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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

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頁:82 その【魔族】マイペースにつき。

――◆第四章



「ネ、ネリアッ……ノクティリス様ッ……。」


「ええ~~~~~~~~っと……。 ボ、ボクのお屋敷に、何用でッ……?」


ネリアという女性を連れ、ニヴェイシア邸へと帰還を果たしたが――

当主である彼は、戦々恐々とした態度を隠せない様子だ。


額には汗を浮かべながらも、どうにか放ったであろう第一声。


(身長は元に戻ってらっしゃいますが……一体どういった関係なの……?)


背すじを伸ばし、片腕を後ろに回してあからさまな態度の彼。

笑顔もどこか……否。かなりぎこちがなく引き攣っている。


普段の飄々とした態度とは一変し、ネリアに対しては蛇に睨まれた蛙が如く。


「メトちゃ! 本当にいたのよっ!! とってもとーっても、おひさなのっ!」


屋敷の主の焦燥など――この女性には伝わってなどいない。

無邪気に駆け出し、彼に抱きつきに飛び込んでいっているが――


セラの瞳に映る光景は、恐るべき捕食者のようにも映った。


「せ……聖女サマ……。 か、彼女とお知り合い……だったの、デスか。」


恐らく緊張が勝(まさ)ったのであろうが、彼はセラに対しても謎の敬語。

彼の顔色はどこか――いつもより悪いように思えるが……。


一体、この女性は……何者なのだろうか?


「ええと、ネリアさんとは、先程街で出会ったばかり、でしてっ……!」


なんとか返答をするが、彼はネリアに絡まれ、強張った笑みを浮かべるだけ。

彼にとっては由々しき事態なのであろうことは察せる。


混沌な最中ではあったが、この状況を見れば、一目瞭然でわかることがあった。


それは――この女性『ネリア』という美女。


彼女は、アメトリクスよりも圧倒的に“上位”の存在であるということ。


しかしネリアはといえば、堅苦しい空気など意にも介さない様子。


アメトに腕を回し、無遠慮に彼にくっつき「おはなし、しよなの!」と――

あまりに天真爛漫な笑顔を向け、つかつかと屋敷の内部へと歩み寄っていた。


「メトちゃ! ごはん食べたいの! それとお話なの! はーやーくー!」


どうにも力が強いのか、じわじわと屋敷の中に押し入ろうとするネリア。

アメトもなんとか抵抗をしているが――どうやら力では勝てないようだ。


(一体、ネリアさんとは、何者なんでしょうか……。)


「あ、あのッ! ネリア様。 申し訳ないのです、がッ……!」


「現在は屋敷に勇者サマ一行が滞在しておりましてッ……!ですからッ……!

 お屋敷に入るのはご遠慮いただきたくッ……!」


「えー。 ならメトちゃの自室でいいの! ほらほら、彼女ちゃも!

 こっちこっちなの! 一緒にごーごーなのよっ!」


彼は『はぁ……』とため息を吐き出し、セラに視線を送り目線だけで合図。

恐らくは『ごめん』といった感情で首を横に振る。


この時のセラは彼女『ネリアノクティリス』――


この魔族の別ベクトルの恐ろしさを、理解していなかった。


そして――黒紫の霧が三人を包みこんだのだった。


◇ ◇ ◇


三人が次に目を開けた時には、すでにアメトの自室。

ネリアは驚く様子もなく、キョロキョロと周辺を見渡している。


誰もいないことを確認したのか、彼女は指を「ぱちん」と鳴らし――

彼女を人間たらしめる『認識阻害』を解いた。


たちまち彼女の姿は、本来の魔族の姿へと変貌を始めるが……。


燃えるような赤色の髪色は、火そのもののように淡く揺れ踊る。

頭には大きな二本の捻れた角に、燃え盛るような炎色の瞳。


よく見るとその瞳孔は長方形――まるで草食動物を想起させる形状。

耳も人間のそれではなく、羊のような可愛らしいもの。


腰辺りからはしなやかで美しい、太く立派な尻尾……。

極めつけは輝く龍翼――広げれば部屋を軽く吹き飛ばしてしまいそうだ。


「そいじゃなの! 改めてアタイの紹介なのよっ!」


「アタイは『ネリア』! ネリアノクティリスなの!

 魔族の“穏健派”筆頭なのよっ! よろしくなのっ! てへ☆」


見るからに異形の姿の彼女だったが……軽い、あまりにも軽い。

彼女が投げ飛ばした“星”は床に堕ち――散っていった。


盛大にため息を吐き出したアメトは、付け加えるように慎重に言葉を紡ぐ。


「えーとネ。 聖女サマ……。 唐突でビックリしたよネ。

 この方は魔族領(ヘカテラ)では高い序列に君臨する力を持ってらっしゃる……。」


「“穏健派”とは名ばかりの――」


彼の言葉の節々には緊張からなのか、どうにかいつもの軽薄な調子とは程遠い。

それでも胡散臭い微笑は絶やさず笑っているが……彼の首筋には一筋の汗。


「ちょっと!なんなのよその説明さん! 硬すぎなのよ! ぷんすこなの!

 アタイ、そんな脅威じゃないの! 楽にしてなのよ!」


何かが不服だったらしく、彼女は頬を膨らませ、彼の背を思い切り叩いていた。

子供のように『ブーブー!』とぶーたれているが……アメトは諦めの境地。


彼の視線は何処か果てしない遠い場所へ向け――短く告げた。


「この方は――めっちゃ強いヒト。 ……以上。」


「ぎゃっははははは!!! 軽いを越えてきたのよ! ぎゃははははっ!!

