第6話
これで完結です!
「ふぅぅ、やっと脱げた。肩こったなぁ……」
「……」
「でもまあ、そのおかげで暗殺は防げたし、侯爵にはちゃんと罪の償いもさせられるし、良い事尽くめで終われたパーティだったよな」
「…………」
「最後に寝っ転がったまま顔を出したのは笑い話だったけどな、あはははっ」
「………………」
「ん、どうしたイル。さっきから何にもしゃべらないけど、腹でも痛いのか?」
「キミ、本当は最後まで顔を出さないつもりだったね?」
「ん~? どうだったかな~?」
「僕がしゃべった内容、ほとんどすべてキミが蔵書から引っ張ってきたことばかりなんだよ? あの『時間解しの雫』だって、ケイレンサン国に伝手を持ってたキミの家が手配して手に入れたものだし、ましてや魅了魔法の完成方法と反発するなんて超レアな情報、キミ以外の誰が知ってるって言うのさっ!」
「あ~、落ち着けイル。どうどう」
「僕は馬じゃないぃぃっっ!!」
いや、鼻の孔おっぴろげてフーフー言ってるイル、馬に近いけど?
「今回はバレちまったけど、オレが出ても良い事ないんだよ」
「セシル?」
「オレんところ、外交を担当してるけどさ。もうひとつ役割があるってこと、イルは知ってるか?」
「役割……もしかして、貴族の監査役、か?」
「王族だからな、知ってて当然か。貴族の不行跡や賄賂脱税、もっと言うなら他国への情報漏洩に目を光らせる役目を持ってるんだ」
「だ、だけど、そういった話の時に出てくるのは財務長官や警務長官じゃないのか?」
「公にはそうなんだけど、うちはその前段階の情報収集・証拠集めをやってる。外交だからね、どこをウロチョロしてても問題にならないからうってつけなんだ。サイス兄は武闘系の方から、シリク兄は内政の方から食い込めるし」
うん、うちの兄貴たちは優秀なんだよ、本当に。チートかと思うほどにね。
「どうもうちの役割に気が付いてる貴族がさ、何とかしてやろうと文句をつけてくるんだよ。しかもそいつら、隣国の貴族とつるんでるらしくって、いろいろ火種の元になりかねないんだ。兄上たちも判ってるから証拠を抑えにかかってるんだけど、致命的に時間が足りなくてね。今のところ何の権限も持たないオレは、動くことも目立つこともできない状態にある」
「……」
「ま、そういう訳でさ。王子様のイルとは所詮合わない…」
「なら、裏方であればいいんだねセシルは」
オレの言葉を遮って、いやに晴れ晴れと確認するイル。
「外交で成果をあげたい訳でも、英雄になりたい訳でもないんだね?」
「あ? ああ、そうだ、な?」
「国を興したい訳でも、もちろん王位を乗っ取りたい訳でもないんだね?」
「ちょ、ちょっと待て、なんだその理由は! 反乱起こす前提か!?」
内容がどんどん物騒になっていくけど、大丈夫か!?
逆にイルは全開の笑顔。さっきまでのしかめっ面はどこへ行ったんだ?
「なら大丈夫、僕に任せてよ! いい考えがあるからさ!」
「そぉかぁ? なんか嫌な予感がするんだけど……」
「あはははっ、気のせいだよ! それじゃまた、セシル!」
「お、おう、またな……?」
大丈夫か、イルは? なんかおかしなテンションだったが……
あいつの『任せて』に、すンごい不安感があるんだが。寒気までしてきたぞ?
……帰って寝るか。
この時、しっかり問い詰めなかったことをオレは後悔することになる。
一週間後。
オレは父ルシアード公爵の前で固まっていた。
「父上、この召喚状は何ですか?」
オレの両脇にはサイス兄、シリク兄が居て、対面に父公爵。
書斎のテーブルにあるのは一枚の紙。
あれ? なんかデジャブ?
違うのは父公爵が満面の笑顔でいることかな。
「先日の王太子殿下を狙った事件で、陛下がいたくお慶びでな。特に、第二王子が黒幕を糾弾して場を収められた裏に我が家が関わっておったとの報告に、ならば褒美を下したいと仰せられたんだ」
「それなら、父上が受け取ってくれば済むことです。その受け渡しの場にセシルを同席させる理由をおたずねしているのですが」
怖い、怖いよシリク兄。冷気がダダ洩れしてる。
「第一、大元は隣国からの干渉です。そちらの対処をする前から浮かれてどうするつもりですか」
「抗議文を出したとは聞いてますが、その程度で終わらせるつもりではないでしょうな、わが国は」
おお、珍しくサイス兄も激おこ状態だ。
「そもそもハニトラを仕掛けてくるような国に遠慮など不要だ。今からでも国境へ行ってしばき倒してくれる」
ファイサスの実の搬出元が隣国の宰相傘下である商会だと判明してから、サイス兄はこの状態だ。毎日の鍛錬の時間が微妙に増えている、らしい。お付きの侍従が顔色を悪くして教えてくれた。
「待て待て二人とも。そう短慮なことをするでない。あちらへの対応は儂と宰相で協議を始めておる。ジラルドとて面白くないからな、手加減など考えておらん」
ジラルド・ルビナシス。腹黒宰相が手加減無しって……隣国、どうなっちゃうんだ?
