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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

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頁:78 その【半魔】災難につき。



「パルが『魔力やられ』って、幻覚とか幻聴が~って話があった時――

 すっごく心配してたんだよー? でも案外大丈夫そうで安心したよっ!」


「ガッハッハ! ノアたちが屋敷から離れてから、大変だったぞ~?

 なんせ……キューの軍勢が俺を組み敷いてきやがったからな~……」


「なあにそれっ」と――談笑を交わし、ニヴェイシア邸の廊下を歩く二人。

勇者(ノア)と騎士(パルテオン)の二人は「小腹が空いた」ということで、食事場へと歩んでいた。


が――道中で聞こえてくる、なにやら騒がしい小人族(ルル)の声。


「なんだろう?」とノアが呟いたのをきっかけに――

二人は導かれるように彼女の声がする方向へと歩み、たどり着いたのは広間。


広間の扉を開け、目に飛び込んできた光景はといえば。


銀白金(アルゲント・アルビナ)の緩やかなくせ毛が可愛らしい少年。


その周りにいるのは、道化師服に身を包んだ白髪の子どものような少女――

少女は少年の周辺をちょこちょこと走り回っている。


広間にはなぜか――どこから現れたのか、謎毛玉生物(キュー)の姿もあるではないか。


一人と一匹が、実に楽しそうに銀白金の少年の周りを駆け回る。

その中心にいる少年は額に手を当て、大層困り果てていた。


完全に、どうみても情報過多。


「あァん……? あの子爵って子孫いたのか……? 子供はいねぇって……。」


「可愛らしいお子さんだねぇ! アメトさんにそっくり! ――あれ?

 でもお子さんはいるのに、肝心の本人は見当たらないね?」


深く眉間にシワを寄せている騎士(パルテオン)、キョロキョロと辺りを見渡す勇者(ノア)。

そんな最中、小人族(ルル)は「わーーい!」とはしゃぎながらうろつくだけ。


やがて二人の存在に気がついた少年は、一歩、また一歩と身を寄せる。


毛髪に覆われていて、分かりにくかったが――

僅かに覗く赤紫色の瞳の色は、屋敷の主(アメトリクス)そのものだ。


瞳を細めた少年はつかつかと二人に歩み寄り、口を開いた。


「あのサァ……。」


第一声から分かる――この少年は確実に『屋敷の主(アメトリクス)』だと。


「この『ルル』とかいう、キミらの仲間……どうにかならなぁい??

 ……ネェ。 ボクさぁ――…………。 こんななっちゃったんだケド。」


「どうすんの、コレ……?」


大きなバスローブの裾を引きずり、凄んでいるのか分からないが――

ノアに対し、苦情を伝える小さなアメト。


「あたしの作った“秘薬”で、メーちゃんを小さくしたんよ!

 あたし、まじですごくね? 天賦の才能っちゅーやつじゃ!うへーへ!!」


無表情ではあったが、声色から滲む愉悦の色に騎士(パルテオン)は眉をひそめていた。


視線を屋敷の主へと向けると、現在の彼の背丈はちょうどセラほど。

ぶかぶかのバスローブに身を包んだ姿は――妙な色気を放つような……。


彼は困惑気味の上目遣いで、騎士と勇者に助けを求めるような視線を送る。


「な、なんだか僕……今のアメトさんに変な色気を感じちゃってる……。

 ど、どうしよ……何かに目覚めそう……! もしかしてこれが……父性っ!?」


ノアの碧灰(シエルグレイ)の瞳は若干濁り、指先をわなわなとさせており――

パルテオンとアメトはそんな彼に一歩引いた目を向け、彼から身を引く。


「――不正な父性ってな。」


「……えっ? ルル、今……なんて……?」


「……???(また唐突に……ナンナノ、このヒトたち……)」


謎の空気が流れるが――アメトは諦めたように部屋中を歩き回る。


大きなため息を吐き出し、ソファに『ぽすり』と腰を掛け、足を組み――

拳を額に当て、なにやら真剣に考え込み『ブツブツ』と独り言を呟き始めた。


ノアたち三人は、小さくなってしまったアメトの話題で持ち切りに。


一体なぜこうなったのか、今後どうするのか、どう可愛がるべきか――

様々な言葉が飛び交う中、広間の扉を鳴らす音が響き、入室したのはセラ。


彼女は口を開きかけるのだが、全員の視線の先の少年を見つめ、呆然。


「あ、えっと……ニヴェイシア閣下の……御子息様でいらっしゃいます……?」


かろうじて出た言葉だったが、セラの声が届けられると同時にツッコミの声。


「ボクだヨ。 アメトリクス・フォン・ニヴェイシア、本人。」


何事なのか?と、全員に説明を求め、ルルが簡潔に経緯を説明。

納得のいったような、いっていないような絶妙な表情を浮かべるセラ。


「なるほど……それでこの状況ですか……うーん……。 可愛いですし――

 いつもの威圧感も感じませんし、これで良いのでは?」


考えることを放棄してしまったセラ。

容赦なく切り捨てるが、恐らく内心で爆笑しているルル。


小人族の彼女は肩を揺らし、無表情でガクガクと身体を揺らしていた。


(この方……本当にあの閣下と同一人物ですか? こんな……こんな――)


