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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

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121/137

頁:79 その【聖女】二度寝につき。



翌日――

ニヴェイシア邸宅の当主、アメトリクスの身体が小さくなった次の日。


セラの寝室に届けられるのは、柔らかで爽やかな早朝の陽の光。

カーテンの隙間から射し込む光が、空気中に漂うホコリを照らす。


キラキラと陽を受けて煌めきを放ち、ほんのり景色に色を添えていた。


昨日の岩礁での出来事が未だに抜けきれず、布団の中に包まるセラ。


セラがアメトを止めに入ったのは、何も考えなしでやったことではない。

彼が戦闘中に見せた、僅かな含んだような憂う表情――


彼は同族を手にかけることを、本心では躊躇っていると、そう思ったから。

だから――あの時、アメトを制止しようとしていたのだ。


(私、間違えていたのかしら。 でも、戦ってる時に見せた顔……)

(まるで、辛さを抑え込んでるみたいに感じてしまって……。)


そういえば彼は現在身体が縮んでしまっていたが、どうなったのだろうか?

と思い立ち、布団から起き上がってみるのだが――どうにも億劫だった。


なぜなのかセラにも理解できなかったが、彼と顔を合わせたくなかった。


結果として再度布団に潜り込み、暗闇の中思考に耽る。


(なんでしょう……不整脈かしら……身体も熱いし……また風邪……?)


彼のことを思うと胸が苦しくなり、鼓動も早くなっていくような感覚。

やきもきとした気持ちも湧き上がり、なんとも言えない不快感。


(いつも飄々としてて、本心は全く分からない……だけど――)

(人との距離感が分からなくて、誤魔化すための不器用な優しさ……?)


自己嫌悪に苛まれ、自ら孤立してしまいそうだったところ――

彼の態度と言葉は、褒められたものではなかったけれど、それでも……。


あの時に向けられた視線、奥底にある不思議な柔らかさ。


「むぅ……。 (もっと、もっと閣下のことを知りたい……です……。)」


枕に顔を埋めて思考の大半を埋めるのは、半分は魔族であるあの人のこと。

これが恋煩いであることなど、この時のセラは知る由もなかった。


◇ ◇ ◇


所変わって同じ屋敷内の広間。


広間ではバルタザールが魔導椅子に腰をかけ、いつもの読書スタイルで読書中。

念動で数冊の本を浮かばせ、凄まじい速度で読み進める。


「バルタザールおはよぉ……朝早いねぇ……? 僕はまだ眠いよぅ……。

 ところで――今日は何を読んでいるの? それと体調は大丈夫ー?」


「朝のご挨拶を省略させていただきますッ!勇者ノア殿ッ!

 ええッ! 先日子爵様にご教授いただいていた文字――」


「古の魔族文字と、煌陽国(セレスタリア)王歴百年頃の文字の照合と解析を……ッ

 どうにも文字の共通点が多く、解読の助けになるやもと思い立ちッ!」


至って真面目な顔つきで、宙に浮かせた紙に、あれやこれやと書き置きを残す。

頭を捻らせ「解釈違いッ!ヌゥオッ!」と時折独り言を呟いていた。


「す、すっごいねぇ~……僕には何をやってるのかさっぱりだよ……。

 それで――なにか分かったことはある? すっごく難しい顔してるけど。」


バルタザールは肺に空気を取り込み勢いづくが――

ここは大図書館ではない。故に思いとどまり誤魔化すように咳払い。


「抽象的ではありますがッ――気になった箇所だけ読み上げますッ!

 愉悦・至福・黒色・影・声・失楽・痛み・戦い・合同・嘆き・民衆。

 他にも有りますが、省略させて頂きますッ!」


「して、はっきり文章として理解できる箇所が一節ッ!

 ――『汝、唆されること、なかれ』……!ッ」


一呼吸をおき、近くに置いてあったカップに口をつけて深呼吸。


「大体がこのような、単語単語が繰り返されるのみでして――

 意味不明な言葉の羅列ばかり……して極めつけはかの魔族の土地では……」


「一つの文字に複数の意味があり、ワタクシが混乱している理由の一つ――

 王歴百年代頃の文字と酷似しており、文字の形は似ていれど――ッ!