 それじゃ、アタイのことなーーんも分かんないのよっ!!!」


背を叩いたと思いきや、彼女は腹を抱えて床に転がり――

大層な騒音を散らし「ゴロンドスン」と暴れている。


セラにはもう……どうすればよいのか、分かるはずもなかった。


泣きそうな瞳で『私は……?』とアメトに視線を送り助けを求める。

が、彼の視線ははるか遠い――未来に向けられ戻ってこない。


『や!!聞いてなの!』と、彼女が「ガバリ」と立ち上がり、言葉を投げた。


「メトちゃってね!すっごいのよ? 魔族らしからぬ冴えたあたまなの!

 だからなの! だからあっち――スィタ……『へかてら!』」


今にも龍翼を広げそうな勢いでセラの前に飛び込み、彼女の肩を掴むネリア。


「『へかてら』で、アタイと一緒にしらべてもらおうって!!!

 だからそのお願いをしにきたのよ!! 」


「あ、あの……ッ。 ボクは――」


セラから離れ、今度はアメトの腰を掴み、盛大に揺さぶるネリア。


「あとメトちゃ!!! じゅーだいじなのよっ!! 大変なの!!

 一人、半魔の子がこっちに襲撃しに行ったって!!!」


「リゼ……リオちゃ! メトちゃおぼえてるの? あの子が向かったの!

 戦争派のヤツが言ってたの!確定なの! だから気をつけてなのよ!!」


彼は『ハァーーッ……。』と声に出してため息を吐き出し、項垂れた。

『もう遅い』と言いたげに腰を掴まれたまま、動かない。


話についていけなかったセラは――彼らから数歩下がり、苦笑いを浮かべていた。


「アタイは基本コッチのことは不干渉なの! だって人間さんは……。

 アタイらのこと……嫌いだもん……でも、でもなの!!! ごはん!!」


「人間さんのつくるご飯はとってもおいしーの!! もうだめなの!むりなの!

 アタイ魔族だから食べる必要はないの!でもなの!!食べたくなっちゃうの!」


身振り手振りを交え、忙しなく暴れまわり――

あっちへ行っては「バタバタ」こっちへ来ても「ジタジタ」のネリア。


早口でまくしたてる彼女に、セラの思考回路はショート。

アメトですら拳を額にあて、瞳を瞑って『どうしてこうなった』と項垂れる。


「てかなのよ! メトちゃ!こんな可愛い人間さんの女の子と――

 お付き合いしてるなんて、アタイ、知らなかったのよ!?」


「なんでアタイに教えてくれなかったのよ!ずるいの!! 結婚式は?

 え?まだなの?? じゃあちゅーは? もう最後までしちゃってるの?

 まだなの!? じゃあ、どこまでしたのよーーっ!! ねーーえーーっ!」


拳を顔の前に、ネリアは大層楽しそうに彼の部屋を跳ね回る。

屋敷を壊しそうな勢いで勝手に一人ではしゃぐネリア。


二人は呆然を通り越して灰になりかけていた。


が――ネリアは唐突にアメトの肩を掴み『はよ言わんかいっ!』と揺さぶった。

いとも容易く行われるえげつない行為……アメトはひっそり視線をセラへ。


彼は『助けて。』と視線だけで彼女に訴えかけ、セラがはっと我に返った。


「あ、あのッ!! 勘違いされているところ申し訳ないのですがッ!!!

 私とニヴェイシア閣下……アメトリクス様は恋仲ではありませんッ!!」


「それと……魔族さん方はたしか、戦争を仕掛けに来ていると――

 そう、閣下からお伺いしたのです、が……?」


揺さぶっていたアメトの肩を勢いよく離し、よろめく彼。

ネリアはセラの前まで飛ぶように移動し、声を張り上げる。


「そのことなの!! 戦争ね! アタイにも全然ワケわかんないのよ!?

 急に……そう!急になのよ! ここ十年? んー?数秒??」


「アタイ魔族だから時間わかんない! でもなの! ほーんとに急に!

 唐突に!突然に!!! 『人間滅ぼしてやるー!』って言い出したのよさ!」


「ネ……ネリア様ッ……。 よ、要点だけ纏めて――」


「ホンット、意味不明なのよーーー!! ね?そう思うのよね??

 メトちゃーーー!! ねーーーーえーーーーッ!!!」


再びアメトの肩を揺さぶるネリア……顔をガクガクと揺らされる彼。

彼は無表情で『ナンナノ……。』と小さく鳴いているが……ネリアには届かない。


ネリア――彼女は、あまりに人の話を聞かなさすぎたのだ。


「てか!!メトちゃのお姉ちゃ!! あれどうすんのよ!!」


「あのこ、戦争派筆頭なのよ!! アタイ、相手したくないの、やーなの!!

 あれ……それじゃあもしかして……人間さん、滅ん……じゃう……?」


彼女はぺたりと床に座り込み、やがて目が潤みはじめ……。


「それはやーーーなのーーー!!! びえぇぇぇぇええええん!!!」


完全に小さな子供のような大号泣を披露し――

薄ら笑いを浮かべ、アメトはネリアの元へ向かい、頭に手を置いた。


「な、泣かないで下サイ……。」


と声をかけ、頭を撫でながら何度目かのため息を洩らした。


「ハァ……。 そうだネ。 この方は……見ての通り――

 魔族の“どうかしてる”筆頭の方、だヨ。 どうして……。」


「どうして、こんなコトに――」


彼女の涙は留まることを知らず、凄まじい勢いで溢れる涙。

彼女のいる場所には、水溜りが出来るほど――セラは考えることを放棄。


目の前で号泣する彼女を、ただ見守ることしか出来なかった。





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