「ならばこの召喚状、ますますおかしいではありませんか」
シリク兄、よっぽど気になるんだな。オレも意味わかんねぇ。
「これは第二王子からの要請だな。いや、あの時は驚いたぞ」
父上が驚くって、いったい何事。
「陛下と儂とジラルドが隣国への対応で話し合っておった場にいきなり入って来て、
『セシルを僕にください!!』
と、大声で叫ばれてな」
「「「はあぁ!?」」」
「儂はすぐにわかったが、陛下とジラルドは勘違いして。『どこのご令嬢だぁぁっ!!』と、混乱しておった」
いや、あれは見物だった、と笑っているが。
「はあぁ、やっぱり目を付けられましたか」
シリク兄、何すか、そのため息は。
「見る目があれば、セシルを離さないと思ったんですよ。だから外に出したくなかったのに……」
常々思うんだけど、シリク兄はオレを買いかぶりすぎです。
「懸案事項のひとつを片付けるのにちょうどいいと思ってな、それを呑むことにした」
父上ぇ?
「明日、儂と一緒に王宮に行く。わかったなセシル」
「……はい」
ルシアード公爵家として受けたのなら、オレにはどうにもできない。
でも、でもだな。
何してくれちゃってんの、イルぅ!?
で、今ココ、謁見の間。
正面に国王陛下と王妃殿下。両脇に第一王子と第二王子。
更に壁際に宰相、騎士団長、魔術師団長と騎士たちがぎっしり。
こちらには父上とオレだけ。すンごい威圧感なんだけどぉっ!?
「ヘンドリック・ルシアードと我が第3子セイスリック・ルシアード。お召しにより参上仕りました」
「よい。楽にせよ。それと、もう少し前へ」
「「はっ」」
「此度の騒動、うまく収めることができたのはそちたちの働きによるものである。礼を言う。本当によくやってくれた」
「はっ、もったいないお言葉にございます」
「特に、セイスリック・ルシアード。其方にはブライアンのみならずイリアードまでも世話になったという。王子二人を失うことなく居られるのはそちの働きがあってのこと。心から感謝する」
「は、ははっ。重ねてお言葉を賜り、恐悦至極で、ございます」
な、何なの、この展開っ。胃が、胃が捩れるうぅぅぅ。
「此度の働きに対し、褒賞を授ける。ルシアード公爵、ヘラルディオス領を統治せよ」
「はっ、ありがたき幸せにございます」
うわぉ、ヘラルディオス領って、ミスリルを産出する鉱山があるとこだよな。あそこは王家直轄なんだけど、そこをもらえるって事は、我が家、すっごい信頼されたんだ~。
「セイスリック・ルシアードには、王家の蔵書室へ出入りする資格を与えよう。後ほど文官からその際の証明具を届けさせる」
「はいっ、望外な褒賞を賜り、感謝に耐えませんっ!」
あ、いけね。あまりの嬉しさに声が跳ね上がっちまった。
ま、まあ、顔をあげてないからセーフ、かな?
「ふっ、喜んでもらえて何よりだ」
陛下には好感を持たれたようだけど。
「それと、イリアードの側近としてこれから務めてほしい。公爵の了解は得てあるが、本人にも確認したい。どうかな?」
そっ、側近ンン!? オレがあぁぁっ!?
ちらりと見るとイルが全開の笑顔でこっちを見てる。おま、これはやりすぎだろう?
父上が了解しているなら、オレに反対できる訳がない!
「は、まだ未熟ではありますが、承りましてございます……」
言葉遣いが一部おかしくなったが、見逃してほしい。うん、切に。
その後、別室でイルにしがみつかれたまま、側近の仕事を引き継がれたり。
王太子殿下のそばに居た宰相子息やら騎士団長子息と挨拶したり。
その子息たちもまとめてオレが面倒見ることになったり。
オレの回りが急に騒がしくなってしまったのは、イル、お前の所為だろ!?
一体、何がどーしてこうなったぁぁっ!?
文中の「懸案事項」は、婚約破棄騒動に関わった王太子殿下の側近候補の扱いです。
見事、セシルに押し付けられました(笑)
説明不足ではありますが、今回の主目的が達成できたので区切りとします。
読んでいただき、感謝しかありません。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。




