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その【聖女】転生者につき。  作者: お餅憑き
七章:

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119/137

頁:77 その【墓所】は同胞の為に。◆挿絵有り



勇者たちと離れたその後のアメトリクス――

彼は賢者と小人族を寝室へと連れて行き、寝台へと寝かせて部屋を後に。


次に向かった先は自身の屋敷の敷地内――庭園の一角。

息を吐き出して懐を確認し、取り出したのは食器用のナイフ。


同族との戦闘時に、大量にばら撒かれていた“ソレ”だ。


(ぼくたち魔族は“核”を砕かれたら、身体すら残らない……残酷だね。)


不滅を誇る『魔族』とはいえど、限度がある。


可視化した“魂の結晶体”である〈核〉――魔族の急所とも言える物質。

ただ物理的に攻撃を加えたとしても、砕かれることは決してない。


しかし、勇者や聖女の持つ《浄化》の力をもってすれば、意味をなさない。

自身の内側に内包する『ソレ』とて例外なく、浄化されれば影も形も残らない。


世界に存在したという痕跡が無くなるといっても、過言ではない。


淡黄蘗(うすきはだ)の同族が遺した食器用のナイフたち――

庭園の一角に小さな植物の種と共に埋葬し、彼との過去を追憶する。


挿絵(By みてみん)


『エカ……ニェクセィ、クェル――……。(安らかに眠れ。)

 先に待っていてね、リゼクシア。』


庭園を後に、再び転送を行使して向かう先は浴室だ。

汚れてしまった自身の身体を清めるため、赴いた場所――


が、なぜか脱衣所には脱ぎ散らかされた衣類が散乱しているではないか。

転々と転がる紺色と深紫色の道化師服と帽子――小さな下着まで。


「ンー? チビっ子チャンが入ってる? まぁイイかー……。

 (ボクも入りたいし、あのチビなら多分気にしないデショ。)」


脱衣所で丁寧に衣類を剥ぎ取り、浴室の扉を開け――いざ入場。


いったい、彼女がいつ起床したのやら、アメトには分かりようがない。

それでも普通に入浴でもしているものであろうと、浴室の扉を開けるアメト。


しかし、目の前に広がっていた光景は――大の字で床に転がる小さな体。

申し訳程度に身体にタオルがかかっているが、仰向けでピクリとも動かない。


「……想像以上だネー。 さすがのボクもこれにはビックリ。

 あのサ……キミはココで何してる感じ? 湯けむり浴?」


「おー! 子爵ちゃーん! おはよ! いまさー……わりとガチでコケて。

 めっちゃ腰痛くって動けんのよ。 あたし、もう死ぬんじゃ……じゃあの。」


無表情であるがゆえ、彼女が本当に痛がっているのか、まるで分からない。

が、一先ず彼女の身体を起こすと、彼女は感謝を伝え走り出し――


また……盛大に足を滑らせ、コケた。


「キミの身体どうんなってんのサ。 チョット、ヤバくなぁい……?」


再び彼女の元へと歩み、身体を起こすと同時に手に小瓶を出現させる。

それをルルへと手渡し「中身は回復薬。」と伝える。


「この回復薬って『開腹』にも効くん?」


「……???(どういう、意味ナノ……?)」


ルルの謎の言葉に、温かいはずの浴場は凍りつき、寸瞬の静寂が落とされる。


彼女は「はて?」と言いたげに小瓶の中身を一気に煽り――

空になった小瓶をアメトに投げ返した。


「なぁー、子爵ちゃん。 その左目と脇腹さ、痛くないん?

 あたし、さっき腰を強打した時、クッソ死ぬほど痛かったんじゃけど。」


アメトの目の前にいる小人族の彼女は、裸体を気にする様子はない。

自身の裸体は気にしていない彼女だったのだが――


なぜか、アメトを全身を上から下まで舐め回すように見つめ……。

やがて小さく呟かれた言葉は「……長い。」という短い言葉。


「はぁ……ったく。 ボクのドコ見て呟いてるのサ。 ンデ怪我?

 長く生きてると、痛みも慣れてくるモノだヨー。 それにネェ……?

 魔族領(ヘカテラ)じゃ、殺し合いみたいなの日常茶飯時だからサ。」


「あっちじゃ、痛みって感覚は真っ先にどうでもよくなる感覚だヨー。

 ……まぁ。 さすがにチョットは痛いケドね。」


「こっわ……。 凄すぎるじゃろ……あたしら短命とは造り……?

