表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その【聖女】転生者につき。  作者: すんころ餅
聖女と勇者と加護
12/13

思い出とは尊いもので



胡散臭い青年が立ち去った後、急いでセラのもとへと駆け寄るノア。

心配そうに見つめる表情ではあったが、その瞳の奥は少し揺らいでいた。


眼の前で起こった、あまりにも並外れた、聖女セラの浄化の力。

その強大な力を前にして、不安そうに瞳を細め、彼女をそっと抱きかかえる。


(【聖女】…よく分かっていなかったけれど、彼女の力はいったい…)

(一瞬で、何もかも、あの泥も、石も、全部清めるだなんて…――神々の寵愛、かぁ…)


ともかくだ、摩耗してしまった彼女を、放って置くわけにはいかない。


「無理をさせてごめんね【聖女】セラフィーナさん…」


周辺の浄化された草原には静寂と、浄化の余韻である虹色の粒子を残し――

一同は再び村へと足を向け、不安を抱えつつも戻っていった。


ひとまず、村へと帰還を果たした一同。

帰還すると同時に小さな影が跳ね、ノアの元に纏わりついた。


森からずっとついてきた、あの謎の捻れた角の毛玉生物だ、名前はまだない。


相も変わらずノアの肩に乗ると「キュッ!」と小さく、嬉しそうに鳴いた。

パルテオンはなんとも言えない表情で、その生物を見つめ、ルルはジト目を向けていた。


村長が勇者たちに気がつくと、気絶しているセラを見つめ、何事かと目を見開いた。


「それでええと……何があったか、お聞かせいただいても…?

 ああでもその前に、聖女様を休ませて頂く方が先決、ですかね…」


「そうですね…宿は、ありますか? できれば彼女を寝かせてあげたくて…」


村長はにこやかに微笑み、ノアに宿の場所を伝えるとノア達は宿へと向かった。

セラを寝台に寝かせてやり、錫杖を立てかけ、丁寧に布団を掛ける。


毛玉生物とセラを見守るため、ルルは宿で留守番。


ノア、パルテオンの二人は別行動という名の、報告をしに宿の外へ。


彼らは村長に事の顛末を伝えるために、宿を後にした。


村長に今度こそ脅威が去った事と、異変の元凶である黒い瘴気を纏う石の事を報告。

もしまた目撃情報があれば、伝書魔鳥便にて知らせてほしい事を伝えた。


報告を受けた村長は、ノアとパルテオンに深く詫び、丁寧に頭を下げる。


「異変を解決して頂き、ありがとうございます…! して、この村なのですが――

 近くの街にしか、馬車が通っておりませぬゆえに…

 ですので、次の馬車が来るまで、どうぞ村に滞在してくれなされ。」


「ありがとうございますっ! ではお言葉に甘えて、滞在させてもらいますねっ!」


そう村長に告げたは良いものの、ノアは特にやることが無かった。

昼下がりの陽光が村を照らし、気の向くままに足を運ぶノア。


無意識に足が動いてしまった場所、その場所とは――何の変哲もない、畑。


(僕…ちょっと前まで、農民のはずだったのになあ、ここの人たちと、何の変わりもない。)


懐かしく思い、何気なく畑の土を手で掬い、土の香りを味わう。

そんな様子をパルテオンが軽鎧の音を響かせて、ノアの近くまで歩み寄る。


「――ねえ、パル。 なんだかさ、なつかしくなあい? 畑。」


パルテオンはノアの側まで歩き、ノアと同じく畑の土を触る。

「ハハハッ!」と豪快に笑うと、言葉を続けた。


「ノアが言ってんのは、あれだろ! 俺とノアが初めて出会ったときの事だろッ?」


「そうだよー。 覚えてくれてたんだねパル、ふふっ あの時さ――」


気がつけば、口角は自然と持ち上げられ、ふわりと柔らかく微笑みが零れる。

二人の“最初の出会い”の記憶が蘇った。


◇ ◇ ◇


時は十年ほど前まで、遡る――


まだ小さな淡い金色の髪色をした少年が、畑で土を弄くり回し、無邪気に遊ぶ。

そんなのどかな畑の道を、大きな盾を背負った騎士が歩いていた。


少年は盾の輝きに思わず目を奪われ、土いじりをやめ、衝動で駆け出す。

甲冑を身を纏った立派な大盾を背負った騎士に、無邪気に話しかける少年。


「かっこいい!!おにぃちゃん!でっかい!すっごい!!

 ねぇーえ! かっこいい、大きい盾のおにぃちゃん! 僕と畑であそんで!」


「は、畑で遊ぶのか? おう、いいぜ! なんでも掛かってこいッ!」


騎士の表情は困惑も混じっていたが、所詮は子供のままごとだと、割り切る。


「ガハハ!」と豪快に笑い、小さな少年の手に引かれやってきた場所――

その場所はまごうことなき、立派な畑であり、まだ整備途中らしい。


「ここでね!あそぶの!! いいでしょ!! 土のいいかおりー」


少年の美しい碧灰(シエルグレイ)の純粋無垢な瞳が、騎士を捉えて離さない。

騎士は困り顔で、困惑の割合が多くなった表情を浮かべながら、少年に尋ねる。


「こりゃ、どうやって遊ぶんだ…? 転がるのはちげえしなぁ…

 なぁ、兄ちゃんはどうすりゃいいんだ?」


「えぇーっとね、これ、これをもって!!」


少年は無邪気で清らかな笑顔で騎士に渡した農具、そう、鍬である。


「おいおい、こりゃ…鍬じゃねぇかよ… これで畑を耕せって――」


騎士が何か言う前に、少年はもう身体を動かしていた。


両腕で鍬をがしりと持ちあげ――振り下げる動作を繰り返す。

どこからどう見ても完璧で、それでいて丁寧に、華麗な腕捌きで畑を耕していく。


甲冑姿の大盾の騎士は、しばらく黙ってその光景を眺めていたが――

やがて苦笑まじりに大盾を地面に立てかけ、籠手を外し、鍬を持ち上げる。


「ったく、俺鍬なんざ握ったことねぇぞ… こうやって動かすんか…?」


そうぼやきつつ少年の隣で、ぶっきらぼうに土を耕し始める騎士。


「えへへ! おにぃちゃんおじょうず! こうやってね!土いじめるの!

