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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

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頁:83 その【接吻】切り札につき。



大号泣している彼女を、二人でなんとか宥めて慰め――

そんな中でも言葉を拾い集め、要点を纏めるとこのような話に。


――穏健派や中立派の魔族たちは、戦争を無謀だと止めに入ったのだそうだ。

しかし、準備は強行されてしまい、止められなかったとのこと。


――戦争派筆頭は、アメトの姉であるリンであり、彼女には秘策があるらしい。

その秘策とやらは、すでに勇者たちの知るところである、件の不浄の石。

石は魔族領(ヘカテラ)にて造られてものらしいが、詳細は不明とのこと。


――勇者や聖女の存在は、すでに魔族領(ヘカテラ)では、広く知られているとのこと。

が……容姿までは一部しか知られていないらしい。それでも危うい立場とのこと。


――中立、または弱い立場の同胞は『石』を人間領に持ち込め、と……。

そのように命令が下され、逆らえず、すでにばら撒かれているとのこと。


彼女……ネリアはこの重大な事柄を、なんとか人間側に伝えるべく――

この土地へと不眠不休で飛んできたらしいのだが、とてつもなく迷子になったと。


本来はもっと、早くに伝えるべきだったと、大号泣しながら語ってくれた。


「もう結構前からッ……戦争を仕掛けようとしてたの、アタイも知ってたのよ!

 うう……びえええぇぇぇ! でもッ……迷子になってぇ……!

 へかてらで、千年くらい迷子だったのよぉおおッ!!」


「……それだと時系列がおかしくない、デショウか? ネリア様。

 なぜ、数日前に戦闘をしたばかりのリオのことをネリア様が……?」


「へかてらで迷子になって!それで、リオちゃがあっちいったって!

 他のヤツが言ってたの! そっちの方向行ったら、気がついたらついたの!」


「以上なのよッッ!!! びゃああぁぁあぁああ!!ばかぁぁああッッ!」


ブチギレ大号泣――手のつけられないネリアに、セラもアメトの呆然。

が、妙に冷静な彼女は、指を鳴らし認識阻害を施し『人』の姿を装った。


「アタイはっ……アタイは人間さんが平和でいてくれたら、いいのッ……!

 だって、その方が美味しいご飯が増えるの……向こう……へかてら――」


「あっちは楽しくないの……だから人間さんに協力したいって……ぐす。

 だ、だからッ……アタイ、手伝えることがあったら、何だって手伝うのよ!」


ようやく涙が収まった彼女は「にぱー」と、どこか幼い笑顔を向けた。

そのまま立ち上がり、もじもじと身体をくねらせ――


「だからね、メトちゃ……メトちゃの指示があれば、なんでも手伝うの。

 なにか困ったことがあったら――このネリアおねーちゃにお任せなのよっ!」


「そこのメトちゃの彼女ちゃ! 夜で困ったことがあったら……。

 アタイに任せてなのっ!!! メトちゃをメッロメロにする――

 すっごい手技(テク)を沢山教えちゃうのよっ!!」


一体なんてことを提案しているのだ、と、怒りで瞳を閉じ、一息。


「あのッ! ですから、私は――」


言葉を連ねようとしたが、不意に肩を掴まれる感覚――

次いで唇に触れるのは柔らかな感触で、思わず何事かと目を見開いた。


眼前にはアメトの顔があり、何をされているかすぐさまに理解。


彼の胸を押し、どうにか抵抗の意を示すのだが――

彼女の筋力では、半魔の筋力に適うことなどあり得るはずもなく。


「んっ……!? んっ……!? ちょ、んッ!!」


片手で身体を抱き寄せられ、後頭部を抑えられ――なんと舌まで絡められた。

人前で唐突に濃厚なキスをされるという、とんでもない事態。


視界はぐるぐると回り始めるが、彼は瞳を細め、淡々と……それはまるで作業。

完全に『仕事中です』といった顔で、濃厚な接吻を続けていた。


混乱と羞恥でセラの思考は霞んでいき、また、抵抗しようにも力が入らない。


「おおーーーッ!!! ちゅーーーだッ!!!」


「人間のふっかいやつッ!! いいねーーーッ!! そこだーーー!!