 感覚が全然違うんじゃねー。」


彼女はそれだけ言うと、慎重に洗い場へと向かい、荒っぽく身体を流す。

その姿たるや――まるで猛獣の水浴びが如く、適当が過ぎる有り様だった。


そんな彼女の姿は、半魔の彼(アメト)には自堕落に映り、怪訝な眼差しを向ける。


「チョーーット、待ってくれるカナ。 ネェ……さすがに雑過ぎない??

 キミ、女の子デショ???石鹸くらい使ったら……? 見てられないヨ。」


「は?だって汗流せたらそれでええじゃん。 身体キモイだけじゃし。

 それのなんがだめなんよ! 時間は有限なんじゃけ!時短じゃ時短!」


彼女の言葉にため息を吐き出し、石鹸を泡立て、丁寧に身体を洗い上げる。

アメトの手つきは慣れたもので、ルルは感服し彼に完全に身を任せていた。


はたから見れば、今のアメトは子どもをしつける親。


「はぇ、すっげぇ~~……。 ぎもぢぃ~……。

 さっぱり度合いが、ぜんぜんちゃうやんけぇ~~」


盛大なため息を吐き出し、彼女に付いた泡を丁寧に流していくのだが――

彼女は泡が落ちるとともに猛ダッシュをキメ、湯船に勢いよく着水。


湯しぶきを撒き散らし、アメトは「ハァ……。」と頭を下げる。


「あのサァ……キミ、ちょっとは遠慮ってモノ、ないの……?

 ココ、ボクのお屋敷のお風呂だヨ……? 豪快過ぎなぁい……??」


呆れたように眉を下げ、洗い場に腰を掛けて自身の身体を磨き上げるアメト。

ルルは湯船に浸かり、その様子をうつらうつらと見守る。


「なーなー」と、丁寧に洗っている彼に語りかける。


「メーちゃん。 メーちゃんってさ……セラちゃんの事どう思っとるん?

 あたしさ、呪いで心の断片が読める特殊能力みたいなもんがあるんよ。」


(メ……メーちゃん……? ボクのコト……か。)


「んでもさー、メーちゃんの心は読めんのよね。 じゃけぇー……。

 あたし、メーちゃんの気持ちとか心、知りたいんよー。」


身体を洗っていた彼だったが、彼女の『心が読める』という言葉に反応を示した。

怪訝な瞳を彼女へと向け、一拍の間を置き、思考する。


「メ、メーちゃんって、それってボクのコト……だよネ?」


「ンー、そうだネェ……。 聖女サマは聖女サマなんじゃなぁい……?」


手を止め、少しだけ考えるように拳を顎に当て、言葉を続ける。


「強いていうのであれば、どこか抜けてて強がり。 それと責任感が強い。

 真面目で、押し付けられたお願いゴトでも、完璧にこなそうとして――

 結果、自分を追い込んで、背負い込みすぎる子。」


「あとは、使命感……もしくは義務感で人々に優しさを振りまいている……。

 って感じるネ。 良くも悪くも彼女は『自己犠牲』精神が強すぎる。」


「これが、ボクの率直な感想カナ?ンデー? こんなコト聞いてどうすんのサ。」


「ふーん……」と、眠たそうな声色で相槌を打つルル。


「なーんか、メーちゃんって他人行儀ってゆーかさ。 なんじゃろーね。

 あたしからしたら、すっごい距離感を感じるんよねメーちゃんって。」


「メーちゃんって、多分じゃけど、誰に対しても一定の距離保っとらん?