じっと見つめるが、見れば見るほどにセラ好みの美少年の彼――


熱烈な視線に気がついたのか、アメトは上目遣いでセラを見つめる。

左目には眼帯、バスローブ……あまりに弱々しい半魔の彼の姿――


庇護欲と母性を同時にくすぐられたセラは、我慢ならなかった。

気がつけば彼の頭を自身の胸に押し付け抱きしめ、撫でくりまわす。


「あああ……だめ……だめですっ……可愛い……可愛すぎますっ……!

 この子を私の弟にして、ルルちゃんを私の妹にします……!!

 かわいい……かわいいかわいいっ……!!」


理性やキャラ、尊厳やら聖女性……何もかもが瓦解していく光景――


セラの柔軟性が乏しい胸元で「むぐむぐ」と藻掻くアメトだったが……。

彼は諦めの境地に達したらしく、やがてぐったりと力を抜いて耐える。


「ちょっ……あの、サ。 ちょっと……。 人格終わってる。 終わってるヨ。

 キミ、どうしちゃったのサ。 誰かこの暴走聖女止めて。 ボク死んじゃう。」


アメトの悲痛の言葉を受け、慌てたノアが「こらこら!」と引き剥がした。

そこまでは良かったのだが――今度はノアがセラの代わりを務めた。


恐怖で引きつったような微笑を浮かべ『もうどうにでもな~れ』と言いたげな彼。


「おいおい……ノア、どうしちまったんだ……。」


ツッコミ役であるはずのパルテオンも、眉間に拳を当て、項垂れるしかない。



しばらくして――

暴徒と化した聖女と勇者は、どうにか落ち着いた。


勇者たち二人は、アメトの正面に正座をさせられ、説教中だ。


「ボクがこうなったコトはサ……ボクの不注意もあったから何も言わない。

 誰かを責めるのはお門違いだからしないヨ? しないケド、でもサァ……。」


「さすがに、断りもなくヒトを抱きしめるのは辞めようネェー?」


(どの口が言ってんだ……。)

(どの口が言っとるんよ……。)

(抱きしめるのはだめで、口移しは良いのですか???)