 まったく意味が違っていたりとッ……。 もうワタクシ……。」


「これほどまで解読に時間を要するとは思ってもおらずッ……。

 これでは【賢者】の名が泣きますッ……ウウッ……。」


二人は顔を見合わせ、互いに「ウーン」と同時に顔をしかめる。

つかの間の沈黙が流れるが、バルタザールが周囲に視線を配り語りかけた。


「ところで気になったのですがッ……勇者殿。

 騎士殿、聖女殿――それに、ルル嬢はまだ夢の中ですかな?」


「パルは昨日飲みすぎたみたいで……多分まだ酔っ払ってる……。

 友人ながら情けないよ……あはは……。 セラは……わからない。

 ルルも見てないよ? そう言えばバルタザール! 昨日アメトさんが――」


ノアが何かを言いかけるが、遮るように広間の扉が打ち鳴らされ――

扉が開かれると一人の年若いメイドが一礼し、二人に声を届けた。


「あ、あれっ……? あのー……ご歓談中ごめんなさいっ! その――

 朝食の準備が整っておりますが、どういたしましょうか……?

 皆さま、お揃いでないみたいですが……。」


「良ければ、私が起こして参りましょうか?」


「あっ!それなら僕も一緒にいくよっ! バルタザール!

 君は先に食事場に向かっててっ! それじゃ、行ってくるっ!」


勇者の言葉を受け、バルタザールは「ワ、ワタクシは……」と言いかけるが――

すでに勇者とメイドの姿はなく、虚しく取り残された賢者。


(ワ、ワタクシ朝食は……し、仕方ありませぬなッ……。)


勇者の厚意を無下にするわけにもいかず、賢者はとぼとぼと食卓へ向かった。


◇ ◇ ◇


「そういえば今更なんですが……あなたのお名前を聞いてもいいかな?