 あーっと、肉体的な距離の話じゃないけぇ。 心の距離の話。

 なんでもっと他の人に踏み込まんのん? ……ま、ええわー。」


ルルの声音は、心底の疑問の気持ちが滲んでいた。

アメトに対しての質問を投げたが、彼からの返答はない。


「ちなみにじゃけど、セラちゃん、明らかにメーちゃんにだけ態度ちゃうぜ。

 ノアちゃんやパルちゃんとは、違う感情を向けとるって伝えとくわ。」


アメトはルルに目を向けることなく、淡々と身体を洗い無言を貫く。

返答が無くともルルは気にせず、湯の縁に手をかけて湯で遊ぶ。


「あたしはさ。 みんなと違って心が読めるけぇ、じゃけえさ――

 余計なお世話かもしらんけど、ずかずか入りこむんよー。」


「ちょい言いにくいこと、言っとったらめんごー。 あーそれと……。

 薬草園を借りたいんじゃけど、いい? ちょい作りたいもんがあるんよ。」


胸の奥に突っかかる嫌な予感――『小悪魔道化師(トリックスター)』のルル。

彼女が“薬草園”となると、ろくなことが起きないと本能で悟るアメト。


「頼むからサ。 媚薬造らないでヨ? もし次盛ったら……そうだネェ――

 真面目にキミに責任取って貰うから、覚悟しておいてヨ、ホント。

 朝から晩まで、ボクに付き合って貰うからネ?(調剤的な意味で)」


「うおー、超怖い半魔さまじゃね。 わーっとるしもうせんけぇー、多分。

 朝から晩まで付き合えるほど、あたし体力ないけ無理(性的な意味で)

 あと――責任なら、セラちゃんが取ってくれるけ、大丈夫ー。」


「セラちゃんとイチャついたら、感想よろー! あ、ノアちゃんでもええよ。

 ほいじゃ、あたしは薬草園行ってくる。 作りたいのは魔力回復薬。」


アメトは髪の毛を洗っている最中だったが、あっさり「ドーゾ。」と一言。

彼からの許可を得たことで「ワーイ。」と言い残し――


満足げに湯から上がり、駆け出すルル――

彼女が立ち去った後、聞こえてくる扉の開閉音。


丁寧に身体を流し、深呼吸をし、湯船に浸かって物思いに耽るアメト。


(責任転嫁にもほどがあるデショ。 聖女サマ、とんだとばっちりだネ。)

(しっかしあのチビ小悪魔……ボクの心労が尽きないネー。)


彼女の心が読めるという能力……いったいどれほど厄介な能力なのだろうか。

心身掌握は得意である自負はあった――が、だ。


実際に心が読めるとなると、話は変わってくる。


彼女の秘められた能力に身震いし、自身にその力が及ばないことに安堵した。


(今後の身の振り方を考えないとネー……。 同族のコトもそうだケド――)


◇ ◇ ◇


久方ぶりにガラス張りの薬草園へと足を踏み入れたルル。

心の底から好奇心を抑えきれず、周囲を見渡し、薬草の香りに包まれる。


日は完全に落ち、柔らかな月光が照らす薬草園は、どこか幻想的だ。


「んー、植物の匂いたまらんのぉー! 故郷の味を思い出すわー! ……味?」


(たしか、この辺りに薬の書き置きがあったはずなんじゃけど……。)


薬草園兼、調剤室の中を歩き回り棚の中を物色し、紙束を引っ張り出す。


煌陽国(セレスタリア)で使われている公用文字は、時折賢者に教えてもらっていた。


その甲斐もあり、少しは文字が読めるようになっていたルル。

目的の項目を探すため、頁をぱらぱらとめくるが――


前回は大して気にならなかったが、読み進めていくと感心する。


「はえー……めっちゃ細かいこと記載しとるのー……これ書いた人誰?

 って当たり前じゃけどメーちゃんか。 すっげぇマメな性格じゃのー……」


魔力回復薬の項目を見開き、しっかりと文字と絵を確認する。

本を見ながら、必要な道具を机へと広げる。


間違いが起きないように何度も目視で確認し、本を立てかけ作業開始。


手始めに、マナリーフの葉――

説明すれば長くなるが、要するに貴重品であるデカイ葉っぱ。


この葉を魔法で水分を抜いて乾燥させ、すり鉢に入れて粉々にする。

粉々にしたソレと、ルナフラワーの花弁を小鍋に入れて煮沸するまで待つ。


沸騰しすぎると良くないとの記載があり、湯の温度を調節。

色みが出るまでしばらく小鍋は放置し、その間に別の材料を用意する。


次に取り出したるは――ココリーの樹の実。

食用には向かないその実の殻を割り、中身の紅い種を潰し果汁を絞り出す。


果汁にセレスの樹液を一滴ほど加えて、とにかく練りまくる。

腕に疲労を感じる程練りあげ、粘度が出たところで煮汁を少し加える。


様子を見ながら徐々に煮汁を加え――後はこれを撹拌し、冷ませば完成らしい。


(あとは――この色になるまで混ぜたら完成じゃね……ふんふん。)