 いいぞーーー!! そこをヤれーーー!! そこを攻めろーーーッッ!!」


対面にいるネリアはといえば、目を輝かせ謎に横から指示を出していた。

それはまるで、娯楽を見つけた子どものような姿。


「ひゅーー!」と感嘆の声で楽しそうにはしゃぎ、完全に他人事(ひとごと)。


アメトは“これ以上はまずい”と判断し、セラから唇を離し――

いつもの飄々とした微笑を浮かべ、ネリアに向き直り、言い放った。


「……というワケで、ボクたちはこれから長い夜を共に“致します”ので――

 デスのでどうか、ネリア様は宿に行かれるかあるいは魔族領(ヘカテラ)へ……。」


腕を広げ、彼女を屋敷から追い出すため、紡がれた言葉のはずだった。

が……返ってきた答えは、彼の予想を裏切るもの。


「アタイ、どうしよ……お金……ないの……。 ここまで来るのに――

 ずっと飛んで歩いて……無一文なの……。 宿もどこかわかんないの。

 魔力はあるけど……さすがに疲れちゃったの……ぐすぅ、びえぇ……。」


彼女の顔からはちらりと涙が覗き、しょんぼりと肩を落とした。

アメト――彼は顔を青ざめさせ、隣りにいる聖女へと視線を向ける。


「えっ……ウソ。 ヘカテラからここまで無休無足で、デスか――

 ど、どうしよっ……聖女サマとあんな最ッ悪なキスかましたのに……。」


『……無意味?』ブツブツと小声で呟いた後、セラの耳元に顔を寄せる彼。

『ホントゴメン。』と謝罪を述べるが……セラは羞恥と怒りで顔は真っ赤。


自身の意識が無い時であれば、まだなんとか許せた――が。

今回のは完全にライン超え……憤怒により、身体からは聖光が溢れ出す。


「閣下。 後でお話があります。 きっちり、お話いたしましょう。」


強い声色でアメトに伝えるが、彼は真っ青な顔で『ハイ。』と一言。

心底疲弊しきった様子でネリアに近づき、懐から小物入れを手渡した。


「こちらに、銀貨……それと金貨を複数枚入れておりマス。

 これだけあれば、しばらくは宿で休息を取ることも可能かと――」


「え? アタイ今のこの国の貨幣価値、わかんないのよ。 どやって使うの?」


何度目かの諦めの境地に立たされたアメト――

彼は小物入れを回収し、書斎の椅子にどさりと腰を掛け、ため息を洩らした。


「もう……イヤ。 ネリア様……。 ボクのお屋敷の一室を貸し出しマス。

 それで、気の済むまで休まれてから……ヘカテラへご帰還なさって下サイ。」


「やーー!! アタイ、勇者ちゃを強くするのーーー! メトちゃ言ってたの!

 ここに勇者ちゃがいるって!! ぶーーー!!!」


「強くするまで、アタイここから離れないの!! 強制なのよーっ!!」


彼女は両手を「バーン」と広げ、大胆に宣言。


「も、もう好きにして……。 ネリア様が、満足いかれるまで……。」


彼の声には軽薄さも覇気もない……完全敗北したような絶望的な声色。

彼の様子に納得したのか、ネリアは首を縦に振り、頷き――


「それじゃ!アタイ、五億年くらい飛んでたから、ここでオヤスミするの!

 あ、メトちゃ! それと彼女ちゃも! 夜の運動邪魔しないの!」


地べたに這いつくばり、彼女はそのまま床で寝始めてしまった。

すやすやと寝息を立てたかと思えば、即座にどこぞの騎士レベルの轟音――


単純にイビキの音なのだが、とんでもない音を轟かせ、夢の世界へと旅立った。


「どうして、こんなコトに。 ボクの自室……なのに。 はぁ……。」


椅子にずれ落ちそうになりながらも、なんとか腰掛けていたアメト。

そんな彼にセラはウロウロと視線を移し『あの。』と語りかけた。


「あー……聖女サマ。 さっきは、ゴメン。 ホント、イヤだったデショ。

 あろうことか、人前であーんな最悪なキスされちゃって。 ゴメンネ。」


「言い訳になるケド、あんな蛮行に及んだのにもボクなりの理由(ワケ)が、ネ。

 ネリア様がボクたちを恋仲だと勘違いしてたデショ。 だからサ。

 その勘違いが使えると思って……って、言い訳だネ。 はぁー……。」


いつもであれば、こういう時こそ、おちゃらけた態度ではぐらかすものかと。

しかし声を落として謝罪する彼の表情は、どこか曇っているようにも感じる。


溜飲を下げ……アメトの隣まで身を寄せ、肩に優しく触れるセラ。


「あなたの様子がおかしいのは、最初から分かっておりました。

 ネリアさんをここから遠ざけたかった。 屋敷の方、しいては――

 ノアや私たちへの配慮のため――行動に移したのでしょう……?」


「で、ですが……。 それでもさすがに、あん、な……。 わ、私ッ……。」


プルプルと怒りで震える拳を彼の肩に当て、小さく蚊の鳴くような声で呟く。


『ファ、ファーストキス……だったのですよ……?』


「全くもうッ……! 謝っても、許して差し上げませんッ!

