第41話 ドワーフの洞窟へ「湖畔の守護者⑦」
「少しは、話を聞いて下さい」
偽神父が四つん這いになりながら、ゼーハー、ゼーハーと肩で息をしている。
動いてないくせに、頑張った感を出してるのが、ムカつく!
「ちょっ、ちょっ、話を、良い話ですから!」
偽神父の慌てぶりに、手を緩める。
少し話を、聞いても損はないだろう。
死人の件とか、そういえば、世界の創造主という大言も吐いてたし……。
「姉妹を……あなた達も解放……」
「ん?」
よく聞き取れなかった。
「まったく、悪魔の話は聞くものです。いいですか、あなた方の望み通りに、姉妹を合わせますよ。この世界の創造主は私です。この程度の、奇跡は、起こせるんです」
偽神父の愛想笑い。
コイツとは、もう話すことはない。
無価値だ!
「そんな奇跡は、いらない」
「は? あなたは、ゴフッ」
剣で、奴の首を落としにいった。
だが、刃が通らない。
「何が、ゴフッ、不満、ゴフッ、奇跡、ぐわっ」
奇跡が起こせるだと。
それが、創造主だから、そんな理由で!
もし、神さまが居られるなら、そいつは、奇跡を起こせるということか!
なら、起こせよ!
奇跡を!
願われる前に!!
前世で失うという絶望を、今世で裏切られる憎しみを教えられた。
神さまは、俺が嫌いらしい。
あなたは、人間が大嫌いなんだ。
そして、次は、クソみたいな発動条件を与えて、俺に、大切な人の命を奪わせるつもりだ。
そんなにも、悲劇が好きなのか!
「なら望みどおり、お前を、ぶっ殺してやる」
「くくくっ、あなたが桁外れに強くても、無理ですよ。人に悪魔は殺せない。存在する次元が違う」
手が届かない場所から、高みの見物。
人前には、姿を現さず。
気が向いたら、奇跡を起こす。
自己顕示欲の塊。
だから、神さまはいないはず。
いないんだよ!
目の前にいる偽神父は、悪魔気取りの無価値な存在。
怒りに任せて剣を振り上げる。
そんな奴らは、いらない!
姉妹の願いは、俺が叶える。
それがたとえ、一瞬でも……。
魔法陣が空高く天に向かって、幾重にも描かれる。描かれてしまった……。
赤く、赤く、彩られ、一つ一つを、複雑な幾何学模様が言語のように連なり飾る。
発動条件が満たされた?
ああ、命とはなんなのか!
命を失っているから、死人なのではないか……。
これは、きっと、姉妹が描いた魔法陣。
あの思いやりに溢れた優しい姉妹の力。
魔剣が描かれたアルカナのカードが、天上から降ってくる。
偽神父を、逃すまいと、いつのまにか現出した禍々しい黒い鎖が、縛りあげていた。
「離しなさい、離して下さい、離せ、離せ!」
黒い鎖に、何千という苦悶の表情を浮かべた顔が浮かぶ。
一つ一つ、一人一人が、偽神父を逃すまいと、縛り上げながら、絡まっていく。
きっとその鎖は、死人たちの苦悶。
偽神父は顔を残し、全身を鎖に、覆われていく。
奴の眼球が、しっかりと俺を見据える。
「大切な何かと引き換えに、アルカナの力を解放しましたか……いいですよ、今のあなたの表情、最高だ」
魔剣を、偽神父に振り下ろす。
天上から、合わせるように、黒い雷が落ち、全てを霧散させた。
遠くの空が、だんだん明るくなる。
湖の遥かなたの峰々が、黒く姿を現す。
藍色の夜空が刻一刻と色をうすくさせる。
光が、稜線に沿って線を描く。
世界を照らす太陽が、頭を少しだけ覗かせた。
眩しくて目を閉じてしまう。
まぶたがあつい。
長い夜が明けた。
声が聞こえる。
皆が駆け寄ってきたらしい。
振り返ると、リズがいた。
「隊長! なんで……」
怒っているリズが、ハンカチを手渡そうとする。
「隊長、このハンカチで汗を拭きなさい。話はもういいわ……」
彼女から、それを受け取り顔を拭く。
拭いても、拭いても、顔はスッキリせず、ハンカチはビショビショだ。
ククルがそばに来てくれた。
「ねえ、隊長さん、彼女たちは、笑顔で消えたのよ」
ああ、良かった。
姉妹が最後に逢えたのなら……それでも、やっぱり……。
「主人さま、元気を出すのじゃ」
久しぶりの、のじゃっ娘ライラが首に飛びついてきた。
皆、汗だくな俺に気を使ってくれている。
体力には、自身があるから大丈夫だ。
ただ、今は……。
姉のベアトリーゼ、彼女の親切を思い出し、可愛いらしい、妹リーゼの元気な姿が、頭から離れない。
彼女たちが、居なかったら、偽神父には勝てなかっただろう。
彼女たちは、守ったのだ。
おのれの尊厳を。おのれ自身で。
与えられる奇跡ではなく、自らの力で願いを叶えた。
そう思いたい……。
だから、疲れた。
彼女たち、湖畔の守護者の姿が、記憶に刻まれた。
だから、名前なんて、覚えるものじゃない。
汗が止まらない。
ククルの胸に顔をうずめる。
柔らかな感触に顔を預ける。
だから、今は、ゆっくり休ませてくれ。
「湖畔の守護者」完結
ドワーフ娘を早く書きたい。