文字をじっくり見つめ意識が散漫気味になり、ルルは気が付かなかった――


無意識のうちに匙を持つ手に魔力が込められ、その状態で撹拌作業を行った。


マナリーフ……通称“精霊樹”と呼ばれる、西の大森林(ヴィドステラー)に存在する、樹木の葉。


その性質は、人族の持つ『霊氣(アニマ)』やエルフやドワーフの『マナ』――

はたまた魔族の有する『魔力』にまで反応を示す特性をもったモノ。


マナリーフとルルの持つ魔力が悪魔合体をしてしまい――

中身の薬液は密かに変質していっているが、ルルはそんなこと知らない。


彼女は完全に『やりきった!』と信じ込み、作り上げた薬を掲げた。


「っしゃーーー!! 手順ぶち大変だったーー! あの樹の実……。

 一生割れんかと思った……死ぬるかぁ思うたわ!! ふへへ!!」


出来上がった薬液を空き瓶に注ぎ、懐に忍ばせ余った薬液は毒見。

『グビグビ』と喉を鳴らし、薬液を体内へと注ぎ込むルル。


「おおーー! すっげぇー! まじで回復しとる感じする!!

 あたしったら天才かもわからーーんっ!」


「……いや、これ作り方確立させたメーちゃんがヤバいわ。 うん。

 あとでメーちゃんにたーーっぷりお礼言っとこーーっと!」


無表情ながらも、彼女の紅い瞳は輝いていた。

彼女の胸中では、小さなルルたちが小躍りの宴を催すほどの感動。


作り終えた後、使った道具はきちんと清掃し、薬草園から離れるルル。


広間へと直行し、扉を開け放つと、左目を眼帯で覆ったアメトの姿。

バスローブ姿、髪もまだほんのりと乾いていない様子の彼。


一刻も早く褒めてもらいたかったルルは、アメトの側へ駆け出す。


「随分と戻るのが早かったケド、ちゃんと作れたのカナ?

 魔力回復薬を作りに行くって言ってたケド、本当に作ったのカナ……。」


彼女に目線を合わせるためか、屈んでくれてはいるが――

彼は完全にルルのことを信用していないのか、目元がどこかぎこちない。


「はぁ~もー!あたしどんだけ信用されてないんよ! ほれみんさいや!

 これ! あたしが作ったんよ! あたしヤればデキるんじゃけ!」


『チャポチャポ』と音を立て、先ほど作ったソレを見せびらかすルル。


「あたしが作った初の魔力回復薬!!結構美味しくできたし!あたし天才!」


無表情であるはずのルルの顔……だが、やけに声は弾み元気いっぱい。

薬瓶をアメトへと差し出し、得意げに鼻を鳴らすルル。


「あの材料で美味しくなる要素ってあったっけ? キミ、ナニ作ったの?

 まぁ仮に毒薬だったとしても、魔族の血が濃いボクには毒の効果無いケド。」


半魔の彼(アメト)は小人族(ルル)から薬瓶を受け取り、そのまま一気に嚥下したが――

どういうわけなのか……彼の身体はみるみるうちに縮み上がっていった。


視界が歪んでいるのかふらつき、手に床をつくアメト。


「……んッ……? な、なぁにこれ……。 視界が……低い。」


ふらりと立ち上がるが、彼は子どものような姿へ変貌を遂げた。

現在の彼の身長は、おおよそセラ程度しかない。


いつもの姿を大人アメトと仮定するのであれば、現在の彼は完全に少年。

年齢感はおおよそ十代前半ほどの、あどけない姿。


驚愕の眼差しで、姿が変わってしまった彼を凝視するルル。

次いで――何が起こったのか理解できず、彼の身体にぺたぺたと触れ回る。


「え?なんこれ? これマ? 嘘じゃろ? あたし毒見ちゃんとしたよ?

 あたし何を作ったん? あたし……もしかして超ヤバい天才……?」


無表情でアメトの身体を触れて回るルル――彼は……フリーズしていた。

一体全体、自身の身に何が起こったのか理解することができず、硬直。


一同がこの光景を目撃するのは、もう少し先である。






ひとくちメモ:ルルの見ていたレシピ頁はこんな感じです。


挿絵(By みてみん)

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