第37話 ドワーフの洞窟へ「湖畔の守護者③」
十歳ぐらいの小さな女の子。
「あっ、お客様ですね。おはようございます」
元気の良い声。深いお辞儀に、二つのお下げが大きく揺れた。
彼女によれば、お姉さんのシスターは、用事があって夜までは帰って来ないとのこと。
なのに、朝食をご馳走になってしまい、あれやこれやしている内に、妹さんの手伝いを皆がしている。
なんとも、まあ、お人好しばかりだ。
教会の庭に出て、邪魔な倒木を、何となく、片付けているとマークを見かけた。
庭から湖の方に向いて、マークは、地図を片手に首を傾げている。
「おまえも、何か手伝だったらどうだ」
「隊長なんか、おかしいですよね」
おかしいのは、お前だろ、とは言わない。
大人だから……。
担いでいた倒木を地面にドンと置き、彼の地図を覗く。
彼が指さしてた場所と、辺りの風景に相違ない。やっぱり、バカなのかコイツ……。
「この教会、地図にないんですよ」
「ボロだからな、地図なんかには、載ってないだろう」
たくっ、つまらん。
首筋に悪寒が走る!
背後に、知らない人の気配!
反射的に、腰の剣に手を持っていく。
「ここには、滅多に人は来ません。それと、剣は必要ないかと」
「神父さんですか? それと、驚かすのは、やめて頂きたい」
いつでも抜けるように、剣に手を掛けたまま、相手を探る。
神父は、ほっそりとした紳士だ。
それより、背後に人がいた。
神父と併せて、四人。
四人だ、くそ!
「どうかしました? 顔が、少し怖いですよ」
少しだと……コイツ……。
「神父さんが、いらっしゃるとは聞いていませんでしたので、そちらの方々は?」
「ハハハ、これは失礼。教会だから、神父はいますよ。変わった人だ。こちらの方々は、村の人です」
その余裕がムカつくんだよ!
態度は、とても紳士的、聖職者は好きではないが、物腰が柔らかい。
剣から手を離す。
なんとも、まあ、仕方ない……。
「いや……。これは、失礼しました」
取り敢えず、手を差し出す。
握り返してきた神父の手が暖かい。
意外だった……。
「納得して頂けました?」
神父の返事を聞きながら、手のひらを見つめる。
「そうですね。村の方と話をしても?」
「困った方だ。構いませんよ。会話は自由だ」
「申し訳ない。疑い深いもので……昨晩も、部下から叱られたばかりだ」
「察しますよ。ここでは、天職など関係ないから、そのうちに、慣れますよ」
「そんな長居はしません」
「それは、それは、ごゆっくりどうぞ」
神父は、村人と二、三の言葉を交わすと、教会の方へ歩いていった。
マークの方へ目をやる。
彼は首を振って答えた。
村はそばにない。
そもそも、近くに人里が無いから、昨晩は野宿したのだ。
村人達と会話をし、皆と握手をした。
暖かな手、素朴な人柄。
少し会話をし、マークに用件を言い渡して離れた。
教会は深い森に囲まれている。
サラサラと木々が鳴く。
心地よい日差しに照らし出された風景は、清潔感に溢れていた。
「ご主人様、はっけんっ!」
メイドが、木の枝から飛び降りるように、森から出できた。
相変わらずのメイド服は、リズだ。
その格好で、朝から教会の周りを調べてもらっていた。
彼女は、魔法のエキスパート。
大聖霊テンペストのマネージャー、メルより、絶対に詳しい。
それにしても、ぐるじいー!
しばらくして、リズは、成分が補給できたとか、訳の分からぬ理由で、俺を解放した。
「マークと何人かが、山道を歩いているのを見かけたわよ」
「それは、俺の指示だ。村で物資の補給をした方が良いだろう」
「ふーん、いろいろ、珍しいわね」
「かも知れんな……」
普段なら、挨拶もせず、旅立つ。
多分、これだ。
違和感があっても、調べないだろう。
彼らに、敵意は全くないのだから。
「あと、魔法のたぐいは、何もないわ」
「もちろん、結界もってことで良いよな」
「そうよ、なにも無いの……、野営の跡も無くなってたわ」
野営……、あの時、そう、死人が襲ってきた時、そのまま、慌てて、対応をしたはずだった。
つじつまが合わないことばかり。
リズの方は頼まれた仕事から解放されて元気一杯だ。
ずっと気になっていたのだろう。
「それじゃ、妹さんの手伝いをしてくるわ」
リズは、エプソンの紐をギュッと締め直した。
やっぱりだ……。
「ご主人様は、ビックリしちゃうわよ。わたし、料理が得意なんだから!」
「そうだったか?」
リズの手料理は……記憶がない……。
それとも、表情に出てたか……。
「そうなんですっ!」
彼女は、膨れっ面を見せると、教会へと駆けて行った。
さて、倒木を早く運んで、庭を綺麗にするか。
諸々は、それが片付いてからで、良いだろう。
くりくりっとした大きな瞳に、お下げ髪がよく似合う妹さんは、とても可愛らしい。
チョコチョコと、あちらこちらを行ったり来たり、働きものだ。
一番そばに居るのは、リズだった。
彼女が俺たち意外に、笑顔を見せるのは初めてだ。
理由なら、何となく分かる……。
だから、本当は……。
「どうした?」
薪割り名人のトルンが、一仕事を終えて、俺のところにやって来た。
「隊長、リズの奴、どう思います?」
「さあな、誰かさんみたいに、恋心ってわけじゃないだろう」
イテッ、トルンの奴、ウホッとなって、俺の頭を殴りやがった。
お前! 凡人なら、グシャッとなって死んでたぞ!
「隊長だって、知ってるでしょ」
リズも、リズなら、トルンもトルンだな……。
魔法使いの町で、リズがトルンを心配してたのを思い出した。
「知ってるよ、アイツには姉さんが、いたらしいからな」
「なら……」
トルンの肩を叩く。
教会の周りは、調べて貰った。
だから、彼女に、俺から与える仕事は、もうない。
俺だって、教会で天職を授かるまでは、子供らしい生活をしていた。
六歳までは、俺たちは普通だったのだ。
彼女の場合は特に……。
リズは妹だったからこそ、姉の気持ちが良く分かるのだと思う。
「放っておけないだろ?」
リズも、この教会の違和感も、放っておけない。そのままは、多分ダメだ。
「隊長も、ククルの嬢ちゃんと、話をしました?」
こんどは、トルンの頭を殴ってやった。
全然、関係ねえじゃん!
「他人の心配ばっかだな、お前は!」
ウホッとマヌケ面のトルンを置いて、教会へと歩き出した。
ククルとは、すぐに出会えた。
彼女も、俺を探していたらしい。




