第42話 ドワーフ洞窟へ「ドワーフの商売人①」
好奇心旺盛で排他的。
個性を重んじ、協調を強制する。
平等を夢見、特別を願う。
人間は、感情が豊かで実に面白い。
ドワーフの自治領まで、あとわずか。
この辺りでは、一番大きな町で一休みとなった。
ドワーフ達が採掘した鉱石で潤った豊かな町。
商人たちの護衛だろう、傭兵も多く散見される。
レンガで舗装された通りを、人混みの中、ゆっくりと荷馬車が進む。
御者が往来人に道を譲れと必死に叫ぶ。いく人かは避け、大多数は素知らぬ顔で、連れとの会話に夢中。
荷台から、果物の甘い香りがただよう。
乾燥した空気が爽やかな風となって汗を拭き、心地よい気分になる。
子供たちが、奇声を上げながら、人混みを上手に避けて、駆け抜けた。
町は、とても賑やかで騒がしい。
夏至祭の真っ最中。
通りには人があふれ、商店から売り子が出て、必死で笑顔をばらまいている。
はなやかな管楽器の音色。
打楽器がリズムを刻む。
不思議と足が軽くなった。
ククルやリズが、立ち止まる。
彼女たちは、いつのまにか意気投合したようで、最近は仲が良い。
曲の発信源、通りの広くなった一角で、人々が踊る。
社交ダンスとは違い、元気の良い庶民的な踊り。男女ペアーで繰り広げられるそれは、見ていてとても気持ち良い。
二人は、曲のリズム合わせ、つま先を動かしはじめた。隊員たちの何人かは、肩を組み、身体を揺らし、笑っている。
「ねえ、踊りましょう」
ククルが手を伸ばしてきた。
その無邪気な誘いに戸惑ってしまう。
踊りなんて軍隊の教本になかった。
前世でそんな経験も、もちろんない。
「大丈夫よ、わたしに任せて」
強い日差しで顔が熱くなる。
彼女の銀髪がキラキラと輝いた。
彼女の笑顔に負け、仕方なく手を取った。
ふと、以前、手を取ろうとして、痛みを感じたことを思い出した。
大抵の魔法は、俺には通じない。
魔法に対する絶対耐性みたいな感じだ。
大抵は、我慢すれば、大丈夫だし、我慢できる。
身体だって丈夫。
剣撃で苦戦したのは、殲滅された町で出会った帝国の騎士ぐらい……。
それと、湖畔で死人に襲われた際、身体を光らせたククルから、感じた痛みは、痛烈だった。
俺は、情けない男だ。
だって、彼女の手は、柔らかい優しさで俺を踊らせる。
「ねえ、大丈夫でしょ」
生意気な彼女を抱き寄せたところで、ちょうど曲が終わった。
見物人からの拍手の中、ペアー同士の男女がお辞儀をする。
その場に残り、次を待つペアー、そして、
「隊長、酒場に行きましょう」
と気の利かないゴリラが割って入ってくるペアーなど様々だ。
「どっか、心あたりでもあるのか?」
無いと知ってきく、俺は、とても意地悪。
この辺りは、お互いに来たことがない知らない土地だった。
トルンは、俺の胸を拳で突いた。
彼は、怒っているわけではない。
くそっ!
「地理を把握するのは得意なんだぜ。よい酒場の見当ぐらいついてます」
ドヤ顔のゴリラ、ムカつく!
夜の遊び場だけは詳しい営業マンみたいだよな!
「隊長、いい加減、握った手をはなして解放してあげてください」
言われなくても、ククルから手は、はなすよ!
「顔が赤いですよ」
「踊ったから暑いだけだ!」
ゴリラは、馬鹿力で俺の背中を強く叩いた。
こう人が多いと、店に入るのも一苦労しそうだ。
しかし、ゴリラ顔のコミュニケーション能力は高いようで、飲み屋の親父とすぐに意気投合し、俺たち大所帯の席確保に成功した。
「オラァ! 旦那たち、一杯目は、店のおごりだ!」
絵に描いたようなゴリゴリマッチョな脳筋親父が、ゴンゴンとジョッキを置いていく。
「あんた! 丁寧に置かないと、こぼれてるじゃない!」
女将さんも、割腹が良く、人が良さそう。
頼んでない料理が、次々と運ばれてくる。
この世界では、前払いが原則。
あとで精算なんてありえない。
「こら、おまえ、いくら払ったんだ!」
「へへへ、大丈夫ですよ」
空のジョッキを片手に、トルンは、指を一本たてた。
銅貨、いや銀貨……。
まさか、金貨はないだろう。
「この店で一番高い酒でも、なんでも、旦那たちは、飲み放題だ!」
マッチョ親父が、ジョッキが空くと、すぐに酒を持ってくる。
やりやがった、あのゴリラ!
金の力で、席を買ったな!!
ガンガン酒を持ってくるマッチョ親父は、安酒で、俺たちを潰す気だ!
どれが高い酒だ。
銘柄がよく分からん。
こうなったら料理を食うべし!
デカイ肉に標的を定める。
フォークは空振りし、器を突いた。
くそーー!
あの、のじゃ幼女め!
ライラは、頬を目一杯膨らませてモグモグしている。
なら、そこ!
また、空振りだ!
流石、古神龍の化身、ロリッてもドラゴン、食い意地が張っている。
見かねたククルとリズが、取り皿に料理を分けてくれた。
料理を取れる彼女たちが羨ましい。
まさに、戦場。
一つのテーブルを人外たちが囲み、料理を取り合う。
ある者は、恵まれた身体能力を活かし、またある者は、知恵を巡らし、料理を狙う。
そんな、猛者たちでも、ククルとリズの氷の微笑には恐れを為して、料理を譲る。
突然、戦場の料理が宙に舞う。
同時に、酒がこぼれ、食器が割れた。
修羅場によそ者が飛び込んできた。
知らない青年が、テーブルに横たわっている。
唇を切ったのか、血が滲み、顔が腫れていた。
そばで喧嘩があったようだ。
傭兵たちが、こっちにやってくる。
「どけ! あんたら、邪魔だ! 俺たちは、その男に用がある!」
どっちが悪いが知らないが、喧嘩は他所でやってくれ!
それと、
「ライラ、落ち着け!」
ガルルルと唸りはじめた幼女を注意した。
彼女には、すぐにブレスを吐きたがる悪い癖がある。連射なんて教えるじゃなかった!
ゴリラがジョッキを投げつけた!
「おいおい、あんたら、何をしてくれてるんだ!」
皆が、続いて席から立ち上がる。
リズはわかる、兵士だから。
メイド服を着てるけど……。
でも、ククルさん?
彼女は、これでもかというぐらのい笑顔で冷静を装う。でも、それが怖い。
これは、死人が出そうだ。
みんなハウス、そう叫びたい!




