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第71話

ふたりが競争の開始地点に案内される間に、男の子の騎乗する馬は既に彼を背中に預けることを許す一方、黒の王子が選んだ黒い馬は常に怒り狂ったように、近づく者に対し頑なまでの敵意を隠さない、凶暴さが形になったかのようなものでとても乗ることなど叶いそうでない。


結局競争の開始が秒読みされるなか、黒い馬の興奮が冷めることはなかった。下手に近寄れば蹴り殺されるような暴れ馬の手綱をずっと握る黒の王子は、そっと鬣に幼子の頭を撫でるような優しさで触れる。


すると、黒馬は先程までの手の付けられなさが嘘のように穏やかな面持ちになり、ぴたりと嘶くことを止める。その瞬間を逃すことなく、華麗な動作で馬の背に跨がる。


何が起こったのか、と驚愕したのも束の間、直後に試合の合図を告げる鐘の音が鳴り響く。


手綱を操り、馬を走らせる両者。互いに城下町の外縁を驚嘆する程の速さで駆け抜けていく。騎乗するふたりの視界は目まぐるしく変化し、耳に入るものは馬の呼吸と踏み鳴らす隕鉄の音のみであった。


街を三周する試合のなか、一周半を回る内には既に明確な差が開き始めていた。黒の王子の息遣いが、黒馬を長年連れ添った間柄であるかのように、阿吽の呼吸で合わせているようであった。


いや違う、と男の子は理解した。王子が合わせているのではなく、あれほど人の手を嫌っていた黒馬が、王子の呼吸と寸分違わず合わせて走っているのだ。


黒の王子は完全に同一の波長で駆け抜ける。黒馬に自らと共に走る悦びを、このごく僅かな間に覚え込ませていたのである。


彼、彼女の持つ騎乗術における天賦の才に、思わず舌を巻く男の子。そうしている間にも距離が離されていき、最早挽回が不能なまでに圧倒的差をもって第一試合は黒の王子に軍配が上がるのであった。

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