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第77話

なぜ伝承と異なる姿をもって君臨するのかと首を傾げる男の子に、辺りに散らばる木っ端達が独り手に集り、人の顔を形成する。すでに幾度となく目にした、隻眼の導師の魔術である。


導師は言う。曰く、王子の語るの戦いの後、黒竜は斃れるが肉体は不死であり、長い時を経て傷を癒していた。それを赤の女王に利用されその誇り高き黒い彼の身を、このような醜悪な姿に変えてしまったのだ、という。


苦悶の表情を浮かべる黒の王子を気にかける男の子はふと、竜の首には刻印の施された首輪が七つも嵌められている様を見つけ、それが王子の語る誇り高き守護者をこのような形に貶めていることを理解し、強い憤慨を覚える。


竜は目の前の小さき者達など気にも留めず、ただ遠くで聳え立つ黒の王城のほうを向き、翼を力強く翻す。堪らず導師は男の子に弓を構えるよう声を強くする。


導師はもし、この赤い竜が黒の王国目掛けて飛び立てばどうなるかを男の子想像するよう促す。彼の頭に浮かび上がるものは、炎、悲鳴、流血、瓦礫の山。間違いなく全てを蹂躙されるであろう。


そう考えた瞬間には、既に弓は手の内にあり、矢を五本は束ねた状態で番われていた。導師は木っ端の顔で精一杯、それが厭ならば奴を射れ、と叫ぶ。


導師の言うとおりに、弦を手一杯に引き絞り、束ねられた矢を光の速さで一斉に射ち出す。矢一本でも城壁に穴を開けるそれを、五射分に集めた一撃が竜の腹に直撃する。


芥と見ていた存在から打ち出されたそれに、赤い竜はその体躯を大きくよろめかせるも、その体はいまだ空を駆け、矢傷からは血が流れ出るも、名工の鍛えた鎧をも遥かに超える強度を誇る筋肉に止められ致命傷足り得ず、その身を地に墜とすことは叶わなかった。


むしろ、竜から見て吹けば飛ぶ程度の矮小な人間に、自分の肉体に傷を付けられた事への屈辱を覚え、瞳にたぎる劫火の如し怒りが、油を注いだように一燃え上がるのであった。

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