何か、言いたそうな気配を察知していたアメトだったが、言葉を続ける。


「特に勇者サマ。 キミ……やっばい力だったヨ? 今のボクだからカナ。

 とにかく、ボク……さすがに死んだかと思った。 死なないケド。」


アメトは立ち上がると、彼らの頭をぽんと撫で、ついでに提案を一つ。


「ところで聖女サマ。 ボクに《浄化の祈り(ピュリタス)》を祈って欲しい。

 この際、身体が痛いとか無視してサ。 もーヤダ……一刻も早く戻りたい。」


「視界が低くて違和感しかないヨ。 不便すぎるし。」


珍しく泣き言を洩らす彼に、ただ事ではないと彼の側へ身を寄せるセラ。

しかしやはり痛みを伴うのは気が引けると、考え込み――出した結論。


「なるべく……聖神力(サンクト)を抑えて祈りますね。 それでは……。

 天にあらす我らが主よ、不浄、穢れ、あらゆる醜穢を星の巡りの元――

 慈愛を以て還し給(たも)う……《ピュリタス》」


アメトの“子ども化”が『状態異常』であれば浄化可能だが――

彼女の聖光をどれだけ浴びようが、彼の身体に変化は見られない。


「ウーン……。 だめだネー。 アリガトー。」


「ごめんなさい、だめみたいです……。 今のあなたの身体の変化――

 状態異常という扱いではないと、そう判断されているみたいで……。

 私の《祈り》は届きませんでした。 ですが……。」


「とっても可愛いので、そのままで結構です、ええ。」


最初は確かに、アメトに向けられた心配の言葉。

が、最後の言葉は完全にセラの本心から紡がれた言葉。


「ま、大丈夫じゃろ。 多分時間経過とかで元に戻るじゃろーて。

 あたしの体感じゃったら、多分半日で戻ると思う、しらんけど。

 確証もないし保証もない、ぶち適当いっとるけど。 ま、がんばー。」


小人族の彼女は実に軽い様子で言うだけ言うと、広間の戸口へ。

「じゃあの。」と一言だけ落とすと、広間から姿を消してしまった。


「悪りィんだが、俺ァちょい、腹減っちまってよ。 ノア、飯行くか。」


「うんっ! そういえば今日ねっ! 帰る時にいい感じのお店が――」


と、彼らもまた広間から姿を消し――結果取り残されたのはセラとアメトのみ。


「ネェー聖女サマ。 ちょっとボクのお願いゴト、聞いて。」


いつもの軽薄な調子で語りかけ、セラに触れようとするが――

途中で手を止め、躊躇った後に手を引っ込めてしまったアメト。


(……?? 閣下、どうしたのかしら?)


「はい……?なんでしょうか、閣下……いえ。 なんだか違和感がありますね。

 今だけは『アメトさん』と呼ばせていただきます、ええ。」


「好きなように呼んだらいいヨ。 で……キミの法衣を一着貸して?

 今のボクの身長だと着られる服が無くってサ。」


「ああ、勿論……ボクの肌が触れるのがイヤなら、無理強いはしないヨ。

 で、でもサ……割りと本気で困ってる。 このままだとボク……。

 リリアの女中(メイド)服を、着ることになっちゃう、から……サ。」


どうにも複雑な表情で語る彼の声色は、若干ではあったが嫌悪が滲んでいる。

恐らくは、屋敷の主である彼が『女中(メイド)服』を着るのは抵抗があるのだろう。


「キミの善意に漬け込むようで悪いケド……人助けだと思ってサ……。」


なんだそんなことか、と――なんでもない気持ちでアメトに答えるセラ。


「かまいませんよ? それなら私のお部屋まで、ついて来て下さいませ。

 着用の仕方が少々特殊でして、私が着用方法を教えますので……。」


普段の彼であれば、セラと頭一つ分くらいの身長差がある。

そのため、彼女は無意識に彼に対し威圧感を感じていたのだが……。


現在のアメトは、ほぼセラと背丈が同じくらいで、威圧感をあまり感じなかった。


普段のセラであれば、警戒するところなのだが、完全に油断していた。


彼女は、自身の借りている部屋に男性を招き入れるという――

聖女らしからぬ暴挙をやらかしてしまったのだ。


普段の彼女を知っているからこそ、アメトは怪訝な表情を浮かべる。


「キミさ……さすがにもうちょっと警戒したほうがいいヨ……?

 ボクの性別勘違いしてなぁい……? ボク普通に『男』だケド……。」


「え? だって……あなたは何も、いたしたりしませんでしょう?」


真っ直ぐに答えられてしまっては、言い返す気力も失うというもので。

セラの寝室にたどり着き、彼女は自身の荷物から法衣を一着取り出した。


それをアメトへと手渡そうとするのだが、彼はバスローブをばさりと脱ぎ去り――

そんな大胆な行動に、セラは思わず後ろに飛び退き……すっ転んだ。


「アー、ゴメンゴメン。 つい癖で。 ボク、裸気にならないんだよネ。」


と言いつつ、彼は全裸でセラににじみ寄る。


彼女はこれでもかと目を閉じており、あたふたと後ろに下がり声を上げた。


「ちょっと!!まえ!!前を隠してくださいませ!!! 最悪です!」


「ン? そんなにボクの凸が気になる感じ? ゴメンネー?

 でも、今のボクの凸は可愛いモ――」


「いいからッッ!!! はやくッ!!! 隠してッ!!!くださいッ!!!」


ゲラゲラと腹を抑えて笑うアメト――

彼は言われた通りにバスローブで“前だけ”隠し、セラを起こした。


顔を真っ赤にさせ、怒気を孕んだ指先で法衣の着用を手伝うセラ。


「全くもうッ!! いったい、どういうおつもりですかッ?! いいですかッ!

 裸というものはッ!!ホイホイ人に見せつけるものじゃ、ありませんッ!!

 ちゃんと、隠してくださいませッ!! 私の身にもなってくださいッ!!」


「ンー? でもキミ、もう一回ボクの全部見てるデショ?

 それに裸って自然体だしー? ま、気をつけるヨー。 ヒヒッ!」


「それじゃ、オヤスミ。」と言い残し、彼は居なくなったのだが――

先ほど、堂々と見せつけられた裸体が頭の全域を支配してしまっていた。


邪念を取り払うように「もーーッ!!」と声を上げ、寝台に身を投げるセラ。


(私って……もしかしてムッツリなのですかっ……? 最悪っ……!)





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