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第40話 ドワーフの洞窟へ「湖畔の守護者⑥」

 不気味でいやらしい人間。

 悪魔と名乗る神父の印象だ。


「お前、本当に悪魔なのか?」

 当然の疑問だ。悪魔にしては下衆。

 奴は、自分の欲望を満たしているだけ。


 俺から見れば、偽神父、それが相応しい。


 気温が一瞬で下がる。

 壁や床、そこら中に霜が付く。


 あっという間だ。


 極寒が空間を支配している。


 悪魔ゼルドニューム、神父姿の奴の目が大きく開き、眼球が露わになった。

 紅い瞳、口角を限界まで吊り上げ、長い舌を下品に動かす。

「良いことを、思いつきました。あなたの仲間から、先に命を奪っていきましょう。その方が悪魔らしい」


 隊員達が、一斉に剣を構えた。

 白い吐息。


「誰も、手を出すな!」


 悪魔ゼルドニュームの懐へ、飛び込む。

 気持ち悪い、その顔へ、剣を叩き込んだ。


 コイツ……。


 奴は、平然と顔面で剣を受け止めた。

「嘘ですよ。バーーカ。あなたのアルカナと、その発動条件を知らないとでも」

 顔面に押し当てられた剣を、軽く指で弾いた。


 その威力が凄まじい。

 剣を押さえきれずに、身体ごと後方に下がらせられた。


 アルカナの発動条件とは、魔剣の条件。


「勝ち目なんてありませんよ。そうだ、あなたが、その手で、仲間を殺せば……いいです、いいですよ、何人必要ですか、何人ですか。素晴らしい、命の重さを決めるのは、あなたなんですから」

 偽神父は、股間に手を当て興奮をしている。


 偽神父の言う通り、命には重さがある。

 全てが平等という訳ではない。


 くそ、ムカつく!


「いちいち、うるさいんだよ!」

 勢いをつけ、体重をのせ、もてる全てで、剣を水平に振る。


 俺に与えられたアルカナの発動条件は、失った人の命の総量だ。


 別の国、知らない人が亡くなっても、限りなくゼロに近い。

 一緒の戦場では、味方は多少、敵ですら自らが手をかければ、カウントされる。


 そんなクソみたいな発動条件。


「どうしました、それでは、わたしには届きませんよ。さあ、はやく、神の慈悲にすがるのです。尊き命を捧げなさい」

 偽神父には通じない。


 木刀で、大木に挑んでいるような手応えだ。

 それでも、何度でも、何度でも。


 命の大切さは、前世でも、この異世界でも、説かれている。

 魔法があっても、死者が蘇ることはない。


 だから命は大切だ。


 だが、死が数字に変わるとき、命は重さを失う。

 頭で大切さを、理解していても、心が重さを感じていない。死が見えていない。


「あなたの必死さは美しい、愛を、愛を感じます。さあ、さあ、無駄な剣を振るい、絶望し、神に捧げるのです。大切な人の命を!」

 クソが、クソが、クソが!


 クソが!


 剣を叩き込む。

 確かに、偽神父には、通じていない。

 手応えがない。


 それがなんだ。

 何度でも、何度でも、叩きつける。


 親しい人、大切な人、愛する人の死を、心は簡単に受け入れない。

 ドアを開ければ、愛しい人の顔が、声が……温もりすら……、ああ、世界が色を失う。


 命は地球より重い。

 違うね……。


 偽神父に、感情をのせて、一撃を加える


 愛する人の命を失えば、世界が価値を失う。

 だから、願ったんだ……。

 命を捧げても、失ったものは……取り返せない。


 魔法がある世界。

 天職やら、アルカナやらは解明されてない魔法現象。

 神はいない……ククルース神話なんてものは、作者不詳の物語。

 これが、俺の理解。


 そして、多分、真実。


 科学万能の世界からやってきた異世界転生人をなめんな!


 偽神父が、俺の剣先を掴んだ。

 くそっ!

 離せ! 離せよ!!

 まだまだ、殴り足りない。


 もっと、もっと、偽神父をぶん殴ってやる。


 許せないんだよ!

 大切な人、愛しい人の命を天秤にのせるようなやり方。


 おまえが姉妹にしていることは、絶対に許せない!


「物分かりが悪い人だ。そろそろ諦めたら、ぐわっ」

 偽神父を殴りつける。

 通用するしないは関係ない。


「いい加減に、くそ、うっとおしい!」

 偽神父が、後ろに飛び、教会の壁を突き破り、外へ逃げた。


「逃げるなよ、クソが!」

 追いかける。

 一気に距離を詰める。


 アルカナの魔剣が無くても、体力は無限だ。

 ずっと殴り続けてやる。


 神さまが、本当にいるのなら、あなたに問いたいことがある。


 命とは、何か?


 俺なら、命を平等に扱うことが出来るなら、悲しみで押しつぶされてしまう。


 魂に似た、何かはある。

 転生してしまったから、そう思う。


 解明されてない現象の一つ。


 神さまなんていない。


 だから本物の悪魔もいない。

 珍しい魔物の一種だ。


「いい加減に諦めなさい」

 偽神父が、俺を殴ってきた。


 背後の森林が風圧で、大変なことになっているようだ。

 だから、なんだ!


「やめて欲しいなら、本気だせよ!」

「え??」

 偽神父が、ボカンと口を開けた。


 ほら、やっぱり偽物だ。


「お前、悪魔なんだろ。それらしい、なんかしろよ」

「え????」

 偽神父は、半信半疑といった雰囲気で、真っ黒い大剣を振り下ろしてきた。


 ゴンと音がする。

 少しいたい……。


 背後で凄い音がする。

 これぐらいは、普通だろう。


 俺の全力を耐えたんだ。

 でも……。


「違うだろう? 悪魔なら、こうなんか、ケルベロス召喚するとか、あっ、あれは、地獄か……、悪魔って地獄に住んでるの?」

「え、いや、それよりも、平気なんですか?」


「剣なんか、通用しないだろう、普通」

 偽神父が、凄い勢いで空に飛ぶ。


 大召喚魔法をするつもりか!


「させるかよ!」

「ぐへっ!」

 奴より速く跳んで、剣で、森へ叩き落とす。


 轟音、そして爆心地を中心に、木々が姿を消し、遠くは、外を向いて、なぎ倒された。


 着地したそばに、偽神父が、倒れている。


「早く、起きろよ。あれぐらい、平気だろ?」

 偽神父は、フラフラしながら、立ち上がる。


 悪魔が扮した神父を演じるだけあって、良い演技だ。

 顔も、腫らして、本当に辛そうな雰囲気が出ている。


「ちょっ、ちょっ。待って、ぐへっ! ぐわっ!」


 偽神父は、中々、本気を出してくれなかった。

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