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第84話

陽がゆっくりと沈みゆくなか、地に伏す竜は続ける。曰く、今は眠りたい。しばし待て。我は聖剣に収められた黒石に宿り、傷を癒そう。用があればいつでも喚ぶがよい。そなた達に立ち塞がる悪鬼を鎮めてみせよう、と。


その言葉通り、竜は身体を幽体の如く薄めながら、清流のように聖剣の鍔の中央、深黒の石に流れ込む。


すると、杖のように聖剣でずっと支えていた、酷い火傷で爛れた男の子の両の腕が、みるみるうちに癒え、そればかりか手の甲に竜を模した紋章が刻まれる。


何が起こったのか、それを男の子が思案する間も無く、事が終わり緊張の糸が途切れた黒の王子は、急激な眩暈と共に意識を手放す。


鎧はほぼ全壊し、籠手の隙間からは赤黒い雫が滴り落ち、背中には太い木の破片が突き刺さっていた。


辛うじて息があることが奇跡である危篤な状態であり、すぐにでも治療を受けねば、このか細い呼吸すら次の瞬間には掻き消されてしまうと、手にぎっとりと染み付く流血がそれを物語る。


男の子は瀕死の王子を担ぎ、魔槍と聖剣を回収すると、彼女と同等の負傷を引き摺るなか、城へと戻っていく。

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