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第86話

しかし、そこへ立ちはだかる者があった。──そこまでだ。と、つい先刻まで意識を失っていた黒の王子は力を振り絞り民たちを制止する。曰く、ここに居られる少年は確かに試合に勝利した。私も証人だ。異議があるのならば、前へ出て申し立てたまえ、と。


王子の言葉に、涙ながらに剣を下げ崩れ落ちる一兵士。誰もが黒の国の終焉を予感し悲観に暮れる。しかし、男の子は高らかに、軋む身体を無視して告げる。


曰く、自分はこの場をもって、黒の国を統べる王子との婚姻を誓う。無論、これまで通り国の政は黒の王子に任せた上で、自分は赤の国に根付く女王と戦うことを重ねて誓う、と。


周囲との間に、一瞬の沈黙が流れる。その後すぐに驚愕の声が城の入り口じゅうに響き渡る。それらを子守唄に、男の子はようやく安息の眠りにつくのであった。


試煉を終え、死んだように眠りにつき傷を癒した男の子が夜明け前に目を覚ませば、直後に待っていたと言わんばかりに手荒く歓迎される。


全身が包帯まみれの木乃伊と見紛う姿の人影が襲い掛かり、喉元に短刀を突きつけられる。ぐるぐる巻きの包帯のすき間から垂れる美しい金の髪が、その正体が黒の王子であるとうかがえる。


どういうつもりだ、と王子は詰め寄る。返答の如何によっては喉笛を切り裂く、と無言の圧力で伝えながら短刀の柄を強く握りしめ眼前の男の子を目一杯睨み付ける。


そこまでにしておくように、と眠っていた彼の傍らに掛けてあった聖剣から、宿りし黒竜は王子を制止する。代行者のお言葉とあれば、と渋々短刀は引き下げるものの、追及は決して止めず捲し立てるように問いただすのだった。

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