 ですが――ひとまずは、怒りは飲み込みますッ……。」


「それと、身長……戻られてよかったです。 正直残念ではありますが。

 と、ともかく! 先ほどのアレは記憶から抹消しますッ! もうッ!

 今後はみだりに、唇に触れないようお気をつけください、全く……ッ!」


アメトから離れ、書斎の戸口まで向かって、ぎこちなく微笑み一礼。

彼はため息一つ零し『セラって甘ちゃんだよネ。』と何気なく口にしていた。


(ん……??? いま、私を愛称で呼ばれました……?閣下が……???)


彼が今まで、名前を愛称で呼んだことなど、あっただろうか?

否……彼がそんなマネをするなど、考えられない。


しばらく固まり、考え込んでいると、彼から声が掛けられる。


「どしたのサ。 聖女サマー? そんなトコで固まって。」


「えっ……あ、いいえ。 あの――先ほど、閣下……私のことを――

 その……愛称で、呼ばれませんでした……? 『セラ』……って。」


急に愛称で呼ばれてしまうと、どうにも恥ずかしいもので。


「どくどく」と、鼓動が忙しなく働き始めてしまっていた。

頭に上る熱が手助けし、彼女の顔色は徐々に赤らみつつある。


「――ン? アレ……確かにボク、さっき……愛称で呼んだネー?

 えっ?? ボクが、聖女サマを、愛称……で?? ――ええ?

 ナニソレ、ちょっと怖い。 キミ、ボクにナニかシた……?」


普段は冷静な様子な彼だが、今現在は本気で分からないらしい。

椅子から立ち上がり、顎に手を当て考え込む様子で眉を寄せている。


(なんだか……少し幼く見える気がしますね……閣下って。)

(どうしてなのでしょうか、可愛らしくもあるような――)


「私は何もしてませんよ? アメトリクス様って、たまに面白いですね?」


「ふふっ」と微笑んで見せると、彼もまた胡散臭い微笑に戻った。

床に転がるネリアを拾い上げ、寝室へと運び、身体を放り投げる。


「さーて。 ボクちょっとスッキリしたいしー、浴室行ってくるヨ。

 ついてきてもいいケド、さすがにあーんなコトあったばっかだし。

 イヤデショー?? ヒヒヒッ! それじゃね、聖女サマー。」


とぼとぼと歩き出し、セラを避けるように部屋を退出しようとする彼。

セラは何を思ったのか――自身でも分かりかねる行動をとっていた。


彼の背にしがみつくように、優しく抱きしめる。


「……なぁに? 聖女サマ。 胸、あたってるケド。 どうしたのサ。」


正面から視線を逸らすことなく、声だけは淡々と、彼女に言葉を投げるアメト。


「キスですが……その。 一度してらっしゃるって、言ってましたよね?

 一度も二度も大して変わらないって……そう思いました。」


「ですので、やっぱり気にしないので、あなたも……その。

 気にしないでほしくって、それだけ……お伝えしたかった、だけ……です。」


一瞬の静寂が流れるが、彼はセラの方向へと振り向き――

肩に優しく触れ、瞳を細め耳元に口を寄せ……艶っぽく囁く。


『それって……ボクを誘ってる? あんまりボクを煽らないでヨ。

 ――キミのコトが、欲しくなる。』


言葉を落とすだけ落とし、彼は転送を行使したのか、身体が消えてしまった。


残されたセラは顔をこれでもかと染め上げ、自身の顔を掴み悶える。


(誘ってるつもりなんてなかった!! 誂(からか)ってる!? なんなのッ!)

(だって、あんな顔をされたら……放っておけないじゃないですかッ!!)


「閣下の、バカーーッッ!!」


彼の書斎からダッシュで抜け出し、自室へと駆け出すセラ。

彼女はもやもやした気持ちを抱え、寝台へと飛び込むのだった。





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