第85話
日の入りよりもわずかに早く、男の子は王子を背負って城の門までは辿り着く。しかしそこまで来て遂に精根尽き果て、崩れる。
傷だらけ、血塗れのふたりを見つけた兵や試合の見届け人たちは即座に駆け寄り、遠方からも伺い知れる死闘の激しさを物語る重態に戦慄する。
男の子は僅かに残る力で声を搾り出し、自身よりも危険な状態の黒の王子を助けるよう兵たちに告げると、見届け人たちがそれよりも先に試合の是非を問う。
周囲は当然のようにざわめくも、彼らは王子が先刻固く命じた、何があっても必ず試合の判決を行うべし、という言葉を信じか細い息の両者に問う見届け人。
それに対し男の子はならばと、手にした聖剣を地に突き立て、これが此度の猟の成果であると宿りし竜へ命ずる。
すると柄にはめ込まれた黒石から、ふたりが激闘の末正気を取り戻させた一体の黒竜が姿を表す。抉り取られた竜の両翼はまだボロボロのまま、左半身は鱗が覆われておらず肉が剥き出しの状態で、虹霓に蹂躙された喉元から胴の傷まだ塞がりきっていない有り様であった。
しかし、このわずかな時の内に致命傷から重傷にまで修復した黒竜の威光は、周囲の兵や民らはおろか見届け人たちも、これを成果として認めざるをえないと思わせるには十二分であった。
第三試合の決着を告げる鐘を聞き届けると、男の子はあらためてこの伝統の儀礼に則った三試合の勝者の権利をその場にいるすべての者に問いただす。
勝者は敗者の一切合財を所有するという約定。それに違いはないかと再三に渡り問う。その場にいるすべての黒の国に息づく者たちは挙って項垂れる。国を統べる者の一切合財、それすなわち国そのものがこのヒトの手に渡る。
愛国心溢れる兵の一人が、息絶え絶えの男の子を討ち取りすべてを台無しにするために刃を振りかざさんとする。四肢がろくに言うことを聞かぬ今の彼を仕留めることは容易く見えた。




