第60話
教義を終え一晩は療養すると、男の子はある程度自力で歩き回れる程度には傷が癒える。あの隻眼の導師から授かった青い外套は、身に付けた者の傷を癒す力があることを、この数日の内に確かな実感として噛み締めていた。
夜明け前に、少し前に眠りに入った褐色の医師の枕元に感謝の手紙を書き置き、世話になった、とひと言告げる。
すると、眠っていたと思われていた医師は身体を起こし、何処へ行く気かと寝ぼけ眼で問う。その質問に男の子は、多くの獣人の住む場所へ向かうつもりであると返す。
ならば、と褐色の医師は一枚の紙を取り出すとそれにサインを綴り男の子に手渡す。この場所から東に向かった場所にある、多くの獣人が暮らす黒の都への紹介状であった。
曰く、今の黒の国は殺気立っており、人間と見れば如何に些細な事であっても、粗相を起こせば惨たらしく殺してしまうといい、この間はたまたま訪れた人間の商人の売る商品がやや高いという事に腹を立て、問答無用で百叩きの末に晒し首にしてしまった、と。
受けた言葉をそのままに想像した男の子は、あまりの凶行に背筋が冷えるよりも先に、燃え盛る憎しみに身を委ねて暴れ狂う自分の姿を思い返し、それを重ね強い憤りを覚えた。
彼の憤りの源泉はほかでもない、自分の中から沸き出るものだった。狂った獣のようにすべてを殺戮で解決するのではない、本当に為すべきは何かを導き出すことを目的とする。
自分の目的、帝都に蔓延る病に苦しむ民を救いたいという願望。それを叶えるために混血の魔女の力を借りるための試煉。赤と黒の国の戦争を終結させること。
そのための手掛かりの片側。赤の実情を知った男の子は、まだもう片方の黒の実情を知らない。双方の内情を思案し、倒すべき目標を目指す必要がある。
強い決意と共に褐色の医師に膝を折り、深い感謝の念込めて礼をすると、彼は今度こそキャンプ場を後にし、東を目指した。