 そうしたらね、土が良くなるの! 良くなった土は、お野菜さんのおねんねにいいの!

 だからね!たくさんいじめて、お野菜さんのために、いーーっぱい、がんばるんだよ!」


「ガッハッハ!なるほど!土をいじめるったぁすげぇなぁ!

 じゃあ俺も、その“お野菜さん”の為に、全身全霊を掛けて、頑張るぞッ!」


少年と騎士、二人に接点はないがこうして畑を耕す姿は妙に様になった。

やがて騎士は疲れからか「ふぅ」と一息つくと、少年の隣にやってくる。


「なぁ、おめぇさんよぉ、変わってるって言われねぇか?」


騎士は耕すのを辞め、鍬を手に持ちながらも少年に語りかける。

少年は疲れていないのか、一心不乱に畑を耕す身体を止めずに、騎士に言葉を返す。


「僕ね“おめぇ”ってお名前じゃないよ! 僕の名前はノア!

 おにぃちゃんは、もう疲れちゃったの? ごめんねぇ」


あどけなく朗らかに笑う少年のノア、その笑顔は太陽のように暖かい。

騎士は胸の奥にふわりと爽やかな風が通り抜けるような感覚になり、微笑む。


「ガッハッハ!デカイ兄ちゃんの名前はな、パルテオンだ!

 すげぇ盛大な名前してんだろ! ハッハッハ!」


「ぱるておん! すっごくかっこいいお名前! 見た目だけじゃなくって

 おなまえも、きんにくも、とってもかっこいい! えへへぇっ」


茶色い土だらけの畑の中で、小さく笑い合う騎士(パルテオン)少年(ノア)

その穏やかな時間は、騎士の心に確かに刻まれていた。


それが、十年前に起こった、二人の畑での出会いで、思い出だった。


◇ ◇ ◇


思い出話に花を咲かせ、二人は笑いながら語り合った。


いつのまにか陽光は落ちかけており、夕暮れ時の涼しい風が二人を撫でる。

茜色の空の下で、畑の土はまだ陽光の明かりに照らされた余韻を残していた。


ノアは静かに目を細め、茜色に染まりつつある空を見上げる。


「あの時、出会っていなかったら、今こうして一緒に旅をしていなかったよねぇ…

 改めて、僕が選定の虹剣(聖剣)さんに選ばれた時に、パルがついてきてくれるって――

 そう言ってくれたこと、とっても感謝してるんだよ?」


パルテオンは豪快さを抑え、照れくさそうに「っへ」と喉を鳴らす。

ノアと同じ方向に目を向け、彼もまた空に目を落としながら言葉を返した。


「あんときのちっこかった少年がよぉ…こんな立派になりやがって。

 俺はもうオッサンになっちまったしよ、ヘヘッ、感慨深いつーもんよな、本当によ。」


「んでもよぉ…久々に会ったときゃホント――」


日が沈むまで二人は話し込み、これまでの思い出を語らう。

やがて陽が落ち、空には星空がちらほらと見え始める頃合い。


ようやっと二人は宿へと足を向け、二人で歩幅を合わせ歩みだす。

陽光が落ちたことにより、村の家々には明かりが灯り、優しく二人を照らしていた。


そうして、ルルとセラ、毛玉が待つ宿へと戻ってきた勇者(ノア)騎士(パルテオン)

二人が戻り、全員が集まった事で、従業員が声を掛ける。


「本日はこのような宿にお泊り頂いて、ありがとうございますっ!

 ささやかではありますが、食事の席を儲けておりますんで!よかったらどうぞ!」


気絶していたセラだったが、既に意識を取り戻したようで、食事場に腰を掛けていた。

ルルが毛玉の生物を撫でつつ「遅かったなー」と一言声を掛けた。


食事場は従業員の計らいで、彼らだけの貸切状態となっていた。


ランタンの光に照らされる、テーブルに並べられた料理たち。


煮込み料理や、肉料理、焼き立てのパンが並び――

どれも美味しそうな湯気を上げ、その香ばしい香りに、思わず唾液が溢れる。


「わぁ!どれもすごく美味しそうだねぇ! というか、この子、ずっといるねぇ…?」


「もうキューちゃんで良くねぇか、コイツの名前よ…泣き声が“キュ”だし…」


ルルの一声で、毛玉の生物は「キュー」と名付けられてしまった。


謎毛玉生物(キューちゃん)はというと、たいへん嬉しそうに跳ね回り――

セラの胸元へ潜り込むように、顔を埋め、小さく「キュ!」と鳴いた。


「な、なんだか、私が気絶している間に、一緒に寝てたみたいで…

 気がついたら私にも懐いてくださるようになりました…か、可愛いですね…」


和やかな雰囲気で食事を囲み、四人であれこれと話しながら、食指を進める。

パルテオンが肉料理に舌鼓を打ち、ルルがパンにスープを付け咀嚼。


ゆるりと流れる、穏やかで優しい時間に、これまでの戦いをほんの少し、忘れさせた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