第81話
海のように血を流す赤い竜の背に降り立った男の子と黒の王子は、首を落とす為に一気呵成に迫る。
強大な竜は槍に吸い込ませた猛毒が効き、立つこともままならない有り様で、後は止めを刺すのみと思われた。しかし、次の瞬間には既にふたりの身体は振り落とされていた。
何が起こったのか、それは深々とした傷から、それを塞ぐ形で失われた部位を沸き立つ炎で象り、さながら仮の腕、仮の翼を作り出していた。
体内に入り込んだ毒すらも焼き殺す業火で傷口を覆い、それどころか左上半身から生えた炎の義手が渦巻く嵐に姿を変え襲い来る。
その膨大な熱の暴風雨に男の子と黒の王子、両者共に吹き飛ばされ、砂漠と化した森に身体を沈める。衝撃は柔らかな砂が和らげ負傷はしなかったものの、炎の義手がふたりを焼き殺す為に振り下ろされる。
間一髪飛び退きそれを避けるふたり。しかし、赤い竜は今度は自分の番であると言わんばかりに炎の翼を翻し、熱砂の嵐を巻き起こす。
咄嗟に突き立てられた菫色の魔槍を引き抜き、捻れ狂う棘を盾へと変え、ふたりの身を護らんとする。
砂の一粒一粒が焼けた針であるかのように棘の隙間から男の子と黒の王子の身体に突き刺さり、さらには盾と化した槍を手にする男の子の両の腕はあまりの熱気に爛れ、激痛に叫びを上げる。
満足に踏ん張りが出来ぬ足元ゆえ、盾こそ砕けはせずとも、身体は遥か後方へと吹き飛ばされ、半壊した樹木へ叩きつけられる。痛みを噛み締める間も無く、竜の咆哮が追撃ちを掛け、骨が軋み肉が裂け四肢が辛うじて繋がっている程の傷をふたりは負い、絶滅の危機が足音を立て一歩ずつ近づいていく。




