこか遠い過去に思いを馳せているような。

温かいはずなのに、なぜか淋しげな微笑に思えるようなもので。


「でね? ええっと――よかったら、強いつよーいアタイが……。

 勇者ちゃに『お稽古』をつけたげよって、おもってなの!

 魔族との戦い方なら、魔族に聞くのが一番なのよ?」


困り眉で考え込む様子の勇者――その隣にいる騎士はよそよそしい。


そんな最中、食事の席から「カタン」と音を立て立ち上がった屋敷の主(アメト)。


どこか疲れた様子の彼は、飄々とした態度でノアに視線を投げた。

ネリアの言葉に補足するように、声を響かせる。


「――って理由(ワケ)でネ。 ネリア様は勇者を鍛えたいみたいでサ。

 ボクじゃあキミたちを鍛えるだなんてコト、力不足にも程があるしー?

 戦い方以外のコトなら教えられるケドー。 ヒヒッ それじゃ――」


彼はこの場から立ち去りたかったのであろうが、そうは問屋が卸さない。

『何言ってんのよ?』と、アメトの正面に回り、正々堂々宣言。


「メトちゃも鍛えないと、じゃないとアタイとスィタ……へかてら戻るの無理!

 だってアタイ、メトちゃのお守り出来るほど、優秀じゃないの!

 メトちゃも鍛えるのよ! これはアタイの強制なの!」


「アアーー……。 やはり、やはり……デスか……。

 ヤダ……。 ホントーーーーにヤダ……。 どうして、ボクまで……。」


彼はついに床に手を付き膝を付き、四つん這いになっていた。

どうやら言葉以上に嫌なようで、今は彼の威厳を感じられない。


全員引いた様子で魔族たちを見つめ、人知れず遠ざかるパルテオン。

どうやら彼は『稽古』という言葉に嫌悪の感情を抱いているらしい。


結局――天真爛漫な魔族を止められる者は、この場には居なかった。


◇ ◇ ◇


場所を移し――ニヴェイシア邸の広間。


「あ、あのぉッ……失礼ですがッ……! いくつか、質問を――

 させていただきたいの、ですがッ……!」


殺伐とした雰囲気の中で賢者の質問が飛び、全員が顔をそちらに向ける。


「稽古……と軽く仰っておりますが、その……勇者殿と、魔族である――

 ネリア様が戦闘訓練ともなりますと……ええー……。」


「この辺り一帯を、吹き飛ばしてしまいかねませぬか……ッ??

