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第66話

一晩明け、疲れを癒した男の子は早朝、兵達に許しを得て城下町近くの森にて狩りを行うこととした。


昨日、黒の王子はこの森に住む獣の肉が好みであると小耳に挟み、一宿一飯の恩のせめてもの感謝として貢ぎ物を見繕うべきと考えた為であった。


首尾よく獲物を見つけると、予め借り受けた弓矢を構え、狙いを定める。深い呼吸を最後に放たれた一射は、流麗な線を描き獣の眉間を穿ち、悲鳴ひとつあげることなく命を絶つ。


馴れた手並みで一匹仕留め、奪った命への礼を告げ、帰路に着く男の子はふと、大きな泉を見つける。以前彼が度々訪れていた森の泉によく似た、滝から流れ出るせせらぎに戦続きで疲れの見えた男の子は心休まるモノを感じていたのだった。


思えば随分遠くまで来たものだ、と述懐する男の子は自らの両の手を泉に翳し映す。獲物を狩り糧とする、貧しいながらも平穏な日々を逡巡し、かつてのそれとは大きく掛け離れ、多くの命を奪い血に濡れた我が手に、深い深い溜め息を漏らすのであった。


そこへ、ふいに獣ではない何者かの気配を察知し、身を隠す。狩猟用に借り受けた弓矢を携え様子を伺う。


見れば、静けさの漂う泉でひとりの人物が沐浴をしていた。一糸纏わぬ姿で身体を清める美しい肢体のその者は、まるで昔話に現れる精霊に映った。


濡れた金の髪をなびかせるその者が不意に振り向き、隠れてその姿を見ていた男の子の存在に気がつくと、その表情は驚愕に満ちたものに変わる。


それは男の子も同様であった。水の滴る金髪と凛とした顔は間違いなく黒の王子であった。目にしたものに、痺れるような感覚に見舞われる。様々なものが頭の中を錯綜し、混乱を呼び起こす。ただはっきりと言える事は、彼は目の前に映るひとりの人物に釘付けになっているという事実であった。


肩まで掛かった艶やかな金髪。紅潮したきめ細やかな白い肌。柔らかな腰つき、隠す腕の隙間から微かに覗ける薄い胸。彼、いや、王子と呼ばれていた彼女は男装の麗人であったのだ。

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