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第62話

客人に迷惑を掛けた、と優雅な所作で非礼を詫びる彼を見張りはひどく慌て気味に、お止めください王子、と実に畏まった口調で言う。


王子と呼ばれた彼は、闇夜に輝く月の光のような優しげな笑みを浮かべ、自らの身分を包み隠さず申し上げる。曰く、私はこの黒の国の王の血を引く正当なる後継者であり、今は黒を治める仮の王であると。


仮の王、という言葉に首をかしげながらも、男の子も自らの素性を述べ、この場所に至るまでの経緯を簡潔に伝える。


曇りなき陽の光のような輝きを放つ瞳で男の子を見る黒の王子は、彼の足取りに気がつくや否や提案を述べる。今日はもう遅く、貴殿には旅の疲れもあると見える。一晩自らの城へ泊まり、翌日あらためて私に謁見するべきではないか、というものであった。


提案を呑み、男の子は承諾の意思を見せると、王子は自らが王城の入り口まで案内を行うという。見張りたちは当然のごとく反対するが、本当の敵を見誤るな、と一喝しその場を後にする。


気分を害してしまったか、と慮る黒の王子に男の子は気にすることではないと言い、同時に長く戦をしていればある種仕方のないことなのだろう、とも述べる。


その事を耳にした黒の王子の表情が微かに強張る。要らぬ琴線に触れてしまったか、と男の子は謝罪するが、王子は大丈夫であると、すぐに柔らかな表情を見せる。


男の子はそびえ立つ王城の前に立てば、彼が遠くから見た、恰も年月を重ねた樹木の年輪のような荘厳さが、より一層増したように錯覚させた。


入り口から先は王子の下の者であろう、全身が黒く短い体毛に覆われた筋骨粒々の獣人に案内を任され、客人用の一室に招かれる。


男の子が礼を述べるも、案内役の獣人は彼の顔を見もせず乱暴に戸を閉めてしまう。ひとりとなった男の子は、あらためて自分がこの国においては度し難い異物であると、この短い時でまざまざと思い知らされるのであった。

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