 さすがにそれは、煌陽国(セレスタリア)の賢者として見過ごせませぬのでッ……!」


彼の意見は至極真っ当。故にアメトはこの言葉に乗っかることに。

彼女を落ち着かせられるのではないかと、もう一押しの言葉を追加。


「ネリア様と勇者サマの戦闘訓練で、地図が変えられるような事態――

 もしそうなってしまえば、ボクはこの国で貴族の位ゆえに……。」


「到底看過出来ません。」


「ボクはこの土地の領主ではありませんが、一部管理を任されてマス。

 簡単に仰られてマスが、難しいのが現状かと。 それに、デス――

 ボクはこちらでの業務等が、ありマスので。」


「さぁて――どういたしマスか? ネリア様。」


胡散臭い微笑を湛え、腕を広げて愉しげに提案を投げたアメト。

が……そんな彼の思惑をよそに、ネリアの返答は、全員を驚愕させるものだった。


「それじゃ、暴れてもよさそうな平原で暴れたらいいのよ。

 アタイ、結界展開できるし、見られないように人里離れた平原に移動。

 そいでもって結界張って、その中で戦闘訓練すればなんの問題もないの。」


「メトちゃのお仕事もそのあとすればいいの。 なにも一日丸々訓練しないの。

 とーっても簡単なお話なの。 移動手段はメトちゃの『固有能力』があるの。」


淡々と解決策を告げ、終いには『はい、解決なの。』と、言い切った彼女。


この世の終わりのような蒼白の顔色で、硬直してしまったアメト。

だが彼がどれだけ固まろうが、灰になろうがネリアには関係のない話。


彼女は次に賢者へと視線を投げ――次いで質問をぶつけた。


「そこの黒いの! 知識がありそうな見た目してるの。 だから問うのよ。

 暴れてもよさそうな場所――教えろなの。 これは強制なの。」


彼女のよもや脅しとも言える言葉。彼はびくりと肩を上げ――

僅か数秒で推論を導き出し、慌てて言葉を返す。


「きッ……北の山脈ッ!ラメルノートッ!!」


「かの土地は煌陽国(セレスタリア)の保有している土地ではなくまた人里離れた場所――

 暴れたところで無問題且つ山脈付近には広大な草原が広がっており――

 視界も開けた場所ということもあり最も適切な場所と言えましょうッ!」


慌てたような早口で言い切り『ゼェハァ』と息を上げるバルタザール。

賢者は横目でアメトの姿を確認するが――彼は固まったままだ。


アメトを見つめ『スミマセヌッ!!』と謝罪の念を送る。

ちらりと視線を勇者たち一同へと戻すが、呆然としている彼ら。


勝手に話が進んでいき、誰も何も言えずに硬直してしまっていた。


「そいじゃそこに出発なのよっ! ほらみんな急げーなのよ!

 人間さんにとっての時間は有限なの!! 急がば回れなのよッ!」


賢者は『そんな長距離移動無理』と言いたげに助けを求めるが――

彼を助けてくれそうな人物は、この場にはいない。


「分かり、ました。 では、ボクが転送を使用し……平原へ。

 勇者サマ方をお送りいたします。 ボクは業務が――」


「メトちゃ? いい……? メトちゃも行くの。 これは強制なの。」


彼女から溢れ出る、炎の揺らぎのような熱気を帯びた圧力。

気圧されたアメトは息を呑み、やがて笑顔は消失し静謐な無表情に。


「分かりました。 デスが、ネリア様。 これだけはご留意くだサイ。

 ボクの魔力量を過大評価してらっしゃいマスが――」


「現在の総魔力量で、この人数を転送となると、下手したらボクは――

 現在の身体を維持できず、下手したら“核”になりマス。

 そこのところ、ご了承くださいネ――」


ノアとパルテオンが慌てて駆け出し、部屋から離れ――

どうやら彼らは自身の装備を取りに行ったらしく、すぐに戻ってきた。


勇者たちの否応なしに、アメトは腕を小さく上げる。

次いで分かりやすいよう、指を「ぱちっ」と打ち鳴らした。


全員の身体が黒紫の霧に呑まれ、彼らはこうして――

交易都市(ヴァルメリア)・ニヴェイシア邸から忽然と姿を消していった。


◇ ◇ ◇


北方の大地――大山脈・ラメルノート付近の平原。


爽やかではあるが、山脈から降り注ぐ強い風が、肌に刺すような痛みをもたらす。

陽光こそ登っており、大地を明るく照らしてはいるが、寒さを感じる外気。


長距離転送は魔力消費に加え『転送酔い』による身体的な影響――

二重苦を強いられた全員に襲いかかるのは、強烈な不快感。


まず魔力消費に耐えられなかった半魔族の彼。

彼はふらりと意識を手放してしまい、倒れ込んで気絶するのだが……。


彼の身体は半透明になっており、消えてしまうのではないか?と不安を煽る姿。

次に魔導椅子に腰掛けた賢者もまた、転送の負荷に耐えられず気絶。


彼はまだ起きたばかりだというのに、気絶させられ……悲惨だった。


ノアとセラは平気だったようだが……。

他ニ名――ルルやパルテオンすらまずい様子。


「なんか……船酔いと馬車酔いが同時に襲ってきとる感じする……」


「わ、わりぃ……俺もだッ……ェップ……。」


彼らは互いに腹部に手を当て、気持ち悪そうにえづいていた。


半魔の彼が居ないことにセラが慌て、キョロキョロと視線を動かす。

やがて草原に転がる微動だにしない彼の元へ駆け寄り、身体を抱き起こした。


「閣下!? 閣下……!しっかりしてくださいッ……! どうすれば……??

