第5話
黒幕の正体がわかります。
「お集りの皆様、お騒がせして申し訳ありませんでした。すべては私、イリアード・フォン・シュラインの独断で行ったものです。皆様にはお詫びに、これを。今、メイドに配らせていますグラスをお取りください」
おお、なかなかいいぞ。結構堂々としてるじゃないか。
おや、着替えに動き出していた王太子殿下一行も足を止めて見てる。グラスを持ったからそのままとどまってくれるみたいだ。よ~しよし、目撃者は多いほどいいからな。
「これは寿命が延び、女性の肌が麗しくなると言われる、ケイレンサン国の20年物のワインです。全員にいきわたりましたか? では、皆様の健康を祝して、乾杯!」
どよめきと共に、一斉にグラスが傾き飲み干される。いいぞいいぞ、狙い通りだ!
「まあぁ、お肌がすべすべになってきましたわ!」
「本当に! 奥様、その首筋、きれいになって来ましてよ!」
「あら、貴方こそ目元がふっくらとして見違えましたわ!」
「お! おぬし、生え際がふさふさに戻ったではないか!」
「うむ! 体に元気がみなぎってきてな、この通りよ!」
「わっはっは! この張りこの盛り上がり! 腕の力がすごいだろうが!」
「おお、またあの頃のように一戦やらかすか?」
「フっ、望むところだ!」
あちこちで往年の輝きを取り戻した方々がワイワイと騒いでいる。
一方、若い世代だと。
「ね、ねえ、わたくしの顔、つるつるになって来てますわ!」
「本当に! 私の髪の毛もサラッサラですの! この間、避暑で行った潮風でゴワゴワだったのが戻りましたわ~!」
「おいっ、先日の試合で受けた傷がきれいに治ったぞ!」
「ああ、俺もウインドアローで作ったあざがきれいさっぱり消えたんだ!」
「体調が悪かったのがすっきりしてきた!」
「わ、私の眼、なんだかいつもよりきれいに見えるんですが…?」
「お前、勉強のし過ぎで目の周りに隈作ってたろ。消えてるぜ」
うんうん、若いからって過信は良くないよね。
でも、違うんだ。今回の、オレの目標は…!
「くうっっ………!」
やったぜ!! イル、成功だっ!!
「ガルヴァンシア侯爵、いかがなさったので?」
イルが素知らぬ風で歩み寄る。
「イリア……ード、王子。な、にを、しかけ、た?」
異変に気付いた周りが一斉に後ずさったな。ズザザザアーっていう効果音付きで。
うん、あれは怖い。土気色の顔で赤い斑点が出てる。ちょっと見は病気を疑っちゃうな。
そこへ近づくイル。周りが止めようとしてるけど大丈夫。うつらないし、そもそも病気じゃないから。
「やはり、貴方が大元か。痕跡も証拠もきれいさっぱり消していたけれど、無駄だったね」
「な、なん、の、ことか。おかし、な、言いがかり、を」
「このワインは、別名『時間解しの雫』とも呼ばれているんだ。時間の流れを緩やかにして、個人の望む機能を巻き戻す。身体の調子を整え、最高の状態へと持ち上げる、とね。それは特に後遺症もなく一週間くらい持続する。……ただし!」
そこまで説明して口調を変える。イル、役者やのう。
「ひとつだけ合わないモノがあるってことは知られていない。ワインの中に含まれる魔法成分と過剰に反応するからと言われるけれど、ただ単に相性が悪いのかもしれない。調べようがないせいもあるが」
「しらべ、ようが…ない?」
「人体では拒否反応がきつくて、命にかかわる。今の貴方のようにね」
おお、周りがざわざわと。ははっ、いい反応だ。
「その合わないモノは、ファイネスの実だ。覚えがあるだろ?」
「…………」
「ない、と言っても、その状態で言い逃れは不可能だ。現に、この中の誰も反応していない」
「ブラ、イ、アン…おう、じは…」
「魅了魔法は今さっき解除した。消臭も一緒にね。魔法の素のチェリー嬢には退場願っているし、そのほかの令息も解除した。今、この場で引っ掛かるとしたら、ファイネスの実を使った魅了魔法を組んだ人間しかいないんだ」
「っ!そ、それ、は!」
「魅了魔法って、最終目標の人間の名前をその魔法陣に触れて書き込まないといけないんだってね。しかも、それを望む者がやらないと効果がないらしい。最初はチェリー嬢がそうなのかと思ったけど、彼女はあまりにも節操がなくてね。魅了魔法の本領はただ一人に絞らなければならない。彼女にそう教えなかったのかい?」
「あのこ、は、ハー、レム、が、の、ぞ、み」
「そうか。で、貴方は? 王権の簒奪かな?」
「!!……くっ」
「あなたの三代前は王族の、しかも第一王子だった。順当に行けば王になっていたはずが、今は数ある侯爵家のひとつ。不満だったかもしれない。だが、それは逆恨みだ。あの時の第一王子がやったことに、何の同情の余地もない。むしろ、残してしまったことが今日の日に結び付いてしまった」
「貴、様に、言われ、る、筋合い、は、………うっ、がはっ!」
あ~あ、とうとう身体の芯に届いてしまったか。ああなると、もう完治は無理なんだが……イル、相当頭に来てたみたいだ。簡単に死なせるつもり、無いな?
「スペンサー・ガルヴァンシア侯爵。シュライン王国王太子殿下を害する目的で魅了魔法を行使した罪は何よりも重く見逃すことはできない。追って沙汰を言い渡されるだろう。それまでは牢の中で罪の重みに耐えているがよい。衛兵! 直ちに拘束し、地下の貴人牢へと連行せよ!」
おーっし、やり切った! イル、偉いぞ!
マントを掛けられてその上から拘束された侯爵が、会場から引きずり出されていく。その様子を見ていたら、衛兵のひとりがこっそりと剣を抜いているのに気が付いた。しかも! その剣が普通のじゃない、暗殺者御用達の延髄切り専用の細剣だってことは、口封じに決まってる!
マズいマズい、とんでもなくマズいじゃん!!
イルに声を掛けようにも、一仕事を終えた後で自分に酔ってるし、声も届かない。たとえ届いたとしても、行動を起こした時点でアウト!だ。
よ~し、こうなったら!
目の前を通過しながら隠れて侯爵の命を絶とうとする衛兵目掛けて、思いっきり、
どーーーん!!
「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」
(おっし、圧し潰してやったぞ! これで侯爵は大丈夫だし、衛兵は気絶してるし、万々歳だ!!)
「あ~、セシル? キミ何してるの、かな?」
(聞きたいんだったらオレを起こしてくれよ! これ、独りで脱げないって言っただろぉ!?)
「だったら作り物の柱に入ってるんじゃないっ!!」
(え~? 怒るところはそこかぁ?)
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