 僕の記憶が間違いじゃなかったら、たしか『リリア』さんだよね?」


「は、はいっ! リリアと申しますっ! お、恐れ多い……。

 私のような女中の名前まで記憶していただけるだなんて……!」


彼女は顔を真赤にさせており、言葉通り恐縮しているらしい。

ぺこぺこと頭を下げる姿は、どうにも悪いことをしている気分にさせられる。


「大げさだよー!」と勇者は笑うが、彼女にとっては事実『おおごと』なのだ。


何気ない会話を交わし、一同の部屋を見て回る。



先ず訪れたのはパルテオンの寝室。

彼の寝室へと着く前から聞こえてくるのは、轟音のイビキ。


部屋の扉をノックし入室するが――彼は腹筋を惜しげもなく晒しあげていた。

腹部を大胆に晒し上げ、惰眠を貪る姿はなんとも言いがたい。


ノアが一言「ごはん。」とだけ言うと――騎士の瞳は覚醒。


飛び起き、とても寝起きとは思えない顔つきで二人に付いて歩いた。



続いてはルルの寝室。

彼女の寝室は、まるで嵐が過ぎ去ったような汚さだった。

散らばる衣類――謎の棒状の玩具に、どこから持ち帰ったのか石ころまで。


寝台に向かうが、彼女の身体は小さい。

それゆえにどの辺りで眠っているのかまるで分からない。


リリアが布団を豪快にめくると、ルルは猫のように丸まって眠っていた。

「すーすー」と、可愛らしい小さな寝息を立て就寝中。


彼女はキューを抱きかかえるように眠っており、とても仲睦まじい様子。


ノアが彼女の耳元で「ご飯だよ……。」と囁くと――

ルルは『カッ』と目を見開き、着替えたのちに、三人の後ろに続いた。



最後に、セラの寝室。

彼女の部屋は整然と整えられ、先ほどのルルの部屋とは天と地の差。


どこで眠っているかは一目瞭然ではあったが、彼女はどうしてだろう――

布団を丸めて眠っているのか、寝台の上に転がるのは、まるでイモムシ。


今までそんな姿で眠っていたことなどなかった聖女様。

そんな彼女にドン引きし、一同は満場一致での解――「そっとしておこう。」


セラは三人が部屋に訪れたことなど知ることもない。

布団に包まって静かに寝息を立て、眠りの中にあった。


◇ ◇ ◇


食事を無事に終えた一同は、広間へと向かったが――


ソファの一角には未だに身長が戻っていない屋敷の主の姿。

が、前日と違う箇所と言えば、左目は完治しているのか、眼帯はしていない。


彼は全員に気が付くと、生意気な笑顔で一同へと語りかけた。


「ヤッホ。 おはよ、勇者サマ方ー ボク、まだ戻らない。 ハァー。」


「エッ!? 子爵閣下のご子息様ッ!? なんと……ッ!!」


彼の言葉に真っ先に反応を示したのはバルタザール。

メガネを『くいくい』と何度も押し上げ、じっとアメトを見つめる。


前日の事件を知っていた賢者以外の面々は平常運転。


「アメトさん、質問があるのですが……よろしいですか?」


勇者の何気ない質問の言葉に、賢者は「閣下本人!?」と驚愕し、眉を寄せた。


「ヴェルカナで遭った――あのリオって魔族さんの件なんだけれど……。

 あの子って、もしかして……アメトさんと同じで、半分魔族の方……ですか?」


「概ね正解だネ。 リオも半魔……ただ、ボクとは違うヨ。」


「彼の半分は獣人でネ……あの美しい翼を見れば分かると思うケドー。

 んで……リオのコト……聞きたい感じ? んー、正確には――

 ボクら魔族のコトをもっと知りたいって顔だネ。」


頷いた勇者に対し半魔の彼(アメト)はじっと、勇者の碧灰(シエルグレイ)に宿る『何か』を感じ取った。

それはまるで――何かを想うような、複雑な感情。


「リオはネ……もともとはあんな好戦的な性格ではなかった。」


と、アメトはぽつりぽつりと語りだした。


曰く――リオという魔族は、とても穏やかな性格でいつでも笑顔だったと。

有翼人種の獣人と魔族との半魔だったらしく、あの翼は獣人の物だったと。


半魔の中でも、強力な『固有能力』を所持しており、また空を自由に駆け――

周囲からも一目置かれていた存在だったのだと語った。


「『固有能力』のお話だケド……これはボクの口からは話せない……ゴメン。

 で……なんでそんな穏やかな彼が、ああなったのか……ボクには分からない。

 ――できれば、ボクだって手をかけたくなかったヨ……。」


「でもネ。 あれだけの殺意を向けてこられた以上は仕方ない。

 黙って殺られるワケにもいかないからネ。 こんなところ、カナ。

 ボクから話せるのは以上。 制約が多くて話せないコトもあるのサ。」


彼は語り終えると『ぽすん』と軽い音を立てソファに腰掛けた。

いつも聖女が着用している法衣を身に纏い、生意気にも足を組んで微笑む彼。


「オイ……ちょいと待ってくれ……。 俺、その話全く知らんが……。」


分からない様子の騎士に対し、勇者が昨日の出来事を掻い摘んで説明。

説明を聞き終えた騎士は呆然と口を開け、呻くような声をあげていた。


アメトはどこ吹く風といった調子を崩さず、再び語り始める。


「ボクネー、実は魔族領ヘカテラに調査しに行く予定だったの。

 でも……こんなよわっちー姿じゃ到底無理なワケでネ。」


「なんだか上手いこと魔力も練れないしサー。 全く……。

 ソコのチビのせいで、ボクはとんだ災難に見舞われたヨー。」


彼は立ち上がると法衣をたなびかせ、ノアの元まで近づき――

顔をぐいと近づけ、小生意気な微笑を浮かべて語りかけた。


「ボクの姿が戻り次第、交易都市(ヴァルメリア)から居なくなるからサ。

 だから……必要なモノとか、ナニかあったら今のうちにボクに言って?」


「できる限り用立てするからサー。」


ノアの唇に優しく人差し指を触れるが――現在の彼だとあまり威圧感はない。


「だってさ! お話し合い、しないとだねっ!」


全員に顔を向け、なんともノアらしい拍子抜けするほどの返答。

彼らの様子を確認し、アメトは踵を返し広間を後にした。


(さぁてと……この場にいない“彼女”にもこのコトを伝えないとネー。)





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