 ニヴェイシア閣下!! アメトリクス様ッ!!!」


まさかこんなことになるだろうとは、思いもよらなかった勇者。

彼はわたわたと慌てふためくだけで、何も出来なかった。


「――魔力枯渇による一時的な活動停止、それによる形状維持の破綻……。

 大丈夫なの。 “核”が存在し続ける限り、魔族は決して滅びないの。

 アタイの血液を飲ませたら、彼は目を覚ますのよ。」


「――魔族って、そういう種族だから。」


彼女の冷淡な物言いにぎょっとするセラ。ネリアは天真爛漫な笑顔のまま。

なんの躊躇なく、自身の指を食み――血液を口に含み、聖女たちの元へ。


強引にアメトの口を開き、物怖じすることなく、自身の魔力と血液を流し込み――

ネリアの発言通り、数分もしないうち、彼の身体は元の状態に戻った。


目を覚ますと目の前に聖女(セラ)の姿があり、僅かに眉を動かす半魔の彼(アメト)。


「ゴホッ……ああ、最悪。 はぁ……ドーモ。 ネリア様、聖女サマ。」


「賢者サマー、この場所で合ってる? ボク、この辺り転送したコトないケド。

 あー……身体だっる……。 賢者サマ気絶してるし。」


彼が無事なことに、安堵の息を漏らすセラ。

ネリアは「ぴょん」と跳ね――草原を歩き回り、声を響かせた。


「これでようやっと暴れられるの! 急がせてごめん、なのよ。

 でも――アタイの言葉を聞いてほしいの。 急がないと……だめなの。」


「ちんたらしてたら、人間さんが滅んでしまうのよ……。

 だから、アタイのことも、分かって欲しいのよ……。」


「ボクから言える言葉はありません。 デスが……。

 次からはボクのコトも気をかけてくだサイ。」


しゅんと肩を竦めたネリアだったが、すぐに気持ちを切り替え――

彼女は認識阻害を解き、自身の姿を顕にした。


彼女の頭部には捻れた角、燃え盛る炎色の毛髪に、大きな龍翼としなやかな尾。

炎のような煌めきを放つ瞳に、肌のところどころ確認できる黒い鱗。


彼女の姿はまさに人の形を象った竜の姿――圧倒的な存在感。


「す、すげぇ……ッ! こりゃ、魔族ってより、古に存在したっていう――

 『竜族』って言われる種族って感じすんな……!かっけぇ……!」


「本当にかっこいいねぇ……! おとぎ話に出てくる『ドラゴン』さん!

 僕、ドラゴンさんに会うのは初めて! 宜しくねぇっ!」


歓声を上げる男性陣。キラキラした瞳でネリアを見つめているが――

女性陣であるセラとルルは怖いのか、様子を伺うように静かに見守っていた。


「とりあえず――勇者ちゃ、それとメトちゃの実力が見てみたいの。

 まずはメトちゃと勇者ちゃで、戦闘訓練をしてほしいのよ。」


「結局勇者ちゃってどの子なのよ? 出ておいで~~なのよ~~?」


気絶している賢者はともかく、全員の視線はノアへと向けられている。

ぎょっと肩を上げたノアは、困ったような朗らかな笑顔を湛えるだけ。


やがて控えめに手を上げ『僕です……』と小さく呟いた。


「え!? ちょっとまって!! えぇ、すっごい、しんどい。 なにっ……??」


拳にした両手を顎に持っていくネリア――謎の可愛い子ぶったポージング。

ネリアはノアの元へと駆け寄り、彼の肩を揺らし、瞳孔をハートの形に。


「待ってーーー! めぇぇぇーーーっちゃ可愛い子なのよッ!

 すっごいかわいいの! あなたが勇者ちゃなの? すき! ちゅーしていい?」


唖然としながらも彼はなんとか頭をフルで回転させるが――

打開策が見当たらず、しばらくフリーズするノア。


『今は訓練の時ではないのか……。』


脳内から響く冷静な女声に、はっと我に返るノア。


「ネリアさん。 好意を向けてくださるのは、大変ありがたいです。

 でも――この場に来た理由は、僕たちを鍛えるため、だったよね?」


「だから……今は、戦闘訓練が先決じゃないかなって、思うんだ。」


若干の困惑が混じっているが、ノアは至って真面目に真っ直ぐに応える。


彼の碧灰(シエルグレイ)の瞳は魔族の彼女(ネリアノクティリス)を射抜く。

普通の女子であれば、声を上げそうなほどの勇者(ノア)の色気だが――


「あっ! そうだったのよ! 欲情してる場合じゃないの!

 ほら! メトちゃ! メトちゃの出番なのよっ! 実力を見せてほしいの!」


実にあっけらかんと切り替え、彼女の視線は半魔と勇者へ投げられた。


平原の空気は、どこか張り詰めた空気感を漂わせる。

アメトは項垂れるまでもなく、高く広がる蒼天へと視線を向け、ため息をひとつ。


――全員の視線は、アメトとノアに向けられていた。





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